27.お約束
22時を回る頃になっても、豚マスク男は現れなかった。
全員そろっているからだろうか。
そろそろ就寝するかという話になる。
私は交代で見張りを立てたいと言ったが、さすがにそこまで警戒しなくてもいいだろうと却下される。
キャンピングカーのベッドで女子3人が寝て、後部座席のベンチで航一郎と智輝が眠ることで折り合いがついた。
ハミングで小回復をしていたけれど、精神的な疲労もあったのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
眩しい日差しで目が覚める。
まさか、リセットされている?
慌てて起き上がるとベッドの天井に頭をぶつけてしまった。
「今すごい音したけど、なに?」
隣のベッドの唯を起こしてしまったようだ。
「ごめん、頭ぶつけちゃって」
「うーん、なんかよく寝た。今何時?」
スマホを確認すると7時30分だった。
でも何かがおかしい。13日?
13日は昨日はだったはず。
航一郎たちにも相談したいが、まだ眠っているだろうか。
最低限の身支度を整えて、テーブル側とベッド側を仕切るカーテンをそっとあける。
ソファには誰もいなかったが、キャンピングカーの外から話声が聞こえる。
智輝と航一郎、そして美羽もすでに起きているようだった。
キャンプ地での朝だというのに、美羽は美容院に行きたてかと思えるほど美しい髪を維持していた。
ノーメイクにも見えるナチュラルメイクもバッチリだった。
三人に日付のことを話していると唯も起きて来た。
「えっ、同じ1日を繰り返しちゃうやつ?ホラーの王道じゃーん!」
「スマホの時計が狂ったんじゃないか?」
いろいろ話すがこれと言った解決策もない。
「だったら、また、あそこのファミレスに行ってレベリングしようぜ!」
言い出したのは智輝だった。
確かに、この後リセットされてしまったとしても上げたレベルは無駄にならない。
航一郎は賛成し、唯はどちらでもいいと言う。
美羽は、好きにすれば、私は店には入らないけど、と投げやりだった。
「私はレベル上げたい」
私がそう言って、レベル上げをすることになった。
昼過ぎまでに何回、豚コック男を倒しただろうか。
全員がレベル49で頭打ちになった。
「レベル49でカンストってことはないよな」
経験値のような表示がないので、あとどれくらいでレベルがあがるのかもわからない。
ここでのレベリングはもう終わりにしようということになった。
「訓練はもういいよ。そろそろ湖で遊ぼうよ」
湖、と聞いて私は不安な気持ちになったが、今の智輝と唯ならあのジャンプ鮫も簡単に撃退できるだろう。
湖のそばに車を停め、テーブルを出してランチにする。
もともと二泊のつもりで来たので食料のバリエーションが減って来た。
いざとなれば魚を釣ればいいのでそれ程不安はない。
皆も考えることは同じだろう、智輝が釣りをすると言い出した。
「わたしは絶対に食べないわよ」
案の定美羽は拒否する。
智輝と唯を二人にするとうかつにボートに乗られてしまいそうで心配なのでお邪魔かと思ったけどいっしょについていく。
航一郎は美羽と一緒に車に残ることになった。
キャンプ場のスイミング用の囲いがあったのでそこから釣り糸を垂れる。
ジャンプする鮫は出なかったが魚もかからない。
「うーん、退屈」
「そういえば来るときみてた映画の湖もこんな感じだったよね」
「そうだった?」
やはり唯もそう思ったんだ。
「ああいう映画ってサメでもホッケーマスクでも最初にカップルを襲うよな」
「そういうものなの?」
「キャンプホラーと言えばカップルがみんなから離れてイチャイチャし始めるのがフラグだよね」
「鮫映画もな」
「サメ映画はあんまり得意じゃない」
「それって、どういうこと?」
「えー、ホラー映画のお約束じゃん。やっぱり皆イチャイチャしてるカップルが血祭りにあがるとスカっとするんじゃない?最近は、廃墟とか心霊スポットで配信してる若者が襲われるのも流行だけど」
漠然と、豚マスク男の発生条件みたいなものを考えていたのが、唯たちの会話によってハッキリ言語化された気がした。
「ほかに、お約束みたいなのってあるの?」
「お約束ねえ……、あ、清純なヒロインは生き残りがち」
「そうだっけ、まー、最後までキャーキャー言う役どころだからな」
「そそ。ま、最初に言った通り、この中で最後まで生き残るとしたら香菜だよね」
そこで、唯が意味深にニヤっとして、智輝が微妙な顔になった。
まあ、私が唯でもそう思うだろう。
最初にそう言われたしね。
「聖なる乙女」のスキルがなくなった理由がわかってしまった。
この状態で私が逃げ切れずに全滅したらどうなるんだろう?
もうリセットはされないのだろうか。
サクッと元の世界に戻れたりして……
「航一郎と美羽ちゃん、二人にして平気かぁ?」
「あー、あの二人だったら大丈夫……とは言い切れない気がしなくもない?」
唯がちらっと私の方を見ながら歯切れの悪いことを言う。
「でも、逆にフラグが立たなくて何もでてこなかったらずっと今日を繰り返しちゃうんじゃない?だったら、二人がイチャイチャしないか隠れて見張ってて、チェーンソー野郎が襲ってきたら挟み撃ちにしたらよくない?」
「チェーンソー野郎!?」
「キャンプ場でカップルを襲ってくるのはチェーンソーでしょやっぱ」
私の複雑な気持ちは一顧だにされず、唯と智輝の間ではその線で話が決まってしまった。
イチャイチャするなら唯と智輝のほうが適任でしょうに。
ただ、航一郎と美羽を二人にしたらどうなるのかは興味がないと言えばウソになる。
智輝と唯の下世話なアイデアの邪魔はしないことにした。
すこし大回りのルートでキャンピングカーまで戻り、中の様子を伺う。
しばらく待ってみるが、美羽と航一郎に変わった様子はない。
食料の残りについて何やら話し合っているようだった。
「航一郎くん、美羽と二人でも全然態度かわらなかったね。信頼できるヘタレ」
「唯、おまえな」
諦めた智輝が車に戻る。
「あれ、どうした智輝?」
「や、ちょっと、その……」
「ぜんぜん釣れそうにないから戻ってきちゃった」
「そっか。まあ、いいけど。でも魚がないのか、今日は缶詰でいいか」
唯と智輝がなにやら目くばせをして、私の方に来る。
「フラグ立ててくるから戦闘準備万端にしておいて」
私が返事をするのも待たず、二人は
「ちょっと山の方にキノコでも探してくる~」
と言い放って出て行ってしまった。
フラグ?
まさか二人は……
キノコと聞いて食中毒を心配して追いかけようとする航一郎をあわてて引き留める。
ここで、すぐに二人を追いかければおそらくとても気まずい場面に遭遇してしまうだろう。




