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MOON Lagoon  作者: seia
1章
2/40

 ど、ど、どうしよう。

 入るか入らないか迷ってたはずなのに……。

 入っちゃってるよー。


 門の造りから、中の建物はもっと厳重で重々しいと予想していた少女だが、周りにある住宅と遜色はなかった。緊張感が緩み、ほっと胸を撫でおろす。

 玄関にあるチャイムには目もくれず、サキチは勝手知ったるなんとやらで、慣れた行動でドアを開けた。戸惑う少女と共にさらに中へ進む。

 進んだ先は、白を基調とし、無駄なものが一切ない洗練されたダイニングルームだった。


「遅かったねぇー。ピナちゃん」

 大画面のTVを前にしてソファに座っていた女性が微笑みながら二人を振り返った。白いジャケットに白の膝丈のタイトスカート。そうそう同系色しかも上下白を着こなす女性は少ないが、彼女には似合っている。白がよく映えているのだ。

「あ、しょ、所長」

 ピナと呼ばれた少女は言ってから、ハッとして口を覆った。

 所長、と呼ばれた女性は明らかにむっとした表情をピナに向けているからだ。

「もぉ、面接の時ちゃーんとお願いしたはずなんだけどなぁ……」

 子供のように口を尖らせている。

「ミサさん、正直その顔微妙なんスけど」

 隣に立つサキチは、歯に衣着せぬ言い方をした。

 ピナの言動により、肩より少し伸びた黒髪を、いじらしく指先に巻き付けていたミサは、ぱっと離した。

「あぁぁ、ひどい。ひどぉい。レディになんて失礼なことを!!サキチっ酷いぞ!!」

 こどものように頬を膨らませ、サキチに怒りをぶつけた。


 "コホンっ"


「くだらない言い合いは止めて下さい。指定した時間に遅刻です。二人とも」

 部屋の入り口に立っている二人の後ろから低い声が降ってきたので、びっくりしてピナは振り返った。

 そこには……。


 ――――綺麗。


 ピナがうっとりと見惚れてしまうほどの青年が佇んでいたのだ。


「所長も歳に似合わないこと言ってないで、話しを進めてください」

 呆れたような物言いで、二人の間を割って先に進んだ。

「ひどいなぁ。キリは。だから可愛い彼女ができないんだぞ」

 肩をすくめて言うが、言われた本人は聞こえていない様子だ。

 颯爽とミサがいる反対側、キッチンに近いダイニングテーブルへと歩む。そして、抱えていた書類を置いた。

「まぁ、とにかく二人とも席に座って」

 ミサはそう言いながら、キリ、と呼んだ青年の隣に腰かけた。

 何事もなかったようなミサの態度、そしてキリと自分への対応の違いにサキチは、イラッとした。

 そのささくれた気持ちが表立ってか、テーブルを挟んでミサの前に荒々しく座った。その結果、必然的にキリの前にピナが座る形となった。

 内心ピナはドキドキが止まらない。


 うわぁぁ、どうしよー。

 こんな素敵な男性(ひと)の前に座っちゃうなんて。

 直視できないよぉ。

 直視できないけど……メガネ越しの切れ長の瞳に特にドキドキしちゃう!!

 だって、色が不思議なんだもん。



 乙女心満開にしていたので、声をかけられていることに気付かずにいた。


「……?お……い?おい?おい!!」


 耳元で大きな声を出され、ピナは椅子からずり落ちそうになった。

「な、なんですかっ!!」

 驚いた顔で隣のサキチを睨んだ。

「おいおい、勘弁してよ。こっちが質問してるのに、逆ギレすんの?」

 呆れた顔で返されたので、はた、とピナは前にいる二人を交互に見た。

 ミサは肩をすくめ苦笑しており、キリは深いため息をついていた。

「怒らないでね。ピナちゃん。サキチなりにピナちゃんのこと知りたいのよ?」

「え……」

 知りたいって何をだろう?

 というか、私、どこから話し聞いてないの?……椅子に座って、キリさんの前になって。勝手にドキドキして。



 暫く思い返すと、猛烈に恥ずかしい場面に立たされていることにピナは気づいた。

 妄想しているであろう顔を見られた挙げ句、"仕事"として初出勤に関わらず、緊張感の欠片も見せていないことに。


「あ、あの、す、すみません」

 慌てて謝ろうとしたのが裏目に出て、勢いよく椅子を引いてしまった。その反動で椅子が転げる音と声とが重なってしまった。

 三人は一瞬唖然としたが、機転を利かせてミサが口を開いた。

「だ、大丈夫?そ、それでね。えーと、どうしてピナちゃんがピナって呼ばれるのか男達は知りたいってことなのだけど」

 椅子を起こしていた手がふと止まった。


 今、なんて?


 視線を上げ、ミサ、キリ、サキチを順繰りと見やった。

 ミサは、にこにこと笑みを浮かべている。

 キリはじっとピナを見ている。その視線をピナは、興味深そうに見つめられているんだ、と解釈した。

 一方、隣のサキチについては、・・・・・・空気のような存在だ、と言い聞かせ数秒瞼を伏せた。


 そして、意を決して、正面に佇む端整な顔立ちのキリに語りかけるのであった。

2013.5.10改稿しました。

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