帝国との戦
昼食を終え、午後の講義へ向かう騎士団長達。
次に聞いたのは、とんでもねぇ力を持った魔族の話と、帝国が侵攻してきてから停戦協定を結ぶまでの話を聞かされるのだった。
昼食を済ませた騎士団長4名は、再び禁書保管庫へと戻ってきた。
クレスト「ではこれより、魔界を統べると言われている魔王について講義を始めますぞ」
ルーヴェリアはアドニスとテオに見えるように古書を広げた。
サフラニアの歴史書であり、今から数えて約50年前の事柄が書かれている。
そこには、終戦直前に魔王自らが現れ停戦を持ちかけてきた、とあった。
クレスト「魔王の名はイレディア。側近は3名、天位宰相ウラスルティーヌ、地位宰相グラヴァロワ、そして魔女王サーシャだ」
クレストの話では、その3名は歴史書に記されている通り、停戦の話を持ちかけてきた時以外姿を現していないとのこと。
そこでルーヴェリアが口を開く。
ルーヴェリア「サーシャとは一度交戦…いえ、剣は交えていませんが邂逅したことはあります。私に不老不死の呪いをかけた魔女です。
当時の記憶では、炎を操る魔術を使役していましたが、私の呪いのことについては長く研究してきたのにいまひとつ分かっていません。
強いて言えば、思うがままに時を止めることができるのか、或いは、時そのものを操る魔術である可能性が高いです」
アドニスとテオは目を瞠った。
アドニス「では、もしそのサーシャとやらが戦場に現れたら…!」
テオ「その場で時間を止められて全員殺し終えてから時間を進めることもできるってことっすか…!?」
ルーヴェリアはこくりと頷いた。
ルーヴェリア「可能性は高いでしょう。魔術棟にて魔術的干渉を防ぐための魔装具の作成を行っていますが、それが通用するのかさえ今は不明です」
そのサーシャとかいう魔女が現れたら終わりだ。戦争になんてならず一方的に蹂躙され滅ぼされてしまう。
これは流石に、鍛錬でどうこうできるものではない。
ルーヴェリア「……あの時私が殺すことが出来ていれば、良かったのですが…申し訳ありません」
言葉とは裏腹に淡々としている。
唇を噛むことも、手を振るわせることもなく、彼女はそう言った。
アドニス(また感情を殺している顔をしている……歴史書には、その時に師匠の故郷であるデッドリストが滅びたと書かれていたっけ……)
先日隠れて読んだ書物にルーヴェリアの生い立ちについて書かれていたため知ったことだ。
あれはどうしようもないことだった。
森に現れた魔族が森へ入った人間を虐殺し、討伐に向かった小隊は壊滅し、隊を率いていた彼女もまた、致命傷を負ったのだ。
その状態で時間を操るという力を持った敵に立ち向かったとして、どうやって勝つというのだ。
きっとその魔族の気まぐれでルーヴェリアは生かされたのだろうが、家族と故郷を焼き払われた直後にそんなこと。あまりにも惨すぎる。
暫しの沈黙の後、ルーヴェリアが少しだけ力のこもった声で言った。
ルーヴェリア「ご安心を。奴が現れたら次こそは私が冥府に叩き落としますから」
そのためだけに得た力もあるのだが、そこまでは言わなかった。
不老不死の呪いをかけられているとはいえ、多用すれば命が保つのかわからないからだ。
余計な不安は抱かせない方がいい。
まだ少し不安そうにしている2人を置いて、彼女はクレストに視線を向ける。
ルーヴェリア「クレスト、続きを」
クレスト「はい。では次に、サフラニアの開戦から停戦までを教えよう。古書の最初の頁を開きなさい」
言われた通り頁を捲ると、そこには最初から壮絶な戦争の歴史が記されていた。
今から95年ほど前、サフラニアの領地南部に位置するエレゾルテ山脈の鉱山を手に入れるため、ウェス・トリステス北側に位置するアールマグ帝国が侵攻を開始。
当時中立の立場にあったアルゼト小国に要塞になるよう話を持ちかけたが、交渉は失敗し、帝国軍は攻撃を行った。
その際、アルゼト小国よりサフラニアへの救援要請があったのが始まりだ。
アールマグ帝国とサフラニアの間には二つの山脈があり、アルゼト小国はその山脈と帝国領側にあるゼーレース海の間にある国であったため、アルゼト小国の民達は海沿いに西へと進んだところにあるメレンデス小国へと避難。
