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第五話 オオワシ


 千種さんに続いて、コンクリート製の、地下へ続く階段を降りていく。コツリ、コツリと、足音が響く。

「私、小学生の時、ミミアリだったんだ。」

 おもむろに、千種さんは言った。

「ミミアリって、京花ちゃんみたいな?」

 麗葉はあやねさんの言葉を思い出しながら言った。

「そう。耳と尻尾が生えたままになってるハネキツネ。」

 麗葉は思わず千種さんの頭を見た。キツネの耳なんて生えていない。人間と同じだ。

「ミミアリはね、成長すると治ることが多いの。私の場合は、小学校五年生の時、朝起きたら急に消えてた。」

「そんなもんなんですか。」

「そんなもんなのよ。」

 麗葉は千種さんと無人の改札を抜けて、地下鉄のようなホームに降りる。

「小学生の時は、キツネの耳を隠すため、外に出るときはいつも帽子をかぶってた。六年生になってもね。また、耳が生えてくるんじゃないかって、不安だった。」

「そういうことも、あるんですか?」

「ないわ。知っている限りでは。」

 轟音と共に電車が滑り込んできた。銀色のお弁当箱のような車体に、赤いラインが入った電車だ。

 風が吹き、麗葉が羽織っているコートの裾を揺らした。

「私の名前をほどいて『まるふじ なつめ』って刺繍を入れたの。当時のなっちゃんは、まだ、ひらがなが読めないの知ってたけどね。嬉しかった。あれほど大切だった帽子を、ほかの人にあげられることが。」

 風がおさまっても、千種さんは髪を抑えたままだった。

「そんな大切なもの、私が持っていていいんでしょうか?」

「なっちゃんがいいって言ったんなら、いいんだよ。」

 千種さんの、自信に満ちた笑顔は、なんだか素敵だった。


終点の駅で、電車を乗り換える。ここからは、赤と灰色の電車だ。

朝のラッシュ時間をすぎた車内は、空いていた。

 窓に背をむけて座る形の座席に、麗葉と千種さん、二人並んで座った。


 長野駅から十分ほど歩いたところに、眼鏡屋さんがあった。

 チェーン店の、大きな眼鏡屋さんだ。

「すみません、この子の眼鏡が壊れてしまって。」

麗葉は千種さんに眼鏡を渡し、千種さんはカウンターにいた店員さんに渡した。

「失礼します。」

 店員さんは、丁寧に眼鏡を調べる。

「こちらですが。」

 麗葉は息をのむ。なおるのだろうか。

「レンズだけを残して、フレームを交換することでしたらできますよ。」

 店員さんの口から出たのは、そんな言葉だった。

「やったね、麗葉ちゃん。」

 小さくガッツポーズを決めたのは、千種さんだった。


店員さんによると、フレームは、なんでもいいわけではないらしい。レンズの大きさがあるからだ。だけど、店員さんがちょうどいい大きさだと言って用意してくれたものだけでも、赤、青、黄色。色も形も様々だ。

