#31 未来《さき》
誰も居ない学校の校庭、ジャングルジムを独拠して、三太は震える足で頂上を目指していた。
目尻には、相変わらず涙が溜まっている。
それは今迄とは違い、恐れから来るものでは無い。――さっきまで、母親に酷く叱られ続けていたせいである。おまけに床に就く事も出来ず、寝不足だ。
結局、家に帰って色々話そうにも三太の帰りを心配した母親は、逆にヒステリックになり、聞く耳すら持ってくれなかったし、結局、ベッドの上では夢の続きは見られなかった。
ならば良しと、三太はそのまま、また出掛け、学校の校庭にやって来た。
夢の続きなら、眠らなくても、此処で見れる。
三太は、一度は高い所に登っても平気だった半日前の自分を確かめるべく、震える足で頂上を目指した。
やがて辿り着いた其処は、昨日見た光景程では無いにしろ、三太が初めて見る風景だった。蒼穹の空に山々が映え、まるで空を飛んでいる錯覚があった。
しかし、相変わらず足は震えている。どうやら高所恐怖症は、そんな都合良く、簡単に治るものではないらしい。
だが、いつの日か必ず克服し、足元の小山や、遠くにそびえる山々よりも、もっと高い所に行ってやる。――三太はそう決心すると、震える足をものともせずに、ジャングルジムの頂上で立ち上がり、雲ひとつ無い大空に向かって指を突き立てた。
「僕の未来が、あそこにある……」
それは決して間違いでは無かった。
三太が指差すその先に、三十年後の彼は確実に存在した。
――しかし今の三太には、未来の自分がどんな形で其処に居るかは、想像も出来なかっただろう。