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013 青春フェアリーリング


 サンライスフィルドを囲む山の中、森の入り口に【工房ハナノナ】のマークを入れた盾がつるされている。

 この山中を【工房ハナノナ】の面々が戦闘訓練の場所として使用している。



「姉ちゃん、援護頼む!」

「任せて、ユイ」


 全力のダッシュから跳躍―――。

 木を踏み台に空を駆けるユイ。

 狙いはディルウィード。

 ディルウィードの呪文詠唱の速度よりもユイの脚力が優った。



「兄ちゃん覚悟!」

「さっせるかるかー!」

 イタドリがディルウィードの前に飛び込む。

 大きな衝突音はしたが、イタドリの小さなハルバードはユイの蹴りを易々と受け止めた。


 イタドリは、ユイの攻撃を受けながらもサクラリアの動きに警戒した。

 <ハインディングエントリー>で気配を経っているのだ。

 案の定、メインのユイの攻撃を陽動にして、サクラリアはディルウィードの背後に回り込んでいた。

 楽器であり白兵武器でもある<舞い散る花の円刀>が閃く。


 その太刀筋はディルウィードの身体を捉えてはなかった。

 斬ったのはディルウィードの影だった。


「<ルークスライダー>か!」

 ディルウィードはさらに移動阻害呪文を詠唱していた。影のようにしてサクラリアの攻撃をすりぬけると同時に、<アストラルバインド>を展開。半実体の鎖にサクラリアは攻撃直後の姿勢のまま絡め取られる。



 以前は桜童子と組んでいたサクラリアは、戦闘中歌っていることが多かった。しかし、ユイとの連携では歌わないことが多い。隠れていることで逆に

攻撃が読みやすい。

「<シフティングタクト>!」

 

 これも今までならば、格上の桜童子に使うことのなかった特技だ。

 ユイがサクラリアに体当たりをして<アストラルバインド>を無理やり剥ぎ取る。これはサクラリアがユイを操縦した動作だ。



 ディルウィードの射線からもイタドリの剣筋からも避けられたが、ユイは移動の準備ができておらず、もつれて転がったままだ。 


 再び立ち上がったユイは、ディルウィードめがけて地を這うように駆けた。だが一瞬の遅れで、イタドリの<シールドスマッシュ>の有効範囲から逃げ出すには至らなかった。


「ぐあああ」

 盾の突進を受けて転がる。

 その間にディルウィードの<ラミネーションシンタックス>が完成する。

 


「勝負ありだね。リアちゃん、ユイくん」

 ディルウィードが眉間のあたりで中指を動かしてみせた。エアメガネだ。

「むかちゅくぅぅぅぅうううう」

 サクラリアとユイの声が森にこだました。







■◇■


 戦闘訓練が終わった四人は【工房ハナノナ】に戻ってきた。

「ふむ、また負けて帰ったからふたりは半べそをかいているんだな」


 落ち込んでいる様子のサクラリアとユイに桜童子は優しく声をかける。

「オレは泣いてねー」

 泣いてはいないがかなり落ち込んでいるというのはよくわかる。


 ユイの目はいつも輝きに満ちている。

 彼は、装備を託した<古来種>との約束を胸に、前向きにひたむきに頑張っている<大地人>の少年だ。

 行動を共にしてきたサクラリアにもその気持ちが分かるのだろう。沈痛な表情なのはユイの苦しみを分かち合おうとしているせいだ。

 

「でも、強くなりてぇ」

 歯ぎしりしてユイは言う。このところ自身の成長の遅さにいらだちを隠せないようだった。しかたない。<大地人>と<冒険者>では、経験値の獲得量に差があるのだ。


 技術や思考速度は向上していても、基礎となるレベルに差があるのだ。もしもであるが、ユイとサクラリアが出会った頃から冒険者と同じようにレベルが上がっていたのならば、イタドリのハルバードはユイの蹴りで砕け散っていただろう。


「強さとは何か、もう知ってるんだろう? ユイ」

 桜童子は耳をぴるぴると動かして問う。


 あきらめないことと言いかけてユイはやめた。

「アキバに行けば<冒険者>になれるのかな」


 最近のユイの思考は、そればかりにとらわれている。とらわれていてはいけないと知りながら晴らすことのできない霧に包まれているのだ。



 ナインテイルを旅立った貴族の青年が、アキバで念願の<冒険者>になったという噂がユイの耳にも入ったのだ。


 紙飛行機を猛禽のようだと追いかけていくほど純真な心をもっていたら、そんな変化が可能となるのだろうか。その変貌は、成長のゆえか、魔法か、アイテム効果か、詳しいことは定かではない。


 でも<大地人>が<冒険者>になるという事態が本当にあるらしいのだ。


「ユイは<冒険者>になるのかい」

「ちがうよ、リーダー! オレは<古来種>になる男だ」


「じゃあ問題はねえな。<冒険者>になれなくっても」

 無碍に言い放つ桜童子にユイはますます憤る。


「いつになったらオレは強くなるかがわからないんだ!」

「ユイ」

 心配そうにサクラリアはユイを見つめる。



「『強さとはあきらめないこと』。そう言ったユイの言葉は、おいら間違っちゃいねえと思うんだ。あきらめるな」


 天才でない限り誰しも自分の成長に行き詰まりを感じることはある。真っ向から「あきらめるな」と言われてもゴールが見えないのだから進めない。しかし、桜童子が次にかけた言葉はユイの心を少しだけ和らげることができた。



