019 邂逅の旧シエール侯妃領
019
<走り茸>の叫び声を聞いて第一パーティの面々が集まった。あざみは容貌魁偉な男に抱きかかえられていた。
「おやー、ヨサクさんじゃないですか!」
ハギが声を上げると、ヤクモが親しげにその男に抱きつきに行く。
「ヤクモの知り合いにゃりか?」
「ヨサク、カッコイイ」
ヨードは、そうかそうかと頷いてみせた。「ヨサクという男は味方だ」と言っているように解釈したらしい。
ヨサクは乱暴にヤクモを蹴りはがす。だが、狙いは正確ですっぽりとハギの腕の中にヤクモは飛んでいった。
「おい、保護者! ナカスで、ちゃんと面倒見ろっつったろーが。ちっ、ってことはナインテイルに逆戻りかよ」
フルオリンがヨサクのつぶやきに答える。
「ここナインテイルじゃないわよー」
「ちょーいけめーん! あなたー、ソロプレイヤー?」
あすたちんが割って入る。
「妖精の輪を使ってギルドの仲間たちがいるエッゾをめざすものの、たびたび迷子になるというかわいそうな人にゃ」
イクスがあまりにもひどいが適切な注釈をする。
「うるっせーよ、虎女」
イタドリはヨサクの腕に抱え上げられたあざみを心配そうに見つめていた。
船まで戻る間に目を覚ましたあざみが、ヨサクの腕の中でつぶやいた。
「なんで、……なんで何も言わずに出て行ったの」
「あん?」
あざみはうつむいて黙っていた。
「気がついたか」
ヨサクはあざみの問いに答えず、あざみの身体をひょいと抱え上げ米袋のように肩に担いだ。
「ちょ! な! コラぁ!」
「こっちの方が歩きやすいんだよ。おい、猫忍者! もちっと早く進めねぇか」
「また魔法陣起動させても知らにゃいにゃりよー」
「まあケガ人とちびっ子がいるから我慢してやるか」
「おーろーせー」
じたばたするとしっぽで視界を遮られてしまうので、ヨサクはあざみを地面に下ろす。
「悪かったな」
ぼそりと呟いたヨサクの声はキツネ耳がきちんと拾っていたが、それに返す言葉をあざみはみつけることができなかった。
船ではヨサクは大いに歓迎された。編成しなおしてヨサクは第1パーティに。入れ替わりでイタドリが第2に、バジルが押し出される形で第4に回った。
ヨサクはナインテイルを離れたあとの冒険を語って聞かせた。
他サーバー(おそらくユーレッドか)の脱出不可能の罠にかかったが、かろうじて狼に乗るキャラバンに救われたことなどを話したのは、もう明け方近かった。
あざみは必死に眠気と戦いながら、自分のしっぽを抱きしめながら聞いた。
次の日の行軍は、日が昇り始めた頃から行われた。
予定通り、罠を覚悟の中央突破だ。次々罠を起動させていきながら前進する。鉄則は第1パーティーと第3パーティーを適切な距離に保つこと。
<殴りドルイド>ブロマインの召喚する花の精アルラウネと、<式神遣い>ハギの使役するハトジュウの位置を取り替えて距離を測るというひと工夫がある。
アルラウネは術者の回復効果を向上させるので、距離が離れすぎれば近くまで戻りたがるし、ステータスをチェックしていれば術者の回復量の増減でわかる。ハトジュウにも離れすぎた場合は飛びたてとしつけてある。
第4パーティーのバジルがちまちまといじめていたエネミーを、同じパーティーの黒夢があっさりと狩っていくので小競り合いが起きたものの、順調に進み続ける。
まる1日走りきり、そこで野営する。
3日目の途中、恐竜に襲われた時には大いに驚いた。
遠くに火山が見える。地鳴りと噴煙も届いた。
大地人もいない。マップもない。桜童子の記憶によれば、あの火山がちょうど<サクルタトル>との中間地点であるはずだ。
一旦北に進路を取れば、<隠神の城>が見えてくるだろう。しかし、未開の地だけに現在地を示すものは大まかなゾーン名のみ。道は草木に覆われ、日の昇り具合で方角の見当をつけるのがやっとだ。
変わったことが起きた。
「第2パーティに桜童子、おめーが現れたって言ってたぜ」
前方へ遊撃に出たバジルの報告だ。
「なんか楽しそうに併走しているそうだ」
「何言うてんの。リーダーやったら、山丹の椅子の上」
山丹はぽーんぽーんと元気良く走っているから、その背中の上ではかなり揺れることだろう。ただ、<召喚師>である桜童子は幻獣の背に乗り慣れているから振り落とされているということはあるまい。しかし、万が一ということはありうる。
