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「アウトランド:異界と女優と魔女と剣とホムンクルスと魔王」  作者: 猫夢アトニマス


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6/13

6・飛翔する蛇

前回までのあらすじ

 ドーワーフ嫁のコハコ。

旦那を向かえに来たが、

実はご懐妊でそれを伝えたくて

危険とは露も知らないダンジョンに足を踏み入れ、

そこでこちらの世界最大の敵ノオミと鉢合わせしたが、

女錬金術師はコハコにとても優しく親切で、

誰か別の人と聞き間違えたのではと呟いてしまうと、

ノオミの聞き逃さない耳がピクリと動いていた。

シュルーン~パァーーーッ

「うぐぅ…

ハァハァハァ…

なんだ…

胃がひっくり返ったみたいに…

気持ち悪ぃ…」

ウボブッ!グェエエエエエ

 吐いていた。

吐いて吐いて胃の中がすっからかんになっても吐き、

体も頭もグラグラしてる手下。

「…あぁああああぁ…

ここはどこだ?!」

 やっと辺りを見回すと、

見た事もない豪華な装飾に包まれた書斎のような部屋、

回りにはやはり豪華な装丁の分厚い本が、

幾段もある円形状の棚に

高い天井のガラスの明り取りの所まで

びっしり詰まっている。

「来たか…

心配するな若造なら体の不調はすぐ治まるだろう。

わしが初めて飛ばされた時は不覚にも3日寝込んだ…

ジジイの体には堪えた…

その瞬間移動の魔法は脅威だ。

敵地の中心へ突然雪崩込み

首領の首を簡単に取れてしまう…

だから過去の大魔法使いの偉人たちは

それを禁忌として封印した…

だが奴はお構いなしに復活させた」

「あぁあんたがメモの…

俺は瞬間移動して来たのか…」

 べらべら話してる男に手下が聞く。

「何も知らされなかったのか?

