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24.ファミレス


「香菜!香菜!!!」


美羽の声なのはわかる。

でもどうして美羽の声が……


まだ半覚醒ぎみの頭で必死に考える。

自分はいつ眠ったのかどこで眠ったのか、航一郎はどこにいるのか、服はちゃんと着たか。


「いいよ、美羽、無理に起こさなくても、先に降りちゃおう」


美羽と唯の声が遠ざかる。

恐る恐る目をあける。

キャンピングカーの中だった。服は着ている。

窓から外をみると航一郎は智輝と一緒にガソリンスタンド横の雑貨店に入っていくところだった。


「どういうことなの!?」


状況的にまたリセットになったのだということは分かる。

なぜやり直しになったのかがわからない。

とにかくギターを手に入れなければ、と慌てて車の外にでた。


店に入るとなぜか、美羽と航一郎がギターの前に立っている。

ちょうど航一郎が店主からギターを渡されるところだった。


「お!香菜ようやく起きたか」


ギターを手にした航一郎がさわやかに話かけてくる。

その表情には、さっきまで私に向けられていた情熱の欠片も見て取れなかった。


なにか裏切られたような気分のまま車に乗りこむ。

運転手は智輝、助手席は唯、後部座席に航一郎と美羽、そして私。


「航一郎くんったら、こんな壊れたギターをどうするつもりなの?」

「直せると思うんだよね。前に動画で見たことがあって」

「動画? ……んー、圏外みたいよ」


美羽の【圏外】の言葉に助手席の唯が反応する。


「この辺電波わるいのかもね。智輝、しばらくゆっくり走らせてみて」


唯が智輝に声をかけて、智輝が応じる。

キャンプ場と湖に向かう林道には入らずに車は舗装道路を走り続けた。


美羽と航一郎が楽しそうにギターを前に話し込んでいる。

ぼんやりと窓の外を眺めていると、ボート小屋ルートに誘導したときに目にする潰れたファミレスが遠くに見える。


そういえば鉈もガムもトルティーヤの調達もできていない。

このままボート小屋に向かえばまた唯と智輝はボートに乗ってしまうだろうか。


どうやって二人を阻止しようかと考えるが全く頭が働かない。

何が起きてもどうせまたループするのだからと投げやりな気持ちが拭えなかった。


車がファミレスの駐車場にとまった。

どうしたんだろう?


「うー、やっぱ圏外」


唯がそう言いながら車を降り、智輝も続く。


「ねーねー、このファミレス、すっごい雰囲気あって最高だよー!」


外から唯が声を掛けてくるが、航一郎は修理に夢中で動こうとしない。

美羽はそんな航一郎を眺めているのに退屈したのか、こちらをちらりとみてから車をおりてしまった。


降りるべきか残るべきか迷っていると航一郎からふいに声をかけられる。


「香菜ちょっといい? このギターさ、ちょっと持ってみてくれない?」


ああ、この流れか、自分と航一郎だけがステータスを確認するパターンはいつぶりだろうか。

そんな風に考えながらギターを握る。


このまま追いかけないと3人はおそらく殺されるだろう。

ひき止めなければとは思うが、美羽や唯に説明して否定されるのがもう辛い。


投げやりな気持ちでギターを握ったついでに、さっきまで教えてもらっていたコードをいくつか抑えてみる。

航一郎の記憶は巻き戻っても、自分は確かに成長していると思えば気持ちも少しは軽くなった。


「香菜、ギター弾けたんだ」

「まあね。私、吟遊詩人だから」

「なんだそれ、動画とかで練習したの?」

「前に教えてもらったんだ」

「へー」


航一郎の興味が薄い様子に思いがけず傷つく。

いったい、自分の何がいけなかったのだろうか?


うつろな気分のままギターをいじっていると、予想に反して唯が戻って来た。


「香菜、航一郎くん、あのファミレス、探検してみない?」


唯がそう声をかけてくる。

背後で苦笑いをしている智輝が見える。


ファミレスの中に、なにか装備できる武器があるかもしれない。

釣り竿は唯の強力な武器だから、美羽にもなにか別の装備が必要だろう。


そこでふと、林道に落ちていた化粧ポーチのことを思い出した。

チャンスがあれば唯と美羽に装備させてみたい。



「ドア、開いてる!」


唯がファミレスの入り口のガラス扉をあける。


「思ったより片付いてるな。もっとホコリまみれかと思ったけど」


ピカピカした真っ赤なソファ席が四つ、カウンター席が六つのファミレスにしてはやや狭めの店だった。

レトロアメリカ風のインテリアが可愛らしく、唯がはしゃいでいる。


「きゃーん!この感じ!絶対なにか出る奴じゃん!」


唯いわく、ホラー映画の雰囲気が完璧で、外がゾンビでぎっしりでもおかしくない、などと嫌なことをいう。


いつもの美羽ならば不法侵入だと怒りそうなものだが、店内を興味深げにながめている。


「これでジュークボックスでもあればおじさまの別荘にそっくりだわ……」


航一郎と智輝はギターを握って何やら話し込んでいる。

おそらく智輝にステータスを確認させているのだろう。


案の定、智輝が興奮してひとしきり騒いだ後、唯を呼びつけている。


「ねえ、美羽の叔父様?ってどういう人なの?」


本当は航一郎と付き合っていた時の話を聞きたかったがさすがに切り出せはしない。


「どうって、んー……よくいるタイプの道楽者よね。ヴィンテージ家具を買い漁って別荘を映画のセットみたいにしたり、かと思ったら突然キャンプにハマってキャンピングカーを買ったり?」


