13.再びラウンジ
私はダイニングホールを前に考え込んでいた。
入り口が施錠されている。
裏口もみてみたがドアが壊れていない。
夜の時はどうだったっけ。
豚マスク男が開けたのかもしれない。
どうにかして中に入りたいところだが、さすがにドアを蹴破るわけにはいかないだろう。
まわりをぐるりと回ってみるが、キッチン側からもラウンジ側からも建物を破壊せずに入れる場所はなかった。
念のためラウンジの脇を確認すると、ちゃんとタイヤの空気の甘い自転車があって安堵する。
救護室や手前のキャビンも調べてみたがどこにも入れそうな様子はなかった。
「なにもないじゃない」
美羽が苛立ったような声を上げる。
「おーい!こっちに湖に行ける道があるぞー」
智輝が手を振っている。
ついて行ってみると、昔は遊泳区域に指定されていたのか、湖の一部を木の枠で囲った場所に出た。
砂浜、とはいかないが、湖の手前には砂利の混じった砂地があった。
湖に直接来られるように林道も整備されていたようだ。
「ここに車を回してこれないかな?」
木枠のまわりに魚影をみた智輝はさっそく釣りがしたいらしい。
「車とってこようか」
智輝と航一郎は連れだって車に戻っていった。
湖に取り残されたのは、私と唯と美羽。
唯と美羽がなにかヒソヒソと話していて、問い詰めタイムが始まりそうだと身構える。
「あ、私、焚き付けとか探してくる!」
二人に声をかけられる前に、キャンプ場に逃げることにする。
単独行動は怖い気もしたが、豚マスク男はいつも、暗くなってから出てきた気がする。
夜行性なのだろうか?
それとも、やはりクマよけのベルに呼ばれてやってきてしまうのだろうか。
だとするとレベリングにベルを利用するのはやめた方がよさそうだ。
どちらにしろ、今のうちにタンバリンを回収しておきたい。
ギターの性能も確認したいが、車の中にあるので今はどうにもできない。
さっき周囲を調べたときに目を付けておいたキッチンの窓を割れば侵入できるだろう。
素手では無理だから何か棒のようなものが欲しい。
ボート小屋があればオールが手に入るのだが、さっき見回した範囲にはなかった。
キャンプ施設の地図に、工作小屋があったなと思い出して、そちらを先に物色することにした。
工作小屋はキャンプ客用のクラフト工房のようだった。
壁の一面がなく、車庫のようなつくりになっている。
ノコギリや斧でもあれば、と思って一通り探してみたが見当たらない。
代わりに小さな木製の椅子があったのでこれを利用することにする。
椅子を持ってキッチンの窓へ移動する。
思い切って椅子の脚で窓を割る。
老朽化しているせいか窓枠もあっさり壊れたので枠ごと外してキッチンに侵入することができた。
結構大きな音を立ててしまったので、美羽と唯がこっちに来てしまうかもしれない。
彼女たちに見つかればタンバリン回収もままならない。
もしなくなっていたらどうしよう、と心配しながらラウンジにむかう。
果たして、ハートとスターのタンバリンはどちらもあった。
シャキンと音がして装備できたのが確認できる。
すばやくステータスウインドウをだして効果を確認するが魅了と思考力低下もそのままだ。
まわりに人がいないのを確認して、二つのタンバリンを両手で振ってみた。
音符の形をした光が私を取り巻く。
この光を見せれば、みんなにステータス確認するよう説得できるだろう。
二つのタンバリンをリュックにしまい、ダイニングホールの扉を内側から開錠して表にでた。
窓を壊す音は聞こえなかったのか美羽と唯がこちらに来る様子はなかった。
アリバイ作りのために森に入り、松ぼっくりをいくつか拾う。
たしか焚き付けにできたはずだ。
「おーい!香菜ー!」
キャンプ場の方から私を呼ぶ声がする。
航一郎のようだった。
「あれ?車は?」
「湖に通じるほうの道が倒木で塞がれてて」
「どかせそうなんだけど、時間かかりそうだからいったん戻って来た」
「そうだったんだ」
ふとみると、航一郎がキッチンの壊れた窓を見つめていた。
「あれ……」
智輝もそちらを見る。
「さっきは割れてなかったよな」
自分がやったと言おうとしたが上手い言い訳がみつからない。
いっそ本当のことを言ってしまおうか。
航一郎と智輝の二人だったらおそらくステータスオープンくらいは面白がって唱えてくれるだろう。
大幅な攻撃力アップになる。
