表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天短篇集  作者: テンコウ
2/2

「生命の歌」

僕はずっと暗闇にいた。

僕にとって暗闇は日常であり、当然のことだった。

だからそこが息苦しいとか、殺風景だとかそんな事を考えたことはなかった。


僕はずっと何かを待っていたんだ。

それが何なのか知る由もなく、ただ漠然と何かが訪れるのを待っていた。

そこには何の理由もない。

だから希望や夢、欲望や苦しみ…

そんな感情を抱くことも、必要もなかった。

ただ、無意味に時間だけが過ぎていた。


その何かは突然訪れた。

誰かに告げられた訳ではない。

ただ、躰が自然に動いていた。

僕はひたすらに上へ上へと地中を掘り進んだ。

しばらくすると土とは異なる感触が手に伝わってきた。

その感触を頼りに更に上へ上へと昇っていく。

すると今度は躰が熱くなった。

僕は躰を固定して、これから起こるであろう「何か」に備えた。


不意に躰に変化が起きた。

僕はゆっくりと躰を引き起こす。

すると唐突にいろいろな情報が頭に入ってくる。

僕には移動のための「羽」がある。

僕には食事をするための「口」がある。

そして僕は「鳴く」事ができる。

ひとつひとつの情報があまりにも衝撃的で、僕はしばらくは何もできなかった。


どれほどの時間が経ったのだろう。

僕は目の前が急に明るくなったことで我に返った。


我に返った僕は言葉を失った。

深緑の木々…

色鮮やかな花々…

壮大な山々…

そして広大な空…

目に映る全ての物が美しく、神々しく思えた。


「なんて素晴らしい世界なんだ!!」


僕は心から叫んだ。

僕は嬉しくなって宙を舞った。


その日から僕の第二の人生が始まった。

木から木へと飛び周り、お腹いっぱい樹液を吸った。

多くの仲間と出会った。

多くの生き物にも出会った。

そのなかには僕を食べようと襲ってくる生き物だっていた。

僕は必死に逃げた。

そしてまた仲間と共に声の限りに歌った。


本当に楽しい日々だった。

辛いことや悲しいことも経験した。

生きていることを実感できていたんだ。

だからこう思ったんだ。


「なんて幸せなんだろう。」


僕は生まれてきて本当によかったと思った。

生まれてこなければこんな幸せを得る事はできなかったのだから。


僕は知っていた。

僕はもうすぐ死んでしまうと…


僕は今、地に落ちたまま動けずにいる。

もう羽は動かない。

足もかろうじで動く程度だ。

このまま僕は動かなくなるのだろう。


走馬灯のように今日までの日々が思いめぐる。


もう一度、空を飛びたいな。

もう一度、お腹いっぱい樹液をすいたいな。

もう一度、もう一度、もう一度…


嫌だ!


僕はまだ死にたくない!


「…ジ…」


僕は…まだ…鳴けるのか?


僕は…まだ歌えるんだ!


僕は歌うぞ!

僕はまだ生きているんだ!

僕はまだ死んじゃいないんだ!

この生命尽きるまで、僕は声の限りに歌うんだ!

まだだ!!

まだだ!!


僕は歌い続ける。

きっといつまでも歌い続けるよ。

生きている限り。

ずっと…ずっと…













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