そんな事どうでもいいが」

「全部分かってるんだな…」

「当たり前だ。

使いが来るこの日を

心の底から待ち詫び準備して来たのだ。

お前が下賎の類でもなんでも良い。

わしは約束を果たすだから、

ノオミの褒美がとても嬉しい。

約束だからなぁ

クククッ」

「約束?それでぉ、

俺は何をすればいい…」

「今からある所へ行く。

そしてその品を持ち完成を奴に知らせる」

「ある所…」

「わしの望みはもう目の前…

耐えろよ?」

ギュルン

「うげぇええええ」

 そして手下は魔法科学院のトオビンと共に、

彼の言うある所へ瞬間移動した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


▼場面は現代に戻る。 

 緊急事態となった小春の事件。

ラジオやテレビでも本来の放送枠を取り止め

緊急ニュース速報として放送され、

世間はまだまだ直近に起きた

マンモス校事件の噂で持ち切りだったが、

立て続けに起きた謎の災害に衝撃を受け

不穏な空気が湧き上がり

ネットでは世界の終わりが囁かれ出していた。

小春は特別な黄色いスーツを着た科学班による災害地への

時間をかけた調査で救出され、

カメラ越しに映る彼女は、

血の気が引いた真っ白い顔で美しさが際立ち

【爆心地。生き残りの小春!!】

として新聞各社から号外が配られていった。

「起きろ、起きろ、起きろ!」

 イケメンリーダーが声を荒げている。

「なななななんだよ~起こさないでくれよぉ」

「せめて6時間は寝ないと体持たないんだよぉ」

「また変な事が起こってるんだよ!」

 あれから一睡もせず

テレビで9時からのマンモス校事件の記者会見を見ていた

芸人のイケメンが、

同室に寝る仲間のふたりを叩き起こしていた。

「見ろ見ろこれ!」

 備え付けのテレビを手で持ち見せつけている。

「はぁ…

もうやだよ俺何も見たくないっす夢の中ヘダイブ」

「ダメだー

見ろつったら見ろー」

「なんなんだよいったい…」

「テレビで見ると特撮にしか見えないな…

全部ペッチャンコ…」

 背の高い芸人が言う。

「同じだこれ俺らと同じ事件だよ絶対!」

 リーダーが言う。

「だからなんだよぉ」

 布団を被り直しながらガタイの良い芸人が言う。

「もう関わりたくないっす~

あんな思い二度とゴメン」

「判る判るんだその気持も、

俺もあんな経験は嫌だ…

でもこれきっと運命なんだ。

俺らは死んだ共演者の

無念を晴らさないでいいのかって」

 熱弁を揮う男。

「リーダーはさ前々から頭お花畑で面白いから

そのままでいいって思ってたけど。

本物はあきまへん…

勘弁…

病院行って」

「はいおしまい。

寝ます~」

「クッ…

ていうかそろそろ次の仕事の入り時間だから起きろー!

ブツブツブツ」

 不貞腐ふてくされているリーダー。

「恐怖の事件の後もお仕事…

芸人の宿命…」

「で、無念をどうする気なの?」

「警察が今必死で捜査してるのを邪魔すんの?

素人に何ができるのさっ」

「うぐぅう…」

 正論パンチにうなだれるリーダー。

「まいいよ。

頭冷やそう…」

 芸人たちが一斉に身支度を始めていると看護師がやって来て、

まだまだ検査は続くとか言いに来て、

「まじかー」

「次なに…視力検査?!」

「病院ってシャワーくらいあるよね?とりあえず、

ひとっ風呂浴びさせろそれまでは何でも拒否…」

 イケメンが事務所に連絡を入れようとすると

マナーモードだった携帯の連絡網アプリに

山のようにメッセージが入っていて、

当面のスケジュールはほぼキャンセル。

精密検査が終わり次第、

彼らの出演番組はいきなり朝のニュース番組、

お昼のワイドショー、

夜のニュースで

特別災害特番「マンモス校の怪異」などに切り替わり、

お笑いとは無関係になっていた。


『あ…い…り』

『はい?』

『見て…テ・レ・ビ…みて』

『…待合室で…』

『お…k』

 焦って愛里の階下にある病室まで向かいつつ

波多野が必死に念じると、

言葉としては短く粗野だったが、

愛里に伝わりふたりは待合室で

どの局でも放送してる小春の事件を見た。

「同じですこれ…」

「うん…」

「何か感じますか?

私には黒い物が点々としてるのが見えていて…」

「まだ何かが居て予断は許されないという事ですか?」

「はい。

浄化出来ない残りカスが蠢いてる…だけど、

どうやって…

誰かが出現した魔物を倒した?!

まさかこの生存者」

「どうします?

災害場所へ向かいますか?

なんとかこの生き残りの人と接触しますか?」

「…今はどっちも不可能。

検査はまだ丸一日続くそうです。

それに愛里さんだって仕事が…」

「明日からって事ですね?私新人なので暇なんです。

あはは」

「でも愛里さん」

「呼び捨てでいいです」

「あ、うん…でも

さん付けないとあなたは別格過ぎる」

「特別扱いは魔女の道」

「えぇ?」

「私は魔女ですでも、良い方の。

信じてもらうしか」

「はい。もちろんです」

「あと、

他の人の心の全部を読まずに済むコツも分かりました。

雑念を払う事が出来るようになったから安心です」

「ぁあ…あはは(聞こえてたんだやっぱ…)ありがたい。

私も使えるようになってこれ便利すぎ。

愛里さんが何か魔法を私に?」

「いえ多分、

何か特別な素養のある人は、

あの魔法を浴びたせいで能力が活性化したのだと思います」

「なるほど…

それで僕も…あ、

栗山くんは?」

「栗山さんの心、

本当に暖かくて私…

好きになっちゃいました」

「え、まさかのラブ?」

「あの慈愛に触れたら誰でも」

「あいつ今、

愛里さんのことしか思ってないですからね」

 少し頬を赤らめる愛里。

「それで多分ですけど、

そろそろ現れるかも」

「え?怪我は…」

 波多野が聞いたその瞬間、

「おーい。

栗山帰って来ましたよ~

愛里さーんと、

横のおっさ~ん」

「えぇ、本当に現れたー!」

 栗山は愛里に近すぎる波多野をぶっとばそうとしたが、

さっと避けた波多野にこけそうになるのを愛里に支えられ、

「ありがとぅ~ございまっすぅ~」

 満面の笑み。

「お前怪我は?

