第六話 問い詰めたい
「ん・・---」
意識がゆっくりと浮上してきた。
寝すぎたような感覚さえする。
魔力はとっくに回復したようだ。
目を開ければ白い天井が見える。
どうやら医務室に連れて来られたようだ。
上質なベットに寝かされている。
まだ頭が働かないようで頭がぼぉーとしていた。
そんなときだ、
がらがらーー
誰かが入ってくる音。
気配からいえばーーー
「・・・起きたのか、
「(ガバッ)殿下っ!?ッ”--」
ーーおいっ!!」
クロセキ殿下だと認識すれば身体がとっさに起き上がった。
その瞬間ぐらりと視界が揺らぎ焦点が合わなくなった。
身体もふらつくーー。
彼も慌てたようだった。
急いで私の背中に腕を回して支えてくる。
・・起きたのか、・・この言葉のとき心なしか
彼が残念そうだったのは気のせいなのか。
「っーーー”・・・」
「・・まだ無理をするな。
あれからそんなに経ってもいない。」
「っ・・・。
今、いつ頃、ですか・・今は・・--」
頭を振り切ってめまいを治まらせようとする。
しばらくすれば治った。
「・・・。
六項目だ。もう終わった。
・・何故焦る?」
焦る・・そう聞かれて自分で気づいた。
ケモノとの約束が使命感を持たせているからだ、と。
そんなこと正直に言えるはずもない。
それよりも・・六項目が終わったということはーーー。
「いいえ、別に。
六項目が終わったということはみんなは
下校していますよね?」
「・・あぁ。そうだな」
私が眉をひそめて問うと
彼はきまずそうに頷いた。
私の言いたいことを察したようだ。
・・だがそこでやめるわけにもいかない。
「何故、殿下は残っていらっしゃるのですか?」
私のことなど、先生方に頼めばよかったのに。
そうのど元まで来た言葉を飲み込んで
たずねる。
「・・・・・・・」
彼は私から目をそらし
黙ってしまった。
困っている・・戸惑っているようにも思えた。
それが何故なのか私にも分かる。
私に対して心配してくれただけなのだということが。
「それは・・。
俺も帰るから、ソレを知らせにここへきたんだ。」
言い訳を探すような口調だった。
おもわず問い詰めたくなってしまった。
「もし・・私がまだ意識を取り戻していなかったら
どうするつもりでしたか?」
今、先生はいなかった。
それを知ってて彼はここへ入っただろう。
彼には気配を殺す私でさえも探し見つけられるのだから。
「・・・・。
どうしたと、オマエは思う?」
彼は悩んだ末、そう逆に質問してきた。
その答えは・・彼の手によって王城に連れ帰られた
のではないかと、自分自身予想が付いた。
・・おそらく、気絶する前、私を抱き上げたのは彼だから。
「その問いに答える前に聞きます、
私をここへ運んだのは・・クロセキ殿下、貴方、ですか?」
私はそう聞いてやった。
彼が私に対する想いがどれほどのものか知るために。
もし・・恋愛感情を向けているのだとしたら
私は、正体をばらして諦めさせなければならない。
ただ、心配だとかそういった類でしかないのなら
友情とかそんなものを私に求めているのだったら
秘密は守り通すが。
「・・そうだ。
お前の足の怪我は俺が助け切れなかった責任でもあるからな」
彼は吹っ切ったように言った。
自責の念での行為だったらしい。
恋愛感情、とは、私の思い違いだったようだ。
私は考えすぎることが多い。
・・長く生きてきた所為で。
私は転々と身を変えることができる。
だからそれによって長く生きることができる。
だが、その身の年齢によって感情の流れが変わってしまう。
でも、感情と思考はどうやら離反しているようだ。(私の場合は)
「責任は・・負わなくてもいいと言ったはずですが?」
「・・・。
それよりも答えてみろ、俺の質問に」
彼は強気だった。
私が話をそらそうとしたのを見抜いたからだ。
仕方なく私は正直に思ったことを言ってやった。
「貴方の手によって城に連れ帰られる・・。
と、私は思ったのですが・・違いました?」
「・・・・・」
彼は黙ってしまった。
もしかして図星・・?
それとも、あきれた、のか。
「・・・。
今からでも俺の手で連れ帰ってやろうか」
彼は今、今からでも と言った。
やはりする気だったのか!
彼はそういうなり、毛布を取って私を抱き上げた。
「なっ!?
降ろしてくださいッ、別に一人で行けます!」
ふわりとした浮遊感にびっくりして
声が裏返る。
「無理をするだろ、お前は。
それにもともとするつもりだったし、堅いこと言うな」
彼は本当に開き直ってしまったようだ。
問い詰めた私が悪いのか。
彼は私を軽々と強く抱き寄せたまま入り口に向かった。
「な・・っ!!
殿下とあろうものにそんな心配かけられたら
命がいくつあっても足りません。
私は逃げます!
ヴアレス・ワープリッド」
魔法陣よ、我を他の場所へ!
学院の屋上を思い浮かべながら言った。
「な!?・・おいっーーー」
殿下の抵抗もわけなく
ヒュンッと消え、シュパンと降り立った。
そして気配を消しながら、城へと向かい、
部屋に引きこもって過ごした。
夜はケモノとの約束どおり森へ行った。
彼らの願い事は
彼らと対になる宝石を渡すことだった。
二匹のケモノは私をじっと強く見つめた。
片方の名はトガネ。
紫の毛並みで紅い瞳を持った狼。
形は半月のように半分の球体だ。
心は紅く燃えるような赤。
そこから連想して、
ガーネットがまさにそうだと思い当たる。
「トガネさん、貴方はガーネットという宝石が
対となります。
この石は大切な者との愛や絆を深めてくれるし
悪い夢や誘惑を防ぐといわれる石です。
己の魔力と意思と共に繋ぎを深めるといいでしょう」
『呪い師、感謝する』
ウォンっ
彼は私からもらった石を耳に隠した。
もう片方の名はネリアン。
紫の毛並みはトガネと同じで
瞳の色は鮮やかなオレンジだった。
心も鮮やかな色をしていて
半球の形が見えた。
トガネの心をあわせれば球体になりそうだ。
おそらく彼らは仲の良い夫婦なのだろう。
「ネリアンさん、貴女はカーネリアンという
宝石が対となります。それは情熱と勇気を
与え導き、言動が良い方向へと導くパワーを持っています。
意思を大切にし、守っていってください」
『呪い師、貴女の願い、なんでも聞くわ。
この石をいただいた対価はなにで支払えばいい?』
私の言葉にネリアンは問いかける。
トガミも食い入るように私を見つめてきた。
「対価は、私との契約。
ケモノの情報を私に知らせること。
それだけでいいよ。
通信石を渡すから、これでお願い」
私は渡した。
これでケモノのことは把握できる。
そう確信した。
「「御意に、我が師よ」」
私に対となる石を渡されれば
彼らは対価を契約という形で
払わなければならない。
私の渡す石は私の魔力が込められている。
それは魂を石に刻むこと。
私の存在も危うくなること。
石で導くことは私の使命。
それが存在価値を見出せる唯一のことだ。
「じゃあ、また。
トガネさん、ネリアンさん」
私は微笑んだ。
こうして私の夜は終わりを告げた。
私は、明日・・学院は休みだが
今後王族どもがどう関わってくるか、心配だった。
とりあえず、なんだこのすれ違いは!
と思えるお二人でした。
次回はクロセキ殿下視点の前回と今回の話を。