サフラニアの国軍と帝国軍が相対したのは丁度アルゼト小国の中心部。
避難は終えられていたものの、建物の損壊等が酷く、住民の帰還が難しいとのことで戦場は常にアルゼト小国近隣で行われることとなった。
帝国軍の軍事力は凄まじく、火器や砲台を多量に使用していたため、サフラニアへの被害は甚大なものとなった。
しかしサフラニアには優れた魔術の力を持つ者が多数存在したため、戦いは総力戦まで進み五分五分になる。
開戦から2年ほど経過した折、ついにゲートが開かれた。
場所はサフラニア王国北西のヘルベ湖。
水棲の魔物を主軸に、植物系の魔物達がサフラニアに向け侵攻を開始。
帝国軍に対し総力戦を行っていたサフラニアはやむを得ず戦力を割いてこれを迎撃。膠着状態となったまま更に2年の月日が経過した。
アルゼト小国民が避難していたメレンデス小国近郊の村、バーバレイにもゲートが出現。
魔獣の群れがサフラニアとメレンデス小国へ侵攻を開始し、サフラニアは帝国と魔族から挟み撃ちを受けることとなる。
戦闘には勝利したものの、バーバレイはこの時消滅。
生き残った住民は2名おり、サフラニアにて保護されることとなる。
帝国と魔族、両面から攻撃を受けたことで、サフラニアの兵力は低下。
そこでメレンデス小国より更に西に位置するラシェクス小国に援軍を求め、陸路と海路を利用し魔獣の群れを殱滅。
帝国軍との戦線も押し戻すことが出来た。
ここで、アルゼト小国、メレンデス小国、ラシェクス小国の3国は同盟を結び、サフラニアの友好国としてサフラニア北西諸国と呼ばれるようになった。
彼らの援軍により、拮抗していたヘルベ湖の魔族との戦いも終結を迎える。
そして帝国軍との開戦から5年後、各所でゲートが開いた。
帝国領に1つ、サフラニア側にはヘルベ湖、サフラニア西部のヴィト・リーシェ湖、エレゾルテ山脈、そして帝国領との間にあるケレテス山脈の4箇所である。
北西諸国はヴィト・リーシェ湖にて開戦したものの、圧倒的な魔族の数に敗戦を繰り返し戦線を後退。魔族達は北西諸国南側にあるファランス山、シュガル山、開戦場所であるヴィト・リーシェ湖を占拠した。
帝国軍も魔族の侵攻を受けたらしく、戦線を後退する兵力もあったおかげで、サフラニアも魔族の侵攻に対応するだけの戦力を割くことが出来たが、長年の戦いで疲弊した兵士達では相手にならず、サフラニアの四方は魔族に囲まれてしまった。
そこで、サフラニアは兵力拡大のため志願兵を募ることにする。
そこで現れたのがルーヴェリア・シュヴィ・ヴィルヘルム。当時11歳という若さで志願してきたために、実力を確認するための闘技大会が開かれたが圧勝。
異例ではあったが特別に騎士団に入隊することとなった。
彼女はまず、北西諸国の救援に向かう。
200余名の兵士を引き連れ、ヴィト・リーシェ湖の魔族へと反撃を開始。
僅か数名の犠牲のみで凄まじい戦果をあげ湖の奪還に成功。
そのままシュガル山、ファランス山へ進軍し魔族を撃滅しつつ、北西諸国の救援を成功させた。
道中の戦いで兵力は半分になってしまったものの、彼女がほぼ1人で最前線を担っていたため、兵士達からは英雄と讃えられるようになった。
更に、北西諸国より1000の兵士達を引き連れケレテス山脈へ進軍。
サフラニア王国の残存兵力と併せて1200の兵士を率い、魔族を帝国領方面へと後退させた。
そして帝国軍との戦線を保っていた兵士達と共に残党を処理後、王都へと帰還する。
この間は彼女が騎士となってから僅か1ヶ月と経っていなかった。
北西諸国は自国領の守備に、帝国領側の兵力は戦線復帰したため、やはりサフラニアの兵力は残り2000と僅か。
ルーヴェリアはサフラニアの貿易の生命線とも言える鉱山を取り戻すため、休む間もなく500の兵を率いてエレゾルテ山脈へと進軍。
軽傷者を十数名ほど出したものの、地形を活かした見事な戦術で魔族を圧倒。
そして王都方面へと引き返すと、そのままヘルベ湖の奪還まで完遂した。
ここで、帝国軍は彼女の噂を聞きつけたのか停戦を申し出、帝国軍とサフラニアの戦いはひとまず収束することとなった。
サフラニアは魔術棟を設立し、ゲートについての研究、破壊方法などの研究を開始する。
