020 再開の旧ユディオン伯爵領
020
「この子がクローマーで、彼がシローマー」
「ぜんっぜん違いわかんね」
個体の識別ができるからか、それとも体型が好みなのか、とにかくみんな一回ずつシモクレンに握手を求めている。
「命の恩人になにかできるんことはありますんまみ?」
「この子がゴローマー」
「だーからわっかんねーって。とにかくちゃっちゃと行こーぜ」
バジルは吐き出すように言ったが、<黒狸族>の青年たちは、どうしても恩返しがしたいからまずは<隠神の城>に来てくれと言っている。
桜童子は、目的があってそこに一刻も早くたどり着かねばならぬから、次に<フォーランド>に来た際には必ず立ち寄るので今回は辞退させてくれと丁重に断った。
<隠神の城>には強力なボス<隠神刑部>がいる。これが味方になるなら良いが、何しろ<黒狸族>は騙すことが信条だ。信用しないわけではないが、<サクルタトル>を目指す障害となってしまう可能性もなくはない。
じゃあせめて途中まででも見送らせてくれというのでそれは頼むこととした。
そのような理由もあって、第4と第1の位置を入れ替え、<サクルタトル>をめざす。普通だったら気づかず通らなかったであろう抜け穴を通ったので、気がついたら火山は背後になって、あっという間に<セントラルフォーランド>までたどり着いた。
「信じられねーぜ。今までに4日費やしていることを考えると、わずか半日でこんなところにいるなんて。これが狸に化かされた気分てやつか」
「『宿かと思って休んでいたらただのススキ野原だ』、なんて騙されてるわけじゃあない」
「疑って悪かったってオレ様も謝っとくかなー」
バジルが頭を掻いて詫びようと思ったところ、ゴローマーたち64名がずらっと一列に並んだ。しかも、バジルたちから少し離れたところに並んでいる。
「<冒険者>のみなさんに! まみ!」
ゴローマーが大きな声をかけると、みんな礼をした、……かに見えた。実は思い思いのものを手に持って掲げるために前かがみになっただけだ。手に持っているものに目を凝らす。
「あれイクスの着替えにゃ! 山丹のキウイもにゃ!」
「がう」
「ああああああああ、アタシのパンツもやん!」
「オレ様、一本ナイフが抜き取られてら」
「俺のは、あ、あった。おい、その髑髏勝手に持ってくんじゃね! オロスゾ」
「うむ」
椅子で姿が見えない桜童子以外は何かしら盗まれていた。
「これは次回会える時までのん記念にもらっていくんまみー!」
ゴローマーが再び「まみ!」と声をかけると<黒狸族>の青年たちは、一斉に四方八方にとんで逃げていった。
「記念におめーのパンツ、城に飾られたりしてな」
桜童子は笑った。
「折角だったらこっちの上等なの持ってって欲しかったわあ」
シモクレンも笑った。
<サクルタトル>までに出会ったのは、<黒狸族>だけではない。
<Plant hwyaden>第5席”南征将軍”ナカルナード配下の冒険者たちにも出会った。
「お前ら何もんやあ!」
<サクルタトル>近郊の廃屋にキャンプしていると、彼らは大音声とともにテントを蹴倒すという蛮行に出たのであった。
かわいそうなことにその<冒険者>は、反射的に防衛反応に出た山丹に足を食いちぎられてしまった。そのテントには山丹が寝ていたのだ。
彼らは、<ロストブリッジ>復元のために、周辺区域の偵察に来ていたのである。
<冒険者>のいるはずのない島で<冒険者>に出会ったこと、もうそれだけで許せなかったのだろう。
いや、「<Plant hwyaden>にあらざるもの人にあらず」といった傲慢ささえ覗える。
「バジル、存分に<デッツハメ>してきていいぞ。ハギ、無抵抗の者がいたら、猿轡して念話できないようにして死なない程度にしばっといてやれ」
「おいおい、リーダー。オレ様は賛成だが、それ下策なんじゃねえの」
「力に溺れる者は、負けたことを恥とする。あとは念話されるのを防げばいいだけさ。黒夢さん、悪いがこいつらと一緒に行ってやってくんねえかな」
「キケケ。おれっちの【百鬼夜行】拝みたくなったんだろ?」
黒夢は立ち上がる。だがバジルは食い下がる。
