5・闘いの淡い光と蔦
前回までのあらすじ
魔法を揮う女の事を魔女だと言うことは誰でも知っているが、
自分が魔女だと気付かされたとき、
急に芽生える自分の中の悪の素養…
だがそれは正しい行いの裏返しであると
職業は女優の愛里は、
自覚が芽生えつつあり、
小さくイメージした火花を手の平で踊らせて見せた。
茂みに隠れている2人は暫くじっとし、
何者かが来る気配を待ったが何も起こらずヤモトは、
「(この壁…?!)」
手を置いている壁の何かに気づき
しきりに探っている。
「ムムゥ。
誰も何も来る気配無い!」
ガウは1日でも2日でも
同じ場所に身を潜めることができたが、
数時間後ヤモトより先に痺れを切らしていた。
「そうだな。
ここには本当に何も無いのかもしれない。
ただのタヒんだ庭」
「この庭の存在は俺が子供の頃から知ってる…
皆んな知ってるけど、
でもなぜかそんなに話題にならず
怖い話ばかり先行してて、
枝分かれする前の純エルフが作ったという噂も」
「こんな大層な物作るの今はもう居ない
純エルフぐらいだろうからな~
だけど色々な部分の装飾が
伝統の物とはまるで違うし尚且つ、
押してみ?」
「何を?」
「壁」
ボヨン。
「わぁ。なんだこれ」
優しく押してみると
明らかな優しい跳ね返りを感じ、
バチンッ!
「イテーーーー」
拳で強く叩くと壁面の強度が変わり
反撃を喰らったような硬さを肌で感じるガウ。
「造形物の柔らかさと、
力の加減による表面の硬化?多分…
こいつらも!」
そう言うと少し助走を付け勢いよく、
茂る草木にジャンプしたヤモト。
身体は茎にしっかり支えられ、
地面に落ちるのを防いでくれていた。
「ほらな?
柔らかいがこれも簡単には潰れたり壊れたりしない。
これはきっとここに居た連中を
不意の事故から守るためだろ?」
「避暑地なのか養護地なのか
悪意の欠片もないはずだよ。
でも仕掛けの解き方を知らない部外者は
容赦なく弾かれ…
そこだけは本物の防衛装置。
先人たちの遺体はどこかにあるんだろうか?」
「あるはずだ骨は何百年も残る。
探し出して供養してあげないとな」
「うん…」
話し込んでいるといつの間にか音と光の魔法は消え、
辺りに静寂が戻ったときガラガラとした音に気づき、
ハッとし身を潜めるふたり。
音はだんだん大きくなり、
「ダーリーンおりますかー?
ダーリ~ン~」
声がした。
「ぇあ?」
「うぉあ!!」
慌てて茂みから飛び出るふたりだったが、
どこにも姿はなく。
「おいおいおいー嘘だろ~
どこだどこに居るー!!」
「今の人って…」
ガサッ
何かが動く音がし
とっさにふたり同時に振り返ると、
「あらーあんたらだったのか~
怖かったから隠れちゃったよ」
壁から顔だけだし見ているのはロッグスの嫁さんだった。
====================
*異界編:主要登場人物*
ドワーフ亜種:コハコ
ロッグスの妻。彼女はドワーフから枝分かれした別種で、
危機を察知するとまるで瞬間移動するが如く大ジャンプし
逃走するスキルを持ち、
ドワーフとの大きな違いは農耕民族だと言うこと。
====================
「コ、コ、コ、コハコさん…
なななななんでここに?!」
「どうやって来れたの??」
しどろもどろなヤモトとガウの焦り具合は
尋常ではない汗を伴っている。
「なんでって3日で済むネズミ退治だって言うから
最後のクエストOKしたのよ?
