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25.倉庫


ファミレスの厨房を物色した結果、巨大な二股のミートフォークが見つかった。

装備できるのは智輝。

「へー?ブッチャースピア?カッコいいんだか悪いんだか微妙だな……」


そして厨房の奥にいかにもと言った佇まいの両開きの扉があった。


これは食材の倉庫で、絶対遭遇したくない系の怪異がいると唯が言い張る。


「香菜、索敵してみたら?」


航一郎に言われ、うなずいてカウンターベルをならす。

赤い光が広がり倉庫のドアの前で閃光となって弾ける。


「唯、すごいなお前のカン」

「いやー、ミエミエでしょこんなの。どうする?開けちゃう?あ、動画とらなきゃ……」


「唯!ちょっとストップ!あけるな!航一郎、どうするこれ?俺、割と考えなしに開けちゃうタイプなんだけど、セーブポイントもねえしなあ」


「俺は、まず建物の中で行けるところは全部確認してから、ボスエリアに入りたいんだよね」

「鍵かかってんのかな?」


男二人はすっかりゲームでもするようなモードになってしまっているし、唯は遊園地のアトラクションでも見ているような様子だ。

美羽は、と見ると完全に興味をなくしてカウンターに腰かけて爪を磨いている。


扉の向こうにはあの豚マスク男がいるかもしれないのに緊張感がなさすぎる。

私だけが本気で恐怖を感じていた。


それでも、わけもわからず一人で逃げることしかできなかったときよりはずっといい。

さっきまでは投げやりだったが、今回こそ誰も死なないで欲しい。

ギターも弾けるようになり、美羽もそれなりに協力的で、全員の武器もそろっている。


「あっ!釣り竿」

「釣り竿?」

「あれ、唯が装備したらすごく強い魔法が使え……そうな武器だから、持ってきた方がいいかも」


この周回では唯はウォーターカッターを発動したことはないので、慌てて誤魔化す。

「ちょっと取ってくるね」


ガラスの扉を開けようとレバーを引くがびくともしない。

「開かない……!?」


智輝と航一郎がやって来て交代で試すが扉は動く気配がない。

装備した武器でガラスを破ろうとするがヒビもはいらない。


「あー、ボス倒さないとエリアから出られない奴かー?」

「アガるわー!航一郎、もうあの部屋突入しようぜ」

「ちょっと待って、せめて唯の武器を何か見つけてから」


すぐにでも倉庫に飛び込んでみたい智輝ともう少し態勢を整えたい航一郎と私。


「ねえ、あなたたちがもめてる間に、唯、ドアあけちゃうわよ」


美羽にそういわれてはっと倉庫の方をみるとまさに唯が扉を開けて中を撮影しようとスマホを構えているところだった。


「唯そのまま待て!まだ中にははいるな」


慌てた智輝が唯をドアから引きはがしドアを閉めようとするが入り口のガラス扉と同じようにまったく動かない。

倉庫の奥の方からは、ゴトリ、ゴトリ、と嫌な感触の規則的な音が聞こえてくる。


「いるよな~」

「行くしかないだろ」

「でも唯の武器が……」


「んー、じゃあさ、これでよくない?」

唯が引き出しから大量のフォークとナイフを持ってくる。


「私と美羽はこれを後ろから投げればいいでしょ?あと、フライパンでも叩けば痛いよね?」


「なるほどね??まあ、やってみっか。でさ、俺たちはコレを盾がわりにするのは?」


智輝は大きな鍋の蓋を2枚みつけてきて一つを航一郎に渡す。

麺棒と鍋の蓋を装備した航一郎の姿があまりにも間が抜けていて思わずわらってしまう。


不思議と、なんとかなりそうな気がしてくる。


「ちょっと、私はそんな臭いところ入らないわよ!?」


美羽がそういうので、唯がスマホのライトで室内を照らしつつドアの外側に美羽と待機し、智輝、航一郎、私の順に室内にはいっていこうと決める。


「まって!そういえば、ちょっとずつ回復できるの!5分おきに小回復できるの。……ハミングで」


ちょっと笑わないで欲しいんだけど、と前置きして大学の校歌をハミングする。

智輝にあり得ないくらい笑われてしまった。


歌っている途中で、 『ピン』という音が聞こえる。

おなじタイミングで皆も反応したので上手くいったようだ。


「よし、じゃ、行ってみようか!美羽ちゃん、唯ちゃん、やばそうだったら援護よろしく」


「美羽~!なんかドキドキしてきた!」


