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"ガッシャーン"
"パリーンッ"
けたたましい音が今日も病室から聞こえてくる。
「や、やめてください。まだ安静にしてないとっ」
「キャァ」
「るせー。そんな暇ないんだよっ」
怒鳴り散らし、全身に着いているチューブを引き抜こうとするも、看護師、医師たちによって力任せにサキチは取り押さえられた。
「参りましたね。意識が回復してからずっとこうなんです。すみませんが、適切な治療ができません。致し方ないのですが、身元引受人ということで、拘束具をつける許可をいただけないでしょうか?」
ミサはサキチの病室の手前で担当医から半ば強制的にサインを求められ、唇を噛みしめながらゆっくりと頷いた。
サキチ……。今はゆっくり体を治しなさい。中に入って顔を見たかったミサだったが、今の荒れようでは何を言っても受け付けてくれないと思い、踵を返して病室の前をあとにした。
ピナが去って一週間。
サキチがチューブを引き抜こうとするまでに回復したのは二日前。
その間、ミサとキリは必死でピナを探すのに労力を割いていた。が、皮肉にも以前にも増して依頼が多くなり、本部から依頼を引き受けるよう、まったなしの要請がきている。
本部の催促に対してミサはキリの情報力を頼ってある人物を見つけ、その報告も兼ねてサキチの所へ足を運んだのだが、それどころではなく深いため息をついた。
「ミサさん、大丈夫です?」
病院の玄関を出るなり、ひょこっとミサの前に線の細い、一見したら女の子にも見えてしまうような少年が現れた。
「え、えぇ。ごめんなさいね。ここで待たせてしまって」
眉をへの字にして、謝りの言葉を発したにも関わらず、ミサの気持ちはどこか別のところへ向いていた。
「いいんですよ。僕ココに入るの嫌なので」
白銀の長い前髪から覗くこげ茶色の瞳を鋭く細めながら(鋭い眼差しで)院内を見つめた。
「そう……そうね。……そうよね。じゃぁ支部に行きましょうね」
空元気を匂わせるようなわざとらしい笑顔に白銀の髪を持つ少年は気付きつつ、ミサのあとについて無人タクシーに乗り込んだ。
「ねぇ、ミサさん。病院にいる奴って本当に使えるの? 僕とキリさんで充分だと思うんだけど」
思い出したようにミサに質問を投げかけた。
「ん……。え? なに?」
明らかに別の事を考えていたのか、きょとんとした顔で聞き返した。
「病院にいるっていう奴って、本当に必要? 僕だけでも、僕だけじゃあれってなら、キリさんと僕がいれば依頼なんてあっという間に終わると思うんだけど」
「え?」
再び聞き返され、質問したほうはみるみる眉間に皺を寄せ始めた。
「……なに考えてるのか知らないけど、僕を呼んだからには、もっとしっかりしてくれます?」
「あ、うん」
不機嫌な物言いをされているのに、ミサはてんで聞いていなかった。ふてくされた少年は肩をすくめ去っていく窓の景色を眺めた。
そんなに"ピナ"っていう子が特別だっていうんだろうか? 僕だって、僕だって特別……天才と言われてるのに。
いなくなった、って言うんだからほっとけばいいのに。イレギュラーな存在だ、ってその子もバカじゃなきゃ気付いてるよ。そう……異端児と天才は違う。僕は此処で――――。
唇を固く結び、少年はこれからのことをもう一度算段し直し始めたのだった。
文量のばらつきがあって申し訳ございません。




