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MOON Lagoon  作者: seia
4章
34/40

 ミサはダイニングテーブルに腰をかけ郵送されてきた郵便物に目を通しながらギリっと唇を噛んでいた。

 どうしてうまくいかないの? ……あの子が、……ピナちゃんが犯した過ちをきちんと伝えるべきだったの? 悔しさとやるせなさが相まって、書類をぐしゃっと握りしめた。


「ミサさん? 大丈夫です? 唇から血が出てますけど」


 眠そうに目を擦りながら二階から降りてきたスイは、ぽたぽたとミサの唇から落ちる血に驚いて駆け寄ってきた。


「え? ……あぁうん、大丈夫。大丈夫よ」


 慌てて拭うも、袖に沁み込んでいってしまう。袖に沁み込んでいく紅色を見つめながらも、スイは見ていないふりをした。


「あの、なにかあったんですか?」


 ミサが手にしている書類にスイはふと視線を移して尋ねた。


「……キリが起きてきたら、ちゃんと言うわ。だから、ごめん。ちょっと一人にさせてくれる?」


 そう言うとテーブルに肘をついたまま腕を組んで額をそっと乗せた。深いため息ともに。

 スイはそんなミサの姿を心配そうに見つめたが、なにを思いつめているのかわからなく、とぼとぼと自室へ引き返して行った。ミサさんはいつも明るくておっちょこちょいで、常に前を向いて人に弱いところなんて見せたことないのにどうしたのだろう。言い知れぬ不安がスイの心によぎったが、すぐにその思いを払うかのように小さく(かぶり)を振った。


 もう一度一人になったミサはまた深いため息をついた。

 まだ間に合うかしら。ううん、間に合わせなきゃ。ピナちゃんを止めてあげなきゃ。きゅと唇を結び、ぐしゃぐしゃになった書類にもう一度目を落とした。政府重役についている人物、そしてクレッセント社の実権を握る人物に【抹消(デリート)】という赤文字が印字されている。


 それにしても、どうしてこの時期なの? ……違う。ピナちゃんを手に入れたからこの時期なのかもしれない。そうじゃなきゃ、いくらなんでも一日に十名以上の脳に損傷を負わせることなんてできない。でも意図がわからない。なぜ政府重役も狙ったのだろう? ただ単にクレッセント社を潰すことが目的じゃないの? 私たちの前から忽然と姿を消したあの人は、私たちを……クレッセント社を恨んでいると思っていたのに。私が考えていたこととは違うのかもしれない。

 そしてもこの記録、三日前に起きたこととして処理されているけど、支部に回す報告が遅すぎない? 緊急を要するのに。リスクのある内容だから、信書扱いで紙媒体で送ってくるのはわかる。でも本部と一番近い場所にうちの支部はあるのに日にちが経っているのが気になる。クレッセント社内部に内通者がいるの? 

 ミサは居ても立っても居られないくて、ポケットに入れておいた携帯端末をタップした。


「もしもし? 東京支部のミサですが、レイ先生いらっしゃいます?」


「ただいま外出しております」


 機械音にも似た感情のない声が答えた。


「何時ころお戻りになるかしら?」


「存じ上げません」


「存じ上げない? なぜ? 本部勤務の行動は逐一監視されてるんじゃないの?」


「なぜ? ナゼ? ……ギギピガガガ」


 おかしな機械音が鳴ってミサは端末を遠ざけかけようとしたとき、抑揚のある声が聞こえ慌てて耳元に近づけた。


「もっしもーし? ミサちゃん? ミサちゃんの端末だよね?」


「……そうだけど」


「俺だよ、俺、いやぁ、久しぶりだよね。なんか用なのかな? うちの女医さんに」


「元気にしてるかな? って思って。でもいないようだから、また」


「素気ないなぁ、こっちの状況もわかってるよね? 朝からクレームや対応に追われちゃってさぁ」


「忙しいわりに、のんびりした口調ね、ジュン」


「さっすがーミサちゃん、俺のこと誰だかわかったの?」


 わかるわよ。いやでもわかるのを知ってるくせに、改めて聞いてくるなんて、嫌味な男ね。心で毒づいた。

 それにシステムの全てを把握したいとかで、監視システムを構築した張本人だというのに。本部の友人に電話するってだけでも盗聴して常にスタッフの緊張感を緩めないようにワザとしてるし。それがいいように作用しちゃってるから本当困る。肩をがっくり落としながら、一応話の続きを促した。


「ねぇねぇ、ミサちゃんのとこにさぁ優秀っていうか? ちょっと毛色の変わったの送ったじゃん? その子さ、うちに戻して――」


 プッと画面をタップして通話を強制的に終わらせた。

 毛色が変わった、なんて失礼すぎる。ピナちゃんがそんな言葉耳にしたらきっと傷つくっていうのに。今のニュアンスだと本部の上層部もピナちゃんの能力を使いたいってことなのかしら? 今まで散々な扱いをしてきたっていうのに虫が良すぎる。はぁぁ、そのへんも抗議したほうがいいのかもしれない。けれども、この書類の遅れは探れなかった。ちょっと危険すぎるけれど、本部まで行ってレイに会おうかな。キリに情報探させる、という手もあるけれど今は消費したくないし。


 少し考え込んでからミサは手近にあったメモ用紙に走り書きをし出した。


 "本部から重要書類が今朝方投函されてました。目を通しておいて対策を練ってください。ただし! くれぐれも!! 書類の出所を能力で探したり、ハッキングかけて探らないように。本部も狙われたということは、反対勢力と考えていいと思う。そっちを重点的に調べてほしい。尚、ジュンからピナちゃんを返して欲しい旨言われた……。私は書類を遅らせた心当たりがあるかどうか、レイに尋ねてくる。スイくんをよろしくね"と。


 ペンをそっと置くと、自室へ足を向けた。血で汚れた袖に目をやりため息をつきながらクローゼットから、クリーニング仕立ての同じタイプの白ジャケットを取ると袖を通し、颯爽と支部をあとにした。本部のカードだけ持ったまま――――。




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