なんでここに」

「明け方愛里さんが来て治してくれました!」

「ほ、本当なんですか?」

「いえ私じゃない方が、です」

「アイラさん?!

そそそそそれは凄い…

もうそんな事が出来ると?!

ぉ…驚くべき進化。

おばーちゃんの心配はもう消えたも同然かな?」

「まだ何も判りません…」

 伏せ目がちに首を左右に振る愛里。

「ダイジョーブです

私は愛里さんのこと全て分かりますから任せなさい!」

 ドンッと胸を叩く栗山を愛里はじっと見つめ、

『何?ああああ愛里さまが俺を!

うるんだ上目使いでぇうわあぁああ~

これは俺へのラブ!』

 天にも登る気持ちになる栗山だったが、

同時に波多野も目は瞑っていたが

額に指を置く神妙な雰囲気に、

『愛里さんだけならまだしも

おっさんのその顔は止めろー』

 心で思っていると、

『聞・こ・え・ま・す・?』

『く・り・や・ま』

『おーぃ』

『よ・り・し・ろ』

 波多野の眉間が異様に盛り上がり恐ろしい形相に、

「ちょっとあのお二人…

大丈夫です?」

 ふたりがなかなか止めないので声をかけていた。

「あぁうん。

大丈夫ですよ~『駄目みたい…』」

「『はい…』いやいいんだ栗山くんはそのままで…」

「なななななななんすか

それなんか今突き放しました?えぇええ。

愛里さんも?!

やだーそれ絶対だめー」

 栗山は文句を垂れ、

彼も体の精密検査だと言われ

この病院へ来ていて受付に当人だと話し、

波多野から携帯を返してもらっていた。

そして波多野と愛里の心からの信頼関係は築かれ、

絆が徐々に出来上がりつつあったが、

関係者でありがらそうでもない別班なような栗山は、

依り代で有り続けると言う役目のせいで

何一つ理解できていない人物だったが、

彼の一方的な思いは本物で信頼を置かれている仲間。

彼らは誰一人欠けてはいけない、

3人は3人を守らなければならない、

その心が1つにならなければ世界は滅びるだろう。

この世界の命運は彼らが握っている。

それを知っているのも彼らだけなのだ。


 ありふれた世界に異常が発生し

巻き込まれた小春。

彼女は怖い夢を見ている。

目の前の人々が、

家族が、

仲間たちが次々と血を吹き出し

粉砕され小部屋の中でタヒにゆき、

返り血を浴びるベッドの自分は

がんじがらめの幾重にも這うベルトで縛り付けられ、

「ギァアアアアアアアアアアアアアアアー」

 自分の叫ぶ声で目覚めた小春。

「ここは…」

 小春の呟く声。

「あぁ気づかれたようです」

「先生呼んで」

「はい」

 小春は集中治療室へ運び込まれていたが、

彼女の回りにはビニールで覆われた滅菌室になっており、

白い防護服の人々が数名彼女の回りで連携を取りながら計器を見つめ、

点滴を確認し動き内の1人が先生をマイクで呼ぶと、

この部屋本来の窓に白衣の男性医師が現れマイクから話し始めた。

「こんにちは。

いつもテレビで拝見してます。

蜜米小春さんですよね?

私は放射線治療の専門医です。

驚かないで聞いて下さいね。

蜜米さんの倒れていた災害現場から

相当量の放射線が検出されまして、

事故の前後で何があったか覚えてる限りの事話せますか?

正直言うとあなたが生きている事じたい奇跡なんです。

何でも良いのです何でも…」

 スピーカーから聞こえる医師の声は

少しざらついていた。

「ほ、放射能…まさか…な、

何もありません…

何も無いんです…

私はこの目で地獄の様な光景を見ました。

あれは本当の出来事なんですか?

私は私が…

(私が起こしたんですか、あれのせい?!私が勝手に持って来た…)

人が、家族がいきなり!

