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創造世界《ファンタジー・ワールド》  作者: タナトス
world《1》:厨二病のせいでつい・・・
4/9

life《2》:過狐の繋がりで……

――……

 西暦2664年(666×4)

 菊月――九月の夜。


 木々が生い茂る深い森の中、複数の人影が木々の間を駆け抜ける。


 標的はただ一人。赤と白の巫女装束を纏い両腰に刀を一振ずつ差している。

 影達は赤と白の巫女装束を見失わないように追う。標的の捕縛、それが影達―|《影と闇の旅団》《パティー・オブ・シャドウダーク》―の目的だ。


 事前にした打ち合わせ通り、周りから追い込むようにして木々のない開いた場所まで誘導する。標的は誘い込まれているとも知らず、予定通りの場所に誘い込まれていった。


 そこには、仲間の影達が数人おり銃を構えていた。彼らは素早く標準を合わせると引き金を引いた。撃ちだされた鈍色の銃弾は標的の肩を貫通し、動きを一瞬だが確かに鈍らせた。



 

 鈍色の銃弾が、わたしの肩を貫き鋭い痛みが走る。サイレンサーが付いているようで狙撃の音がまったくわからなかった。


「痛ッ……」


 苦痛の声と同時にひんやりとする汗が背中を撫でる。銃弾が貫通したぶん応急処置が簡単かもしれないが、そのぶん痛い。


 撃たれて一瞬動きが鈍ってしまった分スピードを上げながら銃を構えている敵に突進する。


「ク、クソ!蜂の巣にしてやる!」


 敵は戸惑いの声を上げながらも次の弾を装填する。


 敵の銃はボトムアップ式のスナイパーライフルのようだ。威力はあるかもしれないが、そのつど弾を装填しなければならないため、連射はできない。初弾さえどうにかできればこっちのものだ。


 しかも、ご丁寧にレーザーポインター機能付きときた。暗闇の中でも精密な射撃をおこなうためだと思われるが、逆に狙撃手の位置と弾丸通過予測線を教えてもらっているようなもので弾を避けるのが簡単だ。


 楽々と銃弾を交わしながら敵の懐に突っ込む!


「せいッ!」


 気合を入れながら腰の刀を一振抜刀する!この刀、めいを《安綱やすつな》という。また、三大妖怪である『酒呑童子(しゅてんどうじ)』の首を切り落としたことから、《名物(名刀という意味) 童子切どうじぎり》とも呼ばれていて、『天下五剣てんかごけん』の一つでもある。狐との縁もある名刀だ。ちなみにもう一振りの刀は銘を《殺生せっしょう》という。こちらも三大妖怪と縁のある刀である。三大妖怪の『玉藻前たまものまえ』が変化したと言われる『殺生石』を素材にして作られた刀だ。瘴気がヤバイため、あまり使うことはない。でも今回は使うかもしれない。緊急だからしょうがない。あまり使いたくはないが。


  抜刀と同時に敵の両腕に斬撃を放ち、銃を扱えない程度に負傷させる。

 近距離で斬撃を放ったため、返り血が巫女装束にかかる。いつになってもこれに慣れることはできない。


 一人ロスト(戦闘不能に)させたが、待ち伏せ(アンブッシュ)していた狙撃手×1と追っ手×3が残っている。


 素早く周囲を見渡し、待ち伏せしていたもう一人の狙撃手を見つけ、こちらも両腕を負傷させロストさせる。残るはあと三人!


 早く終わらせようと周囲を見渡すが……いない。隠れたようだ。

 不意打ちを警戒して身構えるが攻撃してくる気配がない。

 まさか?と思い、集中して周囲の『霊力』を探り見ると同時に『視る』。


 ――『見鬼の才』だ。


 意識を研ぎ澄まし『視る』。……が何も感じることができない。

 いや、何かがおかしい。集中して『視』ても霊力を感じることができない。まるで耳を塞いで音を聴いているような感じだ。


 もしや?と思い何もない目の前の虚空を斬る。

 ――弾かれた。


 案の定、《結界》があるようだ。何も感じることができないのは結界の術式で、外との霊的繋がりを絶たれているからのようだ。しかも、内側からの攻撃に強い結界のようで逃げることも出来ない。


 敵に『見鬼』がいないと思って油断してしまっていた。だが、呪力などに反応する常時発動型の結界を展開していたはずだ。この結界を無効化させるとはかなりの強敵だ。


 ちなみに『視る』『見鬼』とは――『見鬼の才』で霊気の流れや霊的存在を視認――《霊視》し、感じ取る力のこと。いわば霊感能力である。霊的存在を扱う巫女や陰陽師にとっては必須となる力。見鬼の才は基本的に先天性のものだが、呪術で後天的に付与することも可能である。