それが6日経っても帰ってこんし心配になった…
普通に階段で来たけど
あんたらは穴でも掘って来たのか?」
「ネズミ退治…
うわぁ…
6日って何?!」
「そうか、
罠解除して普通の階段になってるんだ…」
情報が凄すぎて混乱するふたり。
「コ、コハコさん…
ロッグスが出かけてから何日経ってます?」
ヤモトが聞く。
「ここまで来た日数も合わせて6日~で、
ダーリーンは?」
「うぁ…
俺らの感覚だと1日も経ってないぞ…」
「…このダンジョン…
時空が歪んでる?!」
ガウとヤモトはコハコの言う事実に、
信じられないといった顔で見合わせている。
「ロッグスは~
ちょっと離れた所のキヤンプで火の番…」
「おーじゃーそこ行きましょー」
「あぁうん。
そうだねぇあ~駄目!
いや今はね俺たち探索中ですぐには向かえない」
「方角は?1人で行くから~」
「あっちの方だけど…」
ガウが指で示した。
「ダーーーーダメダメダメ…
今は駄目。
ロッグスは寝てると思うよ~」
慌ててその指を下げるヤモトだった。
「寝ててもいいよ~
会いたいよぉ~
愛しのマイダーリン」
ロッグスにこのダンジョンでの仕事を
正しく伝えられてない嫁は、
ただただ旦那が心配で出向いて来ていてヤモトとガウは、
これは非常に危険なミッションでイーガンの事は隠すにしても、
どう伝えれば帰ってくれるのか考えあぐね、
「分かった!
ロッグスと一緒に帰ってもらおう。
それが最良の策。
ロッグスが正しく伝えないのが悪い…
相当酷い旦那様だよ?
新婚なのに嘘ついて…
どうりで可笑しいと思ってたんだ…」
ヤモトが言う。
「ど、どういう事?」
心配顔の嫁。
「あのねコハコさん…」
ヤモトもガウも事情をギリギリの全てを話して聞かせると
嫁の顔色は蒼くなり居ても立っても居られず、
「ダーリンを呼びに行ってくる!
そしてごめん。
一緒に帰る~あとでこっぴどぉくお仕置きするから
上でまた会いましょ」
「(ごめんよ…)」
ヤモトは彼女の後頭部、
首の付け根をチョップし気絶させようとした。
「ウワッ!」
だがそれを阻んだコハコのコメカミの花。
花は確実にヤモトの手を弾き急速にしおれ、
コハコはここから旦那の居る辺りを目指し能力を使い、
茂みをガサガサ揺らし移動していくのが分かった。
「早っ!」
ガウが走り、
「行くな~!」
全速力で追うふたり。
彼女の素早い動きには到底追いつけず
能力の使いすぎで止まる事だけを望んでいると案の定、
ヘタってる彼女にやっと追いつき、
「コハコさんに話してないことが有る…
とても危険なんだ…」
ハァハァハァ…ハァハァ…
3人共息を切らしなんとか話すヤモト。
「イーガンが一枚噛んでいたら…
一緒にいるノオミは
俺らの手に追えない究極の敵になる…
だから手は出せない」
「えぇええええええ~
ダーリン!ダーリン!ダーリーーーン!!」
なんとか動こうとするコハコ。
「我慢してお願いだ。
あんな魔法使われたら全員簡単に消し炭!」
ガウはコハコの思いの詰まった重いリュックを押さえ、
彼女が起き上がるのを必死で阻止している。
「力の使いすぎでコハコさんも動けないだろう?
ここは俺らに任せてここで身を隠していてくれないか、
旦那はちゃんと連れてくる。
あなたが心配なんだ…
お前残って彼女を見ててくれ」
「え?俺は後方部隊、
何かあったら弓で撹乱するのが役目」
指示に従えないガウ。
「わかった!
皆の邪魔に来たのじゃない、
ここでじっと待ってるしか出来そうにないし、
ヤモトお願いだまたトロッグを助けてあげて。
美味しいお弁当も皆の分作って来たし
食べてもらわないと」
「お。いいねだから待ってて…」
ヤモトは答えるとガウも追従し、
コハコの能力は1日に1回使うのが目安な大ジャンプ能力。
山林や畑で出くわす害獣相手に逃げ技として発達したが、
それを短時間に何度も繰り返してしまったコハコ。
今は動きたくても動けず
リュックを背もたれ代わりに地面に座り直し、
遠のく彼らの背中を見ている。
「作戦は?」
「いやそんな物無い普通に連れ出すだけ。
お前はそのいきり立った目怖いからどこかに潜んでてくれ。
いいな?」
「うん…何か起こったら判断は任せてくれる?
