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MOON Lagoon  作者: seia
1章
6/40

 ピナは二人のあとをおずおずと着いて行く。

 サキチとキリは何かを話しているようだが、ピナからは読み取れない。


 二階へ続く階段を上がっていくと、前方の窓からやわらかな葉が揺れているのが見える。

 廊下が行き()まった一番奥の部屋。木目調の扉があるところで、三人は止まった。

「ここが仕事場です」

 淡々と言うと、キリは押し扉を開けた。

 先ほどいた部屋とは打って変わって、薄ピンクを基調とした柔らかな雰囲気だ、と思わせてくれる。しかし、部屋の中央に重量感のある物が交互に置いてあるのが目に入り、雰囲気も何もない。圧迫感に圧倒されてしまう。

 その物体は、床からどっしりとした短めの支柱で支えられ、その上に円球を縦半分に切ったようなフォルムと、足が伸ばせるようになっているリクライニングチェアが一体化している。

 中のリクライニング用の生地は革製でこげ茶色。外側は会社名に由来するのか、薄いクリーム色で塗られ、少しでもこの物体のイメージを優しく思わせたいのだろうか。

 また、人が座ると自動的に上半身を囲むように円球を完成させようと、横から残り半分の部分がスライドして覆う形となる。さらに球状となった中には、リクライニングの傾きや伸ばした脚の上下を操作できるリモコンと、ヘッドフォンがある。

 後半、実際キリが実機に座りながら、固まっているピナに解説した。養成学校にあったものとやや形状が違いピナが凝視していたからだ。

「あの……これって」

 あっけにとられながら、やっと声が出せた。

「あぁ、コレ、学校のと違うだろ?」

 首をこくこくと縦に振る。

「評価の高い支部にはコレ支給されんの。寝心地ばっちり」

 いたずらっこのように、にっと白い歯を見せて笑みを浮かべた。

 少年のような笑みにピナは、心が少しだけ揺らぐのを感じた。

「サキチ、貴方は仕事と称して寝過ぎです」

 実機から降りながらキリは呆れた物言いをすると、きまり悪そうにサキチは頭を掻いた。

「ま、まぁ、これがあれば快適に仕事ができるってこと。なっ」

 そう言うと、同意を求めるようにピナの肩を軽く叩いた。

「え?あ、え?」


 ど、どうして私に同意を求めるの?

 急に馴れ馴れしくなっても困るんだけど。


 サキチの行動にピナは不安を感じる中、割って入るようにキリが二人に声をかけた。

「それでは、ピナさんもサキチもムーンフォームに入ってください」

 装置に呼び名があることに再びピナは驚いてしまう。

 言われるがまま、ムーンフォームに乗り込みヘッドフォンを装着すると、キーンという耳鳴りに似た音が脳を駆け回ったあと、心地よい音が流れた。

 ヴァイオリンとチェロ、そして男とも女とも判別できない不思議な声が左右の耳を刺激する。

 音の揺らぎに瞼が重くなり、音の海に呑まれていく。

 闇夜の中、星がキラキラと瞬くように、二人は光の渦の中へ(いざな)われ、依頼者の夢の中へと堕ちていった。



 何度も学校で体験してるとはいえ、夢の中に堕ちていく感覚にピナは慣れないようで、たどり着いた平地に片膝をついて頭を押さえた。

「おい、大丈夫か?」

 怪訝そうな表情を浮かべながら、ピナに手を差し伸べた。

「あ、う、うん」

 目眩を覚える中、差し伸べられて手にありがたく掌を重ね、引き起こしてもらった。

 立ち上がったことで幾分、気持ちが楽になり、ほっとする。

「あ、ありがと」

 あぁ、危なかった。このまま倒れてしまったら初仕事で大恥かいちゃうとこだった。意外にいいトコあるじゃん。

 サキチに対しての最初のイメージが少し変わった。とまどいながらも礼を述べ、ふっと顔を上げ硬直した。

「? なんだ」

 な、何このビシッと感は。さっきまでのだらしない格好が微塵も感じられない。

 先ほどまでの制服ではなく、黒い光沢あるラテックス仕様のような質感でハイネックのキャットスーツに身を包んでいたからだ。思わず頭の先からつま先までジロジロ見てしまう。

 その視線に気付き、サキチは握っていた手を乱暴に離した。


 いつもこんなの仕事用にしてるの?

 なんか『俺、仕事できます!』ていうのが(にじ)み出てるんですけど。

 って、え――! 私もどうして同じような格好なのよっ。

 恥ずかしいじゃないっ!む、胸が……。い、いや逆にありがたいかもしれない。うん。まぁ、悪くはないか。うん。


 一人でうんうん、頷いているのでサキチは眉間に皺を寄せて観察していた。

 ―――相変わらず、変な女だな。

「何一人で納得してるのか知らないけど、気ぃ抜くなよ」

「え、あ、うん」

 相変わらず優しくない言い方、嫌だな。もっと女の子に優しくしたらいいのに。

 頬を膨らませながら周りを見渡した。

 地面は黒。空は曇り。私やサキチくんの顔、体ははっきりと見える。

 このくらいの世界観なら、わりと普通の人に入るんだろうなぁ。

 人によってはカラフルすぎて目がチカチカしたり、靄がかかったみたいに依頼者のことすらよく認識することが難しいこともあったり。

 そういう人たちに限って、探すの苦労したりするんだよね。

 養成学校時代を思い出し、深いため息をついてしまう。

「おい、来たぞ。あ、今回は説明とか俺がやるから、余計なことするなよ」

 過去を顧みていたピナは声をかけられハッとして、サキチと同じ視線を急いで辿る。

 空間にカーテンなどないが、明らかにカーテン、もしくは暖簾(のれん)をくぐるようにして依頼者は現れた。




2013.8.1誤字修正

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