表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この手に  作者: 詞乃端
終わりの日
5/11

変わらぬはずの朝

逃げ出す、という選択肢ができたのは、何時だったのだろう。

外を見て、自分が置かれた環境の異常さを、学んだ時か。それとも、自分がいた場所に、自分のことを見てくれる人間がいないことを、思い知った時か。

少なくとも、逃げ出す覚悟が固まったのは。

優しいと思っていた人間に裏切られた時でも、自分の跡目となる予定だった、ヒトガタの残骸を見せられた時でもなく。

自分の同類とされた男が自分に向けた、研究員達と全く同じ目と、自分に触れてきた、汗ばむその掌に、猛烈な嫌悪を感じた時だったと思う。


まどろみの中で、自分の頭を撫でる大きな掌の感触を、フェリスは知覚した。彼女を包み込む、手放し難い温かさと同じものを感じ、フェリスは、無意識に微笑む。そのまま、再び夢の中へ舞い戻ろうとしたフェリスを、頬の痛みが押し止めた。

「起きろ、フェリス」

「いだだだだだだだだだだ」

引っ張られたフェリスの頬は、面白いほどよく伸びた。

「レックス、何すんの!」

右の頬を押さえ、涙目になったフェリスは、傍らにいた男に食ってかかった。

「いつまで寝ているつもりだ」

フェリスの頬を盛大に(つね)った、張本人は、憎たらしいほど平然としている。恨みがましく、フェリスはレックスを見上げたが、レックスの方は、肩をすくめただけで、あっさりとベッドから出て行った。

「――今日、仕事だったっけ?」

レックスの、引き締まった背に、フェリスは問い掛ける。

「すぐ戻る」

返答は、短い。

「――うん」

分かっている。レックスは、何時だって、フェリスの元に帰ってきたから。

けれど。

何故だろう。このときばかりは、フェリスは、胸がざわついて、仕方がなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