乗っていた車も中から大量の血がぁああああ」

 花の事を思ってはいたが、その事を言えるはずは無かった。

「いきなりな質問でした。

申し訳有りません。

何も話せる事は無いと言うことですかね。

そこだけ明確にお願いします。

大多数の人が亡くなったのは事実です。こ

れ以上増やさないためにも…」

 医師の思いが突き刺ささり、

泣いてしまう小春には

まだ心の余裕が無いと次に来た精神科医によって、

睡眠剤を投与され眠らされてしまった小春は同じ夢を、

恐ろしくて、

怖くて、

動けなくて、

何故動けないのか自分をよくよく見るとそれは…

花から伸びる蔦にがんじがらめにされ、

気がくるわんばかりに鳴き喚き、

タヒんでしまった誰かたちに、

仲間たちに謝り続けるが、

無言の彼らは血みどろの顔で彼女をただじっと見ている。

『き・・・え・・・す・か』

 小春は泣いている。

『・こ・ま・か・・き・』

 泣いている小春。

『き・こえ・ま・・か』

 ただ泣いている小春。

『聞こ・え・ますか?』

 泣きやまない小春。

『蜜・・小春さん・今は・どこですか?』

 何も聞こえない小春。

『落ち着いて…花が元凶なんですか?どこでそれを』

 聞く耳すら無い彼女に根気よく同じ問を続ける愛里。

『あなたのせいではありません。

きっとだから泣かないで。

また来ますね』

ハァ…ハァ…

「ふぅ~使いすぎた…」

 小春の意識は狂気そのもの。

その中で接触を試みたが

1時間後さすがに疲れてしまい

そのままベッドにゴロリ横になる愛里だったが、

なんと彼女は簡単に回復する方法を見つけてしまっていて、

『ごめんなさい勝手にお邪魔しますです』

 他人の意識下にこっそり入ることも覚えた愛里は、

彼の純粋無垢な思いに触れる事で、

自分の心もどんどん大きくなり力が、

底をついたエネルギーが本当に、

みなぎって来るのを知ってしまったのだ。

「(あなたの本当の力は魔法使いの癒やし手?)」

 でも遠くをよーく見ると栗山が…。

「(ずーっと踊ってるんだよね…なんで踊ってるの?)」

アハハハハハハハ~

 そう考えた途端お腹を抱え笑い転げる愛里。

しばらく転げ回ったあと、

「ハァ…(でも、魔法って何?なんなの…

思いのチカラなのかな)」

 素朴な疑問が頭をもたげ、

「(栗山さんのこの力はいつか、

すぐにも枯渇するのかもしれない…

その時彼はどうなる…試すしか方法がない…)」

 彼の力を過信するのは危険だと感じていた。

『波多野さん…

聞いてくれるだけで良いです…

小春さんの心と接触しましたが、

今の彼女と意思の疎通は無理です…

ただとても強烈な花や蔦のイメージがあって、

この植物を察知して魔物が現れているのかもしれません…

このままだと彼女、精神障害が大きくなり過ぎて…』

『もしかするとあの学校にもその植物が生えてた?!』

 雑誌を読んでいる波多野は

記事の内容をきちんと把握しながら、

愛里とも会話していた。

『そうだと思います。

私はまた小春さんに心の平穏を訴え続けます。

成功することを祈って下さい』

『…あぁ私も微力だけど入りますか?』

『とても危険…

取り込まれでもしたら…

今の栗山さんは寝てる時に夢だと思って聞こえてるだけ…

彼の力なら小春さんも…』

『慈愛パワーですね。

分かりましたそれは私がなんとか…』

 どうなるかは謎だったが

まず栗山を脅かさないよう念じる波多野の力も

数段と上がって来ているようだった。

『栗山くーん。おーぃ』

ブゥウウウン

「?!」

 頭の怪我を見てもらっている栗山は

頭にハエが飛んだと、払っていた。

「わ!ちょっと」

 ピンセットで幹部のガーゼを捲ろうとしていた医師。

「あ、ごめんなさい。ハエが」

「え?」

「虫なんか飛んでませんよ?」

 医師と看護師の怪訝な顔。

『クリヤマクリヤマクリヤマクリヤマクリヤマクリヤマクリヤマ』

 必死の波多野。

「うわうわうわわわわ~

嘘だよこんなたくさん!

