29.キーアイテム
酷い頭痛で目が覚めた。
リセットされた、と直感でわかった。
私がへたに行動しないほうが、何もかもスムースに進んで、美羽までが魔法を使う、と考えると何もかもが空しい。
いっそ、私一人このガソリンスタンドに残るのはどうだろうかなどと思ってしまうが、どうせ碌なことにならないだろう。
ノロノロと車の外に出る。
売店で何か見逃している武器やアイテムはないだろうか。
老人が持っている杖はどうだろうか?
キャンプ場のラウンジにあったピアノも気がかりだ。
そういえば、あの豚マスクとまともに戦闘できたのはキャンプ場ばかりだ。
キャンプ場を回避しようとするとハメ殺される仕様なのかもしれない。
店の入り口をぼんやりとみていると、ギターを手にした航一郎と、楽しそうな美羽たちの姿。
それを横目に店にはいる。
「これお願いします」
いつも通りガムを買う。
老人が会計をするために置いた杖を握ってみた。
なんの反応もなかった。装備できる武器ではないようだ。
「杖はやらんよ」
「ごめんなさい……でも、これ私が持って逃げたらどうするんですか?警察でも呼んでくれます?」
ちょっと意地悪な気持ちで尋ねる。
「杖はやらんよ」
なんの感情もない声で老人が繰り返す。
そうか、この老人もNPCなんだ。
もしかして、今まで考え違いをしていたのではないだろうか。
この世界はホラー映画だと思っていたけど、実はホラーゲームなのではないか?
正しいアイテムを全部入手して、正しいタイミングで適切な場所に向かわなければクリアできない。
そう考えると気が遠くなるが、ならば、いつかはクリアできるという希望も湧く。
もう一度、売店中を注意深く観察して回る。
ふとレジの後ろのキーハンガーに目が留まる。
雑多な鍵束のなかに混ざって紐のついた大振りの鍵がかけてある。
「ピアノの、鍵?」
老人がちらりと私の顔をみて、鍵を投げて寄越す。
「駐車場に落ちていたゴミだ」
そう言うと、私の返事も待たず奥へと去ってしまった。
首の後ろがチリチリとした感覚に襲われる。
これはキーアイテムなんじゃないだろうか?
そして、あのキャンプ場のラウンジに行くのが『正しいルート』に違いない。
「ありがとうございます……!」
私は老人が去った方向に声を掛けると店を出て車に乗り込んだ。
***
私が誘導をしなくても車はファミレスに向かう流れになっていた。
前回通りの流れを妨げないようにしてカウンターベルを手に入れ、美羽にも魔法を使わせ、豚のコックとご対面する。
私にとってはもう豚のコックは脅威ではなかったので、智輝と航一郎の邪魔をしないように振舞う。
モップのおかげで智輝も怪我をすることなく豚のコックをやっつけることができた。
誰のレベルも上がらなかったため、今回はレベリングをする流れにはならない。
「ショボい敵だったなー」
「ボスというよりはチュートリアル戦?」
舐めた感じで航一郎と智輝が話している。
唯だけが「私、ブッチャー殺しっていう称号があるんだけど、私のおかげじゃない?」と首をひねっていた。
問題はこの後だ。
キャンプ場の近くに車を誘導する必要がある。
ボート小屋にも寄るべきだろうか。
林道が見えたタイミングで
「ちょっと道が細すぎない?もうちょっと先に行ってみようよ」
と声をかける。
ボート小屋が見えてくると自然と中を確認しようという話になった。
智輝と唯をボートに乗せる必要はあるだろうか?
前に唯が言った『フラグ』という言葉が頭に浮かんだ。
「ちょっと待って。一応確認させて」
私はボート小屋を覗こうとする智輝と航一郎をとめて、カウンターベルで索敵をする。
赤い波紋がゆっくりと広がってそのまま消えた。
ボート小屋にも湖側にも敵の気配はなさそうだ。
『フラグ』が立っていないのだろう。
智輝と唯が二人きりでボートに乗って私の視界から消えたときに、二人がフラグが立つような行為をした。そして襲われた?
ジャンプ鮫に襲われたのではなく、豚マスク男に襲われた後にジャンプ鮫に群がられたのかもしれない。
だとすれば、二人をボートに乗せるのが正解だろうか?
でも湖の上で襲われてしまえば助けようがない。
思い悩んでいると
「ちょっと!そんないつ沈むかわからないボートに乗れるわけないでしょう!?もう行きましょう」
美羽がそう声を荒げて、ボート小屋を離れることになった。
ボートには乗らずにオールだけ回収できた。
よい流れだと思おう。
智輝の運転でしばらく車を走らせていると、倒木があって先に進めなくなった。
これも今まで通り。
今回は特に何かから逃げているわけでもないので、航一郎も倒木をスライスすることもなかった。
「私が先頭でこれを鳴らしていくから、ちょっと森の中を探検してみようよ」
カウンターベルを掲げて見せる。
美羽が反対するかと思ったが、智輝と航一郎のノリ気に気おされたのか何も言わない。
唯も車に残るとはもちろん言わなかった。
「軽装の若者が山で遭難して一人ずついなくなっていくのもお約束だよね~~!!」
とはしゃいでいる。
ならばちゃんと準備していこうと、キャンプカートに一通りの荷物を載せる。
もちろんギターと釣り竿、オールも忘れない。
美羽と唯にも忘れずに化粧ポーチを持たせる。
キャンプ場へ向かう道はもうわかるのでこのまま誘導できるだろう。
あとは『フラグ』を立てればよさそうだ。
でも、どうやって?
唯と智輝を二人きりにするのが一番手っ取り早くはあるんだけど……。
最大戦力である唯がもし襲われでもしたらと思うと、安易に二人きりにはしにくい。
そんなことを考えながら歩いているとキャンプ場が見えて来る。
「これ、新聞に載ってたキャンプ場かな?」
「結構大きいキャンプ場だったんだね~」
「思ったより荒れてないな」
「閉鎖されたの、割と最近なのかしら?」
唯のフラグ説が正しいと信じ込んでしまっていたが、まだ確定したわけではない。
いつどこからあの豚マスク男が襲ってくるかわからない。
私は神経質に索敵をしつつキャンプ場内を歩きまわった。
「香菜、あんまり一人で歩き回るなよ。いくら索敵できるからって」
いつの間にか皆と距離があいてしまっていた。
航一郎に声をかけられて気が付く。
美羽は唯と智輝と一緒にいるようだ。
だったら。フラグを立てるのは私と航一郎でもいいはずだ。
「航一郎、ギターを教えてもらってもいい?」