 巫女や陰陽師と言っても、昔の巫女や陰陽師の子孫な訳で能力を扱えるのは少数に満たないそうだ。しかも、符術を用いたり式神を従えていた昔とはちがい、《霊視》しての占術が一般的なようだ。


 ……とは言っても、それは一般社会のことである。

 裏社会(、、、)や神社、寺には関係ない。


 それに能力(スキル)とは、使用すればするほど、鍛錬すればするほど強くなるものだ。頑張ればできる。


 現に『呪術』を使用した要人の殺害――つまり、《暗殺》――が起きていたりする。まあ、真人間である警察やSPが、どうこうできることではないので迷宮入り事件となっているようだ。


 ちなみにわたしの家系は《暗殺者(アサシン)》だ。……と言っても今は《巫女(なぎ)》、いや《剣巫女(けんなぎ)》だけど。


 どうするか、と考えていると――いきなり結界の周りに炎の塊がいくつも出現した。

 炎の塊からは『妖力』を感じる。『妖力』を感じる炎――《狐火》だ。

 つまり――


 ――仲間が助けに来てくれたようだ。


 《狐火》は火の粉を撒き散らしながら、《結界》に衝突し、《結界》を壊し始めた。

 程なくして、《結界》は消滅した。思ったとおり、内側からの攻撃に強く、外側からの攻撃に弱いタイプだったようだ。なにもしないのを見ると敵は逃げたようだ。


 まだ敵がいないかと警戒していると、いきなり話しかけられた。声は誰もいない目の前から……聞こえた。

 だがその声は――


「ママッ!」


 声の主を言い当てると、目の前の空間がゆがみ一人の女性が現れた。銀髪で童顔だがスタイルの良い女性だ。


「ごめんね。遅れちゃって」

 もっと早く来てほしかった。緊張が解け、

「うぅ、遅いよ……もお……」

 泣きながら抱きつき、文句を言う。

「よしよし」

 そう言い、わたしの頭を撫でる。

「大丈夫ですか?叶様」


 そう言ったのはいつの間にかママの横にいた、侍女の風香(ふうか)だ。彼女は赤羽家の分家だ。


「さ、さっき助けてくれたよね。あ、ありがと……」

 抱きつくのをやめ、《狐火》で助けてくれた感謝を述べる。

「いえ、それが仕事ですから」

 当然のように言う。


「それじゃ、今度お礼をするね」

「い、いいですよ」


 拒否をする。でも、命を助けてもらったお礼がしたい。

 わたしの性格をよく知っている風香は、「それじゃ……」と言い正面から抱きついてきた。


「こ、これでいいよね?」

 と、確認するが、「だめ」と言い、耳を甘噛みしてきた。

「ひゃあッ!」


 思わず反応してしまう。


「かわいい反応ですね。今日の夜は寝かせませんよ♪」


 これさえなければ完璧なのだが……

 助けもせず、この流れを傍観していたママが口を開いた。


「……青春ね」

「いや、どこが?んんっ!」

「これがですよっ!」 


 と、次は唇にキスをしてきた。戸惑い抵抗するがさらに強く押し付けてくる。

 ヤ、ヤバイ……


 この様子を見ているママは、


「どうする?どうする?どうなっちゃうの?キャー♪」


 助けてよ!

 ……相変わらずラブコメが好きなようだ。


「カナちゃんに襲われたらどうしよう♪」


 ママは何を言っているんだ。


 被害妄想?をしているママはおいといて、今後の事を考える。


 敵に狙われたターゲットは、おそらくわたしだ。今後、わたしの周りにいる人に迷惑が掛かるかもしれない。だからと言って、一人で敵と戦い、渡り合えると思うほどうぬぼれてはいない。


 ……ジ・エンド。死亡フラグの回収に成功。

 さて、どうするか……。バットエンドしか浮かばない。

 

 抵抗して風香の拘束どうにか逃げ、最終手段ママに頼る、を発動!


