ユメのクルマのはじまり
『ユメのクルマ』
みなさんにとってはどんな車でしょう?
『ユメのクルマ』
もし、理想の『ユメのクルマ』ができたら…
佐藤さんは社有車でこわい思いをしたことが発端で
『ユメのクルマ』に想いを馳せます。
どんな『ユメのクルマ』を紡いでいくのでしょう。
わたしは社有車が苦手だ。
いろんな便利機能を備えた車が苦手だ。
外回りから帰ってきたら総務で道草
そこで会話を楽しむ(イキヌキ)のがいつものわたし。
「さっき、すごくきもちわるいことあったんだよ。
社有車で郵便局によったのね。
あの郵便局の駐車場ってすごく狭くない?
隣にとめてたくるまにあてないように
柱スレスレのとこをバックしたの」
「あてたんですか?」
いつも総務でわたしの相手をしてくれるのは
ひとつ後輩の友佳だ。
「違うよ。あててないんだけど、なんかギュって
衝撃があったのね」
「あてたんですね」
「だから違うって。。
そう、わたし、絶対あてないから。
念の為、くるまから降りてみてみたの。
そしたら、やっぱりあたってなかったのよ」
「それは、あてたけどキズになってないから
セーフってことですか?」
友佳は年下だけど、いつも冷静だ。
…イヤ、すこしだいぶ冷たいときがある。
それでも、わたしのはなしをきいてくれるから
好きだ。
「⋯なぁに、きこえてるわよ。
あてたなら報告書書いてね。
保険会社に連絡しないといけないのよ。
あてた柱は大丈夫だったの?
警察は呼んだ?
あてたまま警察に届けていないと当て逃げで
捕まっちゃうわよ。
⋯さあ、自首しなさい」
彼女は中村先輩。
総務部のリーダーみたいな感じ
(実際の役職もリーダーだけど)
5歳くらい年上かな。すこしだいぶうるさい
だけど、最後は味方になってくれる。
だから、ほんとはいいひとなんだと思う。
「だからあててないですよ。
あたってないのにギュって、あたったみたいな
衝撃があって、とまったのが、きもちわるいなって
はなしてたんですよ。。」
「それは衝突安全装置ですね。
あたりそうだったから
クルマが『それ以上いってはダメ』って
とまってくれたんだと思います」
「なんだ、やっぱりほんとはあたってたんじゃない?
いいクルマでよかったわね。
これからは気をつけてよ。
あなたはたまに自己判断で暴走するときがあるから…」
ちょっとムッとなったのが顔面にでたと思う。
「あのまま進んでもあたらなかったですよ」
クチをとがらせてみた。
「それにあのクルマ…
前に、もっとひどいことあったんですよ。
道路をふつうに走っていたら、なんでもないとこなのに
急ブレーキがかかってとまったんですよ。
後ろを走るくるまが間をあけてくれていたから
よかったんですけど
なんでとまったか原因がわからないし
メチャクチャ怖かったんですよ」
「はいはい、事故にならなくてよかったわね。
⋯で、そんなクルマに不満をもつ佐藤さんなら
ちょうどいいわ。これをどうぞ」
一枚のチラシだった。
『あなたの《ユメのクルマ》こそっと教えてください
ーそのユメ叶うかもー』
〜総力をあげて1台の《ユメのクルマ》を創り上げます。
そしてあなたにプレゼント〜
どうやら北斗自動車のアイデア募集チラシのようだ。
「お客さまからいただいたのよ。
うちの社有車のメーカーよ。
この『ユメのクルマ』企画はアンケートも兼ねてるの。
これに改善策とかをかいて送るといいわ。
…っていうか
ごめん、申し訳ないけど協力お願いします。
うちの会社で20件は送らないといけないのよ」
と、拝まれた。
中村先輩からの頼みは断れない。
「総務全員は応募するけど
営業の子たちにもお願いしたいの」
要は北斗自動車が外部にアイデアを募集して
新車開発の参考にするということなんだろう。
わたしにとっては、お願いされなくても
今の社有車は苦手だから、わたしの理想のクルマに
少しでも近づくものつくってほしいと提出するよ。
「これって1人が最優秀賞もらえるんだけど
実車にできないアイデアの場合は
100万の賞金が選択できるのね。
優秀賞は最大100人に50〜20万相当の何かが
もらえるみたいよ。
100人ならもらえるかもじゃない?
