第02話 僕らの巡り合わせ (1)
『王立騎士団騎士養成アカデミー 合同実地演習部隊編成』という表題の大きな貼紙が、アカデミーの校舎入口広場に掲示されていた。
合同実地演習では、自然魔法学科と古代魔法学科の学生の混合で、5人一組の班がつくられる。
ちなみに、アカデミーの学生は約300人であるから、およそ60の班が編成される計算になる。このとき、自然魔法学科の学生達は皆一様に願うのだ。落ちこぼれの古代魔法学科の学生共が、自分と一緒の班になりませんように、と。
アルトは編成表の中から、自分の名前をすぐに見つけることができた。なぜなら、アルトは表の先頭、第1班に配属されていたからである。
「1班か。なんか、目立つな……」
アルトは次にシルバの名前を探してみた。ほどなくして、第13班にシルバの名前が記載されているのを見つけた。
「あいつは13班か」
その他の学生の名前は見てもほとんど分かりはしない。ひとまず用を終えたアルトは、掲示板に群がる学生達の人混みから抜け出そうとした。
そこでふと、周囲の学生達の間にどよめきが広がっているのに気づいた。
「マリーゴールドとベルサーニャが同じ班なのか!?」
「でも、チェルとペディも一緒よ!」
「面白いな、エリート2人が落ちこぼれの3人を引っ張っていくチームってわけか!」
なにやら話声が聞こえてくる。
そして、アルトはすぐに気がついた。その話題の中心にあるのが、まさにアルトの所属することになった第1班なのだということに。
アルトは再び、掲示板を振り返る。
マリーゴールド。
ベルサーニャ。
ペディア。
チェルブラッド。
そして、アルト。
これが、第1班のメンバーだった。
「おーい、アルト!」
人混みの中からアルトの姿を見つけたらしいシルバが、手を振りながらアルトの方へと近寄ってきた。
アルトは手をあげて応える。
「よお、シルバ。班分けはどうだったんだ?」
途端に、シルバは苦々しい表情を浮かべた。
「だめだ、最悪だ。全員男のむさっくるしい班だったぜ」
シルバは心底がっかりした様子であった。
「それよりもアルト、お前の方だよ! お前の班は他の4人のメンバーが全員女の子らしいじゃねぇか! 羨ましすぎて俺の魂の鉄拳がお前の顔面めがけて飛び出しそうだぜ!」
「やめろ」
「でもあれだな、なんか珍しい組み合わせみたいだな」
「そうなのか?」
先ほど耳にした話だろうか。
「ああ、なんでもお前の班のマリーゴールドってのは、アカデミーの歴史の中でも歴代最高レベルの基礎魔力を叩き出した化け物クラスの学科首席らしいぜ」
「歴代最高レベルって、まじかよ」
アルトの顔がにわかに歪む。
「それともう一人、ベルなんとかってのが、マリーゴールドに次ぐ僅差の次席で、例年通りだったら間違いなく自然魔法学科で断トツのトップを張ってたであろうぶっ飛んだ逸材なんだとよ」
アルトは戸惑ったように俯いてこめかみを押さえた。
「……なるほどな。で、その2人がまさかの一緒の班になったわけか。確かにそれは、珍しい話だ」
通常、今回のような訓練のための部隊編成においては、優秀な学生は一箇所に固めずにある程度バラけさせる。そうすることよって、各班の間の戦力のバランスを調整するのだ。その意味では、アカデミーの成績1位と2位をあえて同じ班に配属するというのは、通常では考えられない措置のようにも思えた。
「でもな、あとの2人は、あっちの学科のビリとブービーらしいぜ」
それを聞いて、アルトは思わずニヤリと笑った。
「ああ、なるほど。それならバランスが取れてるじゃないか」
つまりは、さっき聞こえてきた通りだ。
「エリート2人が、落ちこぼれの3人を引っ張っていくチームってわけだな」
落ちこぼれの1人には、もちろんアルトも含まれている。
「おおアルト、謙遜するじゃねえか! それは違げぇぞ、古代魔法学科で首席の秀才クンのお前が、女の子に囲まれてハーレム状態でウハウハするチームだ。ああ、また腹の底から妬ましさが込み上げて来たぜ」
「落ち着け、そんな風になるわけないだろ」
どうにもシルバはおめでたい発想しか頭にないらしい。
「これから訓練概要のガイダンスだ。講堂に行くぞ、シルバ」
班分けの話をこのまま続けていたら、本当にシルバに殴られかねない。そう思ったアルトは、適当に話を切り上げて講堂に向かった。