「こっからご退場してもらえば、それはいいかも知んねえけど、無抵抗のやつ、いつまで縛っときゃいいんだよ。いつまでもってわけには行かねえだろ」
「おいらの椅子をお前らなんて呼んでんだ」
月も暗い夜、百鬼夜行を従えた黒夢と、血に飢えた狼男と、肩にハトジュウを載せたハギが並べばそれだけで不審者だが、その三人に連行され【呪いの椅子】の前に転がされたら、無抵抗の者はそれだけでも恐ろしいだろう。しかもこう言うのである。
「私たちはこの椅子の解呪方法を求めて旅をしたが途中で邪魔されてしまった。せっかく犠牲を払ってまでこんなところまで来たというのに。では代わりに一人ずつ座ってもらい犠牲になってもらうこととする。命までは取らない。ただし、この椅子に座り念話をすればその保証はできない。これは<念話を嫌う椅子>。椅子から降りたあとも呪いの続く限り命の保証まではできない」
桜童子も<ネンワセヨ、ネンワセヨ、シノ契約トトモニ、□人目ノ犠牲トナレ>とそれっぽくつぶやき続けるわけである。
要は恐怖を感じさせながら念話しろということで、念話することに対し不安を抱かせるというのが狙いだ。
しかしこの<呪いの椅子>作戦が実行に移されることはなかった。
無抵抗の者の中に、ハギの見知った顔があったのだ。
暴力で対抗してくるものには、予定通りバジルと黒夢が葬り去った。<フォーランド>には拠点がないため、<ウェストランデ>のどこかで復活するだろう。しかし<ロストブリッジ>が使えない以上、そう易々とは戻ってこれない。
「ひょっとして、<ナカス>でお会いしていませんか。イングリッドさん、です、よね?」
ハギが訊ねる。
「お兄さんひょっとして、雨ん中で拾うた人やなかね? わ、やっぱりそうや」
「しょんなか舞いをしていた<PINK SCANDAL>のブロンドの方!」
「わー、やめてー。それウチの黒歴史のひとつっちゃんねー」
彼女は<Plant hwyaden>に接収された<ナカス>出身の冒険者である。<大災害>当時の混迷の<ナカス>に一大ムーブメントを起こした張本人で、当時<ナカス>にいて彼女の顔を知らないものはいない。
「水着しか着ず『身につけるものなんていらない』って言っていたイングリッドさんが、みんなとお揃いの鎧をがっちり着てるなんてなんだかさみしさを感じますね」
「こっち移ってきたら身を守らんといけんようになったことも多かっちゃん」
「そうなんですか」
「それんしてん、すっきりしたとよ。もう<ハウリング>派ん連中ちきたら、ホンットニハ・ラ立・つ・わー。もう腹立つぐれぇのこっちゃねえ」
ふたりは笑いあった。
このようにして、彼女を通じて、<Plant hwyaden>の内情などを聞き出すことにも成功したのである。
「はー、すっきりした。普段方言出して喋れんけん、超すっきりした。ハギさんらのおかげやね。ばってん、明日の朝には報告をせんといかんてね。でも、ハギさんらのこつは何も言わんけん。ただ、不審な冒険者と野獣に襲われたっち言うとくばい」
「助かります」
「詳しいことは聞けんけど、みんなの成功祈とっとよ。じゃあね」
次の日、一行は暗いうちから動き出し、上陸以来一人も欠けることなく、目的地<サクルタトル>に到着したのである。
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『ルークインジェ・ドロップス』に出てきた裸の美人妖術師(水着は来ていたけれど)再登場です。
彼女は<PINK SCANDAL>というギルドのリーダーで、<ナカス>の混乱期にあっては見るものを惹きつけるルックスと耳に残りやすいキャッチフレーズで、一躍時の人となりました。
<Plant hwyaden>は<ナカス>にやってきたとき、まず彼女のような有名人をスカウトしていきました。
スカウトされた戦闘系<冒険者>の多くは、ナカルナードの配下となりました。という設定をいつか書きたかったのでこんなところで登場することとなりました。
さていよいよ、<サクルタトルの深き穴>に挑戦! お楽しみニー!




