表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

誕生会 前編

なんだかんだでここまで来ました。

ひたむきなアドニス君素直で可愛いくていいよね。

ね。(圧)

そんなアドニス君の誕生会のお話、前編です。

アドニスが木剣を1度くらいなら弾き返せる程度には鍛えられた頃。

今日は彼の9回目の誕生日で、丁度1週間ほど前から始まった盛大な祝いの準備が整う日。

こんな日でも、彼は欠かさず訓練場に赴く。

最初のうちは臣下もルーヴェリアも、誕生日くらいは休むよう言っていたが、どうしてもと聞かないのでそのうち諦めた。

ルーヴェリア「やはり、今日もいらっしゃるのですね」

やや嘆息混じりにそう言うと、アドニスはキラッキラした瞳でもちろん、と頷いた。

アドニス「師匠と過ごす時間が、どんな贈り物よりも好きなんです!」

ルーヴェリア「……例の如く午前だけですよ。あと、ルーヴェリアです殿下」

彼自身も祝いに向けて準備をしなくてはならないので、いつも通り夕暮れまで訓練場に縛り付ける訳にはいかない。

そうなると、ほんの些細な時間さえ惜しいようで、アドニスは早速木剣を構えた。

鍛えられてきたとはいえ同年代の子供と比べるとアドニスは華奢だ。

故に、相手から見た時に的が小さくなる利点を最大限活かすため、体を斜めにして、片手は腰にあてて細剣を扱う時のような構えをとる。

対するルーヴェリアは、一応彼女の中では構えているが、剣を上には上げず、あくまで自然体でいる。

戦場では戦意が喪失したかのように見えるため、異質な存在として扱われていたことをふと思い出した。

アドニスとルーヴェリアの間合いは大人の足で大股3歩分ほど。

ルーヴェリアが地を蹴ったことが認識できたのと、木剣に彼女の木剣がぶち当てられたのは同時。

いくら頑張ってもこの速度にはついてこれなかった。

衝撃で指先から肩までの骨が全て砕けたのではないかと錯覚する。

がまあ、これも慣れてきたものだ。

横に流れる力に対し、垂直に力を加えれば余計な力を使わずに跳ね返すことが出来る。

上から木剣が当てられているため、普通ならば剣を交差させて弾くが、アドニスではそのための力が不足している。

であるならば当てられた木剣の下で刃を滑らせ、平行に重なり合う瞬間に向こう側へと1突きすれば……。

ルーヴェリア「もう一歩深く踏み込めば、もっと大きく弾くことが出来ます。体が動くことにより生じる重さを最大限活用してください」

ルーヴェリアは弾かれた軌道をもう一度なぞって木剣を叩きつける。

ある程度加減はしているが、木剣を受け止めた腕は恐らく使い物にならなくなるだろう。

アドニス「く…」

だが戦士として武器を手放すなんてことは出来ないし、してはいけない。

木剣を握りしめたまま体が横方向に吹っ飛ぶ。

円形の訓練場のほぼ中心から端まで、概ね5、600メートルほど。

途中で足をついて地面を滑り、体制を立て直しても勢いよく壁と激突することは避けられない。

ともかく頭を打って気を失うことだけは避けなくてはならないので、壁に向かって受け身をとった。

視線を動かせば、眼前に木剣が迫っている。

アドニス(いつもより速い…!)

