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34.死亡フラグ


なんだかふわふわとした感覚がずっと続いている。


キャンピングカーに戻ると、唯は起きていてアルコール度数の低いジュースのようなお酒を飲んでいた。

私にも勧めてくれる。


美羽は20時を過ぎたらカロリーは()らない、と言ってミネラルウォーターで付き合っている。


もう化粧を落としてしまったから、と智輝と航一郎はテントに追いやられてしまった。


「なんか変な一日だったね~」

「そうね」


「唯的には、リアル脱出ゲームみたいな感じで面白かったんじゃない?」

「ま、私はね~。香菜があの豚人間にさらわれちゃったときは焦ったよ」

「よく逃げ出せたわね」


「うん……美羽、唯、動画ありがとね。あれがなかったらパニックになってダメだったかもしれない」

「香菜が無事でホントによかったよぉ~」


美羽もそうね、と頷いた。


なんだかしんみりしてしまった。


「あ、でね、爪切りのやすりがダメになっちゃったとき、私も美羽みたいに、ネイルファイル30本持ち歩いてれば!って後悔したんだ」

「美羽の四次元化粧ポーチやばいよね」

「化粧ポーチには(・・)持ってないわよ」


には?

どこかには30本持っているってことだろうか……


「にしても、鎖引きちぎったとかウソでしょ?プラスチックだったとか?」


自分でもそんなことが本当にできたのが未だに信じられない。

試しにコーヒーのスチール缶を握ってみたところ、アルミ缶のようにくしゃりとつぶすことができた。


唯と美羽はジョブのせいかレベルのせいか同じようにはできなかった。


「もう普通の男の子とは付き合えないね。香菜の方が強いもん」

「ええ?」

「あら、智輝くんと航一郎くんはもっと力があるでしょう?」


航一郎、の名前が出たところで唯の目がキラリと光った。


「ところで。香菜、航一郎と出かけてたんでしょ~~」

「管理棟にコーヒー買いに行っただけだよ」

「ほんと?それだけ?あのヘタレ……」

「ちょっと、唯!?」


ジュースみたいなお酒なのに唯は随分酔っぱらってしまっているようだった。


「そういえば、来週花火でしょ。皆で行く?」

「えっと、その日はちょっと……」


花火、と聞いて口元が緩んでしまった。


「航一郎だな~~!航一郎と花火行くんだな~!」


観念して頷いた。


「キャンプから帰ったら、花火に行こうねって」

「香菜!ちょ!だめ~!それ死亡フラグだから~~」

「え?え?」


「あら。それは戦争映画でしょう?ホラーは関係ないわよ」

「いやいやいやいや、ゾンビ映画でもあるって」


唯と美羽が何をいってるのかイマイチわからなかったけど私と航一郎のことから話が()れてよかった。


***


目を覚ました時ガソリンスタンドの駐車場だったらどうしよう、と不安だったけれどちゃんとオートキャンプ場だった。

スマホの日にち表示も14日になっている。


キャンプ場からデリバリーされた朝食をとりながら今日の予定を話し合った。


「湖で泳ごうよ~!」

「湖は鮫がでるかもだから」

「香菜、サメは湖にいないよ」

「最近のサメは家にもでるよな、唯」

「はあ?」


唯と智輝のどうでもいい話で私の心配はスルーされ、結局湖に行くことになった。

他のキャンプ客も普通に泳いでいる。鮫の心配はなさそう。


美羽が航一郎にチェアとパラソルを運ばせている。

昨日のことがあっても変わらず航一郎使いの荒い美羽がなんとなく嬉しい。


唯はナイトプールにでも浮かんでいそうなフラミンゴの浮き輪を脇に抱え湖に飛び込んでいった。

そのあとに続いて巨大なシェルのフロートを持たされた智輝と航一郎も湖に飛び込む。

唯のキャーという歓声があがる。


「唯、なんなんだよこの巨大ホタテは。どこで買ったんだよ」

「だあってえナイトプールの予約取れなかったんだもん。早く写真撮ってよ」


唯と智輝のかみ合わない会話がおかしい。


「香菜は泳がないの?」


美羽がチェアを勧めながら聞いてくれる。

ショートパンツからすらりと伸びた脚がモデルのように美しい。


そういえば読者モデルのようなこともやっていたのではなかったか。


「美羽は?」

「泳げないのよ」