「努力ってもんは貯金のようなもんだ。貯めておかなければいざという時に使えない。今、ディルやドリィと戦闘訓練すること、リアとの連携を数多く考えること、自分のできることを見つめること。これは全部お前ェの貯金だ。今はその価値が見えにくいだけさ。間違いねえよ、お前ェは強くなり続けている」


 <大地人>でも急激にレベルを上げる方法がある。それが「パワーレベリング」という方法だ。

 桜童子はこう見えてLv.90の猛者である。<大災害>後Lv.90を超えることも可能だと龍眼からの情報もあるが、この界隈では最強の部類に入る。この最強の<冒険者>とともに強敵と戦い続ければいい。戦わずとも身を守り続けるだけでもいい。同じパーティであれば大量に経験値は入る。


 でもそれを桜童子は良しとはしなかった。決して力を出し惜しみしているわけではない。ユイは最初疑ってはいたが、今では多少納得している。

 以前、軽自動車にロケットエンジンを積んだ例で説明されたが、<大地人>であるユイには全くイメージできなかった。

 だが、言わんとすることは分かった。身の丈に合わない力は強さとは呼べず、ただ己を滅ぼすのみという話だ。



 ユイが話を噛み締めていると、桜童子はポツリといった。

「<大地人>が<冒険者>になる方法があるなら<古来種>にだってなれるんじゃねえか」

 はじかれたように背を伸ばすと、ユイは真剣な眼差しで高い天井を見上げた。


 どこまでも真っ直ぐな少年だ。 

 

「ホラホラー、ドリィちゃん特製、アツアツの生焼け肉できたよー」

「だーから、生焼けって分かってんならもっと焼けばいいのに」

「いいのいいのー、おなかこわさなきゃー」

 イタドリとディルウィードが料理を運んできた。

「あれあれー? ねえねえ、リーダー、リーダー。あざみたんとれんちゃんはー?」


「レンはまだ刀打ってるよ。あざみはまた妖精の輪のところじゃないか?」

 シモクレンは、ペットのサラ坊とともにLv.91の刀を打つことに挑戦している。

 たんぽぽあざみはまたふらりとでかけていた。




■◇■


 桜童子の読みどおり、あざみは<妖精の輪>付近にいた。

 ここに通うようになったのは、「ひょっとしたら、彼に会えるのではないか」という宝くじを買う程度の期待をこめてのことだった。


 それがしばらくすると「<妖精の輪>に飛び込めば、追っていけるのではないか」という万に一つも可能性のない方法に賭けたい気分に変わってきた。でもそれが現実的に無理な話だと判断できる程度の冷静さはあった。


 そして、今追っていって彼に会えたとして、思い出してさえもらえないのではないかという寂しい思いがよぎった。


 自分を磨こうという思いが、膝を抱えて座り込むだけの日々から脱出させた。あざみは今たったひとりで戦闘訓練をしている。


 振り向いてもらえるほどの強さを求めようとしているのだ。

 自分を磨くとは、普通の世界ならば容姿を磨くことにほぼ等しい。立ち居振る舞いであってもいいが、それは容姿と相関関係にある。


 <エルダーテイル>の世界では、概観はほとんど全員美しいので、そこからせめても意味はない。意中の人に認められたいのならば、同じ時間にログインし、話しかけ、行動をともにすべきだ。

 

 だがこの世界はどちらでもない。そうあざみは結論付けた。

 だから再び逢えたとき、前とは変わった自分を見せて驚かせたいと思った。その結果がこの修行だ。



 あざみは目標に向けて直線的に走る。踵に力を入れて急激に進行方向を変えると、本来<武士>が持つはずのない<トリップステップ>に切り替わる。これは狐尾族であるあざみの特技だ。


 ステップの途中で抜刀する。半身をひねったところから<火車の太刀>が発動する。連続攻撃の発動可能状態になったところで、九連撃につなぐ。その途中に<朧渡り>使えば、分身を残すようにしながらの攻撃も可能だ。


 しかし、その次に発動させたかったものが発動しなかった。九連撃が正確な体捌きにならなかったのだろう。<朧渡り>の足運びで体軸がブレたのだ。その連携を確かめるように。走りながら剣を何度も振る。


 何度も何度も剣を振っていたあざみの身体が、ふわりとワイヤーで吊られたように宙を待った。あざみは手ごたえを感じたが、そこから九連撃と<朧渡り>を組み合わせようとすると、また軸がブレてしまう。

 

 森にはあざみの風のような剣閃の音だけが響き続ける。


■◇■



 他のギルドに比べると圧倒的に女子の比率が高い【工房ハナノナ】では、ちょびっとずつコンビが変わってきました。


 桜童子×サクラリアの桜コンビから ユイ×サクラリアコンビへ

 あざみ×シモクレンコンビから 桜童子×シモクレンコンビへ

 

 戦線維持しか考えていなかった イタドリとディルウィードがコンビに

 なぜかバジルとハギがつるみ、そこにイクスがからむ


 するとあざみがソロっぽい動きになるわけですよ。

 彼女のペアは現れるのか!


 さて次回は「黄昏のゴルドスタン」。

 深夜0時にお会いいたしましょう。

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