咄嗟に身を屈めて寸でのところで回避出来たものの、次いで繰り出された追撃には対応しきれず、また体が飛んでいく。

距離が足りないので体制を整える間もなく、3回、4回と強打を繰り返した。

飛びかける意識を必死に繋ぎとめるが、反して体は微動だにできない。

あらゆる箇所が複雑骨折してしまったせいだろう。

ルーヴェリア「……寝たふりですか?それとも死んだふりですか?そうでないのならば立ってください殿下」

立 っ て く だ さ い … 。

相変わらず鬼か悪魔の所業だ。

何とかして立ち上がろうと体に力を込めるが、痛いを通り越した痺れのせいで思うように動けない。

ルーヴェリア「いかがなさいましたか?芋虫のように体をうねらせるばかりでは刺されるだけですよ」

言いながら木剣を緩やかに持ち上げ、振り子のように叩き下ろす。

アドニス「が……っ…!」

首元に何か硬いものが直撃したという認識を最後に、アドニスの意識は飛んだ。

ルーヴェリア「昨日までは気を失うまでには至らなかった…やはり疲労が蓄積しているようですね」

早めに切り上げられるよう加減をして正解だったかもしれない。

祝いの最中に何かあっては本人が恥をかいてしまう。

ルーヴェリアはアドニスに治癒を施しながら、彼の部屋まで運んでやった。



アドニスを送り届けてからルーヴェリアの自室に戻るまでの道中、第2騎士団長のクレストとすれ違った。

クレスト「む?おはようございます我が師よ。日の低いうちにご帰還とは珍しい」

ルーヴェリア「おはようございます、クレスト騎士団長。本日は大切な日ですから、殿下には早めにお休みをとっていただきました」

淡々と返事をするルーヴェリアに、クレストは愉快そうな笑顔を見せた。

クレスト「早朝から星でも見せて差しあげたのですかな?相変わらず容赦のない方だ」

ルーヴェリアは大して気にする素振りも見せず、ではと言って頭を下げて行ってしまう。

クレスト「笑顔のひとつでも見せれば、悪評も少しはマシになるでしょうに…勿体ないですなあ…」

誰にでもなくぽつりと呟くと、クレストはルーヴェリアと反対方向に歩いていく。

衛兵や護衛の編隊、配置の最終確認を、パーティを取り仕切る王妃と行うためだ。

一先ず、余計なことは考えないようにすることにして先を急ぐ。

一方、立ち去ったルーヴェリアは中庭を囲む回廊を歩いていた。

中庭では、護衛に向けて兵士たちが巡回ルートの確認やストレッチなどを行っている。

そんな中でかわされる会話が、偶然耳に入ってきた。

「殿下ももう9歳かあ…時間が経つのは早いよな」

「化け物みたいな騎士団長に育てられ始めて3年だろ?大分強くなってるって噂だぜ」

「あの優しかった可愛らしい殿下が……性格変わってないといいな…」

「あんまり無駄口叩いてると首が飛びそうだぜ、怖い怖い…」

「殿下は大丈夫だろ、問題は怪物騎士団長だぜ」

ルーヴェリアは足を止めることなく素通りしていく。

化け物や怪物と呼ばれることには、随分前から慣れている。

先々代国王の時代、不死の体を得てしまったルーヴェリアは、人間相手でも魔族相手でも敵になるような者は現れなかった。

独学で磨き続けた剣術と、出来て間もなかった魔術棟での研究という果てのない努力の末に身についた力のおかげだ。

戦場に立てば必ず勝利をもたらす戦女神だなんて持て囃され、戦争終結の為に血も涙も注いできた。

戦地に赴く度に敵将の首を携えて帰ってくる彼女と対照に、他の兵士たちは次々に戦死していった。

当たり前だ。

ルーヴェリアが駆け抜けた戦場は常に他のどんなところよりも激戦区で、最前線に立てば死なない人間などほぼいないようなところだったから。

「ルーヴェリアは化け物の血を引いている」

最初に言い出したのは戦火を退け、存続の危機から救った村の住民だった。

思えば、辺境の村から中心都までその噂が届くのは早かった。

帰還した兵士の中に、村人に同調した者がいたのだろう。

魔族が戦争凍結を提案し、続いて帝国も休戦協定を結ぶことを決めたのは、他でもないルーヴェリアの奮闘があったからだ。

当時の国王はそれを理解していたため、終戦祝いの場でルーヴェリアに栄誉騎士の称号を与えようとした。

しかし、周囲の人間はこれに反対。

化け物に与えられていいものではない。

人間にのみ与えられるべきだ。

魔族の血を引いているかもしれない奴に、そんなもの。と。

年老いて気の弱くなった国王はこれを押し切ることは出来ず、結局、ルーヴェリア本人が授与を辞退してその場を収めた。

国中を挙げて祝われるべき日は、なんとも冷たい空気の中で終えられたのだ。

それに、そんな事柄がなくともルーヴェリアの心は動かない。

だって、人間ではないことを認めているから。

心臓を停められ、時間が進まなくなってしまった体は、もう。

人とは呼べないのだから。

ルーヴェリア(……昔のことを思い出しているうちに、部屋についてしまいました)

らしくもない。

今まで昔の記憶を深く思い出すことなんてなかった。

職務に集中しなければ…。

部屋の扉を開き執務机につくと、丁寧に纏められた書簡たちに目を通す。

魔術棟で行われている、魔界と人間界を繋ぐ門の観測結果やその他研究内容。国境周辺で抱えられている大小の問題と解決法の提示、越境人調査の結果等、おおよそ一介の騎士が手を出すところではない部分まで情報が詰め込まれている。