圧倒的なルーヴェリアの戦力を恐れたのか、以降魔族が現れることはなく、逃げ仰た残党が見受けられる程度となった。
領土奪還の1年後、ルーヴェリアは12歳という若さで王国騎士第一団長の座に就くこととなる。
クレスト「ここまでが、帝国軍侵攻開始から終戦までだ」
テオ「帝国軍との開戦から5年後に11ってことは…ん…?え?ルーヴェリア様はいつから剣やら魔術やらを?」
ルーヴェリアは当時のことを頭に思い浮かべながら答えた。
ルーヴェリア「…確か、4つです。農業を主としていた村に生まれましたが、不作が続いたため、大人達は狩りを行うようになったのです。
最初は狩りを行うために剣を学ぼうとしましたが、まだ幼く力が弱いからと反対されたので、1年間は体力作りに勤しんでいました。
その努力を認めてくれたのか狩りに連れて行ってもらえるようになったので、村周辺を駆け回ってひたすら狩りをするようになりました。
開戦前は、軍隊が出てくるほども大きなゲートはなかったのですが、獣数匹程度が出てこられるような小さなゲートは各地で開いていたので魔族も勿論居ましたよ。
遭遇率は高かったのですが、1体なら大人数名でかかれば狩れる程度ではありましたので問題はなかったのです」
アドニスは昔、鍛錬の合間に聞いた話であることを思い出した。
アドニス「確か、喜び勇んで岩や木に体当たりをし、魔獣相手なら爪にも牙にも当たりに行ったと聞きましたが…」
テオ「は?」
ルーヴェリアはこくりと頷いた。
ルーヴェリア「狩りに出るようになってからはそうでした。初めて怪我というものを負った時、痛くて動けなかったのです。でもそれでは戦えないじゃないですか。だから痛みを感じても動き続けることができるようにわざと怪我を負うようにしたのです」
テオ(正気の沙汰じゃねえ…)
青ざめるテオに、ルーヴェリアが視線を向け口を開いた。
ルーヴェリア「これからは貴方にもそうしていただきます」
テオ「!?」
やめて!どんなことされるの!?てかなんでアドニス様もおっさんも止めねえんだよ!
誰か止めろよ!
視線で他2人に心の叫びを、助けてくれと懇願するが、2人は…。
アドニス「そうだね、それがいい。僕も最初の頃はそれで忍耐力を鍛えられたし、体力作りにもなるからとても良いよ」
クレスト「師の鍛錬は厳しいですが、乗り越えれば無敵の強さを得られますからな!」
にこにこと笑って賛成している。
テオはがっくりと項垂れた。
テオ(だれか…たすけて…前におっさんから聞いたけど破壊鉄球でこれでもかというほど殴られるとか聞いたし…いやだ…たすけて…)
ルーヴェリア「さあ、その後の歴史もありますから続けましょう。クレスト、説明を」
クレスト「承知いたしました」
【おまけ】ある日の騎士団
昼食を摂るための食堂に、アドニスとテオが並んで座っている。
第二王子と騎士団長の1人が肩を並べて座っているなんて光景を見たことのなかった兵士は、つい、2人の会話を盗み聞いてしまった。
テオ「アドニス様はあんま、驚かなかったっすね」
アドニス「師匠のこと?……僕は少し前に知ってしまってたからね」
テオ「きっと色んな痛みを味わってきたんすよね…魔族についてあんなに詳しく語れるってことは、それだけ戦闘経験があるってことで…」
それだけ、失ったものも多かっただろう。
そう思うと、流石のテオも胸が痛む。
アドニス「そうだね…だから僕達はまだまだ、もっともっと強くならないといけない…魔族に勝つためには、師匠くらい強くならないとダメなんだ。一緒に頑張ろう」
テオ「はいっす」
魔族襲撃のことは周知の事実で、会話を盗み聞きした兵士も勿論知っている。
だが、あの怪物級に強いルーヴェリアほど力がなければ、魔族との戦いは話にすらならない可能性があるとは初めて知った。
この国の兵士になった時、騎士になると決めた時、守るべきもののために戦うと覚悟は決めている。
以前と比べてルーヴェリアの厳しい鍛錬に参加する者は増えたが、まだまだ足りないだろう。逃げず現実に向き合わなくてはならないことをもっと他の者にも広めなくては。
そして魔族なんて蹴散らせるほど皆で強くなろう。
そう心に誓ったのだった。




