アドニスvsルーヴェリアの幻影
体調不良で更新遅くなっちゃいました。
すみません…。
気を取り直して、アドニスの鍛錬編となります!
どんな苦行が待ち構えているのかな?
わくわくしながらご覧ください!
テオが一方的にのされるのを横目に、アドニスは指定された自分の鍛錬場へと歩いていく。
アドニス(どうしよう…大丈夫かな…テオ、殺されたりしないかな…というか…し、死んじゃわないよね…)
と思いつつ、いつもの鍛錬場へ。
しかしそこにも地獄が広がっていた。
四肢の一部が欠損したもの、下半身が溶けて無くなってしまったもの、それでも、ただ一人の少女へ剣を届かせようと足掻く兵士たち。
アドニス(せ…戦争が起きてる…それも一方的に殺されてる……え、殺されてる!?)
ぎょっとしてこれは大丈夫なのかと兵士の向こう側に立つルーヴェリアに視線を送る。
向こうはこちらに気がついていないようだが、治癒の魔術を度々行使している様子から、多分…多分大丈夫だと信じたい。
アドニスは兵士達に背を向け、彼らの戦場とは反対側に歩いていく。
暫くすると、ルーヴェリアが待っているのが見えた。
いや、正確には彼女が魔術で編み出した幻影のようなもの。
幻影といっても、しっかりと彼女本来の力を十分に発揮できるよう構成されたものだ。
彼女の双子と考えた方が妥当だろう。
唯一の欠点として、喋ることができないようだが、アドニスはきちんと頭を下げて挨拶をする。
アドニス「よろしくお願いします」
彼女の姿をしたそれはアドニスの挨拶に応えるように頭を下げてきた。
アドニス(そういうところも同じなんだ…)
若干感心しつつ剣を抜く。
もちろん、もう木剣ではなく真剣だ。
彼女も剣を抜いた。正眼に構えるわけでもなく、ただ抜いただけ。なのに。
アドニスの心臓は跳ね上がる。
いつもの鍛錬では感じない感覚。
目の前に立っているのは、あれは、鍛錬をするものじゃない。
自分を殺すためのものだ。謂わば、死神。
向けられる殺意は本物で、少しでも気を抜けば自分を待つのは死だ。
一旦、呼吸を整えて覚悟を決める。
そして地面を蹴った。
今までの鍛錬のおかげで培った身体能力は、並の人間を超えてはいるが、それだけでは足りないので、全身に対して身体強化の魔術を施している。
故に、その速度は人間には見切れるはずもない。せいぜいそこにいたという残滓が見える程度だろう。
キン、と高い音が鳴る。
アドニスが振り下ろした剣を彼女が受け止めた。
アドニス(腕が…痺れる…!?)
彼女は受け止めただけ。別に弾き返そうと動いてはいない。
だから自分の腕力が起こした衝撃に痺れたと考えるのが妥当だが、前述の通り身体強化を施しているのでそういったものはいつもは感じない。
つまり、弾き返すように動いてはいないように見えるだけだ。
結果、力負けしたアドニスはバランスを崩して背中を地面に叩きつけられる。
アドニス「っ…」
息を詰まらせる間に迫る剣先。
それは目前、弾かなかれば片目をやられる。
最大限の力をもってその剣に真横から刃をぶち当てる。
アドニス「は…?」
微動だにしない彼女の剣に、自分の目を疑う。
貫かれた右目の痛みを忘れるほどに。
今自分は鍛え上げられた身体を更に強化して、最大限の力を振り絞って彼女の剣に思い切り振り抜いたんだぞ。
なのにぴくりとも動かなかった。
彼女はアドニスの右目から剣を抜き、今度は心臓に狙いを定めた。
今起きたことに理解が及ばず固まるアドニスに、喋りはしないが彼女の瞳がこう言っている。
──抵抗の意思を胎内に置いてきたんですか。
アドニスは咄嗟に体を横に転がし、降り注いだ剣は地面に刺さる。
片側の視界は無いが、まあ、日頃の鍛錬のおかげで痛みは大したことない。
体勢を立て直そうと立ちあがろうとした時、背中から衝撃が。
地面が突出してアドニスの背中を打ったのだ。
恐らく貫こうとしたのだろうが、鎧が防いでくれたらしい。
が、衝撃で骨にヒビくらいは入っただろうし、何より…。
物理法則に則って彼の体は中途半端に宙に浮いている状態。
