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滅亡の来訪

対魔族軍第一回戦は見事な勝利をおさめた騎士団らだったが、魔族の侵攻は止まることなく押し寄せた。

飛来する怪物、それらが齎した悲劇。

これはまだ、滅びの始まりでしかない。

数日間に渡り帝国領側の動向を見ていたが、動く様子はなかった。

しかしとある夜、星も見えないほど雲のかかったネポス山脈の頂で、ルーヴェリアはあることに気がつく。

元から荒れやすくはあるが、今日はマイアコス大海の荒れ具合が凄まじい。

ルーヴェリア(何かおかしなことが起きて……!!)

早急に帝国領前に駐屯していたアドニスに魔術で伝令を飛ばす。

──敵襲!帝国領側より植魔500、吸血鬼300の進軍を確認!

伝令を聞いたアドニスは、体を休める騎士達を叩き起こした。

アドニス「皆!敵襲だ!急いで陣形を組んでくれ!伝令はアルゼト小国軍に伝えてくれ!」

慌ただしくなる陣営。

なんとか陣形を組み、ゼーレース海とマイアコス大海の間で丁度開戦した。

地上からは魔術による阻害攻撃が、空中からは鋭い物理攻撃が仕掛けられる。

ルーヴェリアの計らいか、ケレテス山脈に駐屯していた第一騎士団の魔導部隊の援護もあって、戦いはなんとか拮抗状態まで持っていけた。

あと一押しできれば……!その気持ちが、とある悲劇を生んでしまった。

ルーヴェリア「…っ!!」

ラシェクス小国東方にてゲートが出現。

現れたのは、ヴァルグニル。ある地方では、ファフニールとも呼ばれていたか。

それが、2000…。

──殿下、ラシェクス後方にヴァルグニル2000の出現を確認、我々で対応します!

アドニス「ヴァル…グニ…ル!?」

吸血鬼と剣を交わしながら反復する。

神に匹敵すると言われているはずの、唯一無二のはずのドラゴンだ。

それが大量に襲ってくるなど、流石に騎士団にも被害が出るだろう。

だがここを動くわけにはいかない。

速攻で片をつけていかないと…!


一方、第二騎士団を引き連れてネポス山を駆け降りるルーヴェリア。

ルーヴェリア「先行してゲートの破壊を優先します!魔導兵、弓兵は後方より援護射撃!騎兵隊、歩兵隊は小国前で防衛線を築き防御に専念を!!」

これ以上数が増える前に、なんとかしてゲートを破壊しなくてはならない。

単騎で突っ込んでくる小娘に対し、嘲笑するようにヴァルグニル達は火焔を吐き散らす。

ルーヴェリアは剣のひと薙ぎで火焔を払い、真っ直ぐにゲートへ直走った。

数は増え続けている。これは間違いなく七将絡みの戦いだ。こんなにも早い段階で出てくるとは。

爪の斬撃が、巨躯による突進が、吐き出される炎が、行く道を阻んでくる。

ルーヴェリア「鬱陶しい…!」

だが、この位置まで進めることが出来たら、ここからなら、敵の撃破と同時にゲートの破壊も可能だ。

──魔導兵、私に誘引魔術をかけると同時にありったけの防衛術をかけてください!

騎士達は言われた通り、ルーヴェリアに敵の注意を惹きつける誘引の魔術と、多重に構築された結界術を施す。

全てのドラゴンが彼女に集中砲火を浴びせ、結界にはヒビが入っていく。

これが壊れる前に、ゲートを破壊する!

ルーヴェリア「空間認識、把握、次元歪曲の破壊を開始する。魔力炉核の融合を開始」

詠唱が進むごとに、彼女の剣に莫大な魔力が結集していく。それは恐らく、魔導兵数千人に及ぶほどの魔力量。

白銀に輝く剣を天上に掲げ、彼女は最後の詠唱を行った。

もう間も無く、結界も崩れ去る。

その前に。

ルーヴェリア「対象認識、座標指定、潰滅せよ!」

剣に集結された魔力が、雲を劈く程高く、高く伸びていく。

爆発的な魔力の暴発に巻き込まれ、結界は崩れ去るが同時に、集結していたドラゴン達も溶かしていく。そして、ゲートに光の一筋が降り注いだ。

瞬間、ゲートに罅が入り、瑠璃を破るような音と共に粉々に砕け散る。

ルーヴェリア「残党狩りの時間だ!全軍攻勢に転じ獲物を屠れ!」

身を翻しながら誘引の範囲外にいた敵の元へと駆けていく。

殆どルーヴェリアが引き受け、片付けたとはいえ騎士達もそれなりに損害を受けているようで、死者を出さずに勝利することは難しかったようだ。

悔やまれるが、致し方のないこと。

ヴァルグニル達は逆鱗の奥に潜む核を壊さなければ永遠に再生する化け物だ。

先ほどのように全て溶かされれば話は別だが。

そしてその核は1体に9つ。

他国と比べて化け物級に強くなった騎士達ではあるが、複数人で取り囲んでようやっと1体倒せるか否か程度。

──魔導兵!騎兵、歩兵の刃に爆裂術式を付与!奴らの体内を内側から破壊しろ!弓兵は戦線維持のため縦一列に斉射!

