チートでモテモテな異世界転移をしてもまったく嬉しくない件について
異世界系小説にはよく西洋風美少女が出てきますが、皆さんそんなにそういう顔立ちが好きなのかなー?、という話です
とある男子高校生が異世界転移を果たす。
神にチートと言っても良い能力をもらい、いち冒険者から始めてメキメキと頭角を現した彼は、勇者として様々な困難を打ち破り、ついには魔王を滅ぼした。
彼は異世界でモテモテだ。
異世界にはまずいない黒髪黒目でのっぺりとした珍しい顔立ちの彼だが、そんなの関係ねぇとばかりにモテる。
なぜなら、彼はとてつもなく強いくせに、男尊女卑の異世界冒険世界ではあり得ない程に女性に対して丁寧で、さらにとても優しい。
そう言われても、日本人男性としては平均的なはずだ、と自分では思っているのだが。
魔王を倒した今や彼の女性からの人気はうなぎ登りだが、それ以前から彼に惚れ込んでいる女の子たちも多い。
ギルドのお姉さん受付嬢は彼を気に入り、他の冒険者には見せない可憐な笑顔で応対してくれる。
駆けだし冒険者の頃から利用している宿の娘には、今やすっかりなつかれて、冒険から帰るたびに抱きつかれる。
魔王を倒す旅に出たパーティのメンバー達も、彼にすっかりぞっこんだ。
聖女はいつもちやほやとまとわりついて、彼の世話を焼こうとする。
女魔法使いは普段ツンツンしているくせに二人きりになりたがり、ここぞとばかりに甘えてくる。
女剣士はサバサバした態度で笑いながら彼と肩を組み、いつも親愛の情を示してくれる。
まさに入れ食い状態。
望めばハーレムも作れそうだ。
高校生時代の彼は平凡を絵に描いたような男子で、彼女はおろか普段親しく話をする女生徒すらいなかった。
彼が普段会話をする女性は、母親と妹のみ。
小学校の頃に仲の良かった幼馴染みの女子とたまに登下校で一緒になるが、むっつりと黙り込むことが多くて男性として興味がないのだろうとありありと感じさせられた。
そんな高校生活と比べればまさに我が世の春……と思えたら、彼にとってどんなに幸せだっただろうか。
悲しいことに。
彼は生粋の日本人。
当たり前だが日本生まれの日本育ち。
大事な点は、彼の(性的に)好みの女性は、黒髪が綺麗で笑顔が素敵な日本的な女の子だということ。
快活なスポーツ少女でもおとなしい文学少女でも、なんならオタクッ娘でもウェルカム。
ボンキュッボンなんて気にしない、日本人らしい体型の日本人顔の女性が好きなのだ。
だが、しかし。
転移したのはいわゆる西洋風の世界。
これが彼にとって不幸と言わずになんと言おうか。
ギルドに行くといつも優しく声をかけてくれるお姉さん受付嬢は、綺麗なアッシュブロンドを肩まで伸ばした、緑がかった瞳の彫りの深い美女。
宿屋の娘はまだ幼いながら将来を期待させる美形で、さらさらしたブロンドの髪に碧眼で、そばかすが残る(不良的な意味ではない)ヤンキー風ガール。
聖女はなんとピンクの髪に紫の瞳、女魔法使いは碧の髪に金色の瞳で、容姿は共に北欧風美少女。
どちらも目に優しくない。
サバサバ女剣士は砂色のベリーショートの髪に鳶色の瞳で、ムキムキした腕でいつも肩を組んだ後、グイグイ首を締め付けてくる。
頬に感じる胸の感触はちょっと嬉しいが、それ以上に息苦しい。
彼は別に容姿で人を差別したりしない。
彼自身も冴えない容姿だと自覚していたし、何より彼は常識人だ。
右も左もわからない駆け出し冒険者だった彼に優しくしてくれたギルドの受付嬢には、感謝と尊敬の念を抱いている。
チョコマカとつきまとう宿屋の娘は、小動物的でかわいらしい。
聖女も女魔法使いも女剣士も、生死をかけて共に戦った大事な仲間だ。
聖女のほんわかした癒やしも、女魔法使いの凜として決然とした姿も、女剣士のぶれない折れない力強さも、好きか嫌いかで言えば友情的な意味では大好きだ。
だが、恋愛における異性に対する好みに、外見が非常に大きく影響するのは、これはもうどうしようもないではないか。
高校生時代のとある日、クラスの男子達がスマホで探し当てた外国美人の無修正画像サイトを見て教室の隅で盛り上がっていた中で、彼は普通に水着を着た日本人アイドル写真の方がずっと良いと心の中で強く思っていたのだ。
そんな彼にとっては、チートがあってモテモテではあっても、迷い込んだ異世界は理想郷ではなかったのだ。
女性の地位が高くないこの異世界、たまたま能力の高さで勇者のパーティーメンバーとなった聖女と女魔法使いと女剣士に対して、彼は無体な扱いをせず、お手つきにもしなかった。
彼にとっては、彼女たちは魔王討伐の旅の大事な仲間で恋愛対象ではなかったのだから、当たり前のことだった。
しかし、その事を知った第3王女は彼をいたく気に入ったらしい。
第3王女の肝いりで、彼は数日後の王宮晩餐会に招待された。
聖女、女魔法使い、女剣士がもたらした事前情報では、第3王女は既に彼に入れ込んでいて、この顔見せがすめばすぐにでも婚約の手続きに入り、彼を王族に迎え入れたいと周囲に伝えているそうだ。
そして、彼にもたらされたもっとも重要な情報。
それは、第3王女が見事な銀髪で鼻筋の通ったビスクドールのように整った顔立ちの美少女である、ということだ。
つまり、容姿的には彼の好みとはかけ離れている。
それでも会えば間違いなく婚約の流れになり、この国にとどまる限り彼はもはや逃げられないのだ。
まったくもって嬉しくない。
こうなったらどうにかこの数日中に逃げ出して、まず不可能とはわかっていても日本に帰る方法を探すしかないのではないか。
とりあえずは、元の世界に帰りたいと言うと渋い顔をする聖女、女魔法使い、女剣士の協力を取りつけるために、東の島国ジーポンあたりに逃げ出すということにしてもいい。
そんなことを考えながら、彼はため息をついた。
異世界転移してからものすごくがんばったのに、そういう意味でのご褒美に縁がなかった彼は、身の振り方を思い悩むのだった。
お姉さん受付嬢視点の「強くて優しい勇者様がちっともなびいてくれない件について」を投稿しました
続きの話「異世界で幸せに気づく」を投稿しました
20170218 「異世界で幸せに気づく」の閑話1と整合性を取るため少しだけ修正しました