体勢を立て直せるほども浮いてないせいで彼女の追撃を嫌でも喰らってしまう。
胸部のプレートを粉砕する踵落とし。
なんという怪力、規格外。
しかも。
アドニス(なんで…ヒールもついてないのに刺さってんの…僕の体に…師匠の足……)
抉るように胸元に刺さった彼女の足は、的確に心臓に届く一歩手前で止まっている。
彼女が足に力を込めるのが伝わってくる。
止めを刺される前になんとかしなければ。
アドニスは腹筋を使って足を持ち上げると、彼女の首を後方から挟んで投げ飛ばす。
下半身を起こしたことで若干刺さっていた彼女の足が前進してきたが、心臓は守れたので良しとしよう。
彼女はふわりと着地した。
こちらが動くのを待ってくれているようだ。
一応、殺害ではなく鍛錬が目的ではあるらしい。
恐らく、今までの流れ全てがアドニスの成長具合を確かめるための小手調べ。
アドニス(参ったな…太刀打ちできない…)
治癒の魔術で鎧は戻らないまでも体の修復は万全になる。片目も戻った。
とりあえず、近付かないことには攻撃は当たらない。
よし、と一歩踏み出そうとしたところで体が宙に浮く。
アドニス「重力操作…!?」
浮いたと思ったら落ちる。
落下地点にはいつの間にか作り出された逆さの氷柱。
つまり、落とされたらそれに貫かれる。
アドニス「まず…!!」
思った時には既に遅い。
腹部を貫く氷柱、上げては落とされ、上げては落とされ、上げては…ああ駄目だ。ループに入ってる。
完全に彼方のペースで、こちらはなす術もなくこのまま…まあ刺さりどころもだいぶ悪いからそろそろ死ぬだろう。
アドニス(失血のせいかな…頭も回らなくなってきた…)
悠長に考えている間にも、体は宙に浮いて落ちて刺さってを繰り返している。
考えるのが面倒になってきた。
こういう時は、考えるのをやめてとりあえず現状を脱却する方向に体を動かすに限る。
ひとまず、宙に浮いた時にありったけの魔力を込めた剣を彼女に向けて投げつける。
彼女から放たれる魔力の流れを妨害するためのものだ。
お陰で重力操作は切れ、刺すためではなく普通に体は落下していく。
氷柱を足蹴にルーヴェリアの元へ行き、地面に突っ刺さった剣を抜いて手元に戻…そうとしたが彼女の方から近付いてきたので素手と魔術で勝負するしかない。
治癒術を施しながら最速で止めていた思考を回転させる。
自分の魔力量では、魔術に対して高い耐性を得ている彼女に魔術で攻撃をしても届かない。
であるならば、彼女の魔術行使を防ぐ方向に全力を注ごう。
身体強化と治癒の使用に支障が出ない程度ではあるが、戦闘範囲内全域に魔力を放出し、相手の魔力の流れを常に乱す、謂わばジャマーを張る。
本音は剣を取りに行きたいが、目の前に彼女という障壁があっては難しい。
アドニス(うまく立ち位置変われないかな)
簡単なのは彼女がこちらに肉薄してきたとき。
攻撃をかわせば自分は向こう側へ行って剣をとれる。
しかしその考えは瞬きをする間に打ち消された。
目を開いた時には彼女は既に目の前に居て、認識した時には自分の"首"が飛んでいたから。
辛うじて残ってる視神経を通して、頭のない自分の体が倒れていくのを見る。
アドニス(ここから生きられる保証って…あるんだろうか…?)
そんな思考を最後に、視界も意識もぷつりと途絶えた。
はっと気がつくと、アドニスは鍛錬場に立っている。
首は…繋がっている。
アドニス(何が…起きた…?)
鍛錬開始の時と同じように、彼女は立ってこちらを見ていた。
先ほどの先頭の跡、多量の血痕もきっちり残っているので、自分が死んだことも間違いなさそうだが。
アドニス(まあ、死んじゃったら鍛錬にならないし師匠が死罪になっちゃうよね……あれ、師匠の場合死罪にできないよね…死なないし……じゃあなんだろ…流刑とか…?)
考えながら剣を抜いて構える。
今度は彼女の方から斬りかかってきた。
先ほどの戦闘から、彼女の剣は受けるのも弾くのも得策ではない。というか無理だ。
剣筋はなんとか見えるが避けるのが精一杯だ。
アドニス(というか…師匠、腕50本くらい生やしてない…?)