やって損はないと思うからお願いね。
後で社内掲示板にも載せるけど…
あなたには特別にメールでも詳細要項を送るわね」
中村先輩は、おそらく初めからわたしに
このはなしをしたかったんだと思う。
(はいはい)
と思いながら『ユメのクルマ』に想いをめぐらせる。
(そうだよね。
確かに社有車は衝突しないという使命においては
優秀なのかもしれない。
安全第一だから、使命をまっとうするため
何が何でも危険を感じたらブレーキをかけるのだろう。
だから、なんともないとこで『あ、あぶない!』って
ブレーキをかけるんじゃないかな。
でもさ
そのために、うしろの車に迷惑をかけていると思うよね。
わっ?なんだ?なんでこんなとこで急にとまるんだ?
ってね。
…あとあと、勝手に暗いとこでライトがつくのは嫌。
っていうか、日中でもほとんど自動で
ライトついているんじゃない?
ってくらい明るいとこでもライトついてるよね。
それも手動でオフにできればいいけど
オフにできないし…
ーーー注、ここは佐藤さんの誤解です。
手動でオフにすることができることが
後日判明しました)
だからわたしは苦手なんだ。疲れるんだ。
人間だってそうだよね。
神経質な人の相手ってこっちが疲れる。
そうなんだ、うちの社有車は融通がきかなくて
使命感だけは一丁前で…)
「…ぱい、佐藤先輩?」
「…あ、ごめん、考えごとしてた。
あ、うん、中村先輩のはなし、ちゃんとやっとくから…」
「佐藤先輩、だから中村先輩に
ときどき暴走するっていわれるんですよ。
でも、そんな先輩がわたしは少し可愛くも見えますし、
好きなんですよ」
「ふぇ?」
「…これ、いっけん豪華にみえますけど⋯」
友佳がポツリとひとりごとのように話しだした。
「要は北斗自動車がアイデアを安価で集めたいんだ
と思います。
1名の実車プレゼントは、そのまますぐに実行できない
ようなアイデアなら100万の賞金支払いだけで済みます。
あとは継続的な開発をしていった結果
大ヒットになるクルマができたとしても
100万でアイデアを買い取ったことになるから
その製作権利は北斗自動車にあります。
もしかして、該当者なしともなれば
100万の支払さえもいらなくなります。
最大100名のほうも最大って上限がミソな気がします。
さすがにこっちはゼロではないと思いますけど
例えば3人が入賞で全員20万なら
60万だけの支払で済みます。
その程度でアイデアが集まれば
すごく北斗自動車にとって、リスクが少なくて
メリットが大きいはなしだと思いませんか。
…もうひとつ
下の方に小さく書いてありますけど
これって主催は北斗自動車じゃないんです。
北斗自動車は後援なんですよね」
「⋯あ、ほんとだ!」
「株式会社ファースターって
たしか北斗自動車のベンチャー企業だったハズです。
ベンチャー企業ってきこえはいいですけど
場合によっては、体のいいリストラの場合も
あるんじゃないのかなと思っています。
もしかしたら、今回もその類かもしれません。
北斗自動車がリストラしたひとたちの集まりが
ファースター社で。
北斗自動車が費用負担…といっても数百万
場合によっては60万程度の。
費用負担という手切れ金で
何もできなければそのまま切り離し。
一発うまくあてて、軌道にのれば
北斗自動車傘下の会社として生き残るみたいな
カタチかもしれません」
友佳は淡々と話す。
わたしはあっけにとられながらはなしをきいていた。
後で頭のなかで友佳の話を整理してみた。
友佳ってすごいな。
とおもいながらも、よくそこまで想像で怖いことを
考えられるなと、少しひいたりもしていた。
みなさん
まずはここまで読んでいただいてありがとうございます。
佐藤さんの体験は、ご想像のとおり
わたし(作者)が社有車で発生した実体験です。
こんなアンケートの機会があれば
わたしも佐藤さんと同じことを発想し
こたえるんだろうなと思います。
次回、佐藤さんの想い
『ユメのクルマ』をぜひ読み進んでくださいね。