21.正しいギターの入手方法
いつものように美羽に声をかけられる前に自分の意志で目を覚ました。
考えることがありすぎて寝ている時間も惜しい。
前回の一番大きな失敗は、美羽を殺されてしまったことだろう。
美羽を守るには、キャンピングカーに美羽と唯の二人を残さず、全員でキャンプ場に向かうように誘導しなければならない。
装備もたりない。
私に碌な装備がないのはもちろん、智輝の装備も鉈だけでは心もとない。
そう考えるとやはりギターは入手しなければいけないキーアイテムのようにも思える。
いつものように店にはいり、ギターの場所を確認する。
「香菜、ギター弾けるの?」
声をかけてきたのは航一郎だった。
「えっ!?」
「ギター、ずっと見てるから」
「えーと、弾けないんだけど、この前釣り糸は弦の代わりになるからって教えてもらったことがあったから……、釣り糸ギターってどんな音がするのかなって」
「あー、それ、俺もネットで見たことある!」
ていうか、航一郎から教えてもらったんだけどね、とはさすがに答えない。
「そんな壊れたギターが欲しいならやる。ここにあっても邪魔になるだけだ。もっていけ」
やり取りをみていた老人がギターを航一郎に渡す。
「ありがとうございます?」
「いらないのか」
「あっ、いただきます……」
あまりにもスムースにギターが手に入ってしまいあっけにとられてしまった。
それに、おそらくだが航一郎がギターを手にした時「装備できない」音が出たに違いない。
航一郎に聞いてみたかったが、老人が奥に引き込みそうになったので慌てて必要なものを買い、店の外に出る。
「航一郎、どうしたそれ?」
「や、店の人が邪魔だからくれるって」
「航一郎くん、ギター弾けたっけ?」
「高校生の時にちょっとやってみたことがある程度な」
「ちょっと弾いて見せてよ」
「弦が切れてるから修理しないと無理だな」
私が無理やりギターを買って出てきた時とは違い、智輝と唯はもとより、美羽まで機嫌がよさそうにギターを触ってみている。
キツネにつままれたような、とはこのことでは。
これが、ギターの正しい入手フローってことなんだろうか。
なんにせよ、ギターが手に入り修理ができるめどが立ったのはかなり前進だ。
あとは美羽の目がないところで航一郎からギターを教えてもらえれば一安心だろう。
智輝と航一郎がギターをいじりたがったので、運転は美羽がすることになった。
助手席には唯がすわる。
後部のキャビンではさっそく智輝が釣り糸を出してきて航一郎と二人で試行錯誤をしている。
二人の様子を観察していると、案の定ギターのネックを握った智輝が不可解な顔をする。
「航一郎、あのさ、このギターって、装備できるのか?そういうオモチャ?」
「智輝にも聞こえた?」
「なにこれ」
「なんだろうなあ。香菜、これちょっと持ってみてくれない?」
「ギターがどうかしたの?」
内心は隠してそ知らぬふりで尋ねる。これはかなりラッキーなチャンスだ。
「これ、握ったら【装備できない】って音がでたんだよ」
「航一郎もか!俺も出た」
「そうなの?じゃ、じゃあ私も試してみようかな?あれ?シャキーンって音がしたよー」
「マジか」
「えー、装備できたかどうかってどうやって確認するんだろうね。ステータスオープンとかできればいいのにね。えっ?」
だいぶわざとらしい感じになってしまったが、わりと首尾よく航一郎と智輝をステータス確認まで誘導できた。
最初の頃の私がそうだったように、二人はいろいろなものを握っては装備できるかどうかを試し始めた。
ちなみに、ギターはまだ直っていないらしく情報は「こわれている」のままだ。
男二人の探索を見ているのにも飽きたので、運転席の二人の雑談になんとなく耳を傾ける。
「……えー、じゃあさ、美羽こんな大きい車しょっちゅう運転してたんだ!」
