主人公は私じゃない
最近乙女ゲーム設定がはやっているので、書いてみようと思ったら全く違うものができました。昔書いたものをリサイクル。
昔誰かがいっていた。
『誰にとっても自分の人生は自分が主人公』だ、っと。
あぁ、そうね。確かにそうでしょう。
けれどもこの世界全体でみていると、その場その場に、求められる役割なんてもんがあって、自然とその世界の主人公、脇役、エキストラなんてもんにふりわけられていくものなのだ。
あ、誤解のないようにいっておくけど、私はそんな世界が嫌いじゃない。
なんだって勝ち負けある方が愉しいし、脇役だって人生だ。勤め上げれば楽しいものだろうとおもっている。
げんに、私の実家の左三軒向こうのクローバーさんちのイェッガ君は伝説の勇者とやらで、左四軒向こうのマドンナ☆ロザンヌちゃんと付き合ってるし(しかも幼馴染!)、彼らの幼馴染(一応私とも幼馴染だけど、あっちはきっとそう思ってない)のタカオミ君は稀代の才能をもつ魔法使いだ。
二年ほど前、魔王をたおしにいくとかなんとかで彼らは遠く旅立ってしまったが、先日村に帰ってきた。
たくさんの宝物と、王様からの勲章。旅先で出会った仲間の騎士やら踊り子やらドラゴンやら、その他色々ひきつれて帰ってきた彼らに村中大騒ぎ。まぁ、何はともあれ私の知らないところで起こっていた世界の危機は私の知らないところで解決された。
これで私がモブのエキストラといわずなんと言うのだ。
「くそぅ、モブでなにがわるいっ私だって、私だって、精一杯生きてるのにぃっ」
「はいはい。わかったわかった。」
「わかってない!クリスはぜんぜんわかってない!わ、わたし…わたしは…うぅ」
「わかってるわよ。でもどうみたって勝ち目ないでしょ?奥手のアンタが今さらタカオミにアプローチできるの?あっちはもう隣に小奇麗な王都の女を連れているのに」
「け、けっ結婚の約束だってしたもん!」
「いつの話よ?言ってみ?」
「さんさいのとき…」
ばっかじゃないの、とでも言うような呆れかえった視線を受けて、私はずるずるとテーブルの上に崩れ落ちた。
本当はわかっている。わかってるのだ、もうあんな約束がとっくに時効だってことぐらい。
三歳の時のころ。私の遊び仲間はもっぱら近所の子ども達で占められていた。
といっても小さな村なので、遊べる子どもがそんなに多いわけでもない。早熟で頭のいいタカオミは子ども達のお守役にぴったりで、当時から人見知りが激しく鈍くさい私を他の子ども達に置いてかれないように引っ張ってくれていた。
あのころはよかったなぁ、繋いだ手が離された時のことなんて全く考えもしなかった…
宴会の席の中央近く、美しい踊り子と獣人の女盗賊に挟まれているタカオミをそっと盗み見る。
そういえば、あの頃からタカオミは「もふもふが足りないっ」だとかなんとか変なこと言ってたなぁ、念願のもふもふに会えたんだなぁ、と昔のことを思い出すと余計悲しくなってほろほろと涙がでてしまった。
「もう泣かないの。失恋パーティーなら後でやってあげるから。こんなごちそうめったにたべれないのよ?あんた村人なめてんの?」
「わ、わかったよぅ」
肉をしゃぶりながら鬼気迫る顔で言われて、零れる涙を強引に拭う。
あぁ、祝いの席で何やってるのだろ、私は……
村総出の「おかえりなさい我らの英雄☆イェッガ」祭りを開催する中、私と友人クリスティーネはすみっこでひたすら肉をつついていた。
女二人肉をつつく光景は異様だったが、仕方ない。勇者ご一行の姿をまじまじと見たくなかったし、下手に家族の周りをうろちょろしてると、あんたもそろそろ結婚相手見つけなさいと小言を言われるのだ。
宴もたけなわ、勇者様ご一行の愉しそうな声と村の若い衆がそれに群がる声が遠く離れてきこえる。
もう、やだ、拭った涙がもう零れてきた…
「タカオミのうらぎりもの―っ」
「うんうん。わかったから、そっちの皿とってくれる?」
「うるさい、うるさーい。クリスもわたしをうらぎるの?わたしより肉がいいの?」
「ばかね。肉とアンタじゃ比べものにならないでしょ」
はぁっと溜息をついて頭をなでてくれるクリスは本当にいい人だ。
もう何度も繰り返した戯言をこうやって(肉をかじりながら)聞いてくれる。
本当に感謝してる……ちょっと髪が肉の脂でベタベタしてしまったけど!
ごくりと勢いよく杯に残っていた酒をのみほし、さてまたクリスにからんでやろうとしたら肝心の彼女が目の前から消えていた。
はれ?さ、さてはついに逃げたか!
