#2 パイロット
快晴の午後、遠くに広がる山々は青々としていた。その中にぽつんと、どの山よりも頭ひとつ高い、明らかな人工物があった。鉄のパイプで組まれたそれは、ジャングルジムだった。
小学校の校庭のジャングルジムの頂上に、一人の子供が登頂して、何の支えもなく立ち上がり、青々した空を仰いだ。遅れて、三太が後を追った。しかし両足は震え、とても先人の振る舞いに合わせるのは無理そうだった。
地上から、様子を伺う同級生が野次を飛ばした。
「おい三太! 意地になるなよ!」
「怖いんだろ!? だったら止めちゃえよ!」
「〝三太〟の癖に、高い所が駄目なんだってよ! 煙突に昇る時、どうするんだ!? ――おい、みんな知ってるか? こいつの夢、これでもパイロットなんぜ!」
同級生が一斉に笑った。三太は涙目になりながらも、足を動かそうとしたが、足はどうにも動きそうも無かった。さらに下を見ると、地面がとてつもなく遠くに感じた。既にこの地点で彼には、遠くに広がるどの山々よりも、自分が高い場所にいる気がしてならなかった。その錯覚がまた足を一層震わせ、ついにはとうとう動きを止めた。
頂上を制した同級生が、三太に向かって言った。
「お前のお父さんが見つかってから、高い所の登り方、教えてもらえよ」
空気が凍った。それ程、深刻な言葉だった。先程まで囃し立てていた同級生達も流石に口を閉じた。
三太は黙ったまま顔を下げ、ゆっくりとジャングルジムを降りていった。――その頬には大量の涙が伝わっていた。