「貸してくれた叔父様一家と仲良かったのよ。いとこもいたし」
「いとこってあの人だよね、前に連れてきてくれた。あー、なるほど」
「そんな、兄妹みたいな感じよ」
「結構年上だよね?」
「4歳上かな」
「あー、あのセレブいとこにいつもエスコートされてたら航一郎くんじゃ頼りなかったよね」
「唯!?」
「すぐ別れちゃったもんね」
「もうその話はいいでしょう」
「あ、あそこに横道があるよ、あそこじゃない?」
美羽と航一郎が別れたことはおろか、付き合っているという話すら知らなかった。
驚いていいのか悲しめばいいのか喜べばいいのかよくわからない。
混乱しているうちに車は林道に入り、1周目にテントを立てた場所に到着する。
今回は、無理にオールを手に入れる必要がないと思って特に行き先の誘導はしなかった。
智輝と航一郎はさっさとテントを立てると車のキャビンに籠る。
「なにしてんの?二人は」
お腹を空かせた唯がイライラしながらスモア用に持って来たクラッカーを齧っていると、
車の中からすこし拙い感じのギターの音が聞こえてくる。
「あー!ギターか!なおったの?」
「航一郎くん、ほんとうに弾けたのね……」
楽器を弾ける男子は2割増し素敵に見えるというが、私もギターを弾く航一郎の美しい指先にはなんだかどぎまぎしてしまう。
航一郎のギターに目を奪われていると、智輝が釣り竿ケースを手にやってきた。
「唯、これ握って」
「釣りなんかしないよ。それよりご飯」
「ちょっとでいいから」
「はあ?……えっ?なにこれ、なんかのいたずら?」
「唯、ちょっとステータスオープンって言ってみ?」
「えっ、やだやだやだ、ばかみたい」
智輝はそれ以上は食い下がらずに美羽に釣り竿を手渡す。
美羽が言われるままに釣り竿を握り、微妙な表情になる。
「……んー?なあに?中で二人で工作でもしてきたの?」
次は自分の番かと思って待っていたら航一郎がやってきてギターを手渡された。
「香菜はこっちだろうね」
「あ、ありがとう……」
不審な顔の美羽と唯が気になるが、どうしても確認してみたい。
「ステータスオープン!」
ステータスウインドウでギターの効果を確認する。
航一郎と智輝も気になるのか、ウインドウは見えないはずなのに私の横からウインドウを覗くような姿勢になる。
「……演奏の習熟度に応じたダメージを敵に与える……?」
「えぐいな。香菜ちゃんギター弾けるんだっけ?」
「全然……」
「航一郎に教わらんといかんな」
「智輝、なんの話?」
唯がこちらの話にまざり、航一郎は一人になった美羽のところに向かう。
「さっきこれ持った時なにか変な音したよね?」
「したわね。オモチャみたいな音が」
「装備できたのか……。試しにでいいんだけど、持ったままステータスオープンって言ってくれない?」
「は?嫌だけど?」
唯も美羽もどうしてもいやだと言い張るので、とりあえずランチを取ることになった。
智輝は、唯については酔っぱらわせればなんとかなると思っているようだった。
「えー?もう、智輝しつこいー!わかったわよう。すてーたすおーぷん!?」
「なんて書いてある」
「うーと、くろまじゅつしぃ?そうび……みずのろっど……うぉーたーかっ」
「あっ!ダメ!」
私は慌てて唯が手にしている釣り竿に飛びつき、誰もいない方向に向きをかえる。
鋭い水の扇が放たれ、運悪くその方向にあったバーベキューグリルを斜めに半分に切り裂く。
「えっ?はっ?え?なに?」
「すっげ!!」
「魔法?これ?」
茫然とする唯と、それとは対照的に興奮が隠せない智輝と航一郎。
「香菜?航一郎くん、智輝くん、ちょっと説明してくれるかしら?」
借り物のバーベキューグリルを壊された美羽が氷のような声でそう言って、私たちは震えあがった。




