表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/37

4.ハミング


「香菜、ごめん、起きられる?」


唯の声と急に明るくなった車内のまぶしさで目がさめる。

すっぴんだし、髪もボサボサだろうし、こんな姿見られたくないんだけど、と思いつつパーカーを雑にかぶり、ベッドから降りる。


「何、どうしたの、私寝てたんだけど」

「智輝が迷子になっちゃったかも!さっき、航一郎くんが探しに行ってくれたけど、美羽もいなくて」

「えっ?どういうこと?迷子?」


要領を得ない唯の話をまとめたところ、

私がフテ寝をしたあと、4人はしばらくたき火を囲んで談笑をしていたそうだ。


しばらくして美羽が寒いというので美羽と航一郎はテントに籠り、

それを幸いと唯と智輝も二人で森の中へ散策に出たという。


「結構奥まではいっちゃったら暗くて、それで、大きい影がでてきて、びっくりして」


クマが出たのだと思いパニックになり智輝とははぐれてしまったと。


「智輝もテントまで戻ってると思ったのにいなくて、航一郎くんと美羽もさがしに行ってくれたんだけど、まだ誰も戻って来てなくて、香菜もいなかったらどうしようかと思った」


しばらく待っていたが心配になって、私を起こしたのが今、ということらしい。

唯は興奮していて全く話にならないが、私だって寝起きで頭がよくまわっていない。


ただ、唯の着ている趣味の悪い蛍光イエローのパーカーをみて言いようのない不安を覚えた。

夢のなかで、あんな色の服を二人は来ていた気がする。そして。


「香菜、さっき、敵とかなんとか言ってたでしょう?もしかして、何か知ってるの?」

「そんな、私も何もわかんないよ」


唯が緊迫したまなざしで私をみつめる。

でも、上手く説明できる自信がまったくない。

そもそも私にだってなにもわかっていないのだ。

夢の話をして唯をさらに不安にさせてもどうにもならない。


「うーん……。とりあえず、私たちまで遭難したらまずいから、ここで待機しよう。ランタンももっと外側において、熊がでるなら、大きい音を出しておいた方がいいよ。USBスピーカーあったよね」

「わかった」


渋々といった感じで唯がスピーカーをスマホにつなぐ。

こっそり握ってみるが何も音はでない。

私が主人公だったらこういう意外性のあるものが伝説の武器だったりするのに。


「ちなみに、そのパーカー、智輝くんとお揃い?」

「えっ?そうだけど」


唯が怪訝な顔をする。


「あっ、暗くても目立つから見つけやすいかな、って」


昼間の夢が正夢にならないで欲しいと、それだけを願った。


「せっかくのキャンプなのになんでこんな」


さっきまでの私と同じことを唯が言い出して私もちょっと苦笑してしまう。

ほんとうに。

せっかくのキャンプなのにわけがわからない。



「唯ちゃん!香菜!美羽ちゃんはもどってる?」


森の中から声が聞こえてきた。

懐中電灯を向けると、航一郎だった。

智輝もいっしょだったが、ぐったりとしていて航一郎に肩をかりてようやく歩けている。


「智輝!智輝!!」


キャンピングカーの後部座席に智輝を寝かせる。


蛍光イエローのパーカーの背中側が血でぐっしょりと濡れていた。

なにか刃物のようなもので切り付けられたようだと航一郎は言う。


「智輝が死んじゃう!早く、救急車呼んで!!」


唯がスマホを取り出して絶望的な顔になる。


「圏外……!航一郎くんは?香菜も圏外なの?じゃ、じゃあ、車で早く病院につれてって!」


「いや、美羽ちゃんを置いていけないだろ。刃物をもった奴がいるんだぞ」

「でも!」


唯と航一郎がにらみ合ってる。


「とりあえず、傷口を綺麗にして止血できるなららしよう。その間に美羽も戻ってくるかもしれない」


そう声を掛けると、唯がはっとしてタオルを探しはじめた。


「香菜、サンキュー」

「ううん。とにかく、今できることをしよう」


自分にできること。


……ハミング?

そうだ、ハミングのスキルがあった。


私は智輝の耳元で適当な曲をハミングで歌ってみた。


「香菜!? なに?」


唯が混乱と嫌悪がいりまじった目で私をにらみつける。


「お願い、ちょっと待って」


智輝が負ったような深い傷に効果があるかはわからない。


”ピン”という機械音が頭に響いた。


心持ち智輝の呼吸が楽そうになったようには見える。


「なに、今の音……」


どこまで説明するべきだろうか。


「とりあえず、そのタオルで傷口おさえて」


航一郎が、タオルで智輝の背中を抑えると、じわりじわりと白いタオルが赤く染まっていく。

唯が思わず目を背ける。


消毒用にミネラルウォーターを探しているとまた『ピン』という音がなった。

智輝の様子を確認すると、表情がだいぶ穏やかになり顔色もよくなっている。


「唯ちゃん、新しいタオルある?」


航一郎が新しいタオルで押さえ直すと、パーカーにしみ込んだ血がつきはするものの、出血がとまったようにみえる。


パーカーの裾をまくり上げ、唯が濡れタオルで背中についた血を拭きとる。

切られたあとはあるが傷口が完全に塞がっていた。


航一郎が私の方をみる。


「これ、香菜が、治した……よね?」


私が答えあぐねていると、航一郎がおもむろに「ステータス・オープン」と唱える。

唯の表情が嫌悪で歪む。


「航一郎くんまで、どうしちゃったの?」


緊張した空気を打ち破ったのは智輝の声だった。


「唯、水ぅ。なんか、飲むもの」


声はかすれていたが、生気がある。

慌てて唯がミネラルウォーターのペットボトルを渡すと、智輝は勢いよく流し込んだ。

さっきまでぐったりとして意識を失っていたとは思えない。


「斧みたいなやつを持った大男に切り付けられたんだ」


智輝は、美羽がまだ戻っていないことを知ると、航一郎に早く探しに行くように促す。

唯がなにか聞きたそうにしていたが、智輝の言う通りだと思いなおしたらしい。


「航一郎くん、美羽をはやく探してあげて。さっきのは戻ったら説明して!」

「わかった」

「私も行く!唯、車にしっかり鍵かけておいてね」


私は急いでリュックにマラカスを詰めると航一郎の後を追った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