11-1・異界から異世界への誘い
前回までのあらすじ。
度重なる攻撃に息が続かず
栗山の能力が消え去る事も有り得ると、
愛里が出した結論は異界へ侵入し
真の敵を討伐すること。
波多野も原田の神獣を授かり、
残った原田は
『感応力で仲間を集めて』と言う愛里の願いを実行すると、
本物の魔王が反応し
聞かされる真実に絶望するが、
異界のボンも思念として現れ、
救いの仲間かと思われたが
逆に助けてくれと言われ、
魔女はやがて鬼女となる
真実も知ってしまっていた。
「戻れなくなったって事かな…」
愛里が言い、
左右に伸びた廊下を交互に見ていると、
「ゲームだと大体、
左から回るんだよね」
栗山が言い、
「ゲームと一緒にするな…
ていうか左ってどっちだよ?
基点で変わるぞ」
波多野も見回しながら言うが、
「右とか左とか人の決め事には何の意味も無い空間…」
と、愛里は言い、
左右どちらも先は暗く何も見えない通路だが、
壁には初めの階には無かった装飾が施され、
キラキラと煌めく特殊な光沢が左右へ滑るように走り、
通路の先々を示す電飾のように動いている。
「上もそうだったけど、
ここもとても魔物の巣には思えないね…」
装飾をなぞりながら愛里は、
「どっちへ行っても問題なさそう…」
ただの勘で左に向い歩いていく。
「ここはただの連絡通路ですよ。
どこかにメインホールがあり、
上下への階段もありそう」
波多野も栗山も後に続き、
「うん。
変化が現れる場所まで歩こう。
お腹空いたら水のペットボトルは4本しかないけど、
たくさんのスナックはありますから。
いかが?」
栗山は勧めるが、
「今はいいです」
「僕も今はいいよ」
「じゃー俺はとりあえずチョコバーを、
これ大好きなんだよね…
そしてパン屑を落としてっと」
ムシャムシャ食べながら剥いたゴミを床に落とし歩く栗山。
「それはとてもありがたい判断」
波多野が言う。
「無機質で広かった庭園が真帆の庭…
もしかしてさっきの階が…」
愛里が言うと、
「あぁそうかも!
庭園って庭がでかくなった物だよね?ハタさん」
栗山は波多野のことをハタと呼びはじめ、
「より洗練された景観を作る事に重きを置き、
人々に美しく豪華な幸せを提供する緑の広場かな?
確かにここが真帆の庭な気もするけど、
真帆が本当にまほなのか、
本当は魔本じゃないの?とか、
なんらかの形で出てこない限りなんとも…」
波多野は言い淀み、
「そうですね…
しかしここは本当に精巧な唐草模様の見事な装飾ですね。
この光が動いてるような部分が金属なのか、
陶器なのか、ガラス?なのか分かる人います?」
装飾を触り歩く愛里が言う。
「ここ全部魔法で出来てるのかも」
栗山が言い、
彼らはそのまま押し黙ったまま廊下を歩き続け、
時間を確認すると1時間は経過していて、
「しまった時計合わせしていなかった。
僕とした事が今すぐやりましょう」
「はい」
「うん」
波多野の意見に従い
それぞれの時計を合わせまた歩き出して数分後。
「ぁ…」
「ぉん?」
「目が…あ…」
皆、奇妙な揺らぎを感じしまい、
「ぁあ!」
「やばぃな…」
「うわぁこれやっぱゲームによくある罠じゃんね」
3人が見つめる先にチョコバーのゴミが落ちていた。
栗山は菓子ゴミを6個落としており、
ゴミは10分刻みで一個ずつ落として行ったが、
彼らが見ているのは最後の6個目のゴミ。
彼らはどこかの地点で逆向きにさせられ歩いた事になるのか、
この世界の地上からの無限階段と同じ
ループの罠に嵌めらかけている。
「どこかで逆向きにさせられた?」
愛里が言い、
「揺らぎを感じたのは今の場所から2mくらい後ろだったね」
波多野が背後を見ながら言い、
「そこに逆向きにさせるスイッチ床があるのかも!」
栗山はちょっと興奮していた。
「反転移動させられているのが確実なら、
このまま進むと他のゴミに出会いますね、
進んでスタート地点に戻りますか?
