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014 黄昏のゴルドスタン


 <ナカス>に現れた謎の女怪が<典災>だと明らかになったのは、津波から三日たった夕暮れのことだった。

 湾を形成している陸続きの島<シカゴルドスタン>で怪異は起きた。ナカスの沖にあり、埋蔵アイテムが豊富なことから、プレイヤータウンから日帰りで出かける冒険者も多い。

 陸繋砂州の両岸は美しい浜辺となっているが、ここに<典災>は現れた。


 これを目撃したのは「カナコラブMAX」「loveカナタ1000%」という血迷った名前をつけた<冒険者>カップルであった。ちなみに二人の名はカナタでもカナコでもないから余計始末におえない。そこで男性冒険者の方をマックス、女性冒険者の方をセンと呼ぶことにする。


 彼らは浜辺で夕焼けを見るのが日課であった。水から上がったばかりのような女が背後に立っているのに気づいたのはセンの方だった。

「ねえ」

 センはマックスの肩をつついた。

 背後の女が異様に思えたのは、およそ海に似つかわしくはない白いワンピースを着ているところだ。その衣服はずぶ濡れで、胸元に何か大切なものを抱えているようにして立っている。黄昏時なのでそれが何なのかははっきりとは分からない。

 ただ女が美しいことをマックスは感じ取っていた。そこで、マックスはほとんど条件反射的にステータス画面を見る。浜辺を美しい女性が歩いていたらセンには内緒だが、いつもしていることだ。

 <ヒザルビン>というどこの言語わからぬ名前が確認できた。職業欄に見慣れぬ<典災>の文字が並ぶ。

 

 その後、大神殿で目覚めたマックスは、このことを<Plant hwyaden>の<市民対話係>の大地人に報告した。

 濡れた赤子のようなものを手渡されたときの恐怖や、センが倒れた時の衝撃をマックスは必死に伝えようとしたが、おそらく対話係が上層部に報告したのは次のようなことだ。


【報告】未知の敵 1体 

場所:シカゴルドスタン 

発見者:冒険者2名(「カナコラブMAX」「loveカナタ1000%」)

日時:昨日・夕暮れ時

エネミー名:ヒザルビン

タグ:ボス 人型 典災

備考:白い衣服を身につけた黒髪の女性。赤子のようなものを手渡される間に攻撃。特技不明。その他一切不明。<典災>という新規タグの情報を求む。


■◇■

 

 ハギとバジルが龍眼を伴って現れたのは、<シカゴルドスタン>に<典災>が現れた4日後の夕暮れ時のことだ。


 ハギの師匠となった<大地人符術師>を連れてくることはできなかったが、しっかりとハギ自身が<符術師>に転職していた。

 自ら霊符を作ることはできるが新米<符術師>であるのでまだレベルの高いものは作成できない。

 戦闘に及んでは、師匠から高額で譲り受けた霊符を用いるしかないので、かなり散財したらしい。


 <サンライスフィルド>に先に行っていたイクスと山丹が、ディルウィードと戯れているのが見える。時々ディルウィードは山丹に頭を優しくかじられている。


「彼は以前、<パンナイル>に来たね」

「ええ、電撃系<妖術師>です。現在は<採掘師>にサブ職業を転職しました」

「成果があったかね。おめあては<ルークィンジェ・ドロップス>なんだろう?」

「ええ、ですが、それがさっぱり」


 ハギは道中、【工房ハナノナ】のメンバーの戦力・特技・連携の仕方などを龍眼に詳しく聞かせていた。これは桜童子の指示だ。


 <サクルタトル>攻略戦では、龍眼を参謀に据えることに決めたのだ。

 レベルからするとディルウィードやイタドリ、ユイやサクラリアは置いていくべきであろう。しかし、桜童子は彼らも連れて行く気である。だからこそ知っておいてもらわなければならないのだ。


