過去という名の夢
地獄というものがあるのなら、その光景はまさにそれ。
炭化し、黒くなったヒトガタが、累々と転がる焦げた大地。
この身の上に広がるのは、夜の如き暗さを湛えた曇天。
――雨が降る。
天は、何を想い、紅蓮に焼かれた地に、その涙を零すのか。
堕ちてくる雫は冷たく、彼から温もりを奪っていく。伸ばした手は、しかし、何も掴むことはない。
何もないことを清らかとするのなら、確かにこの場は清浄といえる。彼以外の命はなく、無機質な雨音が支配するのみ。炎も水も、古来より浄化の象徴であったという。ならば、絶対の火焔により浄化されたはずの、この地に降る雨は、一体何を意味するのか。
――雨が、降る。
本当は、知っている。これは只の現象でしかない。この光景の元となった灼熱が気流を産み、その気流が雨雲を呼んだのだ。
だから、これは下らぬ感傷。
――雨が振り続けた。
殺戮の為の道具のままなら、きっと楽だったのに。
……けれど、自分は、咎人にしかなれない。
雫が、頬を流れる。
それは涙などではなく、己の体温を奪った雨水。
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