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守るということ

やっと2話目が書けました。

モチベを上げる、保つって大変ですね。

先人達の苦労を思うと、本当によく耐えてるなと思います。

この作品は、きっと私の意地で書き終えることでしょう。

どんなに時間がかかろうと、最後まで見届けてくださると嬉しいです。

アドニスの訓練が始まって数ヶ月ほど経った。

大分体力もついてきたが、ルーヴェリアの木の枝に一撃で吹っ飛ばされることは変わらない。

故にいつも服だけはボロボロで城に帰ることになる。

アドニス付きのメイド、シエラは帰城の度に悲鳴をあげていた。

今日も…。

シエラ「きゃあああああ!アドニス様!またそんなにお召し物をボロボロに!?」

ルーヴェリアの治癒魔術で体に痛みは全くない状態だ。

アドニス「大丈夫だよシエラ、これでも怪我は無い…し」

シエラ「なんでそこ一瞬考えるんですか!?」

アドニスは心の中で回答した。

いやだって…ねえ?

何度も吹っ飛ばされてその度に外壁に叩きつけられてさ…?

怪我しないわけじゃないし…

アドニス「いや、なんでもないよ」

唐突にがっくりと肩を落とす第2王子の様子を見て、シエラは決心した。

抗議しよう、と。

シエラ「ご安心くださいアドニス様!シエラがアドニス様をお守りしてみせます!」

アドニス「え?」

シエラはアドニスの着替えを手伝うと、部屋を出て颯爽と廊下を歩いていった。

アドニス(嫌な予感しかしないなあ…大丈夫かな、シエラ…)



コンコンコン、と部屋の扉がノックされる。

ルーヴェリア「どうぞ」

国王への報告書を纏めていたルーヴェリアは、手を止めて返事をする。

シエラ「失礼いたします。アドニス様専属侍女の、シエラ・ベルーカと申します」

水色の髪を両サイドで三つ編みにしたメイドが入ってきた。

ふむ、小柄だが中々しっかりとした体つきだ。日頃の仕事が筋肉を鍛えることに繋がっているのだろう。

細剣でも持たせれば…いや、そうじゃなくて。

ルーヴェリア「何かご用でしょうか」

ルーヴェリアが視線を向けると、シエラは真っ直ぐにこちらを見返して口を開いた。

シエラ「アドニス様の鍛錬を、もっと優しくしてください!」

ルーヴェリア「…優しく、とは?」

概ね予想は出来ていたが、僅かに眉がひそめられた。

意図せず視線が鋭くなってしまったかもしれない。

しかしシエラは臆することなく言葉を続けた。

シエラ「アドニス様のお召し物を見れば、鍛錬の厳しさが伺えます。いくら治癒魔術をご使用されるとはいえ、アドニス様はまだ幼子です。たとえその厳しさが、貴女の優しさからきているものだとしても、あれではあんまりです!」

ルーヴェリアはふうと息をつくと、今度こそ鋭い眼光でシエラを射抜いた。

ルーヴェリア「…そんなことで、わざわざ自ら出向いたのですか」

シエラ「そ、そんなこと…?」

ルーヴェリアは椅子から立ち上がると、シエラの目の前に立った。

ルーヴェリア「私は王命に従い殿下に戦を教えているのです。単なる鍛錬ではなく、戦を…それは何故か分かりますか?」

シエラは威圧感に気圧され、声を出せない。

無言の返答があったとし、ルーヴェリアは続けた。

ルーヴェリア「帝国軍の侵攻は現在停止状態ですが、彼らがいつその停戦を破るか知れません。魔族の侵攻もしかりです。後者に至っては、魔術棟の研究では数年以内に再開されるとされています。そうなれば、殿下の初陣は10を過ぎたか否かになるでしょう。それが、王のお考えです」

シエラは、魔族との戦いがどのようなものか聞いたことがある程度だ。

普通の人間を相手にするのと何が違うのかよく分からない。

だからつい、つい言ってしまったのだ。

シエラ「それがなんだと言うのですか、初陣が幼いうちだったとしたなら、臣下が守ればよいではないですか!何のための兵士なのですか!?」

言ってはいけない言葉だったと、後悔しても遅い。

瞬きする間には、ルーヴェリアの腰に納まっていた剣の先が喉元に向けられていた。

ルーヴェリア「あなたは、いつからそんなに偉くなったのですか?いつから、他人に死ねと命じることが出来るようになったの?」

声を荒らげることはない。

その分、静かな声に込められた怒りが計り知れなかった。

あの地獄を経験してきたからこその、怒りだ。

ルーヴェリア「魔族相手でも、人相手でも変わらないことがあります。それは、守るために死んでは無意味ということです」

死んだら体は動きません。

死んだら意識は残りません。

死んだら全てが終わります。

さあ、どうやって君主を守りますか?