麗葉は長野に来る前におこずかいをもらった。でも、眼鏡のフレーム代に足りるわけがない。だから、代金を支払ってくれるのは千種さんだ。安い物を選ぼう。

「決まった?」

 横から、千種さんが顔をのぞかせる。

「ごめんなさい。まだ……。」

 麗葉は慌てて適当なフレームを探す。

「ごめん、ごめん。せかすつもりじゃなかったの。ただね、決まってないなら、これなんかどうかなって思って。」

 千種さんが手に取ったのは、赤いアンダーリムのフレームだった。

「派手すぎないですか?」

 麗葉は小学校に入る前から眼鏡をかけている。何度か新調したけど、フレームの色はいつも黒か茶だった。ましてアンダーリムなんて、悪目立ちしてしまうんじゃないだろうか。

「麗葉ちゃんは、もうちょっと目立つものがあってもいいと思うな。自信を持って。」

 千種さんは麗葉の背中を、軽く二回ほど叩いた。

 麗葉はフレームを受け取ると、恐々、鏡をのぞく。

 麗葉は、ずっと自分の顔が嫌いだった。ぼさぼさの髪で、不安そうな顔をしていて。とっても頼りない。出来るだけ鏡をのぞかないようにしてきた。

「これにして……いいですか?」

 でも、鏡の中の小林麗葉は、案外捨てたものじゃないと思えた。

「うん。いいよ。」

 千種さんは、あっさりと言った。


 フレームにレンズを入れてもらって、その場で新しい眼鏡をかける。

店を出ると、麗葉は深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。」

 千種さんは、戸惑いの表情を浮かべる。

「いいよ。そんなにかしこまらなくて。また、何かあったら頼って。いつでも力になるから。麗葉ちゃんと、なっちゃんのためならね。」

「私と、夏芽の……ために。」

 そんなこと、はっきりと言ってくれる人に出会ったのは、はじめてかもしれない。

「麗葉ちゃん、少しだけさ、私のわがままに付き合ってくれる?」

 千種さんは、ウインクした。


千種さんと、駅の近くの洋服屋さんへ行った。

「麗葉ちゃん、これなんか、どうかな。」

 セーター、カッターシャツ、スカート。千種さんが選んだ服を、次々と試着していった。眼鏡が新しくなって、今まで着たことがないような服を着て、別人になったようだった。嬉しかった。

