表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/39

3ヶ月後


『ユメのクルマ』を応募して3ヶ月。

なにも音沙汰がないから、なにもなかったと思っていたら

中村先輩が受賞していた。

はなしをきくと、よく考えられていて受賞に納得した。


ところが、友佳も。


総務経由で

『ユメのクルマ』を応募してから3ヶ月が過ぎた。


総務部は結局ノルマをこなして

23件の『ユメのクルマ』を送り込めたらしい。


応募総数はどれくらいになったのだろう。

当社で、これだけの件数を送り込んでいて

ほかの会社や個人も、きっとそれなりに応募してるから

相当数のアイデアが集まったんじゃないかな。

きっとアイデアのなかには

実現可能な『ユメのクルマ』もあったのかな。


あ、そうだ

今後の北斗自動車(もしくはファースター社)

から発表される車に注目してみようかな。

きっとアイデアが活かされているハズ。



3ヶ月経って、わたしやまわりに

なにもきこえてこないということは

わたしたちには、なにもなかったということなのだろう。


わたしの『ユメのクルマ』が実現したならば

すごく嬉しかっただろうけど

やっぱりダメだったみたい。残念。

すこしだいぶは期待したんだけど

そんなにうまくコトは運ばないね。


せめて、わたしの意見を汲み取ってくれて

北斗自動車の車が、少しでも、わたしにとって

使い勝手のよい車になってくれたらいいな。

そのときは、きっとわたしのアンケートが

役だったのだと思うようにしよう。


3年くらい後に

社有車が新しい北斗自動車の車になって

使い勝手がよくなって⋯

そんな未来がきてくれたら十分だ。




いつものように営業帰りに総務によった。

わたしにとってはここで友佳と他愛もないはなしを

する時間がすごく楽しい。


本日の貴重なブレイクタイムを楽しんでいたら

中村先輩がそーっとよってきた。


「実はね、わたしあたっちゃったのよ」

そういいながら、スマホの画面をみせてきた。


わたしはこのひとのこういうところが

好きだったりする。

仕事に関してはうるさいし

正直あんまし絡みたくないけれど

仕事から離れたら(いえ仕事中です)

素直でウラオモテなくて。

ふだんは、すこしかなりだいぶ抜けていて

かわいいと思うときさえもある。



「前に里美ちゃんにもお願いしたことあったやつ。

わたし完全に忘れてたんだけど⋯ほら」

画面には『優秀賞』とある。


(えーっ?ちょっと待って…

このひとが受賞するの⋯)


「先輩、どんな『ユメのクルマ』を送ったんです?」

友佳がいつもの調子で冷静にきいた。

ここであけっぴろげに包み隠さす答えてくれるのが

中村先輩のよいところ。


「えー?

そうねえ⋯簡単にいえば『誰も傷つけないクルマ』?」


「『誰も傷つけないクルマ』ですか?」


「そうなの。

…衝突安全装置とかあるじゃない?

だけどそれで完璧ではないから

ひとを傷つけてしまうこともあると思うの」


「そうですね。万全ではないですね」


「そうなの。万全ではないの。

だから、万一でも人とくるまが接触したら

くるまは大したことなくとも

人が傷つくことはあると思うのね。


どうして、

人のほうが傷つくことが多いのかなって考えたら

くるまが硬いからだと思わない?」


(そうなんだ。

中村先輩のよいところはいろいろな観点から

モノゴトを捉えられるところ。

クルマの機能に焦点をあてて

そこに夢を求めがちだけど、

中村先輩は別の切りとり方をしてくる)


「じゃあ、くるまと衝突しても

人がケガをしにくいようにしたらいいと思ったのね。

くるまが衝撃を吸収しちゃえばいいと思わない?

そこがわたしの『ユメのクルマ』のはじまり」


(……なるほど)


「衝撃を吸収しやすい素材はなにがいいかなって

考えたの」


(素材についても言及したんだ。。)


「素材で柔らかいとすれば鉄ではなくてアルミ。

ここまではいままで素材の軽さを求める段階で

先人がいきついているのね。

軽いからエコでもあるし

鉄と比較すればアルミは柔らかいから

人にやさしい素材ではあると思うの。


だけど

アルミだとくるま自体がすごく高価になってしまうし

ぶつけたときにくるまの修理が難しくて

どうしてもコスト面で厳しいと思うのね」


(これまた別の角度から検討している。。)


「それで考えたのは

金属から離れて

ウレタンとかゴムやプラスチックとかで

低反発素材なのね。

アルミより更にクッション性もあるし

いいと思わない?」


「それだと耐熱性に難点がありそうですね。

そこについては何かコメントされたんですか」

友佳が更につっこんだはなしをする。

 

(友佳ちゃん…あんたすごいよ)


「しらないわよ。

わたしはくるまとは無縁の薬屋の総務よ。

コンセプトを考案するだけ。

そんなコンセプトから

適切な素材を見つけ出すのが 

メーカーの技術者のお仕事よ。


耐熱性、耐久性、コスト面、加工のしやすさとか

いろんなことを高次元でまとめないといけないから

大変だと思うわ。

だから『ユメのクルマ』だと思うの。

そして、わたしがコンセプトを考案したことで

交通事故の被害者が減らせたら素敵だと思わない?」



(さいごはちょっとつきはなした傲慢なニオイも

したけど、中村先輩はすごいな。

多面的で特に弱者保護に重きをおいている点は 

優秀賞をとって当然なのかもしれない)

「先輩すごいですね。

そんな深いところまで考えられてたんですね」

わたしはこころの声をそのまま伝えた。


「ありがとう。

…あなたたちはどうだったの」

中村先輩はわたしたちにきく。


「…わた…」

『わたしにはなにもきてない』と答えようとしたら


「いえ、わたしは先輩みたいな

ちゃんとした賞には入賞できませんでした。

参加賞みたいなものです」


(…え?なに友佳もなにかスマホに通知がきてるの?)

不意の友佳の発言にびっくりした。



「そうなの?

あなたはどんな『ユメのクルマ』を企画したの?」

 

「いえ、ほんとに大したものでないので」


「えー、わたしだけが発表するのってずるくない?」


「先輩がどんどんいろいろ話をされてるだけです。

ずるくはないですよ。

わたしは先輩と違って最低額の20万ですから

ほんとに話すのは恥ずかしいので⋯」


(え、20万て、それは中村先輩と同じ優秀賞。

けっこう大したことなのでは…)


「なんかわたしだけ、いろいろはなしちゃって

恥ずかしいじゃない。

なんだかなー」


ぶつぶついいながら中村先輩は行ってしまった。


(いやいやホントにすごいよ。

中村先輩ってホントにすごい人なんだ。

友佳も同じ優秀賞って。

ホントにふたりともすごいよ…)



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


実は期待していて、だんだんとやっぱりダメかなって

思っていたところ

自分以外が受賞ってこころが騒ぎますよね。


次回は友佳ちゃんのはなしです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