シエラ「…っ……」

ルーヴェリア「あなたは間違っている。先にも述べた通り、これは王命です。どんな戦になろうと生き残れるよう鍛えてくれという王の願いです。異を唱えるならば、私ではなく王になさい。それが無理だというのなら、殿下が戦に赴かずとも良くなるよう、あなたが世界を動かしなさい。それが出来ないから、私達は足掻いているのですから」

シエラは黙るしかない。

自分に世界を動かせるような力は無いのだ。

世界を動かすなんてこと、少なくとも人間には無理だ。

魔族が如何程のものかは分からないが、多分魔族でも無理だ。

自分の愚かさを痛感する。

何のために鍛錬をするのか、分かっていたはずなのに。

そもそも王命に逆らうことだって出来ないじゃないか。

ルーヴェリア「理解したのなら持ち場に戻りなさい。夕食の時間になります」

ルーヴェリアは剣を納めて再び机についた。

シエラ「……はい、申し訳…ございませんでした」

シエラは大人しく下がった。

下がるしかなかった。

アドニスを守りたい一心だったが、彼を守るためには、今は耐えてもらうしかない。

自分はなんて無力なんだろうか…。

がっくりと肩を落とし、アドニスの元へ戻っていく。

部屋に入ると、アドニスは屈託のない笑顔で迎えてくれた。

アドニス「シエラが何をしに行ったのかは、大体わかるよ。師匠に怒られたでしょ?」

シエラ「う…は、はい…」

アドニスはシエラに礼を言いながら、更に笑顔を深めた。

アドニス「ふふ、ありがとうシエラ。でもね、これは師匠だからこその厳しさなんだ。この間ね、魔族との戦いについてちょっとだけ聞いたんだ。僕、信じられなかった。話を聞いてるだけでもとっても怖いんだ。師匠もきっと怖かったんだ。同じ思いをしないように厳しくしてくれてるんだよ。それに、父上のご命令じゃ、逆らえないしね」

ああ、こんな幼い子供でさえわかっていたことなのに…。

シエラはまた、肩を落とした。

アドニス「さてと、お腹すいちゃった。早く食堂に行こう、シエラ」

ぱっと彼女の手を取って引いていく。

食事までまだ少し時間はあるのだが、恐らく彼なりの気遣いだ。

これ以上話を長引かせて、シエラが余計に落ち込んでしまわないようにだろう。

シエラは彼の手に引かれながら、幼い背中に王族の血を感じたのだった。


翌日、朝食を終えてすぐルーヴェリアの元へ向かったアドニスは、昨晩のシエラのことについて、上に立つ者として謝った。

アドニス「昨晩はシエラがごめんなさい。僕が止められなかったから、師匠に嫌な思いをさせてしまいました」

ルーヴェリアは首を横に振り、簡単に返答した。

ルーヴェリア「お気になさらず。あとルーヴェリアです、殿下」

アドニス「はい!師匠!」

…………。

始めましょうか。

今日も素晴らしく激痛な1日が始まった。

そういえば、最近大分肉付きが良くなってきた気がする。

まだ壁に激突してはいるが、木の枝程度なら、少し踏ん張れば一撃は耐えられるのでは…?

そう考えたルーヴェリアは、アドニスに全身に力を込めるよう指示をした。

アドニスは言われた通りに、しっかりと地面に足をつけ、よく分からないが、全身に力を入れてみる。

ルーヴェリア「では…」

風切り音の後に全身を痛みが駆け巡ったが、なんと片足が少し動いた程度で、吹っ飛ぶことはなかった。

アドニス本人も驚いているようだ。

ルーヴェリア「…なるほど」

良い傾向だ。この短期間でこの成長速度、悪くない。

もしかしたら、成長速度は自分より速いのではなかろうか。

アドニス「師しょ…わ!?」

見ましたか!?と言いたかったのに、今度は体が飛んでいってしまった。

ルーヴェリア「…何故2撃目が無いと思ったのですか?1撃で倒せなければ、敵は追撃してきますよ」

鬼だああああああ!

ああ、誰がルーヴェリアの厳しさは優しさだと勘違いしたのだろう…。

アドニスの地獄の鍛錬は、まだまだ始まったばかりである。

【おまけ】

ある日の騎士団 1


第2師団団長のクレスト・アインセルは、ルーヴェリアに育て上げられた騎士の1人。

本当は第3師団にも同じ境遇の騎士がいたが、かの戦いで戦死したため、現状では地獄の訓練を越えられた唯一の騎士である。


国王「…ルーヴェリアにしたぞ」

クレスト「はい?陛下、主語がありませんぞ」

国王「いや、第2王子に剣を習わせようと思ってな…出来るだけ強者の下で習わせたい。だから、ルーヴェリアにしようと思…」

クレスト「おやめ下さい陛下!第2王子殿下が死んでしまいます!!!」


曰く、あれは人ではない。

鬼や悪魔、もしかしたら魔族の出身やもしれませんぞ、と。

絶対にやめた方がいい。


クレスト「もう一度言います。絶対にやめてください」

国王「そんなに酷かったのか…しかしもう王命を下してしまったぞ」

クレスト「……第2王子殿下のお命とお心がご無事であるよう祈ってください」



後日


国王「案外大丈夫そうだったぞ、服は異様なまでに破れていたが、怪我はなかった」

クレスト「現実を見てください陛下…その破れた服の破れ具合と裂け具合をちゃんと見てください………」

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