どうします」
波多野の提案に、
「う~ん」
答えられない愛里。
「でももし、
もしも仮にゴミが消えていたら…」
栗山の怖い一言。
「ぁ…目印が消えるのは怖いです」
愛里が言うと、
「でも大丈夫です。
考えられる事全てに対処できないけど、
ナナとハチが居ます。
2匹を左右同時に進ませて様子見ましょう」
波多野が念じると二匹がフワフワと浮くように出現し、
「原田さんとの思念も二匹を使って増強させられるか試してみます」
愛里は左右へ別れて動き出す2匹に問いかける。
『原田さんとの思念に力を貸して…』
『…通じない』
『…遮られてる』
ナナとハチからも良い答えは得られず、
「原田さんとの思念は彼らにも通じないそうで、
心配です…」
愛里が言うと、
「あちゃ~思念が切れるとかやばいね…
ハタさんも2匹を自分の手足のように使えるようになってね」
栗山に言われ、
「頑張るさ!
なんせ命が懸かってるからな」
波多野は顔の前で両手を組み祈り彼らはその場で、
明らかに自分らが歩いた時間よりも長く待ってみたが、
二匹は左右どちらの通路からも現れる様子はなく、
「やっぱ二匹は浮かんでるし、
床を直に歩かせないとダメかも…」
栗山に言われ、
「プレッシャープレートか、
ナナ、ハチ戻れすぐに」
床面を直に歩かせようと波多野が呼びかけると、
二匹は伴って3人が歩き出した方向からフワフワとやって来てしまい、
「そ、想像の斜め上から帰って来た…」
頭を抱え二匹を見ている波多野。
「あぁ足元見て!」
栗山が指さす先にあったゴミは消滅していて、
全てのパン屑が一斉に消えたと思われた。
「異物は消されてしまう…
次は私たち?
…こんな時に便利なのが魔法のはずなのに、
どう想えば言葉として唱えられるのか分からない…」
愛里は正しい道が分かる魔法を
必死で想い編み出そうとしていたが、
得意とする破壊魔法とは
まるで勝手が違う複合的な魔法のようで、
その左手の痣からは失敗を示すような小さな煙が
プスプスと舞い上がっている。
「本物のダンジョンなんだよねここ…
ゲームじゃない場所に俺たち居るんだよね…」
悲痛な顔の栗山。
「何を今さら…
愛里さん無理しないで…
いずれにしろ歩き続けるしか無いですから」
波多野が言うと、
「床のプレッシャープレート確認していい?」
愛里が言うと、
「はいどうぞ」
「すぐそこ床タイルの継ぎの辺り…」
「そこね?」
確認する愛里。
「です」
「えい!」
すぐそこのタイルに飛び乗ると、
ゴゥン…
空間が揺らぎすぐの壁に扉が現れ、
「やった~扉だ!」
「あぁ!」
そして彼らは息を飲む、
扉はなんと2つ出現していたのだ。
「嘘だろ~」
栗山が言い、
ゴクリ…
「どどうします…」
波多野は聞こえるほどに喉を鳴らしてしまい。
「どっちも1回中を見てみます。
それで判断が付けば…」
ギッギギギー
「うわぁ~」
扉を押し開く愛里はカラフルな風景に目を見張り、
中は円筒形の屋内で中央に1段高くなった四角いステージがあり、
周りの壁は全てタイル張りで、
その1枚1枚に意味不明の文字のような記号が書かれ、
縦横にびっしりと並んでいる。
「なんとまー現代的なこの感じ、
これはまさにテレビ番組のセット。
愛里さんが喜ぶのも当然」
栗山が言うと、
「分かったぞ!
あの記号で神経衰弱やれって言ってるんだろ…
司会者はどこだ?」
波多野が言うとここは、
あからさまなクイズステージのようみ見えていて
魔物の影からはどんどん遠ざかって行く。
「…もう何があっても驚きませんよ?