 結局、千種さんは何も買わなかった。


長野駅のコンコースへ戻って来た。

「ちょっと待っててねー。切符買ってくるから。」

 千種さんは軽い口調でそう言い残して、券売機の方へ行った。

 麗葉は邪魔にならないように、壁の近くへ移動する。

 高い天井の下を、右へ、左へ、色々な格好の人が行く。

その中に、見つけた。

ランドセルを背負った、女の子が二人。どちらも、麗葉と同い年くらいだろうか。

友達同士なんだろうな、二人で、しゃべりながら歩いて行く。

麗葉の目の前を通り過ぎるとき、声が聞こえてきた。

「ユイちゃんは、冬休みどうするの?」

「たぶん、家族で旅行に行く。京都まで。ヒナミちゃんは?」

「私は何にも予定ないなー。」

きっと、学校帰りなんだろうな。今の時間はお昼前。冬休み前で、早く授業が終わったんだ。今日は木曜日。明日が終業式かな。麗葉の学校ではその予定になっていた。

 麗葉の学校。

 それを考えた途端、村の小学校の保健室が頭に浮かんだ。違う。そこじゃない。麗葉の学校はコンクリート製で、四階建てで、美咲ちゃんがいて。

 そう、美咲ちゃんだ。

 何日か会ってないだけなのに、顔も声も思い出せない。明るい性格と、社交的なこと、あとは伊東美咲という名前だけ頭に浮かぶ。

 あんなに、仲良しだったのに。

 そっと、コートのポケットに、手を入れてみた。指先に、小さな紙のような感触があった。

 美咲ちゃんの家の、電話番号だ。おもちゃのような電車の中でもらった。

 その時、ほほにあったかい物があたった。

「おまたせ。」

 千種さんが、ホットハチミツレモンのペットボトルを二本を片手で持っていた。

「なんかあった?」

 千種さんは尋ねる。

「ごめんなさい。ちょっとぼんやりしていただけです。」

「ごめんね。」

 千種さんは、そう言うと、麗葉の手を握った。千種さんの手は、麗葉の予想に反して、ゴツゴツとしていた。

「寂しくなっちゃった? 久しぶりに、外に戻って来たんだもんね。」

 麗葉は小さくうなずいた。本当は「大丈夫です」と言いたかった。心配をかけたくないから。

 千種さんは手を放すと、ポケットからテレホンカードを取り出した。

「もうあんまり残ってないけど、よかったら使って。」

「いいん……ですか?」

「もちろん。言ったじゃない。いつでも力になるって。」

 麗葉は手を伸ばした。

 でも、あと何日かで帰れるし、今日は千種さんにかなり迷惑をかけてしまっている。

「麗葉、わがまま言わないで。」

 お母さんの声が聞こえた気がして、麗葉は手を引っ込めた。

「いいのよ。麗葉ちゃん。」

 千種さんはテレホンカードを差し出す。

「いいんですか?」

「うん。」

千種さんからテレホンカードを受け取ると、目に入った公衆電話にむかって走っていった。

 美咲ちゃんの声が聞きたい。

 電話にテレホンカードを入れて、コートのポケットから二つ折りのメモを取り出し、破らないようにゆっくりと開く。整った丁寧な字だ。美咲ちゃん、本当は几帳面だから。

間違えないように、ゆっくりとそれを押した。

 コールの音が聞こえる。

 一回。

 二回。

 三回。

美咲ちゃん、もしかしてまだ学校にいるんじゃないだろうか。もしも、声が聞こえなかったらどうしよう。そんな不安が、頭の中で広がる。

『もしもーし、伊藤でーす。』

美咲ちゃんの声が、聞こえた。相変わらず明るい、元気な声だ。何か言わなきゃと思いつつも、声が出ない。

『どうしたの? れーちゃん。』

 美咲ちゃんは、小さく息を吐いてから言った。

「何で、私ってわかったん?」

『ほら、やっぱりれーちゃんやった。』

「私じゃなかったら、どうするつもりやったん?」

『れいちゃんやと思った。』

「偶然やろ。」

 麗葉は笑った。美咲ちゃんの声も、笑っていた。

『心配してんで、急に学校こんようになるから。』

「ごめん。どうしても、学校に行けへんようになって。」

『ん? どしたん。いじめられた?』

「ううん。お姉ちゃんが入院して、私は長野で暮らすことになってん。」

『じゃあ、今長野にいてんの?』

 麗葉は無言でうなずいた。

『そうなんや。よかった。病気とかで休んでるわけちゃうねんな。』

「うん。元気やで。私は。」

『元気そうな声ちゃうで。大丈夫?』

「少しびっくりしたことがあって。」

 夏芽の顔が、京花ちゃんの顔が浮かんだ。

「色々辛いことがあって。」

 頭の後ろに手を当てた。触るとまだ少し痛む。

『あんまり無理したらあかんで。麗葉は、我慢しすぎんねん。自分を大事にしいや。私としゃべってくれんの、麗葉しかいいひんねんから。』

 美咲ちゃんの言葉は、とっても嬉しい。でも、美咲ちゃんは麗葉以外のクラスメートとも毎日しゃべっていたじゃないか。麗葉は何度もその様子を見ている。

「嘘や。」

 電話のむこうから、ガチャガチャと音がした。美咲ちゃんは体勢を変えたようだ。そのあと、短く息を吐き出すのが聞こえた。

『ホンマやで。なあ、れーちゃん。気付いてへんとおもうけど、友達って呼びたい人、アンタ以外いいひんねんで。』

「嘘や。」

『ホンマやって。私の体、へんな匂いするやろ。五年生になってすぐ、後ろの席の人に香水付けてんのちゃうかって言われてん。』

 美咲ちゃんの、ミカンみたいな甘酸っぱい匂い、本当は好きだった。でも美咲ちゃんには言わなかった。

『ほら、香水は校則違反やろ。いつの間にか、みんなゆうてくるようになってん。私が悪いことしてるって。』

「うん。」

『そのうち……、そのうちな、机を離れたら、筆箱やらノートやら無くなるようになってな……、トイレとか、花壇とかから見つかって……。ホンマに大変やってんで。』

 美咲ちゃん、とても明るい口調なのに、だんだん、鼻をすすりながら話すようになっていった。もしかして、泣いている。

『学校に行くのが嫌になって、電車に乗ろうとしたら、息が出来んようになって……。お母さんもな、先生にゆうてくれたり……、学校まで送ってくれたりしてくれててんけどな、怖かった。怖かってん。』