「くりす?くりす、どこいったのよ~」
「さっき此処にいた奴なら手洗いにいったぞ。」
「ふへ?」
ふと斜め上を見上げるとやたらと背の高い男が私の横にたっていた。
すわっていいか?と聞いてくるので、思わず頷くとやけに近くに座ってくる。
自然に肩をだかれて、あれ?と思ったけれど、近づいた顔の美しさに文句を言うのを忘れてしまった。
「お前、名はなんという。」
「し、ししる。わたしはししる。えっと、あ、あなた…」
「私はムゥ。ムゥ・バーレンハントだ。」
むぅ・ばーれ…?なんていったっけ?まぁいいや。むぅかぁ。こんな大男がむぅ。
「あははっ、かわいい名前!」
愉快になって、初対面の相手だということも忘れて、声をあげて笑ってしまう。
ふと、酒の向こうに置いてきた理性が「なにいってんのっ」と叫んできたが、隣をみると男も目を細めてかすかに微笑んできたので、自分を諌める声は更に遠く、聞こえなくなってしまった。
「私の名前よりお前の方がかわいいぞ、シシル。お前の声はまるで銀の谷のフォックスバードのようだな。」
「ふぉっくすばーど?」
「あぁ、フォックスバードというのは私の故郷に住んでいる鳥で……」
それから男は男の故郷だという銀の谷の話やここからはずっと遠い王都の話、私の知らない食べ物や衣類、景色など様々な話をしてくれた。
途中であれ、そういやこの人村の人じゃないな?とか。
そういやクリスはいつかえってくるのだろ?
などと、不思議に思わないこともなかったが、男の話はどれもとても面白くて私の意識がそれる度、新たな話題でひきもどされるので結局質問することも叶わなかった。
だから当然そんな私が周りの奇異なものをみる視線や、男が周囲にむけて発する近づくなオーラなどに気づく筈がなくて。
男と愉しく話をし、腰をだきよせられ、また話をしつつ酒をのんで――……もう、そこから記憶はない。
…………………………………………
ひゅぉぉうと、大きな風の唸り声で目が醒めた。
布団をたぐりよせようとして、ふと手にあたるのがいつもと違う感触だと気付く。
ねぼけまなこをこすると、そこには赤い……赤い?なにかがあった。
「ん……んぅ?」
なんだろ、これ。
触ってみるとざらざらしてる。赤くて大きなざらざらした何かに囲まれるようにして寝ていたようだ。
赤い何かから目を離し、周りをみると、一面の灰色。いつものくすんだベージュ色の天井ではなくごつごつした岩みたいな…というか、まんま岩の天井だった。つまり、森や山によくある洞穴のような場所だ。
なんだろ……なんなんだろう、これ。こわい。
不安になって赤い何かにしがみつく。
赤い何かは不思議とあったかくて、安心した。わけのわからない度でいえば赤いナニか>洞穴だったけど、寒々しい場所を一人で探索するより赤くてあったかい何かにくっついていた方が幸せだ。
と、思ったらすぐに後悔した。
ぎゅぅぅっとしがみついたと同時に、突然今まで大人しかった赤くて太長い「何か」がしゅるると、私の胴体に巻きついてきたのだ!
当然私はパニック状態におちいって、足をばたばたさせてみたり、拳で「何か」を殴ってみたりしたけれど、「何か」はびくともしないで、私を上に持ち上げた。
え、なに?なんなのこれ触手?触手とかだったりするの?くわれちゃうの私?ころされちゃうの??嘘でしょ、危険な魔物は倒したんじゃないの、ゆうしゃさまっ!
どうしようこわい。こわいこわいこわいっ
ぎゅっと目をつぶって身を固くした私に生暖かい風がかかる。
ひゃぁ、と思わず小さく声がもれた。
そしてそんな私の声に、誰かがふっと笑う気配。
「……?」
わらう、けはい…?
「……シシル。」
大きくて低い声が厳かに私の名を呼んだ。
うわぁんと洞穴全体に響くような、それでいて甘い囁きのようにひっそりと。
「シシル、目を開けて。その美しいハシバミ色の目を私にみせておくれ。」
う、うつくしい…?
聞きなれない言葉が耳に入った。たぶん幻聴だろう、と思ったらまた入ってくる。
「シシル。あぁ、私のシシル。どうしたんだ?怖がることはないぞ、かわいい人。私は君を傷つけたりしない。この命に誓ったっていい。どうかその目を開けて、私の天使。」
て、てんし?かわいい?
いつどこで私が誰のものになったのだか知らないが、いい加減ぞくぞくと悪い意味で背筋が震える言葉を止めるためにもおそるおそると私は目を開けた。
そして――そして、今度こそ本当に後悔した。
「ど、ドラゴン……?」
赤い「何か」――もとい、赤くて長いしっぽで私をつかまえていたのは、赤いうろこに、鋭い牙と爪をもつドラゴンだったのだ。
呆然と目を見開く私をよそにドラゴンはあの優しい低音で愛を囁く。
ふぅっと生ぬるい息をふきかけ、爬虫類独特の冷ややかな目を少し潤ませて。
「おはよう、シシル。」
しっぽはすごく長い&シシルは周りが見えない子ということでつっこみは置いといて下さい…ちなみにもし続くなら、タカオミは転生者です。チート使ってドラゴンをコロコロしにやってきます。こわいね!