第十三話 私らしくない
「ん・・・」
気がつけば・・うつ伏せになっていた。
始めに見たのは白い・・枕。
「セラフィ、さんっ!!」
そう私を叫んだ声。
それは・・
「ルチルーー・・ちゃん・・?」
首だけ動かして見やれば、涙で濡れてるルチルちゃんとーー
「意識を、取り戻した、のか・・」
何故か妙に安堵してるクロセキ殿下。
「わ、たし・・な、んでー・・--
・・ッ!?」
起き上がろうとして背中に激痛がっ!
「まだ起きるな。
致命傷だったんだ」
クロセキ殿下がルチルをちらりと見やる。
「ひくっ・・ヒック・・
セラフィ、さん、わたしのせぃっで、こんなことに・ーーっ」
ルチルちゃんが涙をこぼす。
・・こんな傷、どうってことないのに。
私の能力でーー・、一発だし。
「ルチルちゃんのせいじゃない。
もとはといえば、殿下たちが干渉してきたからだよ。
結界の中は安全だったから。」
「えー・・?」
「安全だった、だと?」
泣き止むルチルと、眉をひそめる殿下。
「そう、安全だった。
殿下たちが干渉しなければ無駄に魔力は消費しなかったし。
結界も壊れなかった、-・・以上。
それと、怪我のことなら平気よ。
私の対の石は癒し属性だから、見てて」
私はそう淡々といい、背中に自分の手を置いた。
私の宝石は私の“中”にいるのだ。
「我と対になる宝珠よ、我の治癒力を呼び覚ませ。
汝の力、我に応えろ。オーブ・リザレクションっ!」
スシャーーーー!!ホワァアアアアンッ
オーブに呼びかけ、光と共に怪我は完治した。
私はゆっくりと起き上がり、彼等と向き合って微笑んでやる。
「こんなもの、どうってことないの、私には。
ルチルちゃん、自分を責めないで?元はといえば殿下たちのせいだし、
強いていえば地震と堕ちてきたシャンデリアの所為だから。・・ね?」
「っー・・!!
セラフィさんッ!!」
ぎゅっと、ルチルちゃんが抱きついて腕を回してきた。
「ごめんね、心配かけて」
なでなでと頭を優しくなでてやる。
「無事で・・っ生きててっー・・、
よかった・・ほんとに・・っ」
「当たり前だよ・・もう大丈夫だから、ね?」
「うん、・・ほんとに・・よかったっ・・!!」
再び涙するルチルをなでて、その日は終わった。
殿下に聞いたが私は処置したあと、すぐに目を覚ましたそうで、
その日の・・夕方だったそうだった。
・・次の日、私は変わりなく授業を受けに学院に行った。
昇降口の自分の下駄箱で靴を履き替え、階段を上がろうとしたとき、
ーーーー声が聞こえた。
「ねぇ、あんたのクラスでしょ?
あの目障りな女がいるクラスは」
嫉妬のような怒りをむき出しにした女の声。
「え?あ、あの・・優秀なセラフィ、さんっですか?」
戸惑いと動揺を隠せないもう一人の女の声。
おそらく私のクラスメートに当たる人だろう。
人通りの少ない廊下に、彼女達はいた。
私は階段を上らずに、陰に隠れ、気配を隠し、耳を澄ます。
・・目障りな女って・・私のことね。
普通なら関わりたくないその一心で、
どこぞの人が私絡みで何されようと見知らぬ振りをしてた。
だが・・。
「優秀な、とは余計だわ。
私には目障りなのよ!
忌々しい・・、王子達に媚売ってるんだわっきっと!
王子達があんなに心開くはずなんてないもの!」
きっと、高等部の生徒だ、・・つまりは先輩に当たる奴。
桃色髪をしていたその人は王子達のことを狙っているようだ。
・・それにしても、心を開いてるとは私は思えないのだけど。
「あ、あのっそれで、な、んで、私に?」
不安を隠せないクラスメート。
栗色の髪をしたおさげの女の子だ。
・・そういえば、こういう地味な子もいた気がする。
私はトモダチなんて作るつもりないから今まで気にも留めなかったけど。
「あいつに、恥をかかせたいんだよっ
そのためにはそのクラスの奴使うのが手っ取り早いでしょ。
どうせみんなおんなじこと思ってるんだから、ねぇ、貴方もそうでしょ?」
「え、えぇ!?・・わ、わたし・・は、そのー・・」
「・・私に何か用でも?」
思わず私は彼等の前に姿を現した。
わたしらしくもないこと、・・なんでしたんだろう?
「あ、あなたっ聞いてたの!?」
「セラフィ、・・さんっ」
桃色髪の女の眼は見開き
とんでもなく動揺してる。
栗色の髪の子は、気まずそうな雰囲気をかもし出してた。
「聞いてたも何も、・・私のことだったでしょう。
私に直接言えばいいものを。
正直、私は王子達、なんて眼中にないわ。
釣り合わないことは分かってるし。」
私はそう言い放ち、女を見上げる。
「よ、よく分かってるじゃない!
でもね!そういうところがウザイんだよ、見ててむかつく。
・・あなた、ちょっと、きなさいよっ」
女は私をつかみ上げ、空き部屋に放り込んだ。
「っー・・」
どすっ
しりもちをつく。
「ふん、そこにずっといなさいよ。
それで飢え死にすればいいんだわっ」
彼女は去り際に煙の筒を投げてきた。
ガタンッ
そう扉は閉められた。
ひゅっ・・・、カランコロン・・
しゅぅううううううううう”
煙が部屋に充満した。
「っぅ”・・げほっげほっ^」
血がむせあがる。
気持ち悪い。
私は基本食事を必要としない。
だが、これは耐え兼ねない・・下手すれば昏睡状態におちかねない。
視界があやふやになり、身体の自由がきかなくなった。
「っぅう”・・ゲホッ・・ゲホォッ”」
ついに血を吐き出した・・。
頭に鈍い痺れと共に、バタッとその場に崩れた。
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そこでいつまでそうしていただろうか。
・・意識も薄れ、もう意識があるのかないのか
はっきりしないころ、・・扉は開いた。
「っ・・なんだ、この煙は。
ーー・・スモークウィヴァルディ!」
聞いたことのある声・・、その声までもが
遠くで聞こえるかのように思える。
煙はー・・突如消え去った。
その声主のおかげだろう。
・・さて、私がいることに彼はどう反応する?
「・・な、こんなとこに、オマエ、・・。
おいっどうしたんだ!?セラフィッ!おいっしっかりしろっ!」
急に抱き起こされた。
「うぅ”・・ゴホッ”ゲホォッ」
血が止まらない。
咳と共にあふれ出る・・鮮血。
煙が消えたからって良くなったわけじゃないんだ。
「セラフィッ?!
なんだって血なんか・・。
すぐに医務室に運ぶから、な。待ってろ」
抱き上げられ浮遊感に、私の意識は・・もってイカレタ。
セラフィの思いがけないことー・・!!
助けに入ったあの彼はーー・・!!
栗色の髪の子はー・・・!!




