#17 嗅覚
「本当、よく喰うなぁー……外人さん」
長距離トラックの運転手は吸い掛けの煙草を吹かし、夢中にスプーンを往復させる赤い鼻の相手に、幾度と無く声を掛けた。
「デリシャス、デリシャスかい?」
眺める先の、五個目のプリンを平らげようとするルドルフは、笑って何度も頷いた。
運転手はまた煙草を吹かし、首を横に振った。
「英語は解るんだなー。……でも、俺っちが英語が喋れねぇのよー。弱ったなー、外人さん、何処の国の人よー? 何処行きたいのよー?」
困惑して、仕方無くプリンを奢り続け、煙草を吹かし続ける運転手に、仲間の同業者が気が付いて声を掛けてきた。
「よう、珍しいの連れてんね」
「あー、本当、困ってんのよー。いやねー、東京でヒッチハイクしてんのを拾ったんだけどさー、何処に連れてって欲しいか、解らんのよー」
同業者はルドルフの服装を眺めた。
「これ軍服だろ? あれだよ、ほれ……自衛隊」
「えー、だって外人さんだぜー」
「馬鹿、おめ、これからは国際――何だ? そうだ、〝国際交流〟の時代だぜ。おめぇ、うちの会社にも、イラン人とかネパール人とか居て、奴らも俺らと一緒にハンドル握って頑張ってんべーな」
「そっかー、じゃあ自衛隊かー」運転手は両手で円錐を作り、ルドルフに翳した。「ほれ、これ、富士山……日本一の山、フジヤマ、フジヤマ」
ルドルフは、それが山を示しているのをすぐに理解した。――ニコルを乗せた輸送機を操縦した際、乱気流を抜け、分厚い雲を抜けた時に真っ先に目にして、ぶつかりそうになった美しい山である事を思い出し、赤い鼻を啜り、スプーンを咥えたまま歓喜した。
「フジヤーマ! フジヤーマ!」
同業者は運転手の肩を叩いた。
「みろよ、やっぱ自衛隊だべ? 富士の演習所に行きてぇんだよ」
「そっかー、いやー助かったよー。そういや、こっから近いもんなー。……よーし、外人さん、それ喰ったら連れてってやるかんなー」
もちろん日本語など理解出来無いルドルフは、運転手の笑顔に合わせて笑うだけだった。
――とはいえ、無事に〝国際交流〟が成立した互いは、富士山の麓、御殿場インターの休憩所で、和やかなひとときを呑気に過ごしていた。