ハエだらけ~」

 立ち上がり辺りを必死に払う栗山には、

波多野の思念が脳にチクチク刺さり、

虫のような何かだと勘違いしていた。

「だめだめだめだー動かないで栗山さん!

いかんこりゃなんかまたぶり返してる。

検査だ検査~要再検査!

看護士さん準備してー」

 踊っているようにも見えなくもない栗山だったが、

『止めろおっさん!』

『うわっいきなりキター!

双方向に会話出来てるの気づいてるか?

お前まさか寝てた?』

『頭の怪我の治療中で寝てなんかないぞ?

ハエがたくさん飛んできて追い払っていた。

なんて不衛生な病院』

『起きてるんだな?

そうか良かったとても理想のコンタクトだ。

俺が誰だか分かるんだな』

『分からない訳ないだろでも…

おっさんはどこに居るんだ?』

『お前の心の中。

お前の目の前にいるんだが、

まぁそれはそのうち…

愛里さんを念じてくれ大至急』

『なんかあったの?!

愛里さんどこー場所は!』

『素直に念じろ。

お前はいつでもどこでも愛里さんと会話が出来るぞ!

ほら』

『念じる?

そんな馬鹿な……あ…い…り…さ…ん……おわっ!』

 病室のベッドに横になっている愛里がいきなり目の前に居て、

『愛里さん?』

 肩に手を伸ばすとすり抜けてしまい、

『うわぁああああ!!』

 彼女の中へ落ちていくような感覚の栗山は、

すぐに愛里の傍らに立ち青い顔の小春を見ていた。

『あぁ栗山さん来てくれたんですね。

波多野さんもありがとう』

『愛里さんの為ならどこでも…

でもここって…

夢?』

『ここはこの女性の集中治療室。

実際の場所に私たちは思念体として立ってます。

彼女は五体満足で怪我も大したこと無いけど、

人がタヒ亡しすぎた事件のせいで心が壊れかけてます…

栗山さん彼女の心に入って精神を元に』

『えーーそ、

そんな事を俺が…

ムリムリムリ』

『あなたは魔法の癒やし手、

元気玉なんです。

念じて中へ』

『あっ…』 

 いきなり中へ入ってしまった栗山。

赤黒い内蔵のような一面を

覆う気持ち悪い通路を伝い歩いて行くと、

いくつも枝分かれした道があり、

『どっちに…』

『あなたの思う方へ…でも、

何を見たとしてもそれは私たちには無関係。

取り込まれないように…』

 声と共に栗山の隣に具現化する愛里。

『はい…』

 思うままに進む栗山を愛里は追従し、

何度も枝分かれの道で止まり考えては進んで行くと、

『ふぅ…あれかな…』

 少し先に窓の無い小屋が見え、

『小春さんの核…』

 いつの間にか波多野も現れ3人でそれを見ていて、

一歩踏み出すと突然小部屋の中に立っていた。

だがそこに小春の姿は無く、

人々の折り重なる遺体で出来た大きな肉団子が転がり、

血みどろの人々はまだ苦しい苦しいと藻掻き蠢いている。

『言われて無かったらこんなのゲロゲロです…

でもこれが悪夢の正体…

自分自身の恐れ…』

 波多野が呟く。

『彼女は中に居る…

一つ一つ剥がそう…

小春さん今行きますよ。

全然大丈夫ですちゃんとあなたも周りの人たちも救います。

終わったらあなたは元通りですよー。

なんにも心配要らない、

自分の中に堕ちる必要もない、

あなたはそこから出てすべて元通り~

この人達も本当はここに居ないの分かってるでしょー?

すべて自分で作り出した幻影。

俺あなたの事思い出しましたよ?

