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012 離別のリーフトゥルク


 パンナイルの龍眼に次々と情報が寄せられている。


 彼のサブ職業は<軍師>である。

 これは大型戦闘を組みにくい<ナインテイル>では稀有な職業である。


 この軍師というサブ職業の難しいところが、まず己の特技が理解しがたいことである。とても有用とは思えないのだが、その意味を理解して初めて効力を得るといった特技である。

 「まず己を知り、敵を知らば、百戦危うからず」を地で行くサブ職業だった。

 

 その職業特性から、龍眼は情報収集とその分析を行動に応用するようにしている。

 大災害直後これは最も役に立つ考え方であった。まず自分に出来ることを必死に模索し、周囲の状況を察し、九商家の一角にその身を売り込むという電光石火の転身を見せた。


 人員と資金力を身につけてからは手に入る情報量は格段に跳ね上がった。さらにナカスを<Plant hwyaden>が実効支配を強めるに至って、情報の価値も増してくる。


 早期に味の秘密を解明し、<冒険者>の招致を早い段階で始めたのも、情報収集と分析による大きな功績であると龍眼自身感じていたところであった。



 しかし、カラシン&マヤによる配送サービス構築の一件から、小骨が喉にかかったような違和感を覚え、もう一度己を知るところから始めた。

 

 すると、<大地人>商家から己がどのように映っているかが分かってきた。

 

 冒険者は能力こそ絶大でぜひとも利用したいが、セルデシアの常識外の考え方を持つ不死の怪物という印象が拭えないらしい。

 そのため実権を握られることに強い嫌悪感をもっているということが分かった。



 感覚としては、虎や龍をペットとして飼うようなものなのだろう。珍しいもの好きな商人の血は騒ぐが、害になるようであっては困るのである。

 有用であっては欲しいが、でしゃばられたくはないという思惑なのだ。


 それを知って龍眼は、一旦<リーフトゥルク>の屋敷から離れることを決意した。これが【工房ハナノナ】と同行することにした大きな要因である。


 もっともリーフトゥルク家の財力を使って新開発した蒸気船を今回の作戦に用いようというのだから、その意図は話しておかねばなるまい。


 ただし詳しく話してしまうとその情報さえ商取引の材料としてしまうことも考える。話して構わないのは<ナインテイル>の特産を入手し、それを手札にして<フォーランド>から資源を持ち帰るというところまでだ。


 どのような資源なのかはその場に行ってみないとわからないので、自らが今回の遠征に参加したいという旨をつたえると、<リーフトゥルク>で囲う冒険者の中から優秀なものを<パンナイル>に残して置くことを条件に許可が出た。

 

「さて我々は東へ行くとしよう。今、船は順調に進んでいるそうだ。サファギンがよく出てくるそうだが、<冒険者>をすでに8人拾ってある。滅多なことでもなければ問題もあるまい」



「軍師のあなたが出陣されるのは一番最後かと思っていました」

 ハギは外套姿の龍眼に頭を下げた。


 ドンキューブの森公園は、いつか見たプレイヤータウンであるかのような冒険者の賑わいはなかった。ある者たちは<ナカス>からの使者を意味のないクエストに連れ出すため旅立っていた。

 またあるものたちは龍眼に腕を買われ、蒸気船への乗船を目的に<ナインテイル>各地に散っていた。そのため<パンナイル>内の<冒険者>人口が減っているのである。



 万が一の事態に備え、守備の面で<パンナイル>は心配ないのかと尋ねると龍眼は答えた。


「今、<ナカス>では非常事態が起きて復興に力を割いているらしいからな。船を南に廻すいい口実ができたというものだ。こちらの予想外だったのは、船に興味を持った大地人がそれぞれの港で盛大に歓迎会を催しているということだ」


「それじゃあ情報は筒抜けなんじゃないですか?」

 ハギが重ねて尋ねると龍眼は口元に冷笑を浮かべる。



「船に乗る者たちには、目的の港までついたらパーティで蒸気船に乗れとだけ言ってある。最終地点は私が合流してから話す。それぞれで噂しあった方が混乱も大きくて良いだろう」



 龍眼の読み通り、港に集まった<大地人>の多くは<フォルモサ>行きの船だと噂し合っていた。中には言伝を頼む者もいたが、丁重に断るようにしてある。

 

「軍師様がOKって言ってんだからOKなんだっつぅの。オレらがつまんねー知恵こねくり回して考えることなんざ先刻ご承知なわけさ。いいからオレたちゃあ符術師探しに集中だ」


 バジルは早速歩き出した。龍眼がその背中に声をかける。

「船を目的地まで届けることも、<符術師>を見つけることも、どちらもこの龍眼に任せていただこう。ただし同行の対価として、約束は守っていただくぞ」


「Lv.91を超える刀をウチの<刀匠>に作らせるということなら心配いりませんよ。これ以上遅く作り始めては<フォーランド>行きに間に合わないかもしれないですからね。もう、作り始めていますよ」


 ハギは龍眼の背中に答える。そのハギを<剣牙虎>山丹にまたがったイクサラルテアが追い抜いていく。ハギの足元では<式神童>ヤクモが駆け足し、頭上では<式神鶏>ハトジュウが旋回している。

 

 これはこれで一応パーティになってるじゃないか、それならば龍眼の実力を見てみたいものだ、行先にエネミーでも出ないものか、とハギは考えていた。しかしバジルの戦い方の底意地の悪さを見せる気がしなかったのでその考えは霧散した。

■◇■


 リーフトゥルク家とついに離れる決意をした龍眼さん。

 もういっそ、【工房ハナノナ】に入ればいいのに。

 彼くらいの使い手になるといろいろしがらみもあるんでしょうが。

 

 次回は躍動する【工房ハナノナ】の若手組を中心にお送りします。

 では、深夜0時にお会いしましょう。

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