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第07話 揺れる馬車道

 目的地である洛南第二遺跡までは、馬車で半日ほどかかる。アルト達は王都で4人用の馬車を2台手配すると、二手に分かれて乗車することにした。


 アルトは、ペディアとチェルブラッドの2人と同乗することとなった。


「アルト、この子がチェルブラッドだよ」


 チェルブラッドは、赤髪を肩まで伸ばした少女だった。ニコニコとしているが、どこかほわんとした感じで、つかみどころの無いような印象をアルトは受けた。


 そして、チェルブラッドが学生服の腰に下げている黒塗りの鞘に納まった日本刀が、その柔らかい雰囲気と対照的で、なかなかに珍妙なバランスを醸し出していた。


「いやー、それにしても、あのマリーを相手によく最後まで食い下がったよね」


 アルトと同乗したペディアが、感心したように話を始めた。


「当たり前だろ。あんなの、いくらなんでも横暴すぎだ」


 アルトは当然だと言わんばかりに鼻息を鳴らす。


「いやでもね、マリーは本気だったよ。本気でアルトの参加を阻止しようとしてた。だから、あえて最初から実力行使で押さえ込もうとしたんだよ。でも、マリーにしては珍しく、思惑を外したんだね。アルトの方が、あのマリーよりも一歩上手だったってことだよ」


「いや、そこまで大層なことじゃないだろ」


 アルトは、自分の意思をただ単に貫こうとしただけだ。理不尽なことを安易に受け入れることはできない、その一心だった。


「しかし、なんでマリーゴールドもあそこまで本気だったんだ? 別に、最悪俺達がどうなろうと、あいつ自身にはそれほど関係はないだろ」


 合同実地演習の成績は連帯責任ではなく、あくまで個々の学生の貢献度に対する個人評価となっている。つまり、極論をすれば、仮に班の仲間のうち誰かが戦死したとしても、それはその個人の責任でしかなく、他のメンバーの成績に傷がつくようなことは無いのだ。


 要は、邪魔だったら見捨てれば良い。


「うーん、まあそれはね。マリーの良心が許さないとかそういうこともあるかもしれないけど、それ以上に、うちの班の課題がやたらと厳しくなったのは、自分のせいだとマリーが思ってるからじゃないかな」


「どういうことだ?」


 つまりね、と言うと、ペディアは説明するための言葉を探して組み立て始めた。


「アカデミーの上層部は、何かにつけて、やたらとマリーに対して難しい課題を押し付けてくるんだよ。なんでだか分かる?」


 アルトは、特段、深く考えることもなく思いついた理由を口にした。


「優秀だからだろ?」


 ペディアは頷く。


「そう。でも、それだけじゃない。マリーは、アカデミーの歴史の中でも特に優秀で、歴代最強と噂されるような逸材だからね。上層部は、伝説を作りたいと思ってるんだよ」


「は、伝説?」


 アルトは突然意外な単語が出てきたことで、間の抜けた声を発した。


「つまりさ、マリーみたいにアカデミーの訓練生時代から、超高難度の任務を次々と達成して、超強い敵もバッタバッタと薙ぎ倒しちゃうような物凄い天才がいたら、なんかもうそれは伝説の訓練生として末代まで語り継がれるような特別な存在になれそうだよね。そして、その噂は王国中に広まっていく。まあ、もうすでに少しずつ広まりつつあるんだけど」


 ペディアは続ける。


「伝説の騎士様は子供達みんなの憧れだから、それを見てアカデミーへの入学を希望する志願兵も多くなる。さらに、王国騎士団のどの部隊も優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいから、そんな王国の宝みたいな超有望な人材を擁するアカデミーは、騎士団の正規部隊からも熱い注目を受けるようになる。こうして、アカデミーの王国内での評価はうなぎ登りに上昇し、アカデミー上層部の政治的な発言力もそれに比例してガンガン強くなるって寸法かな」


「……なんだそりゃ、つまり、マリーゴールドは、偉い奴らの政治の道具に使われてるってことなのか」


 多少大袈裟な部分はあるにしろ、そのペディアの説明はいかにもありそうな話に聞こえた。早い話が、マリーゴールドはアカデミーの客寄せパンダではないか。アルトは釈然としない気持ちになった。


「まあでも、アカデミーの評価が上がることについては、上層部に限らず、私達も少なからずその恩恵にあずかってることになるけどね。それに、マリー本人も、そういう立場を背負うことについてはそんなに否定的じゃないんだよ。向上心も強いし、なにしろマリーは優秀だから、無理難題を持ってこられても、なんだかんだで見事に達成できちゃうしね。でも……」


 そこでペディアは言葉を淀ませた。


「団体行動となると、話は別でしょ? 自分のせいで周りを巻き込むことになる。政治とか、立場とか、評価とか、そういうことのために仲間を命の危険に晒すようなことは、マリーはしたくなかったんだと思うよ」


 アルトは、それを聞いて押し黙った。


 傲慢なだけだと思っていたマリーゴールドの言い分が、ようやく少し理解できたような気がした。もちろん、それがあのとき分かっていたとしても、言われるがままに引き下がったかというとそれはまた別の話だろう。しかし、少なくとも、マリーゴールドに対して抱いた初対面からの敵対心のようなものは、いくばくか薄れたのは間違いなかった。


「なるほど、そういうことか。そういうことなら俺達は、……絶対に死ぬわけにはいかないな」


 アルトは目的地に向かって揺れる馬車の中で、さらなる決意を固めるのだった。

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