さてお次はっと…」
言いながら愛里がもう一つの扉を開けると、
「ぁーーーーやばーぃ」
驚かないつもりの彼女だったが、
扉の先は真っ暗で何も見えなかったのだ。
「こ、これは…皆が超嫌がる暗闇のステージ…
光の射さない場所を彷徨えと言われてますね…」
栗山が言う。
「私たちに光を…」
ポンッ ポンッ ポンッ
「生体発光っていうか、
顔から服から皆んなぼんやり光ってる」
栗山は自分の手を眺め暗闇にかざし、
愛里は自分たちその物を発光させていた。
「このステージから進むと言う事ですね?」
波多野も手を見たり、
2人の背を見たり自分たちがどう光っているのか確認し聞いていた。
「私はゲームとかでも難しいと思える方から進むのが癖なんです。
こっちでいいですか?
後から楽になる事を祈って」
闇のステージへ一歩を踏み出そうとする愛里。
「了解です」
「もぅガンガン進んでください愛里さん」
「いぇ一応聞きながら進みます…
私の判断だけだと怖いです」
中に足を踏み入れると皆の光る体だけが頼りになっていたが、
その光に反射する壁などは近くには無いようで、
「手を繋ごう…」
愛里は手を握り合おうと手を伸ばすが、
「ふぇ?」
栗山は緊張し棒立ちになってしまい、
「早く!」
波多野に怒られ握ったが、
「ぽぽぽぽ」
3人は手を取りあい栗山の顔が一段と明るくなったが、
「僕の手でそんなに喜ばないで…」
波多野に言われ、
「うわぁああああー」
悲鳴を上げつつ愛里の手をギュッと握り直したが、
「栗山さーん嬉しいけど…重い~立ってくださーぃ」
あまりの嬉しさに脱力し、
床に突っ伏したまま愛里に引き摺られている。
「お前は昔のギャグ漫画の化身か?
もっとしゃんとしろー!」
波多野に切れられた栗山。
そして3人は夜より暗い闇を一歩ずつ歩き、
壁に当たると左右を確認しながら次の一歩を踏み出て行く。
「オールドスクールゲームですなこれは…」
波多野が言うと、
「古い学校?」
愛里が返し、
「使い勝手の悪いユーザーインターフェイスと、
仕様その物に癖が有りすぎる
古いゲームスタイル全般を指す言葉です」
答える波多野。
「42歳だとそーいうゲームばっかだったの?
1歩1歩紙にマッピングみたいな」
栗山に言われ、
「バカ言え僕ら世代よりももっと古くからのゲームだよ」
波多野の不愉快な顔がさらに明るく光っており、
この光はどうやら感情にも影響してるようだった。
「ストーップ…止まってーこの先、
床が無いかも…待ってくださいね」
座り込む愛里は、
足元の床を確認すると確かに床面は無くなっていて、
明らかに闇の落とし穴だった。
「きたー落とし穴のギミック!」
「ゲームだと絶対一度は落ちないと分からない穴…」
「心の準備をお願いしますね」
愛里が言うと、
「いつでもどうぞー」
栗山が言い、
「なんか飛び降りるのがとても好きになっている自分が居るんですがー
お前の仕業か?」
「だよ」
普通に答える栗山に愛里はクスッと笑い、
「ゆっくり飛びます。飛翔!」
彼らの体はぼんやりと光りながら穴の中へ落ちて行くが、
飛ぶ魔法は彼らをフワフワと浮かせ
落下速度は遅く感じられてはいたが、
「ながいっすね~」
いつまでも着地せず、
「あぁ」
やっと着地するとそこは明るく暗闇ではなくなっていたが、
入ってきた扉の前、
入口に戻されてしまっていた。
「うぐぐぐぐーなんだこの既視感!
