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MOON Lagoon  作者: seia
4章
35/40

 残されたメモを読み終わったキリはクシャッと紙を握りつぶした。


「はぁ、なにを考えてるんだ」


 ブローを終えてサラサラな髪をかき乱して呟いた。ミサが自分より早起きしたかと思うとなにか問題が起こる。慣れたことなのに慣れない。心臓に悪いことばかり起きるから気をつけていたはずなのに。ゆっくりとキリは目を伏せ、思いを馳せた。 


 ――――早起きしたら書類をまとめておく、と言ったのに、結局はまとめきれず書類が床一面に散乱していたこと。ある時はデータ入力すると言って、直近のデータではなく根本的な構築まで破壊させて重要なデータを失わせてしまったこと。

 最たるものは、父親より早く起きたら、父親が既にコールドスリープに入ってしまったということ。両親より早起きしたら、母が置き手紙だけ残して姿を消してしまったこと。彼女と出会う前の出来事はかなり重い。自分と出会ってからは、彼女自身に降りかかる不幸は軽くなったけれど。

 けれども、今回はとてもよくない胸騒ぎがする。彼女が早起きした場合、間を置かずして自分も起きることができたから抑止できていたと自負している。それが今回できていない。嫌な汗が背筋に垂れて気持ちが悪いほどに。手遅れになる前に行動しなくては。


 キリは一息つくと高速で書類をめくりだした。必要な部分をかいつまんで頭に叩き込んでいく。最終ページまでゆくと書類を厳重に管理している金庫にしまった。そして勇み足でスイの部屋へ向かった。


 "トントン"


 軽く叩いたつもりがやけに家中に響くように聞こえて、叩いた自分の手をキリは見つめた。


「は、はい」


 ドアの(わず)かに開いた隙間からスイはキリを見上げた。


「急で申し訳ないけれど、サキチを迎えに行こうと思う。一緒に来てくれないか?」


「え……、でもあの人、使い物にならないんじゃ……」


 なんでキリさんは急にサキチとかいう病院で暴れまくっていた男の名前を口にするんだろう。僕だけじゃ役不足って言うこと? 唇を噛んで俯いた。


「使い物になるかならないかは、行ってみないとわからない。もう手遅れかもしれないが……」


 サキチの入院している病院でもなにかしらの混乱が起きているだろう。混乱に乗じてサキチを拘束されたら元も子もない。急がないと。普段焦ることのないキリだが遠慮なく扉を引いて、留まろうとしているスイの腕をむんずと掴んだ。


「キ、キリさん?」


 突っかかりそうになりながらキリに腕を引かれていく。先へ行くキリの背中をスイは見つめた。……なんだろう。何かよくないことでも起きてるの? 

 キリは大股でずんずんと進み、取るものも取らず門を出た。


「あっ……」


 門から出てきた二人に気付いて、腰を引いた状態でインターホンを鳴らそうとしていた少年は間抜けな声を発した。茶色い髪の毛がボサボサになっていて、一見しただけでは誰だがわからぬ少年がそこにいた。


「え?」


 何かに弾かれたようにキリはスイの腕を離し、目を見開いた。


「……サキチ、……どうして?」


 掠れた声で少年、サキチに向かってキリは尋ねた。


「いや、その……さ、病院がゴタゴタしてたから勝手に出てきたんだけど……、なんか間が悪かったのか? お、俺出直すよ」


 髪をがしがし掻いて、困ったような笑みを浮かべ二人に背を向けた。


「違う」


「へ?」


「むしろタイミングよく来てくれて感謝する」


「か、感謝?」


 キリの口から普段聞かない言葉で、驚きすぎてサキチは振り向いてしまった。そこには目尻を少しだけ下げ、ふわっと笑うキリの姿があったのだ。こんなに優しく笑うヤツだったかな? 記憶の中にあるキリの姿、顔を思い出すサキチ。


「とにかく中に入って」


「あ、あぁ」


 記憶にない笑顔を見せるってことは、心底いいことか、悪いかどっちかだろうな。薄ぼんやりと思いながらサキチはキリに促されて久しぶりの支部へ足を歩めた。それにしてもキリの横にいる白銀のちんまいの誰だ? 首を傾げながらその後ろ背を見つめた。


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