「そうやったんや。」

『うん。』

 美咲ちゃんが、大きく深呼吸する音が聞こえた。

『でもな、二学期になって、れーちゃんが転校してきて、最初に私に話しかけてきてくれたやろ。あれ、嬉しかったで。』

 最初に話しかけて来たのは、美咲ちゃんの方だ。転校初日のことは緊張していてよく覚えていない。でも、これは間違いない。

「そっちからやろ。話しかけてくれたん」

『ううん。ちゃうで。れーちゃんからやったで。絶対そう。』

「そっちっちから。」

『れーちゃんから。』

「そっちっちから。」

『麗葉から。』

 少しの沈黙のあと、お互いに笑いあった。麗葉も、美咲ちゃんも、どこかおかしくなってしまったんじゃないかって思うくらい、笑っていた。

『まあ、どっちでもいいな。』

「そやな。」

 笑いがおさまってから、麗葉は言う。おなか、痛い。

「ごめんな。ホンマにごめんな。私が、長野に行ってしもて。」

『いいよ。二度と会えなくなったわけじゃないやろ。いつ帰れるか、わかってんの?』

「日曜日には帰るから。そやから、冬休みに一緒にオオワシ、見に行こ。」

『うん、見に行こ。こっちも、誕生日プレゼント、用意しとく。』

「うん。もうすぐやから……。」

 電話が切れた。

 待ってて。そう言いたかった。なのに、言えなかった。

 ゆっくりと、受話器を置いた。

 テレホンカードの残りが、ゼロになっている。

「終わりました。」

 麗葉は千種さんのところまで戻って、テレホンカードを差し出す。

「ごめんなさい。使い切っちゃいました。」

「いいよ。気にしないで。」

 千種さんは笑顔で受け取る。


 赤と灰色の電車に乗って、麗葉は窓側の席に座り、流れていく茶色の田畑を見つめていた。

 千種さんにもらったハチミツレモンは窓辺に置いていたので、ホットではなくなっている。口を付けると、はじめに酸っぱい味がして、あとから甘いのが広がった。

 家に帰ったら、美咲ちゃんと話そう。自分のことを、たくさん話そう。

 そして、美咲ちゃんのことを、たくさん聞こう。今まで、何も知らなかったから。


 途中の乗換駅で、一度改札を出た。お昼ご飯を食べるためだ。

千種さんに案内されて、駅の近くにある洋食店に入った。千種さんが学生の頃、よく来たお店だそうだ。チキンカツがおいしい。

 食べながら、千種さんは麗葉にいろいろなことを尋ねた。

麗葉はいろいろなことを話した。

鳥が好き、特に猛禽類が好きなこと。

好きなアニメのこと。女の子が魔法使いに変身する、アニメだ。

学校のこと、勉強は好きじゃないけど、なんとかやってる。

れから、美咲ちゃんのこと。

 千種さんは、相槌を打ちながら、ずっと聞いてくれていた。

 洋食店のラジオから、天気予報が流れていた。雪が降るらしい。


 夕方、銀色に赤いラインが入った電車に乗り、終点の駅へ。

 トンネルの中にある駅の、薄暗いホームに降りると、ベンチに夏芽が座っていた。

「おかえり。その眼鏡、似合ってるよ。」

「うん。ありがと。」

 短く言葉を交わして、麗葉たちは出口へむかった。


 窓をすり抜けた夕日が、窓枠の影を机の上に作っている。

 時折、夏芽の笑い声が聞こえる。一階の客間で、千種さんとしゃべっているらしい。千種さんの声は聞こえないけど、夏芽は大きな声で笑っている。

 もう少ししたら、下に降りて、会話に加わろう。麗葉は口元がにやけているのがわかった。

 お母さんから届いた封筒から便箋を取り出し、机の上に広げ、丁寧にしわを伸ばす。


『麗葉へ。

 そちらの生活はどうですか。丸藤さんにご迷惑はかけていないですか。体調は悪くないですか。

 さて、嬉しいお知らせがあります。麗葉はお姉ちゃんになるのです。お母さんのおなかには今、赤ちゃんがいます。生まれるのは七月ごろの予定です。

突然、速達の手紙が来て、驚いたでしょうか、でも、はやく知らせたかったのです。

でも、お姉ちゃんは入院しています。思っていたより、入院が長引きそうです。お父さんもお母さんも大変で、麗葉の面倒を見ることができません。

だから、それまで長野にいてください。

 お姉ちゃんは、頑張って病気の治療をしています。とても順調です。すぐにまた、元気になるでしょう。

 お姉ちゃんの病気が治って、赤ちゃんが生まれたら、五人で楽しく暮らしましょう。

 長野の小学校に転校できるように手続きをしていますし、丸藤さんにも、手紙を送っています。麗葉は何も心配することはありません。

 お母さんが迎えにいくまで、待っていてください。


平成二十四年十二月十七日

小林 吉恵』


 何度も読み返した。でも、内容が変わることなんてない。