子供のゲームやらされてる感が半端無い…
くっそ…
もっと激しい敵との攻防戦があっても良さそうなものだが」
「そんなの今は無くていいよー
この先きっとあるよ恐ろしい事は…
ハタさんお腹空いてイライラしてるかも」
栗山に言われ、
「ぁいやすまん…
そう言えば少し減ってるかな、1つ貰える?」
「はい水も」
「ありがとう」
「おふたり朗報ですよー暗闇の床を見て見て!」
「どうしたんです?」
「おーーこれはまた魔法が進化してる」
暗闇の壁には手の跡、
床は歩いた跡がまるでプリントされたように残りぼんやりと光っていて、
彼らは安全に落ちた穴の位置に戻れていた。
「なんかちょっとワクワクして来ました。
あ、ゴメンなさいつい」
愛里が言うと、
「ここは本当に子供の遊び場だったのかもしれないね、
大魔法使いを虜にしてしまったよ」
栗山が言うと、
「セーブポイントはありません…」
愛里が返し、
「この先鬼が出るか蛇…
へびはもう出てるから…
鬼しか出ないって事か…」
波多野はプロティンバーをモグモグ食べ、
水は口を潤すだけに抑えていた。
胸中それぞれに扉を見つけた達成感も淡い期待も
恐怖と共に感じている彼ら。
行く先々を踏破出来ると信じる希望を胸に進むが
それこそが罠であり、
彼らを最下層まで導くためのお手軽なカタルシス、
ご褒美とも言える。
謎を解き進めるたびに現れるパズルに
恐怖を加味し侵入者を憔悴させ、
謎が解けた時に湧き上がる喜びは、
さも自身が大きくなったような錯覚を与え、
最下層まで辿り着けない弱者には
なんの興味もないこのダンジョンに、
彼らはすでに飲まれており、
それが最高潮に達した時、
精神を殺られた魔王の言う
絶望の最下層が待ち受けるが、
魔女は魔法を使えば使うほど
精神を蝕まれ狂気に向かうと言う
イドの言葉の真意は、
魔女の魔法は契約と同じ。
やがて代償を払わせられる事を
意味しているのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼場面は現代へ
「(例えこのダンジョンを脱出出来たとしても……
彼らになんとかしてこの事を知らせなければならない…
今ならまだ間に合う。
ダンジョンから逃げろと、
あちら側の誰かに伝えに行って欲しい。
だがあちらの世界では魔女を忌み嫌い、
禁忌や敵としか見ていない…
魔女と公言してしまった愛里さんを
助けに行ってはくれないだろう…
でもなんとかして…
あぁそうだ栗山さんを神の如き癒やし手としてアピールするしか、
決して騙す訳では無いが
3人を救うにはこれしかない!
だがイド君が出てきてくれないとどうにもならない…
魔王様の助けを借りるにはには
私の生きたままの心臓が……
あぁまさか魔王様が自死したのは自分の心臓を…
だから廃人に…)」
原田はイドが消えた後、
考えあぐねながら街を徘徊し
ついに栗山を猛アピールする事を思い付いたが、
思念はイドにも誰にも届くことはなく、
「(時間がない。
どうしたらいいんだ…
私にはこれ以上何も出来ない…くそっ)」
そして彼は1人で悩むよりはと、
小春に連絡を入れていた。
「頼む出てくれ!」
発信音が数回聞こえた時、
「お客様がおかけになった携帯は現在~」
留守電に切り替わっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▼場面は異界へ戻る
「あとどれくらいで起きる?」
ヤモトが聞くと、
「40分…2分毎に聞くな…」
カジキが答えた。
「あぁ…なんでこいつ
眠るようになっちまったんだ?
寝るって生物固有の生理現象じゃないのか?」
ヤモトはイラつきを隠せず話し、
「だからーこいつはそもそも人…
チッ…
話したくなから止めるが…」
カジキも自分のイラつきを鎮めようとしていた。
「ノオミの背負っていた生命維持装置には
ホムンクルスを抑制する機能があって、
決断の時に備えさせていたって事だよな…
本来こいつにはちゃんと自由意志がある…
ノオミが初めての説明で話してたような、
馬鹿ばかりするから目も縫ったと…
まるで子供だったみたいに」
ブレインは玩具のカタナを手にしげしげと眺めながら、
物珍しそうに見てるコハコに渡すと、
ロッグスが持っていたもう1本のカタナとで
チャンバラを始めた。
「そろそろボムの目なんとかしてやるか、
抜糸の時間かな?」
ブレインが言うと、
「あーそれ私も考えてた起きてからやる?今?」
コハコは自分の目のあたりをカタナでなぞっている。
「主どう思う?お前が決めてくれ」
ブレインに言われ、
「あるじ?!あぁ~うーん
自由意志が開花するなら知性もあるって事か?
だがぁそうなると逆に
今以上五月蝿くされそうだ……
寝てる間がいいと思うやってくれ!」
カジキは答えたが、
「こいつの目を開かせるのも、
知性の目覚めでもなんでもいいが、
肝心な事忘れるなよ?
