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33.花火


「香菜ちゃん、それって、楽器だったの?」


智輝が引きちぎられた鎖をさして笑いをかみ殺しながらそう言う。

航一郎がそんな智輝を肘でつついてたしなめている。


「装備できるから楽器だと思うんだけど」

「香菜ちゃんが、鎖を振り回し始めたときは、モーニングスターみたいな武器かと思ったんだけどさ」

「香菜の装備は全部ユニークだよね」

「もーいいでしょー」


とうとう航一郎にまでからかわれる。


豚マスク男を倒したファンファーレを聞いた後、私たちはキャンプカートを回収して車に向かっていた。

もちろんほかの敵がでる可能性もあるのだが、倒す前とはなにか空気感が違っている。


「智輝くんったら、知らないの?『海の男たちの歌』有名でしょう?鎖を打ち下ろす音で船の様子を表現するのよ」


美羽がなぜ知らないのか、と呆れたけれど美羽以外はだれも聞いたことすらなかった。


「あ、これかな?ネットに動画あるよ。ホントに鎖つかってる~~」

「おー、本当だチェーン叩きつけて音出してる。ワイルドだな」


唯が動画サイトに挙げられたオーケストラの演奏をみせてくれる。

……動画サイト?


「アンテナ!立ってる!!」


ネットがつながることがわかってようやくあのループから抜け出せたんだと実感する。


車に乗るとカーナビも順調に目的地を指しているようだ。


車内で流す映画はさすがに『キャンプ場惨殺ホラー』ではないタイトルに変えてもらった。

学生が楽しそうに登校する映像ではじまる。


「唯、これなんの映画?」

「デスゲーム」

「こら、新たなフラグを立てるんじゃない」


しばらく車を走らせていると、窓の外に白いガードレールが見えた。

よく見れば道路脇も見慣れた緑の色濃い木々へと変化している。


途中にガソリンスタンドではなくコンビニを見つけて立ち寄る。

唯が恐ろしい量のお菓子を買いこんでいた。


「もうめっちゃくちゃお腹が空いて倒れそうだった!魔法使うとお腹すくんだね」


このまま帰るのかと思っていたけれど、キャンプを続行するらしい。


キャンプ場に閉じ込められて何日も経過していたのは私だけで、皆にとってはまだ今日一日のできごとだった。


予約していたオートキャンプ場にチェックインし、空腹で倒れている唯のために早めの夕ご飯にする。

食べ終わったとたんに唯が居眠りをしてしまい智輝がテントに運ぶ。


「コーヒーかお茶、淹れましょうか?」


珍しく美羽がそう言ってキャンピングカーのミニキッチンにお湯を沸かしに行く。


「じゃあ、私食器片づけちゃうね」


食器を手早くまとめ、バスケットに詰める。

キャンプ場には水場があるので車ではなくそっちに向かう。


航一郎が手伝いについてきてくれないかな、とちょっと期待したけれど、美羽に呼ばれて車の中に入ってしまった。


すっかり陽が暮れて満天の星空が広がっていた。

星座のことは全くわからないけど、あれは夏の大三角形じゃないかな。


戻ったら唯を起こして、美羽が淹れてくれたコーヒーをもって皆を湖に誘ってみよう。

最初の晩に皆においていかれて一人で拗ねていた時のことを考えると信じられないくらい楽しい。


「香菜ー」


振り返ると、グリル用の網とトングを持った航一郎が小走りでこっちに向かってくるところだった。


「美羽ちゃんが、焦げ臭いからこれもさっさと洗って来いって……」

「人使いが荒いよね、あの子は」


洗い物を済ませて戻ってくると、車には鍵がかけられていた。

パックをしているから絶対に入ってくるなというようなメッセージがスマホに届く。


テントの様子を見ると唯の横で智輝もすっかり熟睡してしまっていた。


「えー、私のコーヒーは?」

「管理棟の方に自販機があったから、買いに行こうか」


何組かの家族連れが管理棟前のエリアで手持ちの花火で遊んでいた。


「管理棟で花火売ってるのかな?」

「懐かしい感じ」


「「あのさ、キャンプから戻ったらさ……」」

「バンドやらない?」「花火見に行かない?」


航一郎とセリフがかぶってしまった。花火?


「バンド!?」

「うん。ギター楽しかったし、なんかみんなでやれないかなーって」

「そっかー、香菜は鎖を振り回す担当で?」

「もー!だからそれは言わないでって」


グーで殴るふりをして抗議すると、航一郎は手をミットのようにしてガードする。

さわやかな香りがふわりと漂った。


「あれ?航一郎、なんかミントの匂いする?」

「美羽ちゃんに、バーベキュー臭いってなんかスプレーされたけど」

「ちょっと潔癖症気味なところあるよね」


そうは言ったものの美羽に対するネガティブな感情はびっくりするほどなくなっていた。


豚マスク男との戦闘の時に美羽に感謝された記憶がふとよみがえる。

ずっと、美羽にあんな風に言ってもらいたかったのかもしれない。


「美羽ね、さっきピアノ弾いてたけどものすごい上手だったんだよ」

「へー」


美羽の話に興味がなさそうな航一郎がなんだか不思議な気がする。


「でさ、バンドもいいんだけど、花火見に行かない?」

「いいね、来週花火大会あったよね。美羽は浴衣かな~」


航一郎が立ち止まって足元の小石をコツンと蹴った。


「や、美羽ちゃんの話はもういいでしょ」

「ごめん」


そうだった。昼間の話だと航一郎は美羽にフラれたんだった。


「じゃなくてさ」


航一郎が、キャンピングカーに戻る方の道ではなく、湖に向かう案内板を指さす。


「さっき、美羽ちゃんから別に話してもよかったのにって言われたんだけど」

「うん?」

「美羽ちゃん、学外に好きな相手がいるんだって」


なんとなく、美羽と唯が話していた「イケメンセレブいとこ」が頭に浮かんだ。

美羽の学外の知り合いなんてその人しか知らないだけだけど。


「……前に、クラスコンパの時に変な盛り上がり方して、美羽ちゃんと俺が付き合えばいいみたいな話になって、別に否定しないでいたらそのまま広がっちゃって……」

「待って、航一郎、なんの話してる?」


「香菜もさー、察しろよ」

「え?」


航一郎がなんだか見たことのないさっぱりとした笑顔で言った。


「花火、二人で行こうよ」


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