「あ、あれ、実は、わた」
「行ってみようぜー!」
私の言葉を待たず智輝が走り出してしまった。
航一郎もチラッとこちらをみたが智輝を追って行ってしまう。
後を追っていくと、航一郎が窓のところで待っていた。
「あのね、あの、この窓こわしたの、私なの。椅子をぶつけて」
「えっ?」
「ちょっと説明するからドアのところに智輝くんと行ってて」
さっき自分が開錠したダイニングホールの扉から中にはいる。
「窓壊したの、香菜ちゃんなの?」
「大胆だね。」
呆れられるかと思ったが、智輝と航一郎は面白がっているようだった。
二人を中に促す。
「聞いて欲しいことがあって」
「うん?」
「これ見て」
私はリュックからハートとスターのタンバリンを取り出す。
そして二つを思いっきり振って音符の光をそこら中に振りまく。
「わっ!」
「香菜、コレ何?」
「おもちゃにしては良くできてる?」
「これ、握ってみて」
ハートを航一郎に、スターを智輝に握らせる。
「え?」
「なんだ?『装備できない』?」
航一郎が装備できないのは前回でわかっている。
智輝も装備できないようだ。
「お願い、騙されたと思って、ステータスオープンって言ってみて」
航一郎と智輝は顔を見合わせる。
航一郎がこの話にノッてくれるのはもう確認済みだ。
「いや、まさかだろ……ステータスオープン」
「香菜、ゲームやりすぎ。ステータスオープン」
おそらくそれぞれにウインドウが出現したのだろう。
二人の視線が何もないところをさまよっている。
「俺、格闘家LV40だ」
「剣士LV40。香菜ちゃん!これどういうこと?」
智輝がステータス画面から顔をあげて、熱っぽい視線を私に向ける。
そういえば智輝もかなりゲームをやるタイプだったな。
「私たち、もしかすると、おかしい世界に来ちゃったかもしれないの。
その、ゲームの世界っていうか。それで、夜になるとたぶん、豚のマスクをした敵がでてきて」
「すっげー!!香菜ちゃん、すごいよ!サイコーだよ!」
智輝が歓喜のあまり私に抱きつく。
智輝ってこういう人だっただろうか。
「えっ、ちょっと」
「智輝!」
航一郎が慌てて智輝をひきはなす。
「で、続きいい?その豚のマスクの男に殺されないように今から対策しておきたいの」
「ごめん、ちょっと話が凄すぎて、豚のマスクの敵?」
「香菜ちゃん、俺、なんでもやる。すごいよこれ!」
二人とも興奮しすぎていて話が通じているのかわからない。
「ジョブによって装備できるものがあるみたいで、それを手分けしてさがしたくて」
そのとき、急にダイニングホールのドアが開けられる。
美羽と唯だった。
「遅いと思ったら、何やってるの?」
美羽の視線が航一郎と智輝の手にそれぞれ握られたタンバリンを向いている。
唯も気が付いたようだ。
「なにそれ、智輝?おもちゃ?」
「唯、これ、すごいよ。香菜ちゃんがこれをバーっとふったらさ」
「智輝、落ち着けって。」
「こんな埃っぽいところさっさと出なさいよ」
智輝は興奮しすぎているし、美羽は最高潮にイラついている。
美羽と唯に説明するのは今は無理そうだなと判断する。
でも、智輝と航一郎が一緒に戦ってくれそうでひとまず安心だ。
二人は戦闘系のジョブなので、今回もまたペットボトルのマラカスを作ったほうがいいだろう。
「智輝~!お腹すいたよ。魚釣って食べさせてくれるんじゃなかった?」
「いや、今、魚どころじゃないんだけど」
いつもは唯にベッタリの智輝が珍しく言い争っている。
たしかにここが異世界かもしれないと思ったら魚どころではないだろう。
それにしても最初に智輝が釣りをしたときはジャンプする鮫に襲われるようなことはなかった。
あれを呼ぶにはやはり熊除けのベルが必要なのだろうか。
「いや、香菜ちゃん、唯にも説明してやってよ」
智輝がそういって私の背後にまわり、背中を押してくる。
唯の目がきつくなった。
「と、とりあえずお昼食べてからでいいんじゃないかな?私もお腹空いてきたし」
「香菜ちゃんがそういうなら…… 俺、魚バンバン釣るよ!」
「智輝!釣り道具車の中だぞ!」
私たちのやり取りを見ていた航一郎が声をかける。
「航一郎? 車、取りに行ったんじゃなかったの?」
「美羽、ゴメン、倒木があって、車に傷つけたらまずいからって置いてきたんだ」
結局、一度全員でキャンピングカーに戻るという話になった。




