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「……ずっと僕のコトを見ていたのは君?」
ようやくスイの存在に気付いたのか、ゆっくりと振り向きながら尋ねた。あれ? なんだか若い? スイはキリの外見が今より少し若く見えている気がして、首を傾げた。
「え、あ、す、すいません」
「名前は?」
僕の名前を覚えていない? スイは不思議に思った。
「スイです。覚えていますか?」
「ス……イ? あぁ……」
少し思案顔になったが、納得するポイントがあったのか、スイが知る現在のキリの姿にゆっくりとうねるように変化していった。背が伸び、幼な顔が精悍な顔つきになったのだ。
「なにか僕にあったのかな?」
「え、あ、はい」
「そう。……目を覚まさないといけないんだろうか?」
「あの……」
「ずっとこのまま夢を見続けたいんだよ。もう疲れたんだ」
目を伏せ、吐露する。
「キリさん……」
それ以上スイはなにを言っていいかわからなくなってしまった。
「このままでいいとさえ思ってくるんだ。組織は……クレッセント社は大きくて、太刀打ちできないとさえ思ってしまう。諦めてしまうことは簡単だよね。その方が楽だし、大きな流れに身を任せてしまえればどんなに楽か」
スイのほうを見てわずかに笑んだ。
「でもそれじゃ、アリサを助けてあげられない。わかっているんだ。大きな流れに身を任せてしまうってことは……解放してあげれないってことを。夢は夢。そのままでいいというのに……。人の夢を保管することなんて必要ないんだ。あげく、覗いたりね……。少しずつ、いや成り行きとしては自然の流れだったんだと思う。出会うべくして出会った私とミサはクレッセント社のやり方に疑問を持ったんだよ。果たしてこのままでいいのか? って。カデーレや依頼者からの拒否反応で少し脳に傷ついて、日常生活を送るのが困難になった人達を囲って、眠る人形にして他人の夢の記憶を閉じ込めておくなんて。モノみたいな扱われかたが本当に正しいのかって。このまま、人の欲望のまま足枷を繋がされてお終いなんて嫌じゃないかい?」
「でもその対価として、仕事の報酬を貰って生きているじゃないですか」
「そうだね。そのおかげで僕は生きてる。それは正論で、否定はしない。でも、僕は私腹を肥やそうとは思ってこなかった。これからの計画のために綿密に使えるよう、本部を欺くために使ってきたよ。有効に使わないと」
「欺く?」
「そう。まぁ君は知らなくていいことだけど」
薄く唇を引いて笑んだ。
「知らなくていいって……。そんな……秘密にされると困ります。きちんと貴方に、貴方たちに協力できませんっ!」
「そう? 本心で知りたいって思っている?」
片眉をあげながら尋ねた。スイは問いに即座に頷いた。
「……目が覚めたら教えよう。話し疲れたしね。それと僕も覚えてると思うのだけど、ピナさんの居場所を見つけたとき、もう一人覗いていた気がするんだ。なにか心当たりないかな? 君たちのように掛け合わされて生まれた中に装置がある、ないに関わらず夢を覗ける子を」
スイはキリの言っている意味が理解できず、ただただ言われた言葉を小さな声で繰り返す。
夢を覗ける? 装置があってもなくてもできる人? そんなこと可能な人いるのか? 僕たちが生まれた環境の中に?
スイが考え出した途端、キリの世界がぐらっと波打ち始めた。
「ごめん。余計なことを言ってしまったね。これ以上留まると危ないから出よう」
そう言うとキリはぼぅっとしているスイの腕を取り、地面を蹴りあげた。
乳白色の世界が少しずつ灰色がかった色に染まる中、二人は天高く光る小さな穴を目指した――――。
カデーレとは=クレッセント社と相反した思想をもつグループの総称です。
(話中にきちんと説明できませんでしたので、簡単に説明させていただきました:反省)
2014.9.17 誤字修正:二ヵ所