「廃墟の風合いを残して、あえて趣深くしているのだな、ここは」

「なんといってもリーダーが万能多芸の天才<画家>ですからねえ」


「何言ってやんでぇ。オレっちはもっと人が住んでるようにアピールした方がいいって言ってんのに、ヤツは変わりもんだからなあ」

「変わり者のバジルさんに言われたくないでしょうね」


 大人物のような笑い声を上げる龍眼。ハギとバジルともすっかり打ち解けたようである。


「人の風評を流すなら、おいらの聞こえないところでやってほしいなぁ」



 桜童子はエントランスから出てきた。

 このエントランスをリフォームしたのも桜童子だ。当初は柱ばかりが残るエントランスだったが、今は材質の違うものを組み合わせ、さらに植物を絡ませて特色ある壁を作り出している。


「その姿で現れると、なんだかファンタジーの世界に迷い込んだ気分になるな」

「んー、この世界が<エルダーテイル>にそっくりな世界でも、おいらがぬいぐるみにそっくりな姿でも、おいらたちにとって現実にほかならないよ、龍眼さん」


 ふたりは握手を交わす。



 エントランスに入ると、応接用のテーブルには刀掛けが置かれ、研ぎまでが終わった刀装具のついていない刀身が飾られてあった。


「美しい。……これは、太刀ですか」


 秋刀魚が飛び跳ねるように刀身が空を向いて反っている。刃を下に向ける飾り方なら打刀ではなく太刀と呼ばれる。



【ITEM 羽斬りの太刀・天筑後羽】

【伝承 ナインテイルの刀匠紫木蓮が友人たちの後押しを受けて打ち、秘宝級にまで高めた太刀。研ぎ具合を確かめている時、舞い降りた白羽が刃に当たっただけで真っ二つに切れたことから<羽斬り>の名を持つ。これを持つものには<羽斬り>の二つ名が授けられることとなる】

【効果 ダメージを与えたものへの飛行阻止:阻止に成功するたびにHP中回復】



 奥からくたびれた表情を浮かべてシモクレンが現れた。


「蒸気船一隻と冒険者三ダースと交換かあ。うん、かなり評価してくれとるわけやね」

「あなたの刀は、<パンナイル>の貿易品になるくらいだ」


「そんなら、もうちょいボーナスもらっても良かったやろうか。三人バイトに雇って能力ブーストしてもろうたからねえ。バイト代上乗せしとけばよかったわ」


 龍眼は大いに良い買い物だったと喜ぶ。これに再使用時間短縮効果をもつ鞘を作らせ、硬直回避の柄や拵えを備えさせれば、さらに倍の価値で買うものだって現れるだろう。


「そろそろ<ビグミニッツ>東部まで船が進む頃だ。<エレメンタラー>、この先の計画があるのなら聞いておきたい」


 龍眼は桜童子に質した。

 イタドリが運んできたお茶を飲みながら桜童子は答える。


「船は一旦<ベップ楽天地>で寄港しておくれ。そこから<ユーエッセイ>には陸路で移動してもらうよ」


「<ユーエッセイ>? 聞かぬ街だな」

「宇佐あたりだねえ」


「ウサ? 兎耳だけに?」

「ふは、そいつぁ、おいらも今気づいたよ。龍眼さんは九州出身じゃないのかい?」

「違うな。ただ山口だから、<ナインテイル>生まれではあるのだ」



そこからお互いに自分のことを話す時間が続いた。お互いの歩んできた道を理解することが直接的ではないがこれからの進路を理解するのにも役立つのかもしれない。


 その話を聞く誰もがふと故郷のことを頭によぎらせた。そして、元いた世界は無事なのだろうかと思い描いた。


 秋の黄昏は郷愁を呼ぶものなのかもしれない。


■◇■


 先日「フィジャイグ地方」の記事をすっかり読み飛ばしていたことに気付きました。慌ててセルデシアガゼットを読み直したり、docの設定を確認しなおしたりで、修正をチョコチョコしていかないといけないという思いに駆られながらも、「もう、どこをどう修正したらいいかわからなーい」と捨て鉢な気分になったのも確かです。

 何かお気づきになりましたらご意見お寄せください。

 明日も深夜0時、更新できるといいなー

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