こいつは俺らの最終兵器だって事を…
情が湧くと何も出来なくなるし、
それに俺はこの目で見たんだ
こいつがノオミの首に齧り付き、
肉を食らう飢えた獣…
ロッグスも見たよな?」
「すまん。
あの時確かにボムを放り投げたのはわしだが、
その後は奥さんと逃げるので精一杯…
後の事は何も見てない」
ロッグスが答えるとヤモトの話に皆、
静まり返ってはいたが
コハコは沸かした湯を洗面器に入れ、
ブレインはメスを用意し自分の唱えた炎で滅菌し、
冷ましてからボムの目に這う糸の際に充てがった。
こんな医療行為は特に珍しい事ではなく
ただの日常だったが、
注意を垂れたヤモトはメンバーの日々の機微、
変化をとても気にしており
その医療行為を見つめつつも皆を見ていた。
右目から糸が慎重に抜かれていくが、
ボムはスヤスヤと寝たままで都合が良かった。
「瞳が傷付きませんように…」
コハコが言い、
「慎重にだぞ?
起きるまであと10分くらいか?」
ヤモトが言うとブレインは
抜いた糸を皆に見せながら遠くへ投げ捨て、
メスを湯に潜らせ洗うととまた炎で滅菌し、
「左目~」
縫われはじめの糸をメスで持ち上げ切断しようとしたが、
「わっ!」
ボムが突然飛び起きメンバーの顔を見渡すと、
大慌てでキャンプから森の中へ遁走してしまったのだ。
「やばい目を切っちまいそうだったぞ」
ブレインは尻もちを付いていて、
「驚かせたのか?!」
ヤモトが言うと、
「止めろって言う意思表示かも~」
ガウが言い、
「あぁ。でも探しに行かないと」
コハコは森を見つめ、
「よせよせ、帰って来るの待てばいいさ。
俺らはどこにも行かない。
あいつも同じ…行き場なんて…」
ふんぞり返って寝るカジキの一言にメンバーは皆、
瞬間虚ろな表情になり、
死んだ亡霊の影に怯え
隠れる場所など存在しないことを再認識させていた。
「探しに行ってくる。
あれを野放しに出来ないからな!」
リーダーであるヤモトはこのパーティーの事を1番に考え、
表には出さず平然を装おう彼らの閉塞感を
なんとかして打破したいと考えているが、
何もできない自分に腹を立てていた。
「ゎ、わたしもー」
コハコも森に、
「それならわしも~」
ロッグスは嫁と共に、
「ついでになんか狩ってくる~」
ショートボウを握り駆け出すガウ、
「…行ってくる」
スッと立ち上がったカジキは、
凄い速さで近場の高い木に上り夜目でボムを探した。
「んぁー俺は火の番してるよ…」
1人残ってしまったようなブレインは
ボムがカタナの他にも、
いつの間にか所持していた
初めて見る物にも考察を始めていた。
「これはーなんだろうかね」
小箱のどの側面にも文字のような物が書かれ、
紙箱の上部が開閉する蓋になっており
中に丸い棒が収められ、
まだ10本くらいはあり
1本を取り出しつぶさに見て匂いを嗅ぐと、
「おぉーこれはタバコだ!
香りもとても良い品質は高級品か?
この世界の住人と私たちの世界とで
同じ嗜好品が好まれているのは、
2つの世界はどこかで交差してるとしか思えないが…
まぁ毒では無いだろうこんな簡易包装なのだから」
タバコの白いフィルター部分の意味が分からず、
蓋だとでも思ったのか外してしまい両切りにすると、
火を着け吸っていた。
スゥ~ふぅううううう~
「こちらのタバコほどきつくは無いが
旨味と香りは素晴らしいな。
そしてこれは?」
それは透明な部分が多くある短い棒で、
触っているうちに蓋が外れ鋭利な先端がそこにあり、
「これは暗殺器具?