「カッコいい息子さんがいるって聞いたけど……」

「かっこいい……?もう、唯でしょう!」


本題を切り出せないうちに、航一郎と智輝から手招きされる。


それにしても唯は美羽のいとこに会ったことがあるような口ぶりだった。

私だけがいつも蚊帳の外だ。


「美羽ー、ゲームオタクどもがせっかくのホラーの世界観を壊すよー」

「はぁ?」


唯にギターを押し付けられて美羽が眉根を寄せる。


装備エラー音を聞いた美羽は今回はどんな反応をするだろうか。

私の視線に気が付いた美羽が、ギターをこちらに寄越す。


「よくできてるわね。香菜はこういうの好きでしょ」


せっかくなのでステータス確認をさせたい。

少し大げさにステータスオープンと唱えてみる。

あくまでも冗談に乗っかったという空気で。


「ちょ、香菜ちゃん?……え、マジな奴?」

「いや、まさかだろ」

「ステータスオープン!……?」


私のわざとらしく中空を見つめる様子に智輝と航一郎がすぐに乗ってくる。

この流れももう何度目だろう、半ば白けた気持ちになりながらも、唯と美羽の様子を伺う。


はしゃぐ男子二人とドン引きの女子二人。

いつも通りの反応。

ここから私が何か働きかけるよりも智輝たちに任せた方がいいだろう。


手持ち無沙汰になったので、店内を物色する。


ふとレジ横にあるカウンターベルが目に入った。

手にしてみると装備音が出る。


ステータス画面を開いてみる。

一瞬ひっかかりを覚えるが、それよりも効果が気になった。


カウンターベル:さくてき


と表示されていた。


「ねえ、さくてきって、索敵だよね?」

「そう!!敵がいるか調べるやつだよ」


さっそく智輝が喰いついてくる。


敵がいるかどうか調べられるなら当然試しておいた方がいいだろう。

カウンターベルを鳴らしてみると、チーンと高い音がして水の波紋のようなうす赤い光が私を中心に広がっていく。


私自身もおどろいたが、四人もそれぞれ驚きの表情で光を見つめている。


「えー!?なにここ、テーマパークかなんかだったの?私もやるー!ステータスオープン!」


唯がノリノリになったのがきっかけで、あとはスムースに装備品探しに誘導することができた。

美羽は冷ややかな態度のままだったが、唯の興奮に水を差す気はないらしい。


武器探しは宝探しのような面白さがあって、三人はキッチンにまで入り込み、片っ端から引き出しや戸棚を開けていく。


「おっ!これ誰か装備できないか?」


一番最初に発見したのは智輝だった。麺棒を掲げる。


唯が装備できるのではないかと期待をしたが、装備できたのは航一郎だった。


「うん、棒だね」


航一郎はふざけてそういいながら麺棒をくるりと1回まわしてからアメリカの警官のように構える。

適当にポーズを付けただけの航一郎に、見とれてしまう。

美羽がそんな私をじっと見ていた。


「あっ、美羽、唯も、化粧ポーチ持って来てる?」


誤魔化すように自分のリュックから化粧ポーチを取り出す。


「車に置いてきちゃった」

「小さいほうなら持ち歩いてるけど」


唯に銀色の六角形のリップスティックを渡す。


「んん?私リップ剥げてる?」

「じゃなくて、また、ステータスオープンって言ってみて」

「それ中二病みたいで微妙なんだよねー」


「唯、誰が中二病じゃー!」


引き出しや戸棚を物色するのに飽きた智輝が近づいてきて唯の横に座る。


「もー。ステータスオープン… ん?」


唯がステータス画面を見ている。


「なにこれ、『しょうフレイム』? 小フレイムかな?」


唯がそう口にしたとたん、リップスティックの先に小さな炎が点火する。


「キャッ! やだこれなに、香菜? ライター?」


唯が驚いてリップスティックを手から落とすと炎もすぐに消える。


「すげー!唯!魔法だよな!」

「唯ちゃん、魔法使いだっけ」


智輝と航一郎が信じられないほど興奮している。

私はと言えばそんな手放しには喜べない。


小さな炎程度では、豚マスク男に対抗するには弱すぎる。

唯にはやはり釣り竿を装備してもらうのが良さそうだ。


「ヒール」


美羽の声だった。

自分の化粧ポーチから薬用リップを取り出して確認したらしい。

ラメのようなキラキラとした光が唯に降り注ぐ。


「おもしろいわね。これ。マジックみたい」

「ん?ん?ん? 美羽!靴擦れのとこ直ってる!!!」


美羽が自発的に魔法を使うのは初めてではないだろうか。

この周回(ターン)ではクリアできるかもしれないという期待が高まった。


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