有名な人じゃないですかー

ニュース解説者なら

まだまだこれから活躍しないとです』

 栗山のどこまでも優しく語りかける声と、

肉のパーツを1つづつはがしてゆく3人。

愛里と波多野が剥がしてゆくパーツは床に残るが、

栗山が外すパーツはその瞬間に消えていき、

『…心の中から本当に恐怖を消し去ってる…

これがこいつの力?』

『いえ栗山さんは魔法使いのエネルギーを

絶やさないための元気玉なんです。

今行っているのは副次的な効用…

魔女でも癒やし手、

男だから魔術師?』

 愛里が言うと、

『栗山はヒーラーであり、

依り代であり、

元気玉の魔術師…

なんかお前役職がドーンと増えて僕、

どう付き合えばいいの…』

 波多野はなんか焦っていたが、

栗山は肉片のほぼ全部を消し去ったが

床に転がっている幾つかは残しているように見えた。

『これは消さない?』

『全部消さなくていいのか?』

『全部消すと生存本能が無くなる多分』

『おぉ!』

『おぉおおお!』

 彼の大覚醒に目をキラキラさせるふたり。

『見えてきたよ?とっても綺麗な人。

愛里さんの次くらいに』

 栗山が言うと肉痕の内側の底、

ベッドで花々が咲き乱れている蔦に縛られ

苦しみもがく小春が居て、

目を固く閉じたくさんの汗をかいている。

『小春さん起きて。

もう大丈夫だよ?恐怖に穴開けたからここから出られるよ?』

 栗山が声をかける。

『駄目です目が開きません!

何も見えません!

見たく有りません!

私が持ってきた花のせいで

仲間も見知らぬたくさんの人が亡くなるのを見てました。

足も体も脳みそも何もかもが固まったように

動けませんでした。

あの事故、

災害を起こした張本人は私です!

あの花を、

持って来ては行けない花のせいで!!』

 目を閉じたままの小春。

『うん…

結果的にそうなりました…

でもあなたにはここから、

なんとか頑張って出てもらいたいんです。

私たちの仲間になって欲しい…

私たち3人だけでは限界が…』

 愛里の切なる思い。

『あなたたち誰なの?

どうしてここに居るの?!

なんの話なのか分からない、

私はどこにも行かないずっとここに居て

タヒ者たちに謝り続けるんだぁあああああ!』

 頑なな思いが痛いほど伝わる。

『閉ざした心を簡単に開くことは出来るはずだよ?』

 埒が明かない場合の事を話す栗山。

『急に開くのは危険?』

 愛里が聞く。

『そう、訳の分からないトラウマみたいなのが後から突然』

『それは駄目です。

栗山さんの思うゆっくりで…』

『分かった…

様子見ながら声をかけ続けるよ』

『でも、これが花なんですね。

この花が悪さを?』

 波多野が言う。

『彼女のイメージだとそうです…

でも実際には違います。

これが彼女を助けたんです…

小春さんは自分だけが助かった事が許せなくて

心の殻に閉じ籠もってる』

『そしてこの花が魔物を呼び寄せた』

『はい』

『両刃の刃じゃないですか?!

どういう事なんだ…

放射能もこれが?』

 波多野が言うと、

『これは植物じゃない蛇だよ』

 栗山の意外な言葉。

『えぇ?

これが…ヘビ』

『放射能は巻き散らかしてないね。

別の魔物が撒いて行ったんだと思う』

『どうして分かるの?』

 愛里が聞く。

『蛇は彼女に有害な事から全部守った。

被爆の痕跡が無いからね』

『そうなんだよ見えてる肌に異常は無い…』

 納得する波多野。

『ともかく私たちは現場へ行って

まだ残ってる渦の様子を確認しないと』

 愛里が言う。

『放射能です。

そうとうな範囲を警察は進入禁止にしてるはず。

自衛隊が防護してるかも…

近づけるかどうかも怪しい』

『そ、そうなんですか…

ぁ…あのーところで栗山さん…この蔦、

蛇は外せないの??』

 愛里に言われ、

『あっ』

 慌てて消していく栗山。

すると蛇は小春を開放し消えかかる天井を抜け空へ、

広がっていく青空へ飛んだ。

『小春さん多分昔、

魔力に触れてる人だと思う。

だから助けたって蛇が…

バイバーイまたな~』

 見上げ、手をふる栗山。

『言ってるって話したのかよ!』

 蛇を見ながら驚く波多野。

『小春さんに早く会いたい』

 私たちはやり遂げたと言う感動的なシーン。

愛里も心の快晴を仰ぎ、

久しぶりの感覚に浸っていたが、

『あぁあああああダメ!