合図出す?」
「いつもの拳を突き上げるのが見えたら」
「分かった」
少し落ち着いたコハコはリュックから腕を抜き
大きく背伸びをすると、
スキルで消費したエネルギー補給をしようと、
水筒から赤ワインをコップに注ぎ飲み、
リュックから弁当の硬パン肉サンドウィッチを出し
パクパク食べ始めた。
肉汁たっぷりで手はベトベトになったが、
指についた肉汁も舐め、
付け合せの野菜もバリバリ食べ、
ゲフッ…
全部食べ終わると満足気に腹を擦り、
弁当をもう一つ食べようか手を伸ばしかけていると、
「こんばんは…
あ~いや今が何時なのかも判らないから、
こんにちは。
なのかも知れませんが…」
「だ、誰?!」
不意を突かれたように現れた相手に
思わず能力を使おうとしたが、
凍ったように身体は重く身を固くするコハ。
「ごめんなさい。
驚かせましたね?
私は王宮付き錬金術師のノオミと申します。
今このダンジョンを調査に来てる者で、
もしやあなたはこちらの庭園の方?」
「あ…あぁ…いぃえあたしはロ、
ロッグスの妻のコハコです…
ロッグスはご存知ですよね?」
声は震え、
最大級の敵かもしれない半エルフの女が目の前に居て、
力が抜け動けない自分…だが、
感づかせてはまずいと
必死で気持ちを落ち着かせようとしている。
「えっ奥様なんですか…
探索パーティーにはいらっしゃいませんでしたよね。
まさかとは思いますが旦那様を追いかけて…
ここは危険過ぎるダンジョンですよ。
ロッグスさんはご存知なの?」
「いえそれがですね、
気持ちだけで来てしまって迷子になってです…」
「あぁなるほど、
それならキャンプはこの先。
私も散策にブラブラしていたのです…
ご一緒しますか?
ロッグスさんは今仮眠中です」
「あぁありがとうございますでも、
今はご飯食べたばかりでちょっと休憩しようかなと、
あと旦那に内緒で来たので言い訳も考えないと…」
「シャイン・ライト」
ノオミがスクロールを唱えると辺りがパッと明るくなり、
互いの顔がしっかり見えコハコはノオミに会釈すると、
会釈を返すノオミはコハコをしげしげと見つめ傍に寄り、
「あぁあなたもしや。
そうでしたかそれをご報告に居ても立っても居られず?」
「な…あーまさか見ただけで?」
すぐ理解し顔の表情がほころぶコハコ。
「はい。
特有の匂いで判ります。
ご懐妊のご婦人方を何人も何人も検査しお手伝いしてきましたし、
私は助産師の資格ももってますし。
触っても?」
「いいですよ」
「3ヶ月の鼓動が伝わって来ますここに…
胎児の心音は命の調べ、
いつ聞いても力強く美しくうっとりします。
性別は控えますね」
「わ、判るんです?」
「はい」
「ノオミさんすごい」
「私にも子供が居てキャンプに連れて来てます。
6歳になるとても可愛い子…」
「お子様が…それはとても会いたいです。
お幾つの男の子ですか?
女の子?」
「…ぁ……ゥフフッでもご懐妊の報告なら言い訳無用でしょう。
おふたりにとって待望の第一子なのでは?」
はぐらかすように話すノオミ。
「あーはい。なんでもわかっちゃうんですね~」
「もう少し休まれますか?」
「もう暫く。
キャンプはあっちですよね?」
教えられた方角を改めて聞くコハコ。
「はい」
ノオミは小さく頭を下げ庭園のどこかへ歩いて行くと、
「…こんな人当たりの良さそうな人が最大の敵…
名前を聞き間違えた?」
コハコは心を許し始め思わず呟いた小さな声、
ノオミの耳がピクッと動いていた。
地上のとある人物に会えと命令されたイーガンの手下が、
恐る恐る階段を上がって行くと
途中に別の開け放たれた扉があり、
そこから中の様子を伺うと、
どこかへ歩き去ろうとする猫目の後ろ姿を見つけていた。
「(ど、どうする…
全部話すか?