そんな訳はないのだが、そう思っても仕方がないくらいに多重に斬撃が襲いかかってくるので仕方がない。
時々掠めて血が出るが、なんとか致命傷は避けている。
だが攻撃に転じることができず、一方的にやられっぱなしだ。
結果数十分膠着状態になったものの、消耗させられた末に両腕両脚を切り飛ばされ、動けなくなった瞬間また首が飛ばされる。
そして気がつけばまた最初に戻る。
正直精神的に厳しいものがある。
自分が死んだ時の記憶が残ったまま生き返って、永遠に勝てない相手に挑み続けなければいけない苦痛は確実に心への重撃だ。
アドニス(今回の鍛錬ってそういう意味合いがあるのかもな…)
剣、魔術、体術、あらゆる面で負け続け、魔道具まで持ち出してはみたものの、結果3度目の死を迎えた。
次に気がついたのは鍛錬場ではなく、鍛錬場に備わった医務室だ。
疲弊し切って泥のように…いや泥になるしかなくなっている兵士や、テオの姿もある。
なるほど、時間的に鍛錬終了か。
ルーヴェリア「お疲れ様です。殿下」
今まで戦闘中だったためか反射的に剣を抜きそうになるが、もう終わったのだと冷静さを取り戻して振り返る。
アドニス「お疲れ様です。師匠」
ルーヴェリア「ルーヴェリアです、殿下」
お決まりの会話がどんよりとした医務室の空気を少しだけ和らげてくれる。
ルーヴェリア「いつもとは違う鍛錬になりましたが、いかがでしたか」
その問いにまず答えるべきなんだろうがそれよりも言わせてほしいことがある。
アドニス「その前に、一ついいですか」
ルーヴェリアはどうぞ、と頷いたり
アドニス「首3回飛んだけど生きてるのなんでですか」
周囲の人間全員がギョッとしてこちらを見る。
今なんつった?首飛んだ?3回??
もちろんその視線はテオもクレストも向けている。
ルーヴェリア「時間操作の魔術で殿下の体を死ぬ前に戻しました。そしてそうすると戦闘の記憶がなくなってしまうので、記憶に干渉し戦闘後のものに戻したのです。流石に魔力の消費量が多いので数回しか扱えませんが」
絶句、いや、唖然?が正しいか。
どこまで化け物なのだこの女は、というのが正直な意見である。
アドニス「ちなみにそれを行使したのは師匠の幻影ってことでいいんだよね…」
ルーヴェリア「はい。私の半身のようなものなので本来の力は出せてません」
兵士(それでアドニス様の首3回も飛ばしたの!?)
アドニス「あはは…そうですか…」
もう笑うしかない。
この人が全力を出したら多分世界滅びるんじゃないか。
アドニス「ひとまず納得しました……感想は、心が痛いです」
ルーヴェリア「構いません、それが目的です」
もうみんな、笑うしかない。
あの人に着いていくと決めたことを後悔してももう遅いし。
味方なだけマシだと思おう。
クレストだけだ、心から楽しそうにしてるのは。
クレスト「相変わらずの鬼教官ですな、師は。さて、皆汗もかいたことですし、水でも浴びに行きましょうか」
ルーヴェリアはふむ、と考える。
魔術で水を出してもいいが、ここが水浸しになるのは後始末が面倒だ。
アドニスもその考えを察して考える。
と、言い出しっぺのクレストが案を出した。
クレスト「給水塔があるではありませんか」
その一言に全員が納得。
一応貯蓄用に作りはしたが別に水なんて魔術を使えば無尽蔵に湧き出るようなものだし、給水塔一つくらい使ったって誰も文句は言わないだろう。
何せもう何も考えたくないくらいには疲れてる。
アドニス「よし、給水塔まで行軍だ!」
兵士(え、今なんて)
ルーヴェリア「総員!走れ!!」
兵士(まじかよおおおおおおお!!!)
兵士達は最後の気力を振り絞って天国へと走るのだった。
【おまけ】ある日の騎士団
鍛錬後、給水塔へと行軍中の時のこと。
少し気になることがあって、テオは隣を走るクレストに声をかけた。
テオ「クレスト様、訊いていいっすか」
クレスト「何だね?」
テオ「分身術って、動かすのは分身の元になった本人っすよね」
少なくとも魔術書にはそう書かれている。
つまりこれが正しいならば、ルーヴェリアは自分の分身体を動かしながら兵士3000人の相手をしていたことになるわけで。
規格外だとか化け物だとかの域を超えた場所にあの人は立ってるわけで。
クレスト「うむ、間違いないぞ」
テオ「……よかったっすね、あの人が俺たちの味方で」
もし、何らかの理由で帝国、或いは魔族側に回っていたら。
そう思うとゾッとしてしまった。
クレスト「あの方は愛国心に溢れていて、仲間思いな方ですからな。たとえ天地がひっくり返っても、あの方は我々の側に立つでしょう」
テオ「なら安心っすね。てか、あの人にはちょっと酷かもしれないんすけど」
クレスト「む?」
テオ「俺たちが方面で防衛線張って戦線維持してれば、あの人来た瞬間その戦場終わりじゃないっすか」
クレストは困ったように笑った。
クレスト「それはそうですな。それが出来るお方ですよ。我が師は」
だって彼女は、いつかの戦場でそれを成し遂げたのだから。
たった一人で。