栗山さん蛇を戻して。

戻って蛇~~~~

あなた達はどこから来てるの~~

まほのにわって何ぃいいいい!』

『あぁ蛇~~~~~!』

『うわぁあああ戻れヘビー!!』

 波多野も栗山も慌てて呼んだが既に消えている蛇、

肝心な所でやらかした3人は

落ち込みぐったりと項垂うなだれていた。


「(うん?)」

 力強く目を覚ます小春。

「何?ここどこよ…なんで私、

あぁそうか酷い事故に…

死んだ人は生き返らない。

だから真相を解明するんだ!

ねぇ検査済んだ?

私こんな事してる暇無い、

急いで会わないといけない人たちが居るの!」

 跳ね起きると、

繋がれた機械からの線を引っこ抜いていく。

「あぁーまだ駄目です。

先生呼びますから。

それに外へは出られないですよ?

ものすごいマスコミの数」

 防護服の1人いた看護士が

慌てて小春を押さえ付けている。

「あぁそうか私が取材対象…

くぅうう同業相憐れむ…

だからこそ今は…逃げる。

そして特大スクープは全部私の物!!

あ、そうだあの花、

蒼黒い花知らない?」

「私物ですか?私物ならそこ」

 看護士の指差す先にあった衣服ケースを漁り、

「あぁ消えちゃった…仕方ない…」

 小春は蔦を消された途端全快していて、

それどころか元の本人よりもっとパワフルな人物に

生まれ変わったような印象で、

それが栗山の力なのかどうかは定かではないが、

術着を脱ぎ捨て

自分の服は汚れも酷く傷んでいたがそれを着込み、

「あー私もうなんとも無いから行く。

ありがとね~」

 看護士の肩をポンポン叩き、

そのまま部屋を出て行こうとした。

「あーだめ~~」

 追おうとする看護士だったが、

着ている防護服の空気取りのホースの長さは限界で追えず、

「患者がー逃げましたー

誰でもいいから捕まえて~~下さい」

 マイクを掴むと院内放送に切り替えていた。

「(で、どこで会える?

どこに行けばいいのー答えてー

頭の中の人たちどこー!!)」

 集中治療室を飛び出て、

エレベーターホールを探すが、

行く先々に彼女を捕まえようと待ち受ける看護士たち、

それを掻い潜り逃げ込んだ先が若い男たちの病室。

有名人の小春が来たと色めき立つ彼らの前でふと立ち止まり、

1番可愛く思えた男のベッドへ

色目を使うように入り込むとカーテンを閉めた。


『あ、小春さんの意識が戻った』

 栗山がふいに顔を上げる。

『ほ、ホントに?!

