記憶 ― 2 ―
――――夜の帳がおりてくる。
あれは誰?
一人の女の子の周りで幾人かが、頭を抱えたり、ため息をついたりしている。
少し離れた所に救命用の白衣を着た人たちが蘇生術を施そうとしている。
……何故、私はそのことを知っているのだろう?
この場面を知っている?
そして、一人輪の外で佇む女の子は誰?
呆然と立ちつくしているのか、ピクリとも動かない。
頭を下げているので、表情も伺い知れない。
「あぁ、なんてことをしてくれたんだっ」
「この子をこのままにしては会社が立ち行かなくなります」
「まずいな、アイツを呼べ」
「え? あれをやるんですか?」
「仕方ないだろう」
矢継ぎ早に事が決まり、方々に散っていく。
よく目を凝らせば、この女の子、どこかで見たことがある?
栗毛色の髪を肩まで伸ばして……、睫毛が長い丸い瞳……。
俯いていた顔がゆっくりとあがってくる。
え?
見えない強い衝撃が、全身に当たり、壁に勢いよく叩きつけられたような感覚が走った。
女の子が私の存在に気付いた?
数秒空を彷徨った視線が私とかち合う。
口元が動いている。
え?なんて?
声は聞こえない。
でも、確かにその子は
わざとらしく
ゆっくりと
解読できるくらいに
口を動かした。
「ワタシ ハ アナタ ダ」
違う
知らない
アレは
私ではない
あんなに卑しく笑う顔を私は知らない。
足の先からゾワゾワと虫が這い上がってくるような嫌悪感に包まれる。
違う。
私じゃない。
私であるはずがない。
私じゃないよ。
――だって、アノ人は『人を殺している』んだから。
その答えを導き出した少女は、伏せていた瞳がパチリと音が鳴るくらいに、大きく見開いてベッドから飛び起きた。
とめどもなく涙が溢れ、声を噛み殺し、膝を抱えて泣いた。
間もなく夜の帳が上がろうとしている――――。
修正日2013.9.23




