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「よし、それでいこう!」
無人タクシーを降りるなり、両腕を天高く伸ばし、思い切り伸びをしながら突然言うものだから、白銀の少年は目を丸くした。
さっきまで、うじうじ考えてた人がなんて変わりようなんだろう、と。
「いい? スイくん。こっちにきた依頼はスイくんがこなしてくれるかな? 人探しはやっぱりキリにしてもらうから」
唐突に少年へ話を切り出した。
「は?」
「あのね、実はちゃんと説明してなかったけど、依頼が10件くらい溜まってるの」
「は?」
またもや同じ答えを繰り返す。
「それってちょっと異常じゃないですか?」
そう、支部の沽券に係わる問題になるのでは? と暗に言う少年、スイではあるが、ミサはそれほど気にしていないような素振りに見え、彼は首を傾げた。
「まぁ、スイくんにかかれば、ちょちょいのチョイでしょ?」
にっこり微笑みながら不満げに長い前髪から覗く瞳を見つめた。
ちょちょいのチョイって、そんな魔法みたいにあっという間に解決できることじゃなにのに。スイは言葉にならない言葉を飲み下しながら思った。
「それに……。さっさと片付ければ、キリと一緒に人探しをお願いしたいのよ」
「え、あ、はい! じゃぁささっと片づけますね。あの病院にいたヤツの存在なんて必要ないくらいに」
あのキリさんと仕事を一緒にできるなんて、こんなチャンスはない。普通十代で僕らの力は減衰していくっていくのに、二十歳を超えても能力が衰えない、養成学校創立以来のスーパースター。
皆が憧れてやまない人の仕事を間近で感じられるなんて。普通に嬉しい。悦に浸るスイをミサは横目で見ながら軽くため息をついていた。
周囲の動向に敏感であるはずのスイは、それすら気づかずにいた。
「スイくん、こっちよ」
未だキリへの憧れに浸っているスイをミサは支部の門前から大きめの声で呼びかけた。
「あ、す、すいません」
自分とミサとの距離が思ったよりあったことに気付き、スイは顔を赤らめた。へ、変な独り言とか出てなかったよね? 周囲を気にしつつ足を速めて支部へ向かった。
「はい、ここが支部よ。今日からここが我が家だと思ってもらえると嬉しいな」
バスガイドが建物を指すような仕草でスイににっこり微笑みかけた。
「我が家……」
思わず言葉にしてしまう。今まで家、と呼ばれるのは無機質で、管理された建物の中にしか住んだことはなく、スイの周りに広がる家屋もきちんと目にしたことはなかった。
「あ、あのミサさん。この門には電流が走ってたりするんですか?」
バッグの中をゴソゴソとかき回していたミサはビクッと肩を震わせながら、スイの方を見つめた。
「え?」
鍵がなかなか見つからないことに怒ってたんじゃないの!? ミサはきょとんと目を丸くしている。
予想していた言葉ではなかったので、言われたことの意味がよくわかっていないようだ。
「だ、だから、その……電流がこの門には走ってますか?」
同じことをもう一度言うのが嫌と言わんばかりに、ぶっきら棒に尋ねた。
「え? あ、あぁ……。ないわ。ここに来たからには、自由でいていいのよ。でも仕事はちゃんとしてもらわないと困るけど」
「自由……?」
反芻しながらスイは考え込んでしまった。
自由ってなんだ? ミサさんもキリさんも本部の指示に従って、ただ依頼をこなしていくだけじゃないのか? そこに自由なんてコトは存在しないはずじゃないのか?
「スイくん。ここは本部と違うのよ。電流も走ってないし、行動を監視してるわけじゃないの」
優しい声がスイに降り注いできて、はっとして下に落としていた視線をミサに向けた。
「今までとは違うのよ。ね?」
そう言いながら、ミサはバッグの中から探し出したカードキーを鋼色の門扉ではなく、その横にある小さな扉に差し込んだ。
"カチャリ"という電子音と共に扉は押し開いた。
手入れの行き届いた庭には薔薇が咲き誇り、その先に二階建ての白い建物があった。
「ここが支部?」
思っていたのと違う。もっと無機質で簡素で、冷たいと思っていたのに。色とりどりの薔薇は咲いてるし、太陽の光をいっぱい浴びている建物。温かそうだ。スイは描いていたイメージとかけ離れた支部の外観に感嘆した。
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