良かった~もうなんとも無さそう?』

 パッと顔が明るくなる愛里。

『なんか俺らと会いたがってるような』

 栗山の思案顔。

『まじかー意思の疎通が出来ない。

どうすれば?』

 波多野が言う。

『病院の場所なら分かるから!』

 愛里は病室のベッドからサッと起き上がり、

『はい!急ぎましょう。

タ、タクシー呼びますね…』

 波多野が言い淀む。

『俺、金ないよ?』

 万年ビンボーな栗山。

今は静かに頭に包帯を巻いて貰っている。

『あとでお支払いしますね…玄関に!』

 薄給の新人女優は部屋から飛び出ていた。

『(くぅううう割り勘で

あとで請求してもぉおおいいいいいですかぁあああ)』

 波多野は本心が漏れないよう壁を作っていたが、

喉元まで出かけた声をこらえ、

『はぁい、

だだだ大丈夫です。

任せて…

心配無用これから全部わたぁーしが出しまぁあーーっす。

ガハッハッ』

 人生ドケチ一代男は

愛里や栗山の能力が凄すぎて、

自分は1番年長なのにとか思ったらしく、

初めてする事にその笑顔を引きつらせていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


▼場面は異界に戻る。

シュシューン

「着いたぞ」

 トオビンが言う。

「グェエエエエエー体が持たなぃ」

 床に這いつくばっている手下が

なんとか立ち上がり、

「ハァハァ…

ここは…

これはなんだ」

 どこか工場のような場所に居て、

目の前にある何かしらの機械見ている。

「お前も知ってるだろホムンクルス。

これはそれの簡易製造機。

とりあえず8体同時に作れる。

ノオミはこの建物ごと工場にしろと言ったが今は無理な話し。

だからコンパクトに1ユニットとしてまとめた。

あとは追々増やせば良い」

「これを持って帰れと?」

「あぁそうだそして

ノオミご推薦の髄液を頂くことにする!」

「ブグッ!!」

 ホムンクルス製造装置から細い管が何本も伸び、

体をベッドに縛り付けられた手下。

後頭部、口、鼻、耳、

大小のノズルの先に鋭利な金属部分が尖り、

男のそれぞれに押しこまれていく。

グガガガガガッッッガアアー!

 必死に抵抗するも身動きの取れない手下の悲鳴。

「初めの8体はお前が素体としてホムンクルスたちに成る。

嬉しいだろう?

幸せだろぅ?

あとはこれにノオミが古代魔法を封じ込めるだけ。

疑問に思ってるな?

これがスクロールと決定的に違うのは唱える者が居なくても、

敵の中核に瞬間移動させ、

首領の首を取る。

司令通りに目的地まで歩かせてドカン…

時限式にも出来るぞ?

ククククク」

「ゲボゲボゲボッ…

トオビン・グラッセル…

ノオミ・グラッセル。

グガハッぉおお前が義理の…父…

グゲゲゲゲボボボボ」

 微かに動く口で話す手下。

「そうだな父…だが、

わしはもうノオミの下僕…

お前の意識があるうちに…

見せてやろう…

お前の髄液と混ざり合うマシンの中の溶液…

わしの体が…

ぐぅっ」

 トオビンは首の後ろにマシンからの別の管を差し込むと、

「あぁあああああああああ…」

 吸われる体液がマシンを通り父親に流れると、

どんどん若返ってゆくのを見せられながら、

自分は干からびて絶命する手下。

「ハァハァハァ…私の望みは若くある事。

ノオミに選ばれたお前の全ては無駄にしない」

 マシンの調整基盤にあるスイッチ類を動かし、

重いレバーを下げたトオビン。

動力炉に火が入り、

あちこちから蒸気が吹き出ると、

遺体は装置の中で撹拌され、

動き出すホムンクルス製造機械。

トオビンは髪もふさふさな若い頃に戻り、

「ノオミ・グラッセル!」

 主の名を叫び機械ごと瞬間移動した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


▼場面は現代に戻る。

 病院から出てくる多くの人の中に、

車椅子に乗り看護士に押される男性。

小春は彼の病室に入る直前、

女性看護士のロッカールームへ忍び込み、

ナース服を拝借しており、

彼の病室でいきなり着替え、

足を怪我しているその彼を無理やり車椅子に乗せると、

面白がる同室の男性患者たち2名にもガードされ、

ついに病院1階の玄関から外へ出ていた。

「ありがとう。

この事は秘密にね…」

 小春は言いながら、

車椅子の男性の頬にキスし、

他の2名にもお礼だとでも言うように何かを差し出すと、

小春はさっとタクシーに乗り込んだ。

駐車場から向こうは相当数のマスコミがごった返し、

小春のニュースを垂れ流していた。

「どちらまで?」

 ドライバーに聞かれ、

「彼らの居る所!!

早くなにか合図を、

もう頭の中に居ないのー?!」

 苛つく客にドライバーはビビり、

2人の患者が貰った物を目の前で開くと

上下セットの真っ赤な下着そして、

怪我人同士の奪い合いが始まった。


つづく

*「」内のセリフが()の中の場合は心の声になります。

*『』この会話はテレパシーになります。

この物語は下記noteで先行掲載しています。


小説はこれしかありませんが他には


短い物語やパロディなど多々ありますので良かったらどうぞ。


note猫夢アトニマス


https://note.com/clear_swift8618


*面白かったらぜひスキやチップで応援を宜しくお願いします。

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