「ママ、これからどうする?」


 ママは数秒考えた後、はじける笑みで、


「いらいらしている時は、エッチなことをするのが一番……「風香は?」」


 ママの言葉を遮り、風香に聞く。


「わたしもエッ……「そだね。まずは帰ろう」」


 風香の言葉も遮り、帰ろうと歩きだす。後ろから『節操無しッ!』と二人に言われたのは気のせいだろう。せめて『意気地(いくじ)無しッ!』と言ってもらいたい。


   ※       ※       ※


 家に帰った後の話し合いによって、わたしの編入が決まった。とりあえず避難ということだ。

「大丈夫だって」とママは励ましてくれるが、気持ちは重い。編入する学校が、入試試験で落ちた所だからだ。

 それに、死んだ幼馴染の通っていた学校でもあるからだ。


 いつまでもうじうじしていてもしょうがないと思い、早めに寝ることにした。


 その夜の丑三つ時、荒い息をしながら跳ね起きた。

 夢を見た。

 幼馴染が目の前で殺される夢だ。


 目の前にいきなり、黒いローブが現れた。

 黒いローブはいきなり斬りかかってきた。

 斬られる寸前で目の前に影が現れた。

 自分の代わりに影が斬られた。

 髪の色はアッシュグレイでアホ毛が特徴的だ。

 ……幼馴染。

 影――幼馴染が斬られて、周囲に血が飛び散る。

 血が自分にもかかる。


 どうにか最近は見なくなった夢だ。

 おかげで忘れかけていた。

 いや、忘れようとしていた……

 過狐(かこ)の夢。


  ※          ※          ※


 京都の山奥の立派な日本家屋。その門や瓦、壁などは全て赤色だ。庭には赤い花が咲き誇っており、池もある。池では朱色の鯉が泳いでいる。

 自然があるためか、屋敷の周りには数匹の狐がいる。

 ――赤色で半透明な狐。周囲を警戒している人造式(じんぞうしき)の式神。



 編入初日の朝。

 わたしは自分の部屋で制服に着替えていた。


「おお、すごい」


 初めての制服(、、、、、、)だ。嬉しくて感嘆の声が出てしまう。

 余りに嬉しくてはしゃいでいると、


「叶様。お時間です」


 いつの間にか障子の前で正座をした風香に声を掛けられた。今の光景を見られたと思うと気まずい。そして……

 ――は、恥ずかしい!


「え、えーと」

「可愛らしかったですよ」


 一応明後日(あさって)から高校一年なんですけどね。凄く恥ずかしいです!

 この気まずい雰囲気を変えようと思い、制服が似合っているか聞いてみる。


「こ、この制服どうかな?」


 すると、風香は笑顔で、


「凄く似合っていると思います!」


 そう言ってくれた。


 その後、風香は「お食事の準備をしてきますね」と、部屋を出て行ってしまった。わたし的にはもう少し喜びを分かち合いたかった所だ。


 着替えを終えて大広間に行った時にはもう食事の準備が出来ていた。食事はご飯に味噌汁、煮物や和え物など品数が豊富だ。しかもどの料理も赤色の漆器に盛られている。どんだけ赤が好きなんだよって言いたいが、青よりはましだと考えることにする。


 風香と他の侍女達と朝食を食べた。家族全員で食事をしたかったが出掛けているためしょうがない。ママは朝早くから神社に行ったとか。まあ、ママ以外は仕事(あんさつ)だろう。


 朝食の後は荷物の準備をした。教科書などは学校で受け取るらしい。筆記用具にノート、お気に入りのラノベにゲーム、あと――

武器(ウェポン)はどうするか」

 厨二的な問題ではなく、現実的な問題だ。厨二だけど……。

 数分悩んだ結果、木刀を持っていくことにした。


 とある問題児のせいで《剣術科》という学科ができたらしいし、変な目で見られることはないと思う。『とある厨二な問題児(ブレイバー)』。アニメ化できそうなあだ名(二つ名)だ。


 準備を済ませて玄関を出ると、そこには大きな和紙に墨で描かれた魔方陣のようなものがあった。


 え、えーとまさか?


 斜め後ろに控えている風香の方を向き、聞く。


「これって……?」

「『転移呪術陣』です」ニコッ


 厨二病とは伝染するようだ。なんと恐ろしい病なんだ!あなどるべからず厨二病……。


 これを使うの!?違う所に転移しないかが心配なんだけど!

 そう心配になり、風香に聞く。


「試験した……?」

「はい!部屋の隅から隅まで転移できました!」


 そ、そんなに笑顔でいう事かな?

 結局その笑顔に負けて『転移呪術陣』を使う羽目になった。


 転移レポート

 ・二つの『転移呪術陣』の間を行き来する『呪術』――《転移の法》のようだ。

 ・誤差はない。

 ・転移後はだるい。


 転移した場所は寮の前のようだ。どうやら人はいない。まあ、《人間払いの結界》を張っているからだと思うが。

 よく『視る』と《結界》はあと少しで効力が切れるようだ。その前に足元にある『転移呪術陣』を回収する。

 その次に職員室だ。そこで寮の鍵を渡される予定だ。


 新たな生活がまちどおしい。特にうれしいのは一般人として生活できることだ。

 それと、巫女の修行から解放されたこともうれしい。

 でも後々、役に立つと知っていたならもっとしっかりやっていたかもしれない。


 ―叶玉事件(かなえだまじけん)の1ヶ月前―


――時は満ちた……

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