倉庫のなかからは唯の言う通り酷い悪臭が漂ってくる。


「すごい匂い。冷蔵庫が丸ごと腐ってるみたい」


美羽がハンカチで口と鼻を抑えつつ中を覗き込む。


ゴトリゴトリという規則的な音がとまる。

唯が声の方向を照らすと、血まみれのコックコートに身を包んだ身長170センチくらいの男が大きな肉切包丁を手にしていた。

頭には豚のマスクをかぶっている。


何かを切っていた作業台からゆっくりと顔をあげ、くぐもったうなり声をあげる。


「いくぞ!」


智輝はそういうと覚悟を決めたように右手にミートフォークを振り上げて奥へ突進する。

豚コックまでの距離は4メートルと言ったところだろうか。


智輝めがけて包丁が振り下ろされる。

鍋の蓋でガードするが、あっけなく叩き落され、左肩に包丁の刃が食い込む。


「智輝!」


航一郎が智輝をかばうように麺棒と鍋蓋で豚コック男をけん制する。


その後ろでギターを手にして無我夢中でコードを抑え弦をかき鳴らす。

私の奏でる音が響くたびに豚コック男が一瞬動きを止める。

航一郎が麺棒で豚コックに殴りかかる。


「ずいぶん間抜けな絵面だけど、効いてるじゃない!すごいわ、香菜!」


「美羽!!智輝にさっきの直すやつかけてあげて!!」


他人事のように観察している美羽とは対称的に真っ青になった唯が叫ぶ。


美羽が目を丸くして化粧ポーチからリップスティックを取り出し「ヒール」と唱える。


智輝の左腕の傷にキラキラとした光が降り注ぎ傷口がふさがった。


「うぉっ!痛くなくなった!すげー!」

「智輝、回復したなら早く戻れ!香菜はもっと下がって」


テンションが上がった智輝が豚コックの包丁を奪いにかかる。

タイミングを合わせてギターを弾く。


腕に肉切フォークを突き刺された豚マスク男が狂ったように咆哮し、防具のない私めがけて包丁をふりあげる。


迫りくる豚コックにパニックになった唯が、手当たり次第にフォークとナイフを豚マスク男に投げつける。

豚マスク男が怯んだ隙に、航一郎が麺棒で包丁を叩き落す。


私は慌てて包丁を拾おうとすると、豚のコックがそれを奪おうと襲い掛かってくる。


「キャー!!!香菜!!!」


カトラリーを投げつくした唯がフライパンをテニスラケットのように構え、豚マスク男の頭をねらって勢いよく振りぬいた。


豚マスク男が体勢を崩して床に倒れ込む。

ほどなく、頭の中でファンファーレのような音が響いた。


「えっ?」


戸惑っていると、智輝が「やったか!?」と呟く声がきこえた。

すかさず航一郎に突っ込まれていた。


「智輝!やったかって言うなって!フラグだろ!」


「いやー、つい、口からでちゃうな。やったか?って。でも、ま、あの音は倒せた感じだろ。ステータスオープン!」


「いやー!なにこれ!!!」


唯も智輝に促されてステータス画面を開いたようだ。


「唯、どうした?」


「なんか、称号:ブッチャー殺し とか、書いてあるぅ」


航一郎は倒れている豚マスク男をスマホで照らし、死んでいることを確認する。


白衣と長靴で包丁を持っていた姿を考えると確かに肉屋(ブッチャー)だった。


キャンプ場で遭遇した豚マスク男よりも二回りは小さい気がする。


「唯ちゃん、MVPだね」


航一郎が声をかけると、唯は嫌そうな顔をして、智輝がゲラゲラわらった。


ドロップアイテムや装備できるアイテムがないか倉庫の中をざっと探したが特になにもなかった。

豚のコックが持っていた包丁は智輝が装備できるようだった。


匂いに耐えられなくなったために、さっさと部屋の外に出る。

倉庫のドアを閉めるとようやく落ち着いた気になる。


「香菜ちゃん、念のため索敵してみてくれる?」


智輝に言われて店の四方でカウンターベルを鳴らしてみる。

ブッチャー発見時のように光る場所はなかった。


「店の中は大丈夫そうだな」


航一郎はそういうと、店内の探していない部屋をひとつづつチェックし、

装備エラー音のでるモップを発見した。


智輝が装備できたので確認したところ「クリアランス」という武器のようだった。


「ランスだから槍?えー!?モップでしょ?おかしくない?」


唯が突っ込む。

たしかに。

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