本来であれば宰相が担っている部分を、ルーヴェリアが自分にも共有して欲しいと現国王に進言したが所以だ。

些細な変動から戦争勃発、なんてことになってしまうのを予め防ぐため…もしくは、そうなった時に最善の方法をとるためだ。

さて、魔術棟の報告によれば、門の開閉はされておらず、例月通り誤差はプラスマイナス0とのこと。

また、磁場の歪みもほぼ皆無に等しく、魔族の侵攻や行き来はないものとされているようだ。

しかし、かつて門が開いていた地方では、天候の不安定さが目立っており、魔族の何かしらの関与を疑って更に研究と観測を続けるとある。

ルーヴェリア「門が開いていた箇所といえば、西方諸国海岸沿いと南方の山脈地方が主ですね…山脈には未だに魔物が出るとの噂もありますし、戦闘要員も派遣するよう指示を出しましょうか……」

さらさらと新しい紙に字を綴っていきながら、別の書簡に目を通す。

帝国間貿易用の街道で盗賊が出没、北部にて強盗殺人の頻発、東部の一部地域は大雨により作物に甚大な被害……。

出来れば全てに力を貸してやりたいところだが、国が協力できる部分などたかが知れている。

帝国とは休戦協定を結んでいるため、大きな問題にならないうちに街道の防衛を強化。

北部においては強盗や殺人に至るまでの経緯を調査、必要に応じて戦力の増強、もしくは団体による犯行ならば住民の避難後に撲滅を行わなくては。

東部への食料供給は中心部からだと時間がかかるため、間にある街いくつかに支援要請を……。

何枚も指示書を書き連ねて、束ねたそれらを宰相の元へ。

少ない言葉を交わして再び部屋に戻ると、日は登りきってそろそろ落ち始める頃合だった。

ルーヴェリア「……昼食を忘れていました」

窓の外を眺めて呟く。

この時間からしっかり食べると夕食に支障が出てしまう。


お茶を淹れようにも、とある事情がありルーヴェリアではお湯が沸かせない。

仕方がなく、部屋に備え付けられた小さな貯蔵庫からパンを出して食べた。

こんがり焼き目のついたそれはバターの良い香りがする。

冷めていてもふわふわで、中に入ったカスタードクリームも程よい甘さで絶品だ。

ルーヴェリア「………………」

パンを食べながら、今夜の祝いでの役割を思い起こす。

騎士団長4名は、それぞれ国王、王妃、第1王女、第2王子の護衛を行う。

第1王子は隣国からの帰還途中にあるため、彼の護衛は道中を共にしている専属騎士が務めることになっている。

ルーヴェリアは最重要人物とも呼べる国王の護衛役。クレストは王妃の護衛だ。

第1王女には第3騎士団長が、アドニスには第4騎士団長が付く。

ここで懸念がひとつ。

第4騎士団長は戦闘の経験がほぼなく、言ってしまえば人数合わせのために持ち上げられたような人物だ。

ルーヴェリアも面識がないためどれほどきちんと仕事をこなせるか分からない。

もし、殿下の身に何かあれば……。

などと嫌な考えが過ぎる。

3年間鍛えてきたとはいえまだまだ子供だ。大人が守ってやらなければすぐにでもへし折られてしまうような存在なのだ。

いざという時のため、居場所がすぐに分かるようなものを渡しておいた方がいいかもしれない。

パンをもくもくし終えたルーヴェリアは、引き出しの中から赤い宝石のついたブレスレットを取り出す。

子供には大きいが、胸ポケットにでも入れておいてくれれば問題ない。

宝石にはルーヴェリアの魔力が込められている。

物体に込められた魔力は、魔力の主人と"繋がり"が有り、それを感知できる腕があれば、造り手や物体の持ち主の居場所などを特定出来るため、それを利用した…いわゆる迷子タグだ。

流石にアドニスも目を覚ましている頃だろう。

ルーヴェリアはブレスレットを片手に、自室を後にした。

【おまけ】アドニスの日記


少しずつ師匠の剣を弾けるようになってきました。

師匠は普通の兵士たちの訓練と違って、決まった動き方を教えません。

その代わり、僕の動きがどうやったらもっと良くなるかを教えてくれます。

きっと、自分で学ぶように教えてくれてるんですね。

師匠も、剣や魔術は自分で勉強をして覚えたと言っていました。

魔術、僕は全然だけど、母上は魔術棟の管理者をしているので、少し勉強をしてみようと思います。

剣だけじゃなくて、他のことも沢山勉強して、学んで、強くなります。


そうそう、師匠が綺麗なブレスレットをくれました!

金色のチェーンに、赤い宝石が3つ飾られていて、とても綺麗です。

身につけるには少し大きいので、服のポケットに大切に入れておきます。

お守りって言ってました。

訓練はとても厳しいけど、師匠はとっても優しいです。

どうしてみんなが師匠を怖がっているのか、きっと師匠の優しさをわかってないからなんです。

いつか僕が強くなったら、誤解を解きたいと思います。


今日は僕の誕生日パーティがあるので、日記はここまで。

美味しいものが沢山食べられるといいな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