的確な指示で騎士とヴァルグニルの戦力差を埋める。

勝利は目前。

その時、ラシェクス小国の方から悲鳴が上がった。

激しい戦いの中ではあるが、彼女はそれを聞き逃さない。

そちらを見ると、高く築かれた城壁を越えて魔物の頭が見える。

ルーヴェリア「海竜…リヴァイアサン…!!」

それもかなり巨大な個体だ。

あれが大海から上がってきて小国に突撃したと考えると、例え小国が軍を動かしても国は10分と保たない。

こちらの戦況的にも加勢に行けるほど手は割けない。

歯噛みするルーヴェリアに、騎士の一人が声をかける。

騎士「ルーヴェリア様、行ってください」

ルーヴェリア「しかし…」

騎士「魔導兵達の掩護もあります。ここは我々にお任せを」

ルーヴェリアは数秒沈黙し、頷いた。

ルーヴェリア「お願いします。私は小国内の援護に向かいます」

彼女は城壁を駆け上がり国内へと入っていった。

騎士(とは言うものの、流石に全体の半分は持ってかれるよな…まだ500くらいは残ってるし……まあでも)

短期間の鍛錬ではあったが、その期間で培われた意地というものが、騎士の矜持というものがある。

守るべきものを背に撤退の文字はない。

騎士「負けてられるかってんだ!!お前ら!ぶっ殺してぶっ殺してぶっ殺しまくるぞ!!」


その頃、アドニス達は戦線を押し返しつつあった。

アドニス「この調子だ!負傷兵は撤退!前二列交代!騎兵隊突撃開始!!」

アルゼト小国の将軍も声をあげる。

将軍「今こそ北西諸国屈指の軍事力を見せつける時だ!魔族に情け容赦は必要ない!全力をもって殺れ!!」

互いの兵士達の士気が上がり、さらに戦線は押し返されていく。

その様子を、帝国城内から見ていたノクスは口端を吊り上げた。

騎士の一人が悲鳴を上げる。

アドニス「どうし…」

なんと、戦死した騎士や兵士たちが立ち上がり、彼らの足に、腕に、首に噛み付いている。

屍人だ。それと、ラシェクスの方面からも何かがこちらに走ってくるのが見える。

血塗れになった、町民が、走ってくる。

アドニスの心臓が跳ねる。

これがルーヴェリアの言っていた屍人、死した体を操る冒涜的な術で操られた死人達。

彼らを殺す術はなんだったか。

「塵も残さず焼き尽くしてください」

できるか?彼らのことを思えば思うほど、冷や汗が滲んで手が震える。

迷っている暇はないのに。

将軍「第一騎士団長殿!これはどう対応したらいい…!」

騎士「殿下!指示を…!!」

ああ、声が遠くに聞こえる。

足りなかった。戦場に立つ覚悟が足りなかった。

このままじゃ壊滅してしまう。

自分がしっかりしないと。しっかりしないと。

いけない、のに。

その時、炎を纏った矢が地面に突き刺さった。

それは着地と同時に爆発し、屍人達を焼き尽くし、消し飛ばしていく。

自分は魔導兵達に指示は出していない。

ならばこの矢は。

ルーヴェリア「歩兵!騎兵隊は後退!」

駆けつけたルーヴェリアが軽く手を掲げると、無数の炎矢が降り注ぐ。

町民も、兵士も、騎士も、魔族も、皆一様に矢に貫かれ、爆発四散していく。

ルーヴェリア「殿下」

声をかけられ、はっとして其方を見やると、瞬間自分の体が真横に吹っ飛んだ。

ルーヴェリア「戦場で呆けている場合ですか」

冷たい声。彼女は今、怒っているのだと理解する。それは、この状況になのか、不甲斐ない第一騎士団長に対するものか、両方なのかもしれない。

だが、おかげで目は覚めた。

アドニス「すみません師匠。全軍後退!魔導兵は力の限りを尽くして炎の地獄を体現しろ!」

将軍「後退!後退!!」

彼女の援護のおかげもあり、戦いはひとまずの終幕を迎えた。

帝国領前、つまり戦場の後方に構えていた陣営に戻り、戦線報告を行う。

ルーヴェリア「まずはアルゼト小国軍将軍にご挨拶を」

二人は軽く自己紹介をし握手を交わす。

ルーヴェリア「こちらからの戦況報告が重要ですから、先にお伝えします」


「結果から申し上げると、ラシェクス小国は滅亡を迎えました」

目を瞠る二人に、彼女は続ける。

「経緯を説明します。帝国領との交戦開始直後、ラシェクス小国東方に大規模なゲートが出現。2000余りのヴァルグニル出現を確認し、我々は応戦に向かいました。ゲートは私が破壊しましたが、恐らくマイアコス大海内でもゲートが開いていたのでしょう。リヴァイアサンが海より出現し、そのまま小国内を蹂躙していたと見受けられます。私が到着した時には、既に王城は跡地のそれと化しており、国軍も生き残りは2〜3名。町民は役場に避難していたようですが、リヴァイアサンによって虐殺されていました」