「ちょ、にゃあちゃん。喋らんとおるかおらんかわからへんって」
「ああ、いるいる。考え事をしていた」
「なんかリーダーが前に現れたって言ってたよ」
「あー、バジル。しばらく罠もなくって退屈だからっていい加減な報告するんじゃないよ」
「なんだよ、バレたのか」
「あー、悪い奴らじゃないから攻撃しないようにって、言っといてくれ。まあ、龍眼さんがいるなら大丈夫だろうけどな」
「リーダー、何? 悪い奴らじゃないって」
「ああ、レンは見たことがないか? 時々<ナインテイル>でも見るぜ」
「んー、降参。おしえて」
「<黒狸族>だ」
見たことないと応じたシモクレンに桜童子は講釈を垂れた。
<黒狸族>。身長1mほどのぬいぐるみのような姿をしている亜人間の種族。そこらあたりは桜童子に似ているが、体色が違う。桜童子は白ウサギに似た<猫人族>だが、<黒狸族>は茶色のタヌキだ。
滅多に見ることない<冒険者>の姿に浮かれて出てきたのであろう。
そう言っている間にその姿が見えてきた。1体いる。だんだん追いついてきた。
と思っていたが、2体に分裂し、さらに4体に分裂し、今度は8体に増えた。
楽しそうにじーっとこちらを見ながら併走している。その姿は愉快だが意味不明だ。
そのうち1体が木の幹にぶつかり、ごろんごろんと後方に転げていった。
「ぅあ、痛ぁ!」
シモクレンが心配になり足を止めて近づく。<施療神官>の性だろうか。
顔を覗き込むと寝転がった<黒狸族>は死んだようにピクリとも動かない。外傷はないようだが心配になり、回復呪文をかけようと手を伸ばす。
「マミー!」
「うひゃあ」
突然起き上がった<黒狸族>に驚いたシモクレンは大きな目をパチパチとさせて後ろによろけてしまった。すると、残りの7体もやってきて、マミーマミーと楽しげに鳴いて、はしゃぎ回った。中にはハイタッチをしている者もいる。
「リアクション待ちやったんかーい!」
もうっと鼻息も荒く隊列に戻る。
「レン、おめぇも世話好きだなあ」
「にゃあちゃん、ほっといてー」
<黒狸族>はなおも楽しそうに併走している。
しかし、その8体が再び7体になったのは一瞬の出来事だ。
1体消えたのも他の7体は気づかなかったかもしれない。
だが、桜童子は瞬間的に椅子を降り、金色の<鋼尾翼竜>を呼んだ。
1体をさらったのは小型翼竜だった。
勝負はあっという間だった。
ひと羽ばたきで舞い上がると、翼竜の背を取り、尾で地上に叩きつける。
口から<黒狸族>を吐き出した。その翼竜の首を黒夢の<死神鎌>が、翼をタケトノの<斬鉄剣>が、ともに切り裂き虹色の泡と化した。
翼竜の牙に腹を裂かれた<黒狸族>をシモクレンは回復させる。
「あら、さっきの子」
どうやら、シモクレンは見分け方を覚えたらしい。今度は本当にケガが痛むらしく、若干身体を動かしている。
「マミー!」
怪我をしながらも先ほどのように叫んだが、今度は冷静にペシンと額を叩かれる。
「おとなしくしとき」
心配そうに眺めていた7体の<黒狸族>は、「マミー」と叫んでハイタッチしあった。
「リアクションならなんでもよろこぶんかいー!」
その声に一層はしゃぎだした。
今まで治療を受けていた<黒狸族>の青年は起き上がると平伏した。
「今のんは死ぬかと思ったんまみ。助かったんまみ」
「ゴローマーの命の恩人まみー!」
「命の恩人まみー!」
「まみー!」
「命の恩人まみー!」
「ゴロチノジンまみー!」
「うわ、この子言えてない」
全員がシモクレンの足元に平伏した。
「え?」
1人がしゃがむと後ろにもう1人いる。8人がしゃがむとそこに8人現れ、次々と増えてついに64人の<黒狸族>が集まっていた。
「なんのマジックショーなんよ、コレ!」
驚き顔のシモクレンをよそに桜童子はのんびりと言った。
「おーい、レン。そろそろおいらを椅子に戻してくれー」
■◇■
うひー、間にあった間にあった。
ラストに手こずってまして
危うくこっちをあげそこねるところでした。
今、一行は愛媛あたりを進んでいるはずですが、
この遭遇のおかげでまた舞台が変わります。
次回「再開の旧ユディオン伯爵領」! 深夜0時更新!