中の黒い何かが毒で刺すと出るのかもしれん」
先端部分の匂いを恐る恐る嗅ぐと、
「ウプッ…
錬金術師の部屋で嗅いだ薬品のような匂い…
これは危険な物に違いない…」
それはただのボールペンだったが、
とりあえず彼の腰のポーチに収められ、
「ぁ、そう言えば…」
もう一つのポーチから厳重に紐で括られた薬瓶を取り出し、
裏書きの説明を読んだそれは、
魔王の庭扉前のキャンプでイーガンの仲間からもらった毒薬。
「これは確かに慎重に扱わないと…
しかし、あいつとも連絡は途絶えてしまった…
メモの人物にはきっと会えたのだろう…
そして…殺されたかな…」
ブレインは鼻から大量の煙を出すと、
燃え尽き気味のタバコを焚き火に放り投げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「生きたいか?」
「(ぃ…たい…)」
「なぜ生きたいのか分かるか?」
「(い…ぃたぃいぃ…)」
「生き返れたら何をしたい?」
「(ぃき…ぃ…)」
「お前の名はなんだ?」
ブクブクブクブク
「(な?な?なま…?…わ…し?
私…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…)」
ゴボボボボボボボボ~プシューゴゥンゴゥンゴゥン
「かかりそうだがやがて体の細胞は復活する…
それまで辛抱強く待て我が最愛の…」
ノオミは生きていた!
生きているとは言えないまでも、
生き永らえていて、
完全体として復活するにはどれくらい月日が必要なのか
父にも測れず彼女は今、
大きなガラス管の中に緑色の液体が入れられた底に
粉々になった部位の肉魂として、
頭骨から剥き出しになった脳、
口からの内臓も奇跡的に残っていたが、
臓物は裂けた腹から垂れ流れ、
うず高くとぐろを巻いており、
下半身は右足先だけが残っている状態で
管の中に沈んでいる。
宿の崩れた瓦礫からノオミの残骸を慎重に拾い集めたトービンは、
ノオミの不在が長く続き、
瞬間移動ですぐに会えると思っていたが
魔法は手の中でくすぶり失敗し、
古くから手足のように使っている
子飼いの兵隊たちに捜索へ向かわせると、
ラストスタンドの連中が逃げるように東へ旅に出たと分かり、
あの宿で大爆発があったことを知ったのだ。
トオビンは今、
魔王の庭の1つの屋敷の広い屋上にある広いテラスで、
ホムンクルス製造工場を構築しつつその一角に、
ノオミ専用の蘇生装置を作り毎日話しかけている。
顔は半分消失し目は1つだけがかろうじて機能し、
口も損壊は激しいが声帯も残り、
話しかけるとその目はギョギョロと動き、
これは確実な知性的な反応だとトオビンは信じ、
本来なら肉体の全てが完全に消失していても
おかしくないはずが、
人の基本部位ががこれだけ残ったのはノオミが、
爆発間際に唱えた何らかの魔法の効用だろうと思っていた。
「ホムンクルス溶液は
人体の損壊や不具合も正常に戻し、
若返りすらしてくれるはず…
今、必要なのは声をかけ続け意識を目覚めさせる事そして、
人の血肉…
さて今宵も女狩りに出るか、
性的な意味合いはないぞ?
今は全部お前のためのエキスだよ?」
その時、
バサッバサッバサッ
どこからかカラスが1羽現れ、
ノオミのマシンの上蓋に停まり、
「トオビン様カァー。
あいつら見つけましたよカァー。
どうしますカァー」
引き続き探索を命じていた兵隊共に渡しておいた
魔法スクロールの伝令カラス。
これは言葉を伝えるだけという単純な物。
「…そうかついに発見したか、
やり方は任せる!
追い込んで疲弊させても構わんが絶対に殺すな!
使い道は決まっているのだ。
全員生け捕りで連れて来い!
そしてくれぐれもホムンクルスは丁重に扱え。
以上」
言い終わるとカラスは再び彼らの下へ飛び、
「テンを盾にこちらへ歯向かうほどの度胸も知識も無い
逃げ惑うだけのゴミ共…
それはとても貴重なホムンクルス。
現在稼働してるのはそいつしか居ないのだ。
この手でお前らを骨の髄まで潰せるのが
楽しみで仕方がないぞ!
こいつらを全員ホムンクルス溶液にしてやろうなノオミ…」
血気盛んなあの頃に戻った男はマントを颯爽と羽織ると、
「慎重に使わないと…テレポート!」
シュシューン
瞬間移動スクロールの枚数を気にしながら、
目星を付けている盛り場へ飛んだ。
この物語は下記noteで先行掲載しています。
小説はこれしかありませんが他には短い物語やパロディなど多々ありますので良かったらどうぞ。
note猫夢アトニマス
https://note.com/clear_swift8618
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