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23.コーヒー


それから二時間ほど練習しただろうか。

コードらしきものをなんとか抑えられる程度には上達したが、三人は一向に戻ってくる様子がなかった。


「さすがに遅いな」


このパターンは前にもあった。

あの時は智輝だけがジョブを把握していて、武器の装備はなかったはずだ。

今は唯が釣り竿を持って出ているはずだが、前回のパニックを見ればまともに戦えるとも思えない。


「ちょっと様子見に行ってくる。さすがに鍵のかかってない車だけ放置できないから、香菜は中で待ってて」


返事をする間もなく航一郎は湖に向かってしまった。

ダッシュボードを確認したが鍵は置いていなかったので追いかけることもできない。


「行っちゃった……。とりあえず着替えよっと」


車の中に入ると、美羽が焚いたのだろうか、カモミール系のアロマの香りが心地よい。

新しい服に着替えて、ギターのおさらいをしつつ、

四人にどう豚マスクのことを説明するかを思案する。


気が付くといつの間にか眠ってしまっていたようだ。





「香菜!香菜!!!」


強く肩をゆすられた。

なんだか頭がぼんやりしている。


「あ……美羽、おかえり……」


私の顔を覗き込んでいた美羽の眉がハの字に寄って美しい顔がちょっと歪んでいる。


「香菜、寝ぼけてるの?早く降りて」

「えっ?」


私は驚いて起き上がり辺りを見回す。

キャンピングカーの中なのは間違いない。

抱えていたギターがなくなっている。

慌てて外に飛び出るとそこはガソリンスタンドの駐車場だった。


どうして。

どういうこと?


動悸が早くなる。

何が起きているのだろうか。まさかリセットになったのだろうか。だとすれば、なぜ。



茫然としたまま皆につられて、いつものように店にはいる。

ギターを見つめると航一郎が話しかけてくる。


私が混乱しているうちに、航一郎がギターを貰い、美羽の運転でキャンプ場まで行くことになった。

前回と全く同じだ。


混乱しつつも、智輝と航一郎がギターを握るのを待って、ステータスを確認するように誘導する。

美羽が魔法を確認するところまではこの流れで問題ないはずだ。


このあとは、航一郎にギターを教わる。

それはいいとして、美羽たちを湖に行かせたのが間違いだったのではないだろうか?


「唯~、美羽ちゃん、ちょっと湖のほうまで散歩しない?」

「行く~!」

「行くわ。同じ音何度も聞かされて頭がおかしくなりそう!」


この会話の流れも全く同じ。


「待って!湖は……」

「香菜、あなたは練習してなさいよ。キャンプファイヤーにはギターでしょう」


美羽がめずらしく冗談を言う。

上手く引き留められる言葉が思いつかない。

それに、湖に行かせたのが悪いと決まったわけではないし。


「あ、じゃあ、智輝くん、これ……」

「えっ!?鉈?」

「えーっと、キャンプファイヤー用に薪とかあると便利かなーって」

「あー、OK、OK! ……おっ、装備できる!」


智輝に武器があれば何かあっても多少はましだろう。

湖に鮫でも出てついでにレベリングしてきてもらえばと思うがさすがにそんなことは言えない。

とりあえず前回と流れを変えられればそれでいい。

三人が湖に向かうのをぼんやりと見送った。


「おっし!香菜、あいつらが戻ってきたらびっくりするくらい上手くなってやろうぜ」


航一郎が声をかけてくれる。

そうだ。なぜリセットになったのかはわからないけれどギターの上達は必要ではある。


「……っくしゅん!」


が、その矢先クシャミをしてしまう。

今回は美羽からタオルを渡されていなかったからか、ちょっと寒い。


「中で練習しようか。コーヒーも飲むだろ」


車にはいると、前回渡されたタオルの花の香りが立ち込めていた。

美羽がアロマを焚いたのだろう。

航一郎が淹れてくれたコーヒーの香りと相まってとても心地がよい。


航一郎が向かいにすわる。

ついさっきまで自分の隣にいたはずの航一郎なのに、今はとても遠くに感じる。


「おいしい。航一郎コーヒー淹れるの上手なんだね」

「そう?キャンプ用にプレスのコーヒーメーカー買ってから結構ハマっていろいろ試したからな。

それに美羽ちゃんが」

「美羽が?」

「いや……、その、ほら、この豆美羽ちゃんが持って来た高級な奴だから、それで……」


誤魔化しているのがみえみえの態度だった。


「航一郎って、美羽と付き合ってたんでしょう。別に隠さなくてもいいよ?」

「いや、あれはそういうんじゃ」

「ほんと、全然きにしてるわけじゃないから」


「でも香菜、なんか怒ってるよね」

「だって、唯は知ってたのに私は知らなかったから。それに……」


テーブルに置かれた航一郎の手に自分の手をそっと重ねる。


「それに?」


航一郎の声が掠れる。

じっと見つめると航一郎が困ったように目を反らす。


「……航一郎は、私のことを好きでいてくれてると思ってたから」


今度は意識して航一郎との会話を誘導していた。

数時間前まであんなに親密だった航一郎と自分の距離が寂しかった。


そして前回と同じように、航一郎は優しく私の唇を塞ぐ。

今回は、航一郎の背中に回した手を離さない。


湖に行った三人が二時間は戻ってこないことはわかっていた。


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