俺はどっちに付く…いや、
一目散に逃げるのが1番…
1抜けしてこの国を離れれば…
すまない皆…)」
それでも男はなんとか現状を伝えようと、
小石を少しづつ間隔を開け1個づつ計3個放り投げていた。
コーン…コーン…コーン…
猫目は音に反応することなく歩いたが、
それが最大級の危険を示す
*撤退*引き返せ*
と言う合図だと判っており、
「(合図してくれた奴は逃げる途中か…
やはりさっきの爆発は敵意のある何者かの仕業…)」
「猫目!
あの遺体の山はなんなんだ!!」
「あぁ?」
振り向くと逃げようとしていた手下…
彼は遺体を見てしまい引くに引けなくなり
猫目を追いかけてしまっていたのだ。
「お前が小石を…
逃げる途中ではなかったのか?」
「あぁ俺が投げた…
ぁの遺体はまさか…」
「すごい爆発があって巻き込まれて…
お前も見たか?」
「ぉ、俺は見ていたその場に居たんだ…ま、
まさかこんな事になるなんて…
犯人はノオミ。
あの女の魔法の巻物。
それをイーガンに唱えさせた…」
「何どういう事だ?!」
「ノオミはずる賢すぎる純粋な悪の化身。
奴は意図的にここへ来て自分の拠点を作ろうと画策してるようだ。
魔王の庭で本物の魔王になり…
王宮を乗っ取る計画を立てている…」
「王宮を…
それでイーガンは生きているのか?」
「リーダーはあっと言う間に
ノオミに心酔して奴側に付いちまった…」
「嘘だろ…ぉ、
お前は逃げてきたのか?」
「いや…俺は地上の人物と連絡を、
このメモの人物に会って来いと言われて…
でも、すまない逃げようとしてた…」
「…俺も逃げたいさ。
だからもう良い…
それでどうする?
今生の別れなのか?」
「ノオミは悠久の過去から伝わる最強魔法を、
どんなに偉大な魔法使いよりも簡単に唱えることが出来る…
誰にも敵いっこない…
だが仲間の死は受け入れがたい!
一矢報いる事は出来なくても情報なら…
上の様子やメモの人物を調べたら戻って来る。
必ず!」
「うっしゃ!
それなら上のキャンプで待つ仲間に会ったら全て話してくれで、
お前らのキャンプはどこだ?」
ついに敵の正体を知る猫目だったが、
力の差は歴然としてあり心の底から震えたが、
もし勝てるチャンスがあるとしたら、
辺り一帯にある魔法障壁のような
偽の建物群を盾にできればと考え、
「(1度上に戻って仲間を…
だが時間も無い一流のダンジョン・ハンターはほぼ壊滅…
恐ろしい敵相手に人集めは無理筋な話…
俺らにできるのは不意を付く先制攻撃のみだが1人では…
ヤモト。
あいつらと共同戦線を張るしか無い…
俺は奴が嫌いだ。
悪どい事も…クソッ)」
もう一つの難題にぶつかっていた。
階段を登りきった男は扉が開け放たれていると知り、
外の状況を見ようと暗がりから顔を出すと、
大勢のドワーフたちが作業していて、
運び込まれるたくさんの箱の表面に烙印された文字を見ていた。
「(あぁやばいあれは火薬!
爆弾で扉を塞ぐ気か?!
どうする、
どうすればいい)」
ここでじっとしてることは出来ず
影を縫うように表へ出て行く男は、
怪我で留守番中の魔法使いを、
キャンプの使用人たちに混ざる様に探し出していた。
「ぉい…おい…」
「んあ~帰って来たのか!」
「小石3回だ…」
「ウッ…」
驚き口を閉じる魔法使い。
「あとは任せる…
離脱しても誰も文句はない俺達の協定…」
いつの間にか出来上がっていた彼らの暗黙のルール。
ダンジョンハンターは
騎士のようにタヒに変えてでも誰かに仕えたりはしない
心根の自由な遊撃隊。
いつでも命の危機には離脱、
生存が優先なのだ。
「ど、どんな危険が…
お前はどうする気だ」
魔法使いが聞く。
「俺は続ける。
今から知る事に心をしっかり保てよ?