 部屋の前で、ドタドタと足音がした。誰かが階段を駆けあがてくる音だ。

「千種お姉ちゃん家に帰るって。」

 ドアを開けたのは、夏芽だった。

 手早く、手紙を片付ける。

「うん。すぐ行くわ。」

 千種さんを、見送りに行かなきゃ。



 けたたましい、ベルの音が鳴る。

 麗葉は手探りで、枕元にある目覚まし時計を掴み、指先の感覚でベルのスイッチを切った。

 ベットの上で上半身を起こす。部屋には、勉強机と椅子がそれぞれ二つ。大きめの本棚。それから、同じデザインのランドセルが二つ。

「おはよう、麗葉。」

 声の方向、クローゼットの前に視線をむけると、夏芽が髪を結っていた。

 夏芽は麗葉の双子の妹で、周囲からは二人がそっくりだと言われる。

 でも、麗葉はそうは思わない。

麗葉の髪は肩に当たるかどうかの長さにしているけれど、夏芽は脇の辺りまでの長さがある。そして、いつもポニーテールにしている。本人には強いこだわりがあるらしい。

ほら、見た目がまるで違うじゃないか。

 麗葉は一度、大きくのびをすると、眼鏡を手に取った。赤いアンダーリムのフレームの眼鏡だ。

「うん。おはよう。」

 眼鏡をかけて、そう言った。


 麗葉の家は山のふもとにあって、通っている小学校は琵琶湖の近くだ。

 毎朝、夏芽と一緒に田んぼの中の坂を下って、学校へ行く。

「もうすぐ、雪が降りそうだね。」

 夏芽は空を見上げながら夏芽はつぶやくように言った。

「うん、そやな。」

 麗葉も見上げる。灰色の雲に覆われた、冬の空だ。今日は気温も低い。

「二人とも、どうしたの?」

 後ろから声がして、ふり返る。近所の女の子、京花ちゃんだった。いつも通り、頭から三角形の、キツネの耳が生えている。

 一年生の京花ちゃんは五年生の麗葉よりも頭一つ分ほど身の丈が低く、細くまっすぐな金髪と、水色の瞳が印象的だ。両親の片方が外国の人らしい。

「雪が降りそうだねって、話し。」

 夏芽が言った。

「雪が降ったら、おっきいかまくら造りたいな。」

 京花ちゃんが言った。

「かまくら。この辺では難しいかもな。」

 麗葉が言う。

 この辺りでも、雪は降る。でも、膝上まで積もることは数年に一度あるかないかだ。

「かまくら、テレビで見たんだけどな。」

 京花ちゃんはとても寂しそうだ。

「湖北の方なら作れるかもね。」

 夏芽が言った。

「湖北、行きたいな。」

 京花ちゃんはつぶやいた。

「ごめんな。湖北は行けへん。」

 麗葉は言い切った。自分でも、どうしてそんなことを言ったのか、わからない。


 学校に到着すると、靴を履き替えて、一年生だから教室のある階が違う京花ちゃんと別れた。

 少し歩いてから、今度は夏芽と別れる。夏芽は一組で、麗葉は三組だ。二年生と四年生の時は同じクラスになった。

 当時、クラスメートから、同じ教室に姉妹がいる感想をよく尋ねられた。麗葉は特に何も感じなかった。強いて言うなら、教科書やノートなんかを忘れた時に、お互いに貸し借りできなくなるので、不便だったくらいだ。

 今日も、昼休みに夏芽が体操服を借りに来た。次の五時限目の授業、体育らしい。

 四時限目、麗葉は体育だった。長距離走だ。麗葉は精一杯走った。順位は後ろから二番目だった。

いくら姉妹とはいえ、汗臭い体操服を貸すのは少し恥ずかしかった。

 

 夕日が照る中、麗葉と夏芽は並んで、家に続く道を歩く。

「もうすぐ、誕生日だね。」

 夏芽は言った。

麗葉の誕生日は十二月二十六日。双子の夏芽も、もちろん同じ日のはずなのに、どうして名前に『夏』が入っているのだろう。ふと、気になった。お母さんは、あまり夏芽のことを話さない。

「夏芽って、なんでその名前なん?」

 麗葉は訊いてみた。

「その名前、と言いますと?」

「私達、冬の生まれやん。」

「ああ、そのことか。それはね、私が麗葉の本当の妹じゃないからだよ。私たちは、何の血のつながりも無い、赤の他人なの。」

 ああ。そうだった。夏芽は、長野に住んでいて、麗葉の本当の妹じゃなかったっけ。

麗葉は家のダイニングにいた。

カーテンは閉まっていて、真っ暗な室内に麗葉一人だけだった。

 テレビがついている。

 画面に映っているのは、病院の一室だ。ベット座るお母さん、お母さんに抱かれた、生まれて間もない弟。弟を抱かせてくれとせがむお姉ちゃん。笑顔で写真を撮るお父さん。

 麗葉の家族は四人だ。

 両親、姉、弟の四人家族なんだ。

 夏芽も、京花ちゃんも、赤の他人。

麗葉の家は、四人家族だ。



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