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記憶
雨が降っている。
――あれ?
ふと掌に視線を落とす。
――紅い。
錆の臭いが鼻の奥を刺激する。
――いや、違う。
そう感覚が思うだけ。実際は色だけで、匂いも味もない。
紅い雨が降っている。
――心地よい。
口元を歪めて笑む。
掌を空にかざせば、光に照らされて余計に紅々と見える。
――この紅いものを集めたらルビーのように綺麗に煌めくの?
真剣に悩む。
――でもここに降るのは、一時だけしか綺麗じゃない。
乾いて浅黒くなる。
そうなる前にもっと紅を見なくちゃ――。
紅い飛沫が舞い散ってゆく。
――綺麗なのに、どうして悲鳴をあげるの?
アナタから流れる綺麗な道筋。
不可思議な模様を描いていく様をずっと眺めていたい。
アナタにはわからない?
少女は、あどけなさが残る幼い無垢な笑顔を、傾きながら崩れていく者に向けた。