いいか実はな…」
そして全てを知った魔法使いは拳を握りブルブルと身体を震わせ、
「なんてこった…
あの屈強な腕自慢たちが全員…
もう会えないのかよぉ。
最後のクエストだと思って臨んだら…
弔い合戦になるかは判らないが、
俺も仲間になるぞ当たり前だ!」
力強い魔法使いの声。
「足の怪我はまだ癒えない…
俺はここからほぼ動けないが、
あの爆弾をなんとかしてみる。
一時しのぎくらいにはなるだろうが…
中の奴らにこの事をなんとかして伝えないと」
「俺はこのメモの誰かを探って
王宮の様子も見て来ないと…
お前ここにチビどもの知り合いとか居ないのか?」
「ん~ドワーフ。
金でなら動くやつが居るかも…」
「なんでもやってくれ頼む。
俺はいつ帰れるか判らない、
だからこれを」
差し出される蓋が厳重に二重縛りになっている小瓶。
「毒か?」
「手持ちが少なくてすまない痛み止めでは無い…
ラベルに全部書いてある慎重に扱え…」
「ありがとうで、
そのメモとやらを見せてくれないか?
知ってる奴とも限らない…」
====================
*異界編:主要登場人物*
長頭族:トオビン・クラッセル
魔法科学院の最高顧問の何名かいる内のナンバー2の要人。
====================
「どうだ?」
「んんん~おいおいおい!
こいつなら知ってるも何も魔法院のお偉いさんだぞ?
どうやって会う気なんだ…
トオビン・クラッセル
魔法科学院最高顧問ナンバー2…」
シュルン…
その名を口にした瞬間、
そのメモはマジックスクロールだったようで、
目の前の男は奇妙な音と共に消え、
「おいどこ行った。
そこに居るのか…
俺は何かの魔法を唱えたのか?!」
思わず立ち上がった魔法使いは返事もない、
居た辺りの空間にそっと手を伸ばすが物理干渉も無い。
「透明魔法だと思ったが…
これは瞬間移動の魔法…
こ、こんな物が今も現存するとは…」
彼は思わず辺りの空気を臭うと
初めて嗅ぐ異質な匂いに、
「イテーーーッ」
足の痛みがぶり返していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼場面は現代に戻る。
病院前は大騒ぎで一般の患者や通院者に迷惑になると、
マスコミの一時的な待機場所が駐車場の一角に作られ、
彼らはそこから思い思いに放送し抜け駆けは許されず、
警察にその動向を見張られ、
ニュースキャスターの小春は、
建物の中を見つめカメラに向かい
この状況を細やかに説明していくが、
頭の中ではあの花の事で頭がいっぱいで、
早く専門家に見てもらわないと
枯れてしまうかもと恐れそして1時間後、
彼女の特番は終わり、
その後の動向は数名の記者たちに任され
中継車に乗り込み局に帰還となった。
「記者会見はいつ?」
「警視庁の大広間で朝一番らしい。
お前少し寝とけよ?局の顔なんだからな」
「駄目よこれ持って行かないと、
途中の適当な所で下ろして」
「ゴミならちゃんと処分しろよ?
検疫の意味がまるでないんだからな…」
「うん。なんか気になって」
小春の膝に置かれた花の入ったビニール袋、
ゴゴン!
