37.エピローグ
「足手まといは言いすぎだったかしら」
いつものようにコップ一杯の常温のミネラルウォーターを飲み干すと、ウォータードリッパーとアロマディフューザーの準備をする。
インセンススティックは火事が怖いし、魔法を発動させる必要もないので一人の時は使わない。
キャンピングカーの施錠を確認して集落に向かう。
どうせ誰もないので施錠も必要ないのだがここまでがルーティーンになっている。
集落に足を踏み入れると靄が発生しはじめるので、広場まで走り抜け、靄がマックスまで湧き切るタイミングを見計らってエリアヒールで浄化する。
ここでタイミングが早すぎると再度湧きなおしが発生するし、遅すぎると靄の中から村人の霊や神官の霊が発生して時間のロスになってしまう。
それに比べるとボスの討伐は簡単なもので、神殿に向かってある程度の威力のある聖属性の魔法を打ち込めば終わる。
ボーナス・ステージのようなものだった。
キャンピングカーに戻った頃にちょうどコーヒーの抽出が終わる。
今日は卵をおとしたガレットを焼いてみた。
どうせすぐリセットをするので食事はとらなくてもいいのだが、それなりに魔力を使うので結局何か作って食べてしまう。
ボーナスステージとはいえ、そろそろ飽きて来たし、エッグベネディクトが上手につくれるようになったらもうこの面はクリアしようかしら。
レベルは100を超えてから一切あがらなくなった。
キャンプ場をクリアしたらレベルのキャップが外れるかと期待していたのに。
ただ、香菜をPKしたペナルティで下がったレベルが即座に戻ったので、あふれた経験値もちゃんとカウントされていると確認できたのは良かった。
香菜のMPが回復するスキル、あれを手放すのは惜しい気もした。
攻撃手段のない香菜一人くらいなら経験値配分もたかが知れている。
ハミングの重ね掛けができたなら確実に残したのに。
まあ、香菜には航一郎と花火にいく予定があるものね。
航一郎も残せば香菜のモチベーションも維持できたとは思うけれど、香菜のスキルを奪い終わった後、航一郎を残す意味はなかった。
大学のキャンパスとは違い、不躾に言い寄ってくる男もここにはいない。
自分がいなくなったせいで、香菜と航一郎は花火に行くのを自粛しそうなことだけが心配だった。
後で唯に怒られてしまう。
いちおう実家の松永には夏休み一杯別荘にいると電話をしておいたから、問題にはなっていないだろう。
そもそも唯の計画は『キャンプで航一郎と香菜をくっつけよう』だった。
全く興味がなかった。
けれど、長い間航一郎を虫よけ代わりに都合よく使っていた罪滅ぼしをしてあげて、と唯に詰め寄られたのだ。
だから、キャンプ場で二人が接近するのもアシストしたし、嫉妬をさせて香菜の危機感も煽った。
キャンプが終わった後の花火大会など、自分の知ったことではない。
キャンプ場で十分結果を出したのだから唯には褒めてもらいたい。
「それにしても新学期はカップルが2組だなんて」
付き合いたての男女の空気には耐えがたいものがある。
キャンプ場でもプールでも廃墟でも、あの二人は隙あらば体を密着させていた。
男性と付き合ったことがなく潔癖症気味の自分にとっては見ていてあまり気持ちのいい光景ではない。
あの二人の熱が冷めるまではこの意味のわからないゲームが続いてもいいなと思う。
「そうは言っても、新学期には戻らないとまずいかな……」
そう独り言ちると、美羽は目の前に浮かぶウインドウの「リセット」を選択した。
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