ちょっと鼻にしわを寄せて目を細める仕草も可愛い。

美羽を好きにならない男の人なんていないんじゃないだろうか。

こんな美羽が片思いとはにわかには信じられない。


「ね、美羽の好きな人って」

「あ、香菜、航一郎くんが呼んでるわよ」


明らかに誤魔化された。

聞かれたくない話なのかもしれない。


「じゃあ、行ってくる!」


唯の持って来たビーチボールを拾って湖に向かう。

航一郎が手を振っている。

水着姿が眩しい。

私はラッシュガードで武装しているからとはいえ……ふつう、逆なような。


「美羽ちゃんは?」

「泳げないんだって」

「えー、浮き輪もあるし、足もつくから泳げないとか関係ないでしょ。美羽~!!」

「そんなに深くないからおいでよ~」


パーカーにサンダルのままで美羽がやってくる。


「このシェルのフロート、美羽のために持って来たんだよ~、落とさないから乗りなよ~!」

「とかいって唯、絶対ひっくり返すでしょう」

「そんなことしないから~」


なんだかんだ言って、美羽も唯には弱いのか諦めてサンダルを脱いでシェルのフロートに乗る。


「絵になるっていうレベルじゃないね」

「リアル、ヴィーナスの誕生レベルでしょ」


そんなことをいいながら、唯と智輝はフロートをどんどん湖の中央に運んで行ってしまった。


「ちょっと、これ、絶対ここでひっくり返す気でしょう!?」

「そんなことしないよ~」


3人の様子をあっけにとられてみていると、フラミンゴの浮き輪を持て余した航一郎が私にむかって投げて寄越す。


「似合うよ香菜。パリピみたい」

「なにそれ~」


唯と智輝はシェルのフロートをぐるぐる回しては美羽に怒られている。


「美羽、助けにいかないと!」


そうだね、と頷いた航一郎がなぜか、シェルのフロートとは反対側に浮き輪をひっぱる。


「香菜は美羽ちゃん好きすぎ!」

「え~~?焼きもち?」

「そうだよ」


ふざけた航一郎が浮き輪をひっくり返そうとする。


「やー!航一郎、ストップ!落っこちちゃう」

「反省した?」

「え~?だって、昨日は航一郎の方が美羽にベッタリだったよね」

「そうだっけ、昨日?どこで?」

「地下に降りたときとか、航一郎、美羽のところに行っちゃって、だから、私……、さらわれて、すっごく怖かった……」


そうだった。昨日の航一郎は不自然なくらい美羽を気にしていた気がする。


「ごめん。次は絶対香菜を一人にしないから」


「ふふ。頼りにしてる……。でも、私、今すごく強いみたいなんだよね」


昨日スチール缶をつぶしたときの話をする。

航一郎が笑いをかみ殺している。


「私より強い男の子、航一郎しかいないんだから、ちゃんと守ってね」

「そっか、香菜より強いの、俺だけなんだ……」


航一郎がなんだかニヤニヤしている。

本当は智輝もだけど、まあそこは省略でいいかな。


「唯がずっとこっち見てるから、もどろっか」


シェルのフロートのところに戻ると唯に水辺でいちゃついてるのはサメがでるフラグになるから、と怒られた。

湖にサメは出ないって言ったの唯じゃなかったっけ。



そろそろ戻ってランチにしようという話になる。

シェルのフロートをのんびり押しながら岸にむかっていると、ふいに足になにかが絡まった感覚があった。


水草にでも引っ掛かったかなと思った瞬間、尋常ではない力で水中に引き込まれた。


「助け……」


とっさに航一郎を振り返ると、姿が見えない。

口と鼻にガボガボと水がはいる。

苦しい。


水中でもがいていると急に引き込まれる力が弱まった。

慌てて水面に顔をだし、息を吸い込むが、鼻に水が残っていてひどくむせる。


美羽が小さく「リスポーン」と唱えるのが聞こえた。

金色の光が私のまわりでちかちかと光る。


足が立つことに気が付いて周りをみまわすと、光は航一郎と唯、智輝、そして私の4人に降り注がれていた。

3人とも私と同じように頭までぐっしょりと濡れている。

咳込んだりしている様子をみるとやはり溺れかけていたようだった。


「美羽ちゃん?大丈夫!?」


シェルのフロートの上では美羽がぐったりと倒れ、苦しそうに肩で息をしてる。

よほど慌てたのか、化粧ポーチの中身が乱雑に散らばっていた。


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