「わ!」
車は舗装の剥がれた路面の窪みで大きく揺れ、
その時花が大きくなったように見えたが、
「あ、やばい睡魔…」
小春はブランケットを頭から被り窓際に身体を倒すと
すぐに寝息を立てたその頃、
現場検証はまだまだ終わらない現場で、
何故か倒壊を免れたように残るあのトイレ周辺から
蒼黒い植物が徐々に生え、
蕾が芽吹き始めていた。
生存者たちは警察の計らいで会計は各々だったが
コンビニ飯やスナックを運ばれ、
一般には開放されていない職員用の食事スペースで食事となったが、
誰もそれに手を付けられず口論は続いていた。
「何が起こったのかもう一度整理しよう」
「いやいや、
もういいよそれ皆だいたい判ってる」
「俺らが見ていたのは光のマジックショーじゃないよな!
あれは魔法みたいな何か、
凄いエネルギーがぶつかり合う、
魔法戦争!」
「馬鹿な…と言いたいが
視点の違う波多野さんと愛里さんはずっと黙ってるけど
何を見たんですか?!」
「俺らと違う視点。
まさにあの渦の中に居ましたよね?
何も見てないなんてあり得ない!」
「人が、仲間が突然…俺もう気が狂いそう…」
ずっと押し黙ってる様なふたりは皆に集中砲火を浴び、
状況をなんとかしたい愛里は強く強く念じた。
『ハ………シ……』
瞬間目の泳ぐ波多野。
『……ナ………テ』
愛里の念は通じたが
言葉には遠く及ばないとても弱い思念に、
『ハ…ナ…シ…テ』
気付いた波多野も返す方法など分からなかったが、
思いだけは伝わり理解した。
「俺が代弁して良いんだね?」
コクリ頷く愛里。
「あぁご静粛に…皆さん、
今から話すことはまさに都市伝説の原型のようなものです…
あそこで起こった事は誰かが言った通り
未知のエネルギーのぶつかり合いによる闘いだったと思いますだけど、
何と何が何をしていたのかなんて正直判らないから、
これ以上の突っ込みは勘弁してください。
僕らはあの中に居て本当に見たんです。
あそこには何者かが居て対峙していたのを…」
波多野はギリギリの真実を話し愛里を安心させ、
栗山から借りパクしたままの携帯から動画を再生し彼らに見せると、
見終わった彼らはようやく落ち着いたのか椅子に座り直し、
弁当にがっつく余裕も出てきていた。
「…要は凄まじい現場だったって事」
「ディレクターが居ればなぁ…」
「無念過ぎるな…」
「局の人らはもう帰ったの?」
お笑い芸人のイケメンが聞くと、
「結局会えず、
何も話せずでね…
記者会見は朝の9時かららしいよ」
カメラマンは答えている。
「そうなんだ…」
「俺たちも記者会見でたかったな。
売名のチャーンス」
「不謹慎だぞ!」
ガタイの良い芸人に言われ、
「ご、ごめん…」
のっぽの芸人は背を丸めた。
「でも、
俺らの証言とか出しても何も判らないしね…
波多野さんその動画はもう警察に?」
「あ!今見せたの内緒ですよ…
これ警察の証拠になってて保守義務発生してます。
コピー取られたよ」
「くそぉおおお俺の撮ったのも全部持っていかれた
テープも全部…
何も手元に無い手ぶらで帰還だぁあああ」
飯を食べながら愚痴るカメラマンが
弁当を抱えたまま波多野に近づき、
「幾らなら売る?」
聞いてきた。
「え?」
「局から好きなだけ報酬出るよこれ、
まさに渦中の映像!
あんた金大好きだって噂…知ってる」
「いやいやいやぁー
これ撮ったの僕じゃなくて栗山くんの携帯で
栗山くんに権利あります。
話す相手がまず違う、
他人がどうこう出来ない。
お金は大好きだけどハハハ」
引きつった笑いの波多野。
「ぁあ~そうなんだ…じゃー栗山くん。
そう言えば新人ADはどこ?」
「都内の頭の専門院?
場所は判らないけどね」
波多野は答えた。
「えぇええええ!!
