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MOON Lagoon  作者: seia
1章
7/40

「えっ」

 小さく二人の声は重なり合った。思わず顔を見合わせてしまう。

 違う!資料にあった顔、体型と似ても似つかないんだけど。

 どういうこと?

「驚いてますね」

 顔に出ていたのだろうか、思い切り見透かされた言い方をされ、ピナは耳まで真っ赤に染めた。

「いえ、驚いていません。こういうことはよくあることで私共(わたくしども)は慣れていますから」

 隣から、しれっとした言葉が流暢(りゅうちょう)に出たので、目を丸くしてサキチを見上げた。

「そうですか。慣れていらっしゃるのですね。お若いのに」

 依頼者は目を細めてにっこり笑んだ。

「……若くとも、依頼されたことに100%応えていますのでご安心を」

 しばし、二人の間に言い知れぬ雰囲気が漂った。


 え……何?

 このなんか火花飛び散りそうな雰囲気は。


 ピナは傍でドキドキしながら二人の動向を見守った。

「そうですか。では、もしもトラブルが起きても安心してお任せできますね」

今度は優しく、自然に笑む顔を見せているように思え、ピナはほっと胸をなでおろした。

「はい、ご安心を」

 サキチもにっこりと笑んで返したので、横で見たピナはぞわっと寒気を覚えた。

「では確認させていただきます。はい、か、いいえ。もしくは付け加えたいことなどありましたら、その都度おっしゃってください」


 お、お、おっしゃってください?

 どの口がそんなことを言うの?

 怖い、怖いよー。この変わり身の早さ。


 先ほどまでの荒っぽい言動から反転しすぎていて、ピナは驚きが隠せない。

 一方サキチは少し瞼を閉じて、自分の手元に透明な(ボード)とペンを具現化した。ボードには確認事項が刻まれている。

「これから幾つかの質問、確認事項があります。手短にしますが、多く見積もって十分(じゅっぷん)。それを差し引いてご依頼の記憶を探す時間と、貴方が夢を見られる時間は、併せて八十分ほどになりますがご了承いただけますか?」

「はい、結構です」

 それでは、と氏名、容姿、住所の確認をし、チェック印をボードにつけていく。

「今回は、高校時代の音楽の教諭について、ということですね。依頼時には、特にいつ頃とありませんでしたが、その後、何年生の頃か思い出せましたか?」

「あ、うーん、多分2年の時です。……確か」

 首を傾げながら答えられた。できるだけ明確な方が探す方としては助かるのだが、不確かな返答にも関わらず、サキチはスラスラと書き記した。隣でずっと様子を伺ったいたピナは、心の中でげっ、と突いて出ていた。

 そこには"二年、は不明。もっとちゃんと思い出せコノヤロー"と、サキチの心内(こころうち)がボードに書き記してあったのだ。

 あぁ、根本は変わらないんだ、とどこか安堵してしまうピナ。

「ではその音楽の教諭の氏名と、容姿、そして一番怒られた場面。以上三点についてご依頼ということでよろしいでしょうか?」

「はい。間違いありません」

「わかりました」

 そう言うと、ボードを手元から消し、ピナと向き合った。



「依頼内容承諾。これよりアトラクタの箱の解放に向かう。コードネーム、サキチ・ピナ、行動開始」

 淡々と決められた台詞(せりふ)を唱えるサキチは、ゆっくりと両手を胸の前に出す。それを合図にしてピナも同様に両手をかざし、サキチと(てのひら)を重ねた。

 じんわりと合わせ合った部分に熱さを感じる中、二人の姿は揺らめき、依頼者の元からすうっと消えた。

 白い空間を宙を舞いながら、一つの箱の元へ吸い込まれるように引き寄せられていく。

 二人は音もなく着地をした。足元には何の変哲もない、片手で持ててしまう木箱がちんまりと置いてあった。

「あ、これって鍵じゃないね」

 あまり見たことのない(タイプ)で、ピナは素直に呟いた。

「そうだな、まっこれは蓋式だろ?」

 何の躊躇もなく、サキチは上部を持つと、ぱかっと音がするように蓋が開いた。同時に、映像が映ったパズルのようなピースが溢れ出す。

「綺麗」

 映像がキラキラと煌めいているように見えるのだ。

 呟きながらピナは、空間に広がるピースをゆっくり眺めてしまう。

「おい、ボサッとすんなよ。早く探せ」

 動こうとしないピナに捨て台詞(ぜりふ)を残し、サキチは早々にピースが散らばる空間に、地面を蹴って飛び出した。

「もう……」

 もう少し優しくしてくれたっていいじゃない、と独り言ちながら、ピナも空間へ身を投じた。

 無限に広がるピースを瞬時に適格に判別し、明らかに該当しないものは箱へ戻していく。残したピースは、年相応で、学生服を着ているものだけに絞った。

 ピナは音楽室で、黒板に名前を書いている女性のピースを見つけ、ポンと軽く叩いた。すると小さなスクリーンがピナの前に出現し、再生し始めた。

樫野木(かしのぎ) 美和子です。産休の先生に変わって皆さんの音楽の授業を受け持ちます。一緒に音楽を楽しみましょう』

 笑顔には変わりないが、硬さがある。自己紹介する女性は、授業初日なのか、きっちりとスーツを着ている。

 うーん、この人かなぁ?

 首を傾げながら、舐めるように樫野木美和子を見る視線に嫌悪感を募らせた。

 そこへ丁度サキチが別のピースを抱えてやってきた。

「あ、こいつだ、こいつ」

 ピナが見ている映像を見ながら、嬉しそうに言った。

「え?」

 サキチもまた自分の持っているピースを軽く叩き、スクリーンに映し出した。

 そこには、樫野木、と名乗った臨時の先生が、思い切りねめつけた表情で、依頼者を引っぱたく、乾いた音が響いた。優しそうな女性で、そんなことをする風には見えなく、ピナはびくっと肩を震わせた。

「うわー。コイツやだなぁ……。コレ以外、怒られてるっていうシーンなかったよ」

「じゃぁ……これなのね」

 スクリーンを見ていたピナだが、目を覆いたくなる場面になり、(うずくま)った。

「……最悪だな」

 言い方は静かだが、そこには怒気が含まれていた。ピースをもう一度、軽く叩いてスクリーンを消した。

「もう消した。ピースは俺が持ってくよ」

「……うん」

 それ以上サキチは何も言わず、まだ散らばっているピースを箱にしまい始めた。

 普通の人って思ったけど、そんな考えは甘いんだね。

 暗い思いに心が締め付けられそうになるピナであった。


 そんなピナの思いには気付かないようで、必要なピースをサキチは抱え前に立った。片手を胸の前に突き出し、ピナはその片手をそっと包み込む。

「アトラクタの箱閉鎖します。コードネーム、ピナ・サキチ、行動終了」

 ピナはやりきれない思いを抱えながら、再び決められた台詞を唱え、依頼者の元へ戻っていった。


2013.5.30修正

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