つまり、ヴァルグニル出現とリヴァイアサン出現はほぼ同時。

大海深くでゲートが開いたが故に、探知も難しい状態であったため、ルーヴェリアが支援に向かった時には既に全て終わっていた状態だったということだ。

「残存兵士達は我々で保護、騎士団は帰国のため行軍中。我々の残存兵力は2万から1万5千に削られました。リヴァイアサンの首は獲りましたが、死んだはずの町民が起き上がり、殿下達の戦線へと動き出した為、私が援護に駆けつけた次第です」

将軍「リヴァイアサンの首を…そんな短時間で狩れるものなのか?」

ルーヴェリア「攻撃に特化している分防御は薄いので刃はよく通りますよ。例外はありますが、龍族のほとんどはどちらかに偏っています」

将軍はふむ、と考え込んだ。

将軍「我々はそもそも魔族に対する知識が無い。一度北西諸国とサフラニア王国間で合同講義を受けた方が良さそうだ」

頭はそれなりに回るようだ、とルーヴェリアは頷いた。

対してアドニスには一撃拳をお見舞いする。

アドニス「っ…」

将軍(第一騎士団長って、サフラニア王国の王子だよな…)

ルーヴェリア「散々お教えしてきたつもりなのですが、何故対応が遅れたのですか」

アドニスは何も言えない。詰められて当然だ。

ルーヴェリア「私が援護に向かわなかった場合、両国とも被害は甚大になっていたのですよ」

アドニス「申し訳ありません…」

ルーヴェリア「私に謝罪は不要です。王都にある慰霊碑前で戦死した英霊に自分は恥晒しであると懺悔してください」

アドニス「はい…」

将軍(第二王子だよな…?)

ルーヴェリア「さて、今後についてですが、一度体勢を立て直す必要があると見て、騎士団やアルゼト小国軍の皆さんは一度撤退してください。ただ、帝国領に近いことから将軍には動向の探査をお願いします」

将軍「心得ました。撤退を察知させないよう、陣幕は設置したまま、数名の兵士は残しておきましょう」


こうして、第一回、正確には第二回目ではあるが、魔族との交戦が終えられたのである。

後日談にはなるが、保護されたラシェクス王国の兵士達は、救援に駆けつけたルーヴェリアの騎士団に所属することとなった。

【おまけ】ある日の騎士団

跡形もなく破壊された城の跡地。

積み重なる死体の山に埋もれた王族の死体を見て、ルーヴェリアは全てを察した。

襲撃は同時に起こっていて、自分はそれに気が付けなかった。

気が付いたところで何が出来たかは分からないが、少なくともラシェクス小国の滅亡くらいは防げたかもしれない。

ルーヴェリア「小国軍残存兵ですね。よくここまで戦いました。あれの首は私が刈り取りますので、東門から出て我が軍の庇護下に入ってください」

剣を鞘に納め、深々と頭を下げる兵士達を背に彼女は歩き出す。

建物はほぼ無いに等しく、視界は広い。

この分なら生き残りも居ないのだろう。

無造作に転がっている町民達がそれを裏付けている。

子供を庇うように死んだ女、瓦礫に潰された男、上半身の消え失せた子供。

まあ、王都が襲われればこうなるのは必至で、割と見慣れているので何も思わない。

さて、あれがリヴァイアサンか。

個体としては大きい方を寄越したな、と少し感心するくらいには巨大である。

恐らくあの片手一振りで城を粉砕したことを窺えるくらいには。

だが、言ってしまえばそれだけだ。

目の前に立つルーヴェリアに、リヴァイアサンは咆哮を…あげられなかった。

魔力で形成された刃が、鱗の合間を縫って巧妙にその首を落としたから。

核は今落とした首と両腕に1つずつ、そして心臓に3つ。

ルーヴェリア「潰れろ」

重力操作の魔術がリヴァイアサンを襲う。

体がみるみるうちに圧縮されていき、再生も間に合わないまま真珠一粒大になったと思えば、爆散。

あっけないものだ。

ルーヴェリアはリヴァイアサンの首を転移魔術で山脈に駐屯中の魔導兵達に送りつける。

──リヴァイアサンの首です。持ち帰ってください。

混乱の混じる肯定の返事を聞いた時、背後で何かが動く気配を感じた。

屍人だ。西門に向かって走っていく。

ルーヴェリア「向こうは殿下の指揮する戦線でしたね」

ついでだから救援に行こう。

きっと彼は屍人に対して"何もすることが出来ない"だろうから。

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