もっと早く言ってよぉおお携帯、携帯、
俺の携帯」
カメラマンは局に急いで連絡し、
栗山の入院先が別にあるから大至急探せと話し、
そして彼らは仮眠用に空きベッドが使える事となり、
波多野と愛里は病室が違い別れ際、
「あんな内容の話しで良かった?」
「はい」
「でもびっくりだったよ…声。
以前から使えてた?」
「初めてだけど、
通じた瞬間びっくり。
きっと魔法の闘いに巻き込まれたせいで
身体に力が急速に開花する感じが…」
「そ、そうなんだ(魔女の力が…あ!)」
彼の心の声を聞いてしまった愛里はそれには反応せず、
「じゃーおやすみなさい」
自分の部屋へ向かおうとした。
「あーあとね、
起きてからでいい栗山に声送れない?
あいつの状態が知りたいんだ。
あいつは僕と愛里さんにとって重要な人物なんだ」
「やってみます」
『寝るのがこんなに怖いなんて…』
そして再び彼の恐れそのものを、
瞬間感じ取ってしまった愛里はよろめき壁に手で支え、
「(目的以外の思念は読まないようにしないと
身体がおかしくなる…)」
『……山……ん』
思念を送る愛里。
『…く……さん…栗・や・さ・ん…り』
思うと彼がベッドに寝ているのが見え、
『栗山さん!』
枕元に立つ事をイメージする愛里。
『はい?!
あー愛里さん!
まさか来てくれたんですか?
ありがとう!
でも、大丈夫ですか?
怪我とかなかったですか?
凄まじい経験でしたね。
あれはいったい何だったんですか?
でも本当に無事で良かったです…
もしあなたに何かあったら僕ぼくぼくは~~~』
眠りながら、
実際にも泣いてる栗山。
『いえ、私も波多野さんもあなたに助けられたみたいで
お礼を言うのはこっちですよ?
栗山さんの今の状況、
怪我の様子はどうですか?』
栗山にもテレパス能力があるのか、
明瞭な言葉での会話が可能で愛里自信驚きを隠せず、
『(これが愛の思い。
なんて暖かい)』
慈愛に溢れた栗山の心に包まれ癒やされたが、
『物凄い快調ですよー踊れないダンスも踊れるし。
ほらこの通り~』
よくよく見ると遠くにたくさんの栗山が踊っている…。
『頭を地に付けクルクル回るブレイクダンスとかしてる…
…あぁそうか』
愛里は夢の中に居る
無意識下の栗山と話しているのだと気づき、
『ごめんなさい』
『え?』
「ぎゃああああああ!」
栗山の意識をほんの少し覚ます愛里。
すると栗山の痛覚が瞬間戻り、
生命維持装置の数値がメチャクチャになると、
緊急警告音が看護師詰め所に鳴り響いた。
『ごめんなさいあなたの不調は全部判りました。
アイラさん来れますかー?私にはまだ無理そうです』
バサッ!
念じた途端愛里の髪がいきなり伸びあたりに舞う。
『おぉ…呼ばれて飛び出て…
お前じゃんじゃーんおいおい、
相当やられてんのね可愛そうだから頑張って治してやる。
頭の傷は全然大丈夫だけどぉ今暫くぼんやりモードが良いね、
終わった…けど、
あたしは癒やし手ではない…
すごい力使って当分…
愛里との橋渡し役がぁあ…うっ
栗山お前…
魔力が吸い取られていくぅうう』
アイラは攻撃魔法の専門職、
ヒーラーのような癒やす能力に
攻撃魔法の組成を変化させ使わなければならず、
その交換に莫大なエネルギーを使ってしまい
当分戦闘に出るのは不可能だと愛里との伝達係、
波多野に伝えたかったが…
疲れ切ったアイラが消えると髪も戻り愛里に戻り、
壁に手をつき目を閉じている彼女のその様子を
しっかり見ていた点滴片手のヨボヨボ爺さん。
驚きの余り自分のハゲ頭をしきりに触っていて、
一方栗山の様子を見に飛んで来た看護師たちは、
栗山の寝てる目を開きライトを当て瞳孔を確認し、
機械の様子に変な所はないか見たが
一時的な誤動作だと帰ろうとすると、
「おはようございます~ここどこですか?」
栗山はベッドに座り
とても爽やかな笑顔で看護師に聞いていた。
そう栗山はアイラの力で
奇跡のように回復していたのだ。
仮眠を取っている小春は、
花を届ける相手の研究室までそのまま送ってもらっていたが、
「うわっ止めてー!」
いきなり目を覚まし、
「なんだどうした?!」
「凄まじく甘い刺激臭がするぅうう」
「え?そんな匂いしないぞ、
寝ぼけてないか?」
「うげぇえええええええあぁあもぅ
駄目降りるぅうう」
路肩に止められた車から血相を変え降りていく小春。
地面に這いつくばるようにゲホゲホと
咳をし皆んなが心配そうに見守る中、
花のビニール袋から植物の茎がニョキニョキと伸び
小春を包むの見て唖然としている仲間たち。
その時、
辺り一帯に数十メートル規模の円を描くような圧力がかかり、
ドゴゴゴゴゴーン!
TVクルーの車も半分巻き込まれ大破し、
頭上の高速道路も一般道ともに走っていた車両ごと、
雑多な建物群の一部、
植え込み、
電信柱、
往来する人々、
円の範疇に有る物全てが瞬時に潰れ、
小春もその中に巻き込まれていたが、
素早く育った植物の防御で助かっており、
その目でタヒにゆく者たちの地獄を見てしまっていた。
圧力が更にかかった中央に大きな窪みから、
亀裂が走ると地面がえぐれ、
中から黒い煙が湧き出し赤い渦に変わると音もなく静かに、
匂いが分かればとても臭い何かが出て来ようとし、
「フガガガガガガガガ、
グガガガガガガガガガギャギャギャギャーーーー」
奇声を上げ現れたそれは、
それらは人ではあったが
4人の身体がひとまとめにされたような巨大な化け物。
その顔は酷く歪んではいたが面影は残っている。
そうこれは数時間前に
命を落とした者たちの成れの果て。
Bの裂けた腹からは胎児が飛び出し、
ディレクターと絡まり合い
牙の生えた口から出た長い舌で舐め合い、
首のないマネジャーの全身から伸びた触手は
辺りを叩きつけのたうち回り、
女ADは化け物の最上段に位置し頭の真上から4っつに裂け、
この化け物全体の口のように蠢いているそして、
この化け物も幾本もの赤黒い錆びた鎖で縛られ、
その鎖は渦から伸びあちら側の本体が操っている。
魔物が何故ここに出現したのか?
それはこちらの世界に存在してはいけない植物、
小春の拾った花を標的に出現していたのだ。
この魔法植物は危険から人々を守るのが役目だが、
愛里やアイラと同じでその存在を感知されたら彼らはやってくるのだ。
植物に守られている小春は気絶してしまい、
この場から動けず、
魔物はジュクジュクとした体液を滴らせた、
ディレクターとBの長い舌で
簡単に捲かれ最上段の口に放られると喰われ、
咀嚼されていき、
動きは喉元を通るように見えた時、
「グギャアアアアアアググググェエエエエ!!」
化け物は突然苦しみもがき始めた。
植物が棘の生えた茎が成長し、
化け物の中から身体を突き破り、
グギギギギギギギギギギィイイ
凄まじい力で外から締め上げていく、
化け物は抵抗し茎を剥がそうとしたが
あっという間に切り刻まれ、
体液が吹き出て絶命したようだ。
渦から新たな鎖が何本も伸び化け物に絡まろうとしたが、
ブクブクと沸き立つ肉片は腐り消えかけており、
絡まることが出来ず渦は徐々に小さくなり、
攻撃された円の中心には保護していた蔦は役目を果たし消え、
気絶しほぼ無傷な小春が横たわり、
彼女は取材する側から全てのメディアの格好の餌食となるのは目に見えていたが、
もっと重大な懸念がそこにあった…
小春の傍らには渦が、
まだ完全には消えていないそれが蠢いているのだ。
つづく
*「」内のセリフが()の中の場合は心の声になります。
*『』この会話はテレパシーになります。
この物語は下記noteで先行掲載しています。
小説はこれしかありませんが他には
短い物語やパロディなど多々ありますので良かったらどうぞ。
note猫夢アトニマス
https://note.com/clear_swift8618
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